休み明け。  
皆が、部屋にいる私を見て驚きの声をあげた。  
―――うるさいな。  
私は、金色に変化した髪をかき上げて皆をにらんだ。  
 
「大丈夫です!きちんと放電させれば!」  
同じクラスのポジティブ少女が、先生に首輪をつけて引っ張ってきた。  
「さあ、先生の腹を壁だと思って!」  
先生は、上半身を剥かれて、焦った顔で彼女を振り返った。  
「ええー!ちょ、ちょっと、風浦さん!」  
 
先生は、何に対しても斜に構えたような態度をとっているくせに、  
彼女に対してだけは、感情がストレートに表情に出る。  
 
―――ムカつく。  
私は何となく腹が立って、先生を睨むとその薄い腹にパンチを叩き込んだ。  
「わふっ!」  
先生の何もかもに、腹が立つ。  
 
しばらく先生を殴り続けると、先生はその場に倒れて動かなくなった。  
―――ふん、他愛もない。  
 
「ちょっと、先生、大丈夫なの…?」  
気を失った先生を見て、周囲から心配そうな声があがる。  
 
私は、周りにいた他の生徒たちを見回すと、居丈高に命じた。  
「みんな、この部屋から出て行ってくれない。」  
皆、少しためらっていたけど、グレきった私に逆らえる者はいない。  
 
例のポジティブ少女が、最後に出て行くときに、ちらりとこちら振り返った。  
私は、じっと彼女を見返した。  
彼女は、いつもの感情が読み取れない表情で私を見ていたが、やがて部屋を出て行った。  
 
 
部屋には、私と先生2人だけが残された。  
「さて、と…。」  
私は、まず、部屋の隅にあったロープで先生の両手を後ろ手に縛り上げた。  
ちょっとやそっとではほどけないよう、何重にも巻いて、固く結び目を作る。  
 
それから、私は、先生の首に巻かれた首輪の鎖を、ぐい、と引っ張った。  
先生は、うっすらと目を開けた。  
「小森、さん…。」  
そして、体を動かそうとして、自分の両手が拘束されているのに気づき、  
愕然とした顔になる。  
「な、これは…?」  
 
私は、先生を見下ろすと、鼻で笑った。  
「あれくらいでへばりやがって、ホントに、情けないったらないね。」  
昔のような口汚い口調で先生を罵ると、先生は悲しそうな顔で私を見た。  
「小森さん、あなた、いったいどうしちゃったんですか。」  
私は、ぷい、と横を向いた。  
「先生が自分で言ったじゃない。過充電だよ。」  
 
―――休みの間中、誰もいない学校で、考えてばかりいた。  
 
どうしても、ここから外に踏み出せない。  
先生の授業にさえ、出ることができない。  
私のこの狭い世界の外側で、先生は、生きている。  
私のいないところで笑って、泣いて、そして、その瞳に映っているのは…。  
 
休みの間中、そんなことばかり考えて、気が付いたら  
体の中に黒々とした思いが積もり積もって、こんなになっていた。  
 
先生は、首を振った。  
「あなたは、今、本来の自分を見失ってます。元の小森さんに戻ってください。」  
 
いやだ。  
もう、あんな引きこもっているだけの自分には戻りたくない。  
 
「…過充電を戻すには、放電が必要なんでしょ。」  
私は、先生に顔を近づけると囁いた。  
「私を元に戻したいんだったら……放電、させてよ…。」  
「っ!やめなさ」  
先生の言葉を塞ぐように、私は、先生の唇にキスをした。  
 
「ん…。」  
何度も口付けてみたけれど、先生は唇を固く結んだままだ。  
私は、先生を睨みつけた。  
「…女子高生が自分からキスしてあげてるのに、反応が薄いよ。」  
「…教え子に襲われて喜ぶ趣味はありませんから。」  
先生の声は平静で、熱のひとかけらも見られない。  
 
