古都、京都。  
まだ紅葉には早いものの、風は既に秋の香りを孕み、空は高く澄んでいた。  
 
しかし、そんな気持ちの良い秋晴れの日に、京都御苑をそぞろ歩く  
2年へ組の生徒達は、皆、一様に浮かない顔をしていた。  
 
望は、生徒達の顔を怪訝そうに眺めた。  
「どうしたんですか、皆さん、ずい分と疲れた顔をして。」  
生徒達は、げっそりと望を見返した。  
 
「誰のせいだと思ってるんですか。」  
「人が生八橋食べようとしたら邪魔したくせにぃ。」  
「下見寺なんかじゃなくて、清水寺に行きたかったですよ。」  
皆、口々に文句を言う。  
 
そこに、横から、  
「ほら、スケジュールから1分遅れてるわよ、皆、走って!!」  
千里の鋭い声が飛んだ。  
 
生徒達の雰囲気が、さらにどよんどと重くなる。  
望の妨害に加えて、この粘着質にきっちりとしたスケジュールが、  
着実に生徒達の生気を失わせているのであった。  
 
―――ふむ。これは、いけませんね。  
 
望は、ぐったりとした生徒達を見て、顎に手を当てた。  
「木津さん。」  
「はい?」  
「一緒に、式場の下見に行きませんか?」  
「ほ、本当ですか!?」  
千里の表情がぱぁっと明るくなった。  
「他の皆さんは、ここで少し休憩していてください。」  
 
―――生徒達を、少し休ませてあげなければ…。  
 
望は、千里を伴ってその場を後にした。  
 
 
ひととおり千里と葬儀場や墓苑を巡り、墓石で殴り殺されかけた後、  
望は生徒達が待つ京都御苑へと帰ってきた。  
 
一応、出席簿を見ながら、生徒達が揃っているか確認する。  
「…あれ?風浦さんはどこです?」  
「知りませんよ。先生こそ、どこに行ってたんですか。」  
望の質問に、不機嫌そうに答えたのは、久藤准。  
可符香の保護者を勝手に自認している彼は、どうやら、  
望が可符香を置いて千里と2人だけで出かけたのが気に食わないらしい。  
 
「…先生、風浦さんを探してきますので、皆さんここにいてください。」  
准の言葉を無視して、望がその場を離れると、准が追いかけてきた。  
2人で、何となく連れ立って歩き始める。  
 
「先生、もう少し杏ちゃんを気遣ってあげてくださいよ。」  
「…余計なお世話ですよ。」  
目で可符香の姿を探しながら、望は答えた。  
 
准は、むっとした顔で望を見上げた。  
「だいたい、先生、なんで本番の旅行に来ないんですか?」  
「修学旅行シーズンの京都なんて、考えただけでもぞっとします。」  
さらりと答える望に、准はため息をついた。  
「ま、僕としては、別にいいんですけどね。  
 先生がいない方が、コブなしで倫ちゃんとデートできますから。」  
 
今度は、望が准を睨む。  
「…最近、随分いい態度じゃないですか、久藤君。」  
「気のせいですよ。それより、本当にいいんですか、先生?」  
「何がですか!」  
望がうるさそうに問い返した。  
相変わらず、その目は可符香を探して泳いでいる。  
 
准は、頭の後ろで腕を組んだ。  
「修学旅行シーズンの京都は、全国の高校生が集まりますよ。」  
「だからこそ、来たくないんじゃないですか。うっとうしい。」  
「けっこう、生徒同士で出会いもあったりするんですよね、これが。」  
「…。」  
「杏ちゃんなんて、可愛いから、他校生から目を付けられそうですよね。」  
 
望は、思わず立ち止まった。  
そんな望を、准が楽しげに振り返る。  
「本っ当に、今年、本番の旅行に来なくっていいんですか?先生。」  
「…。」  
何となく、見透かされているようで癇に障る。  
「うるさいですね!男に二言はありません!行かないと言ったら行かないんです!」  
望は、大声で叫ぶと、准を置いて足早に歩き始めた。  
背後では、准のクスクス笑う声が聞こえていた。  
 
