『おいコラ ちょっと話がある 今から行くから待ってろ』  
 
その、たった3行のメールが来たのが、つい数十分前のこと。  
差出人は………今、ちゃぶ台を挟んで望の正面に座っている少女、音無芽留。  
「それで………どうしました?」  
熱い茶を注いだ湯飲みを差し出しながら、望が尋ねる。芽留はいつもの通り、一言も声を発しない  
まま、おもむろに取り出した携帯電話のボタンを操作し始める。  
慣れた手つきであっという間に文章を打ち終え、その小さなディスプレイを望の眼の前に掲げる。  
 
『声が出ねぇ』  
 
望が、きょとん、と首を傾げた。  
「………声が、出ない………というのは、どういう………?」  
ディスプレイが芽留の手元に引っ込んで、またすぐに望に突きつけられる。  
『そのまんまの意味だよ アホかお前』  
「………………はぁ。」  
『お前が言ってたんだろうが ずっと喋ってないと そのうち声が出なくなるって』  
望はそこでようやく、芽留の言葉の意味を理解した。  
「なるほど………まぁ、そうですよねぇ。普段から、あれでは。」  
『なに呑気なこと言ってやがる こっちは死活問題なんだよハゲ つーか「あれ」とか言うな』  
「や、失礼しました。それで、ええと………いつ、気付いたんですか?」  
普段、声を出す機会なんて、ほとんど無いでしょうに………と、喉まで出掛かったその言葉を呑み  
込んで、望は芽留が自分の以上を知るに至った経緯を尋ねた。  
 
気がついたのは、芽留が母親を連れて携帯電話の機種変更に行ったときのことだったらしい。  
機種を選び、プランを設定し、古い携帯のデータを新しいものに移そうとしたときのこと。流石に、  
重要な意思疎通ツールである携帯電話を片時も手放そうとしない芽留も、その行程ではどうしても  
携帯電話を手放さざるを得なくなる。  
近くに母親が居るので、店員とのやり取りに困ることはないが。その母親から、話し掛けられること  
はあるわけで。芽留も、そうして必要に迫られたとき、かつ相手が肉親や本当によく見知った人間で  
あるときは、最低限の会話くらいは出来る………はずだった。  
 
だが。ほんの少しだけ意を決して、母親に答えようとしたそのとき。  
芽留は………自分の喉から、声が出ないことに、気付いたのである。  
もともと、決して聞き取りやすい声では無かったがそれどころの話ではない。  
自分の声が、自分にすら、聞こえなかったのだ。  
 
結局、その場は筆談でなんとかやり過ごすことが出来たものの。帰ってから母親にいろいろと心配  
され、しかし自分でもどうしてよいのか解からず。医者に連れて行く、と言われたので、その前に  
こうして望のもとへ相談に来た、という次第………なのだそうだ。  
『病院なんか連れてかれて堪るか 嫌いなんだよ医者は』  
「そうですか………しかし、それでどうして私に?」  
『経験者なんだろ 医者よりよく解かってんだから どうにかしろよ』  
相変わらずの口の悪さで、しかしかなり必死な瞳でそう訴える芽留を眼の前にして、望は、うーん、  
と唸り声を上げた。どうやら相当の医者嫌いではあるらしいが、しかし、果たして自分に医者以上の  
ことが出来るものだろうか。芽留の言う通り、経験者ではあるが。  
「………命の病院なら、少しは気が楽じゃありませんか?」  
『そういう問題じゃねぇんだよ』  
「ふーむ………そうですか。しかし、困りましたねぇ………。」  
『なんか方法あるだろ 自分のときどうやって治したのか 教えろ』  
その言葉を見て、望は、遠い昔の記憶を手繰り始めた。  
「そうですねぇ………思わず声を出してしまう状況を作るのが、1番ですかね。私も、それで。」  
『は? もっと解かりやすく言えよ』  
「ですからつまり………驚きや痛みなんかのショックで、無理矢理声を上げさせるんですよ。」  
『驚き? 痛み?』  
「ええ。私のときは、命に足のツボを押して貰いましたね。あれは、絶対に叫びますよ。」  
顎に手を当てながら、思い出し思い出しそう語る望の言葉に、芽留はいささか表情を硬くした。  
しばし、考え込むように携帯とにらめっこをした後………その指がまた、言葉を紡ぎ始める。  
 