上等。  
私は口の端を上げた。  
グレた私の相手になるなら、これくらい骨がないとつまらない。  
 
同時に、胸の奥で感じた鋭い痛みには気が付かない振りをした。  
 
先生の顎をつかんで上を向かせる。  
「口、開けなよ。」  
「…お断りします。」  
 
私は、机の上にあったカッターを取り上げると、先生に突きつけた。  
「痛い目にあいたくなかったら…。」  
先生は、信じてないのか、余裕の表情で笑ってみせた。  
「いつも死にたがっている私に、そんな脅しは滑稽だと思いませんか?  
 やりたければどうぞ、いっそ一思いに掻き切ってください。」  
 
私は、しばらくカッターを握ったまま先生を睨んでいたが、  
手をそれ以上前に進めることができなかった。  
―――悔しい。  
ふと思いついてカッターの刃を自分の手首にあててみる。  
先生の顔色が変わった。  
 
「だったら、こっちを切ってみせようかな。」  
「何を馬鹿な…なんでそうなるんですか。」  
 
私は、半分本気だった。  
―――いっそ、一思いに掻き切ってください―――  
私とキスするくらいなら、死んだほうがまし?  
また、胸に痛みを感じて、私は思わずカッターの刃を食い込ませた。  
 
手首に、うっすらと血がにじむ。  
先生が叫んだ。  
「やめてください!分かりました、あなたの言うとおりにしますから!」  
 
私は、カッターを手首から離した。  
 
「そうそう、人間、素直なのが一番だよ。」  
私は、笑うと先生に顔を寄せた。  
「さ、口を開いて…。」  
先生がしぶしぶと口を開いた。  
 
ぴちゃぴちゃと舌を絡める水音が部屋に響く。  
「もっと、舌、出して…。」  
奥に縮こまっている先生の舌に、自分の舌を絡ませる。  
先生は目を閉じ、不承不承、私の口付けを受けていた。  
 
そのまま、私は、先生の裸の上半身に手を伸ばした。  
「な!」  
先生が目を開けて抗議しかけたが、再び唇で口を塞いだ。  
もう一方の手で、先生の胸の先端をいじる。  
それは、あっという間に固く立ち上がった。  
 
先生の頬に血が上り、苦しそうに目を細めた。  
しばらく、口付けたまま先生の表情を楽しみながら、先生の胸を触っていた。  
固くなった胸の先を爪でかり、とこすると、先生の体がびくんと跳ねた。  
 
ちらりと下に目をやると、袴の前が持ち上がっている。  
先生もそれに気づき、赤くなった。  
 
「ふふふ…こんなになっちゃって。」  
私は、手を下にずらすと、袴の帯に手をかけた。  
「やめ…!」  
先生は、体をひねると床に伏せ、私から逃げようとした。  
 
私は、鎖をぐい、と引くと先生の体を起こした。  
「…うるさいな。目の前でリストカットされたくなかったら、言うことをききな。」  
「…小森さん…。」  
先生が、悲しげな顔になった。  
 
私は、先生の顔から目をそらした。  
 
先生の顔を見ないようにして、私は、乱暴に袴の帯を解いた。  
目の前にさらされる、いきりたった先生自身。  
 
見上げると、先生の顔は、屈辱に赤く染まっていた。  
私は、冷たく笑って見せると、目の前にあるそれを口に含んだ。  
 
先生が「っ!」と声にならない声を上げる。  
私は、わざと、じらすようにゆっくりと舌を動かした。  
 
私の口の中で、さらに先生自身が大きくなっていく。  
 
―――ほら、意地を張ったって、こんなになってるよ…。  
 
さらに口の奥にと先生を含む。  
裏側を根本からちろちろと舐め上げ、先端の段差に舌先をもぐりこませた。  
 
「くっ、う…っ!」  
見上げると、先生は歯を食いしばり必死に声が漏れるのを我慢しているようだ。  
 
―――気持ちいいんだったら、素直に、声を上げればいいのに。  
 
私は、嗜虐的な気分になって、先端部分を強く吸い上げた。  
「―――!!」  
先生の手を縛っているロープが、ギチっと音を立てた。  
 
それでも、先生の眉間には皺が刻まれたままだった。  
真っ赤な顔をして息を荒げているくせに、なんて強情なんだろう。  
 
―――気持ちいいくせに、なんで、そんな顔をするの。  
―――そんなに、私を受け入れるのが、嫌…?  
 