―――まったく、可符香は、どこに行ったんでしょう!  
   団体行動を乱さないよう、きつく叱っておかなければ…。  
 
望は、この憤りはあくまでも教師としてのものだと自分に言い聞かせながら、  
広い京都御苑の中を、可符香を探し求めて歩き回った。  
 
随分と歩き回り、やっと目指す少女を見つけた。  
「か…。」  
呼びかけようとして、言葉が喉元で止まる。  
可符香は、他校の生徒らしい少年達に囲まれていた。  
 
「いいじゃん、抜け出しちゃいなよ、どうせ下見なんだろ?」  
「俺達、ここら辺詳しいからさ、穴場スポット紹介してやるよ。」  
 
いかにもチャラ気な男子生徒達が、かわるがわる可符香に話しかけている。  
可符香は、こちらに背を向けているため表情は分からないが、  
どうやら戸惑っている様子だ。  
 
―――どうしたんですか…。いつもだったら、  
   そんな奴らをあしらうのなんか、お手のものじゃないですか…!  
 
いつにない可符香の態度に、望は苛立った。  
 
ずかずかと彼らに歩み寄り、可符香の後ろに立つと、低い声で言い放った。  
「…うちの生徒さんに、ちょっかいを出さないでいただきたいんですが。」  
 
可符香が、驚いたように振り向いた。  
「先生…。」  
 
「わ、やべ、先公だってよ。」  
少年達は、突然の大人の出現に、慌てたように散っていった。  
望と可符香は、2人きりでその場に残された。  
 
「…。」  
可符香は、少し拗ねたように、望から目をそらせている。  
望は、可符香の手をぐい、とつかむと、そのまま可符香を引っ張って歩き始めた。  
 
「痛!ちょっと、先生、手、痛いです!」  
望は、可符香の抗議にも耳を貸さなかった。  
「いったい何をやってるんですか、あなたは!  
 勝手な行動をして、挙句の果てに、あんなゴロツキどもにちょっかい出されて!」  
望が怒ったように言うと、可符香は急に立ち止まった。  
望は後ろに引っ張られ、たたらを踏んだ。  
「な…。」  
文句を言おうと振り向いた望は、可符香の顔を見て口をつぐんだ。  
 
「…勝手な行動をしてるのは、どっちですか…。」  
可符香は、望を睨み上げた。  
「先生こそ!皆を放って、千里ちゃんとどっかに行っちゃって…!」  
心なしか、可符香の目が潤んでいるようだ。  
 
「あ…。」  
―――もう少し杏ちゃんを気遣ってあげてくださいよ  
准に言われた言葉が心に蘇る。  
 
―――ああ…。そういう、ことでしたか…。  
 
望は、やっと、先ほどの頼りなげな可符香の様子に合点がいった。  
 
―――不安にさせてしまったんですね…。  
 
やきもちを焼く可符香が愛しくて、望は、思わず可符香を抱きしめた。  
 
「…っ、やめっ!」  
可符香が駄々をこねるようにもがいたが、腕に力を込め、さらに強く抱きしめる。  
「…気が回らなくて、すいませんでした…。」  
心を込めて謝ると、可符香は大人しくなった。  
 
望の腕の中で、可符香が、小さい声で何か呟いた。  
「え?なんですって?」  
頬を赤らめて、軽く下唇を噛んだ可符香が、望を上目遣いに見上げた。  
「……もう…こんな心配、させないで下さい…って言ったんです。」  
「―――!!」  
望は、可符香を見下ろして、呟いた。  
「どうしましょう…。」  
「え…?」  
 
既に日は暮れかかり、御苑の中の人通りも少なくなっていた。  
2人は、池のほとりに建つ、公家風の造りの茶室の前に立っていたが、  
「緑の草花を拾い集める、ですか…。」  
望は、呟くと、可符香の手を引いて茶室の裏手に回りこんだ。  
 
「先生…?」  
「本当に、あなたときたら。  
 それこそ、あなたの全てを拾い集めて、閉じ込めてしまいたいですよ…。」  
望は、茶室の影で、そう言って可符香の頬をなでると、  
いきなり可符香を抱き寄せ、噛み付くように口付けた。  
「んっ!!ふ…っ!」  
可符香が、驚いたように体を引いたが、望は可符香を抱く手を緩めなかった。  
 
しばらくして、ようやく顔を離すと、  
可符香は上気した顔でくたりと望にもたれかかった。  
「なんで、こんな、いきなり…。」  
小さい声で、可符香が弱々しく抗議する。  
「我慢できなかったんですよ…あなたが、あんな可愛い顔をするから。」  
望がそう耳元で囁くと、可符香は真っ赤になった。  
 