『仕方無ぇ まずはそれでやってみる』  
「そうですか。じゃ、命の所に………。」  
『医者は嫌いだっつってんだろ あっという間に忘れてんじゃねぇよ この鳥頭』  
「あ、いや失礼。しかし、それではどうやって………。」  
ほんの一瞬迷った後、芽留がまた、首を傾げる望の眼の前に携帯を掲げた。  
『お前がやれ』  
望が再び、きょとん、とした表情を浮かべる。  
「私………ですか?」  
『足の裏押すくらい誰でも出来んだろ 早くしろ』  
「………………。」  
望はその画面を見つめた後、小さな溜息を漏らしてから、渋々その言葉に従った。  
 
 
 
ちゃぶ台の上に芽留を座らせる。それでも、2人の座高は大して変わらない。  
「………やっぱり、先に、驚かせる方試してみませんか?」  
『「今から驚かせますよ」って言われて 驚く奴なんて居るわけねぇだろうが』  
「う………い、いえ、それにこれも本当は、専門知識のある人間がやった方が………。」  
『ガタガタ言ってねぇで早くやれよ 男がいつまでもうるせぇな』  
「わ、解かりましたよ。けど………無理そうだったらすぐに行ってくださいね?」  
どこか不安げな表情でそう呼びかけられ、芽留の身体が、一瞬だけ硬直した。すぐに、携帯に視線  
を落とす。ディスプレイの青白い光が、その顔色を隠す。  
『黙ってやれよ』  
「はい、はい………では、失礼………。」  
そう言いながら望は、靴下を脱がせた目留の薄い足の裏に、親指を当てる。そして、勘だけを頼りに  
効果のありそうな場所を探り、出来るだけ短期決戦を目指し、最初から全力で芽留のツボを押し込み  
に掛かった。  
「………………ッッッ!!!」  
その瞬間、芽留の細い足が、ぴん、と突っ張る。ツボとしての効果はともかく、その圧迫は芽留に  
強烈な痛みを与えるには絶好のポイントだったらしい。  
芽留の右手が、携帯と一緒にちゃぶ台の淵を掴み、全力で握り締める。左手の爪が、木目を引っ掻く。  
自由になる方の足の膝が立ち、震える。程なく芽留は、携帯を持っていない左手でちゃぶ台を叩き、  
ギブアップの合図を出した。  
「っ、だ、大丈夫ですか!?」  
望が、血相を変えて芽留の様子を伺う………が。  
「音無さ………。」  
その声は、視線がちゃぶ台の上に向いた瞬間に、フェードアウトして消えてしまった。  
「………っ………っ………!」  
痛みの余韻に耐えながら、しかし結局一言も声を発することは無く。芽留が、ほとんど仰向けで  
ちゃぶ台の上に寝そべるようになっていた身体を、起こす。  
目尻に涙を浮かべながら、汗の滲んだ右手で文章を打ち、それを望に突きつける。  
『おいコラ痛ぇだろこの野郎 ちょっとは加減しろよハゲ』  
そして。突きつけた先に居る望の視線が、それとは別の場所に注がれていることに気付く。  
芽留は、何故か赤面している望の視線の先を、辿って………。  
「………………〜〜〜ッッッ!!!」  
一瞬で、茹で上がったように赤くなった。  
ちゃぶ台の上に座って、片足を突き出して、もう片方の足の膝を立てて。そんな格好をしていれば、  
当然、そのちゃぶ台の正面に座っている望からは………ひらりと捲れたスカートの中が、丸見えに  
なっているわけだ。  
芽留が、慌てて足を閉じ、両手でスカートの裾を掴む。その仕草でようやく我に返った望は、芽留に  
負けず劣らず青白い顔を真っ赤に染めながら、慌てて視線を逸らした。  
「す、すすすすすすいません!申し訳ございません!!生まれてきてごめんなさいッ!!!」  
瞬時に土下座の体勢に移行しながら、望は思いつく限りの謝罪の言葉を述べた。  
芽留が、震える指で携帯のボタンを押していく。痛みと、死にそうなほどの恥ずかしさが混ざった  
涙を浮かべながら、顔を畳に擦り付ける望の肩を叩き、ディスプレイを突きつける。  
 