私は、先生を口に含んだまま、自分のジャージに手をかけた。  
 
先生が、ぎょっとした顔で私を見る。  
「小森さん!やめなさい―――それだけは、いけません!」  
 
私は、先生から口を離すと、その顔を睨みつけた。  
「ほっといてよ!自分の体をどうしようと、私の勝手だよ!」  
「そうはいきません!…あなたは、私の大切な生徒ですから。」  
 
―――タイセツナ セイト デスカラ   
 
「…っ!」  
余りの胸の痛みに、私は、思わず、胸を押さえてうずくまった。  
 
はじめから、分かっていた。  
先生が、私を生徒としてしか見ていないということは。  
先生の目が追っているのは、他の女性(ひと)だということは。  
 
…でも、それでも、先生を好きになることをやめられなかった。  
先生の瞳に映りたい…なのに、ここから出られない……  
その葛藤は、私をどんどん追い詰めて…そして、限界を超えさせた。  
 
先生が、突然うずくまった私に、心配そうに声をかけた。  
「小森さん…?どうしました?大丈夫ですか?」  
私は、顔を上げた。  
涙が頬を伝っているのが分かる。  
 
「小森さ…」  
「…先生。…私を、抱い、て…!…お願い…!」  
先生は、驚いたように目を見開いた。  
私は、先生の前に手をついてうなだれると、涙ながらに頼んだ。  
「…同情でもいいから、一度だけ、抱いて、欲しいの。」  
「…。」  
「先生が、他のひとを好きでもかまわないから…。」  
先生が、はっと息を飲んだのが分かった。  
 
同情でもいい、先生に、抱いて欲しい。  
そうすれば、きっと、私の中に篭ったこのどす黒い熱は、解放される。  
…一度だけでいいから、先生を私にください。  
このままでは、私は、熱に焼かれて死んでしまう。  
私は、必死な顔で先生を見た。  
 
先生は、しばらく私を見つめていたが、静かな声でいった。  
「私は、あなたのことを、生徒として心から大切に思っています。  
 でも、女性として、愛することは…できません。」  
 
私は、唇を噛んで下を向いた。  
残酷な言葉。…だけど、誠実だった。  
今の私は優しい嘘など望んでないことを、先生は分かってる。  
 
先生の声が、くぐもるように低くなった。  
「それでも、いいんですか…?」  
驚いて顔を上げると、先生は、複雑な表情で私を見ていた。  
 
私は、きっ、と口を引き結んだ。  
「いい。後悔なんか、しない。」  
先生は、小さくため息をついた。  
「分かりました…では、あなたの、望むように。」  
 
 
私は、震える手でカッターを取り上げて、先生の腕のロープを切り、首輪も外した。  
先生は、ほっとしたように赤く擦り剥けた手首をさすった。  
そして、呆然と立っている私を見上げると、手招きした。  
 
足が、動かない。  
さっき、あんなことまでしていたくせに、今は心臓が口から飛び出しそうだ。  
 
「さあ、小森さん…。」  
 
先生の声に引かれるように、私は、先生の胸に崩れ折れた…。  
 
 
「ふぅ、ん…っ!」  
さっきとは違い、先生の方から舌を絡めてくる。  
先生から与えられる口づけは、私の稚拙なキスなんかとは比べものにならなかった。  
 
先生の舌が、私の舌を絡めとり、優しく歯列をなぞる。  
先生の舌の動きについていこうと必死になっているうちに、  
頭がボーっとしてきて、何も考えられなくなった。  
 