「…え、と、みんなをずいぶん待たせちゃってますよね。」  
くるりと向きを変えて歩き出そうとする可符香を、望は後ろから抱きとめた。  
「!!先生!」  
「我慢できない、と言ったでしょう…。」  
 
2人の体が密着した部分から、可符香に望の欲望が伝わる。  
可符香が耳まで赤くなった。  
 
「ど、どうしろっていうんですか、こんなところで…。」  
「さあ…。どうしてくれるんですか…。」  
望は、後ろから可符香の耳たぶを軽く齧った。  
「きゃっ。」  
可符香が首をすくめる。  
 
望は、可符香の腰にまわした手を、セーラー服の下に差し入れた。  
「やだ、先生…!」  
可符香の抗議を無視してわき腹をゆっくりなぞる。  
「前から思ってたんですけど…あなたの上着、丈が短かすぎやしませんか?  
 腕を上げたら、見えてしまうじゃないですか。」  
 
可符香は、望の手の動きに体を震わせた。  
「せ、先生…だめ、ですよ…誰かに見られたら…。」  
「大丈夫ですよ…、こんな時間に、もう、誰も来ませんよ…。」  
望は、そう言うと、指を可符香のブラの下に忍び込ませた。  
 
「―――!!」  
可符香の背が伸びる。  
望は、そのまま、ブラを上に押し上げた。  
「や…。」  
「…何ですか?聞こえませんよ。」  
知らん顔で、ゆっくりと指をうごめかせた。  
可符香の息が荒くなる。  
「ぅ、くぅっ。」  
胸の頂を強くつまむと、可符香の膝がかくんと折れ、望は慌てて可符香を抱きとめた。  
「だ、大丈夫ですか…?」  
 
可符香は頷くと、近くにあった木の幹に体をもたせかけた。  
そして、赤い顔をして息をつく。  
それを見ていた望は、再び激しく可符香に口付けた。  
「んんっ…。」  
「まだ、終わってないですよ…。」  
 
望は、今度は可符香のスカートに手を伸ばした。  
可符香は身を引こうとしたが、背後を木に阻まれ、動けない。  
「や…っ!ぅんっ。」  
望の手が、可符香の下着の下に入り込んだ。  
 
「…っ!」  
可符香が、周囲を気にして声を忍んでいる様子がいじらしくて、  
望の中に悪戯心がわきあがった。  
 
可符香の耳元で  
「ずいぶん、静かですね…。刺激が足りないですか?」  
そう囁くと、指を、可符香の急所に強めにこすりつけた。  
「ぁあっ!」  
可符香が思わずというように大声を出し、慌てて両手で口を塞ぐ。  
そして、肩で息をしながら、ふくれ面で望を睨んだ。  
 
―――ああ、また、そんな顔をして…。  
望は、指はそのままに、可符香の首筋に唇を寄せた。  
「あなた、分かってて、煽ってます?」  
そう言って、唇でセーラーの襟をずらすと、強く吸い上げた。  
可符香がびくんと上を向いて吐息を漏らす。  
望が唇を離した跡には、くっきりと紅い跡がついていた。  
「おや、これは、残念ながら、今日は大浴場は自粛ですかね。」  
私の部屋の内風呂に入りに来ます?と望は含み笑いをした。  
 
可符香は、ほとんど涙目で望を見上げた。  
「せ、んせい、ひどい…。」  
「ひどいなんて…今ので、こんなになってるじゃないですか。」  
ほら、とわざと水音を立てて可符香の中をかき回す。  
「やぁっ…!」  
 
可符香は、とうとう望にしがみついて懇願した。  
「も、もう、先生…。お願いだから…。」  
しかし、すっかり嗜虐心に火が点いた望は、容赦しなかった。  
「お願いだから、…何ですか?」  
 
「…。」  
可符香が赤い顔をして黙り込む。  
「言ってくれなきゃ、分からないですよ。」  
望が、指の動きを早めた。  
「…っ!」  
可符香の、望にしがみついている腕に力が入る。  
「ほら、言ってごらんなさい…。」  
 
とうとう、可符香が、消え入りそうな声で呟いた。  
「先生の、が…欲し、い、です…。」  
「…よくできました。」  
望は、にっこり笑うと、可符香の額に軽くキスを落とした。  
 
そろそろと可符香の下着を下ろすと、望は可符香を木の幹につかまらせた。  
そして、  
「いきますよ…。」  
後ろから一気に可符香を貫いた。  
「はぁ、ぁあっ!」  
戸外で、しかもいつ誰が来るとも知れない茶室の影、という異常な状況のせいか、  
可符香の反応は常になく激しかった。  
 