『見たな?』  
「ひぃっ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいッ!!」  
『ごめんなさいじゃねぇんだよ 見たか見てねぇかって聞いてんだよ クソメガネ』  
「い、いえ、あの………その………。」  
『正直に言わねぇと学校中にお前のこと わいせつ教師って言いふらすからな』  
「ご、ごめんなさい………ち………ちょっと、だけ………。」  
『………ちょっと?』  
「い、いえ!あの………か、かなり、その………ちゃんと………!」  
自ら望の自白を誘導しながら、芽留は、赤い顔を更に紅く染めていった。  
「ああぁ………絶望した………教え子の眼の前で、男の性に負けてしまう自分に絶望した………!」  
まるでこの世の終わりが来たような声でそう言いながら、望は頭を抱え、ふらふらと部屋を横切って  
いった。亡霊のような足取りで辿り着いた戸棚から、例の、旅立ちセット一式を取り出す。  
「この恥を晒して、生きてはいけません………どうか命と引き換えに、このことはご内密………。」  
と、そのとき。ロープで首を括りかけた望の携帯が、ピピピ、と電子音を発する。  
メールの着信に設定したその着信音に、望が振り返る。芽留が、望の携帯を本人に差し出した。  
『おうコラ 勝手に盛り上がってんじゃねぇよ このエロメガネが』  
「………え、エロメガネ………。」  
望が更なる絶望に打ちひしがれている隙に、芽留は次の文章を打ち終える。  
『勝手に死んでんじゃねぇよ まだこっちが解決してねぇだろ』  
「う、う………しかし、もはや私に教師としてあなたを助ける資格など………。」  
『今死んだら学校と実家に あること無いこと吹き込んでやるからな』  
「い、いえ!そればかりはご勘弁を!死ぬときくらい、綺麗なまま死なせてください!」  
『じゃ手伝え』  
「………いや、しかし………。」  
『オレが手伝えっつってんだよ いいから次の作戦考えろ』  
望はしばし唸り声を上げた後、また渋々と、旅立ちセットの片づけを始めた。  
 
 
 
なんだかんだと、話し合った結果。  
あれだけの痛みで声が出ないなら、もっと別のタイプの刺激を探した方が良いだろうという結論に  
辿り着いた2人は、次は叫び声ではなく笑い声でどうにかしようと考え、打って出た。  
望むがあぐらを掻き、その足の上に、芽留が腰を降ろす。この体勢で、背中や脇腹など、普通なら  
くすぐられて黙っていられないような場所を刺激する作戦である。さきほどのようなことが無い  
ように背後に回る、というのは望のたっての希望だが、この体勢は、芽留の提案だ。  
「………あの、なにもこの体勢でなくても………その、ちょっと、いろいろと………。」  
『離れてたらやりにくいだろうが』  
「それに………本当に、良いんですか………さっきの、今で………。」  
『オレが良いって言ってんだ とっととやれよバカ野郎』  
「は、はい、では………し、失礼、します………。」  
望はしばし躊躇した後、おずおずと、その細い指を芽留の背中に滑らせた。恐々とした手つきで、  
制服越しに背筋をなぞられ、芽留の身体がぴくりと震える。  
「へ、平気ですか?」  
『いちいち聞くな 黙ってやってりゃいいんだよ』  
思わず口を突いて出たその言葉も、あっさり切り捨てられて。望がまた、背筋に指を落とす。  
「〜、っ………っ………!」  
声にならない声が、漏れる。その様子に何か手応えのような物を感じたのか、望は、時折緩急を  
付けながら、芽留の背中に刺激を送り続ける。  
『おい』  
やがてまた、芽留の震える指が文字を打つ。やっとの思いで打たれた2文字に、望の手が止まる。  
『背中以外にもくすぐる所くらいあるだろ ちょっとは考えろ』  
「せ、背中以外………と、いうと、しかしですね………。」  
『だからオレが良いって言ってんだろ 何回言わす気だ』  
まるでその言葉に脅迫されるかのように、望は恐る恐る、その手を芽留の脇腹に回す。細い指が  
腰から脇の下に近い脇腹に掛けてを、這うように動く。その度に芽留はまた身体をひくひくと  
震わせる。吐息が、徐々に熱を帯びていく。  
 