先生が、口付けながら、優しく私の服を1枚1枚脱がしていく。  
気が付いたら、私は一糸まとわぬ姿になっていた。  
 
先生の細くて長い指が、私の胸を、そっと包んだ。  
「きれいですよ、小森さん…。」  
先生が小さい声で呟いた。  
その言葉だけで、背筋に痺れが走る。  
 
先生は、私の胸をゆっくりと揉み始めた。  
同時に、胸の先を、さわさわと、掠めるように触っていく。  
 
その感触がもどかしくて、私は先生にねだった。  
「先生、もっと…。」  
もっと、強く、激しく触って。  
私を、跡形もなくなるくらいにバラバラにして。  
 
先生は、小さく私に笑いかけると、私の胸の頂を口に含んだ。  
「あぁっ…!」  
 
先生の舌は、口付けのときと同じように巧みな動きで私を翻弄した。  
舌先で胸の先を弾くようにつつかれ、思わず声が出る。  
 
それでも、先生の動きはあくまでも優しく、丁寧だった。  
先生が、私を傷つけまいと細心の注意を払って私に触れているのが分かる。  
 
その心遣いが却って悲しくて、涙が目尻から伝った。  
―――先生、どこまでも、私は、先生の大切な「生徒」なんだね…。  
 
先生の指が、私の体の線をなぞって降りてくると、一番敏感な部分に触れた。  
「…!」  
思わず、体がすくむ。  
 
先生は、そこで手の動きを止めると、心配そうに私を覗き込んだ。  
「大丈夫ですか…?」  
その瞳には、私を気遣う気持ちが溢れていたけれど、  
私が望んでいるような、熱情のかけらは含まれていない。  
 
私は、目をそらすと、呟いた。  
「…続けて…。」  
先生はしばらく黙って私を見下ろしていたが、再び指を動かし始めた。  
 
丁寧に、そっと私の中を分け入ってくる長い指。  
まるで、壊れ物を扱うように。  
 
その繊細な動きに、私の呼吸は速くなる。  
柔らかく突起をつつかれて、足の付け根に力が入った。  
初めて味わう感覚に頭がパニックになる。  
 
先生は、私を注意深く見つめながら、指をゆっくりと奥に進めた。  
「ぅんん…っ」  
私は、思わず先生の腕にしがみついた。  
 
私の中を抜き差しする先生の指の動きがだんだん早くなった。  
それに合わせて、体中の感覚が、どんどんそこに集まっていくのが分かる。  
 
「ふ…はぅっ!」  
私は、先生にしがみついたまま必死に歯を食いしばり、その感覚に耐えていた。  
―――来る…何かが、つま先から、のぼって来る…!  
と、先生が、指先をくっと曲げると、私の中にこすりつけた。  
 
「――――――!!」  
頭の中で、爆発が起きて、次の瞬間何も見えなくなった。  
 
 
ぐったりと体を投げ出して息も絶え絶えになっている私に、先生が声をかけた。  
「…いいですか、小森さん…。」  
これから交わろうというのに、先生は、どこか辛そうな顔をしていた。  
 
自分が、先生に酷なことを要求しているのは分かっていた。  
こうやって、先生に、愛する人を裏切らせているのだから。  
でも、それでも私は、先生…!  
 
私は、先生の目を見て頷いた。  
 
 
いつの間にかゴムを装着した先生が、ゆっくりと私の中に入ってくる。  
「くっ、うん…!」  
激しい痛みと異物感。  
私は、体をそらすと、空気を求めて口を開けた。  
 
「くっ…きついな…。」  
先生が小さい声で呟いた。  
「小森さん…体の力を抜いてください…その方が楽になりますから…。」  
そういわれても、体が言うことをきかない。  
 
先生は、必死に歯を食いしばっている私を見て、私に口付けると、  
柔らかく私の胸の先を摘まみ、軽く突起をつついた。  
「あ…。」  
再び体に電流が走り、体が弛緩する。  
「そう、その調子です…リラックスして…。」  
 
先生は、ようやく全てを私の中に収めると、しばらく私を抱きしめていた。  
先生の動悸は早く、さすがに息を切らしているのが分かる。  
少し、嬉しかった。  
 
先生は、私が落ち着くまで待って、私の耳に囁いた。  
「動きますよ…いいですか?」  
 
それから先は、ただただ、夢中だった。  
はじめは痛いだけだったのが、徐々に体の奥からじわりと快感が忍び寄ってきた。  
強く体を打ち付けられ、敏感になった突起を先生自身が掠るたびに声が上がる。  
 
自分の体の奥底から、止め処もなく湧き上がる快感に、私は怖くなった。  
「先生、せんせい!…私、何か、おかしい!」  
「大丈夫…大丈夫ですよ、小森さん。」  
先生が息を切らしながら答える。  
 
頭の芯がしびれてしまったようだった。  
最後の瞬間、目の前がブラックアウトする直前に、  
先生が誰かの名前を呟いたのを、聞いたような気がした―――。  
 
 
 