―――く、このままじゃ…。  
 
すぐに果てそうになり、望は動きを止めると自身を可符香から引き抜いた。  
「やぁ…。」  
可符香が切なそうな声を上げる。  
 
望は、そっと可符香の体を回し、自分の方に向けると口付けた。  
「…やはり、あなたの顔を見ながらの方が、いい…。」  
そう言うと、可符香の片足を持ち上げて、自分の肩にかけた。  
 
そして、その体勢のまま、再びゆっくりと、可符香に体を沈めていった。  
 
「あぁぁぁああっ!せ、先生…!」  
可符香が体をのけぞらせる。  
もはや、声を忍ぶとことさえ忘れているようだ。  
「や、ぁあっ!」  
望の動きに合わせて、可符香の嬌声が響く。  
 
望は、さすがにまずいと思い、可符香の唇を自分のそれで塞いだ。  
「むぐっ…!んっ!」  
くぐもったうめき声が、可符香の口から漏れた。  
 
「これ以上、皆さんをお待たせしてもいけませんね…。」  
望は、唇の端でそう囁くと、可符香の腰を抱えた。  
そして、再び、可符香の唇を塞ぐと、一気に動きを加速した。  
「ん―――っ!」  
可符香の頬は真っ赤に紅潮し、潤んだ目の淵も赤く染まっている。  
 
―――可符香……!  
 
望は、愛しい少女の顔を瞳いっぱいに焼き付け、そして、果てた。  
 
 
全てが終わった後、2人は、しばらく荒い息で抱き合っていた。  
遠くで、カラスが鳴いている声がする。  
「ん…。」  
可符香は腕時計を見て、次の瞬間、目を丸くした。  
「わ、もうこんな時間!みんなに怒られちゃいますよぉ、急いで帰らなきゃ!」  
 
慌てた様子で身づくろいをすると、可符香は先に立って歩き始めた。  
「…まったく、余韻に浸る暇もないですね…。」  
望は、ぶつぶつ言いながら、可符香の姿を後ろから眺めた。  
 
―――と。  
近くにたむろしていた男子学生達が、可符香に気付いて声をかけた。  
「やあ、君、1人?」  
「京都は初めて?僕らが案内してあげるよ!」  
 
望の表情が、険しくなった。  
「……どうやら、京都は、再考した方がいいようですね…。」  
 
 
 
 
 
「えー、今年の修学旅行は沖縄になりました。」  
 
後日。  
ホームルームでにこやかに旅先の変更を告げる望に生徒達はいぶかった。  
 
そんな中、准は頬杖をついて小声で呟いた。  
 
「…分かってないなぁ、先生。  
どう考えても、京都より、沖縄の方がよっぽど危険だと思うんだけど…。  
ま、僕としては、倫ちゃんの水着姿が見られるからいいけどさ…。」  
 
沖縄での望の心労を思いやり、准は、やれやれと首を振ったのだった。  
 
 
 
 
 おまけ小ネタ 
 
 
「く、久藤君!可符香を見ませんでしたか!?」  
「杏ちゃんなら、他の女の子達と万座ビーチに行くって言ってましたけど。」  
「な ん で す っ て!!  
 あそこは、日本全国から恋をしたい若者達が集まってくる場所じゃないですか!  
 あんなところに女性だけ行くなんて、ナンパしてくれと言ってるようなもんです!!  
 久藤君、なんで一緒に行ってくれなかったんですか!!!」  
「……前は、僕が杏ちゃんに話しかけただけで不機嫌になってたくせに…。」  
「絶望した!!沖縄の余りの出会いシチュの多さに絶望した!!!」  
「お兄様。絶望している暇があったら、風浦さんを追いかけたほうがよいのではなくて?」  
「は!!そのとおりです、倫!それでは、失礼しますよ!!!」  
バタバタバタバタ…。  
 
「…はぁ。お兄様ときたら、いつまで経っても成長しない人…。」  
「あははは。ま、でも、先生が杏ちゃんでいっぱいいっぱいになってる方が、  
 こちらに矛先が向かないから好都合だよ。」  
「…それもそうだな。午後は、国際通りで買い物でもするか。」  
「うん、そうだね、倫ちゃんvv」  
 
 
…久藤君たら、すっかりノーマルになって…。良かった良かったw  
 
 
 
 

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