目を覚ますと、私は、すでに服を着ていた。  
先生は、腕を組んで窓枠に寄りかかり、ぼんやりと外を見ている。  
 
その表情は物憂げで、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。  
 
と、先生が私に気づき、振り向くと微笑んだ。  
「ああ、小森さん…すっかり髪の色が元に戻りましたね。」  
 
先生は、私に近づいてしゃがみこむと、私の髪を手でさらさらと梳いた。  
「やはり、小森さんは、黒髪の方がお似合いですよ。」  
 
申し訳ない気持ちがどんどん膨らんでいく。  
「先生、私…。」  
先生は、私の唇に指を当てた。  
「何もいいっこなしです。  
ここであったことは、全て…お互いの胸の中に閉まっておきましょう。」  
「…。」  
私はうつむいた。  
 
先生は、そんな私を見ながら、優しい声で続けた。  
「ねえ、小森さん…。いきなり授業に出ろとはいいません。  
 とりあえずは、たまに、放課後、図書室あたりに顔を出してみませんか。  
 …先生、待ってますから。」  
 
私は、先生を見上げた。  
先生は、そんな私を見て、にっこりと微笑んだ。  
 
―――ああ。  
私は、深く息をついた。  
―――先生は、どこまでも「先生」なんだね…。  
 
でも、いいよ。  
単なる生徒に過ぎなくても、それでもいい。  
先生が、こうやって私を見て笑ってくれるなら。  
 
私が、どんなに狭い世界に引きこもっていたとしても、  
先生は、必ず私のことを気にかけてくれる。  
明日から先生は、言葉通り図書室で私を待っててくれるだろう。  
―――それで、充分だよ。  
 
まだ、この胸の痛みは当分おさまることはないだろうけど  
でも、きっと、もう、私は過充電にはならない。  
 
私は、先生に向かってニコっと笑って見せた。  
「うん、明日、図書室に行ってみる。…だから、待っててね、先生。」  
 
 
 
 
 
 おまけ小ネタ 
 
 
「せーんせ、来たよ。」  
「ああ良かった、小森さん。さあどうぞ、適当に好きな本でも選んでください。」  
「…せんせい、一緒に選んでくれる?」  
「ええ、よろこん」  
「本選びには、図書委員の僕が付き添いますから、先生はおかまいなく。」  
「久藤君、なんですかいきなり。…あなた、やっぱり私を目の敵にしてますね。」  
「…僕はこういうスタンスじゃないと、いろいろと支障が出るようなんで。」  
「は?」  
「いえ、こちらの話です。」  
「先生…、私にも、本を選んでください…。」  
「…常月さん、いたんですか。」  
「はい、…ずっと。」  
「あ、だめだよ、私が先だよ。」  
「ちょ、待って、本選びは、僕が…!」  
「もういいです、あなたはカウンターに戻ってください、久藤君。」  
「いやです!僕も一緒に選びます!」  
 
「…で?結局、4人で無理矢理本棚の隙間を通ろうとしてこうなったんですか?」  
「はい…どうにも身動きがとれないので、できれば、私の上に乗っている本棚を  
 少しずらしていただければ嬉しいのですが…。」  
「乗っかっているのは、本棚だけじゃないみたいですけど。」  
「あ、か…、と、風浦さん、ちょっと、我々を置いてどこに行くんですか!」  
「いやだなぁ、置いて行くだなんて。助けを呼びに行くだけですよ。」  
「…。」  
 
「…今、杏ちゃん、目が笑ってませんでしたよ…。あれ、助けは来ないですね。」  
「先生、私、先生と一緒なら、本棚の隙間に閉じ込められてもかまいません。」  
「私も、狭いところは慣れてるから、全然平気だよ。」  
 
「―――!!勘弁してください!  
 なんで、本棚に挟まっただけで、そんなに怒られなきゃいけないんですか!?  
 絶望した!理不尽な世の中に絶望した―――!!」  
 
―――その自覚のなさが、一番、腹が立つんですよ、先生…。  
可符香は、図書室の外の壁にもたれると、腕組みをしてため息をついた。  
 
 

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