自分の手の動きに併せて、膝の上でその華奢な身体を震わせる芽留の姿を、目の当たりにして。  
「(だ………駄目だ、何を考えているんですか、私は………。)」  
望は………自分の中に湧き上がる、教師として許されざるその衝動と、葛藤していた。  
眼の前の、小さく震える白いうなじに、視線が釘付けになる。自分の与える刺激に悶える姿に、  
異様なほどの高揚感を覚える。芽留の幼い身体に対して、確実に男としての興奮を覚え始めて  
いる自分に気付き………望は、これ以上無い程困惑していた。  
「(こ、こんな小さな………じゃない!まさか、自分の教え子に、そんな………!)」  
自分の中の天使が、早く止めろ、危険だと自覚している今ならまだ引き返せる、と、望の心を  
説得しに掛かる。それに対して自分の中の悪魔は、そのまま行く所まで行ってしまえ、芽留の  
為だと言えば多少の悪戯は許されるぞ、と、望の理性を切り崩しに掛かる。  
「(ううぅ………どうして、ここまでさせるんですか音無さん………。)」  
芽留が、そのうち自分の行為を拒絶し始めるのではないかということに、淡い期待と淡い不安  
を覚えながら、望は機械的な動きで芽留の身体を刺激し続ける。  
鼓動が早まる。顔と、頭の奥の方が、カーッと熱くなる。  
 
やがて………望は、自らの中の葛藤に耐え切れなくなり。  
その全てから逃れるべく、芽留に対する一切の行為を放棄し、その場から逃げ出そうとした。  
………その時。  
 
「………………ッ!!」  
脇腹に回していた望の手が、きゅぅ、と、弱々しい力で握り締められる。  
我に返った望が、自分の手を見下ろす。そこには、芽留の白い左手が、重ねられていた。  
「………音無、さん?」  
天使と悪魔の葛藤も、その場から逃げ出したい衝動も。全てが吹き飛ばされたように真っ白に  
なった頭で、望が、芽留のその行為の意味を考え始める。  
 
その眼の前で、芽留は、空いた右手で携帯を取る。背中に回った望からも見下ろせるその小さな  
ディスプレイに、『オレの』『オレが』『お前』『手を』『そのまま』と、言葉の断片が映し  
出されては消去されていく。  
芽留は、少し息を荒げたまま、しばしの間そのディスプレイを見つめて………やがて。  
 
『今からすること お前も男ならちゃんと察しろよ ハゲ』  
 
指先を震わせながら、そんな言葉を、告げた。  
望が、その言葉の意味を理解するよりも先に。芽留は、携帯電話を折り畳み………それをそっと、  
ちゃぶ台の上に置いた。  
「………音無さん………今のは………?」  
「………………。」  
望の問いには、答えず。芽留は空いた右手を、自分の左手の上に添える。そして、両手で包み  
込むように望の手を握り、それを………。  
 
「………ん、っ………!」  
自らの………制服の、内側へと、誘った。  
 
「………………は?」  
望むの手が、するりと芽留の肌を撫で、制服の裾からその内部へと滑り込む。誘われるままに  
辿り着いた、その先の柔らかさを感じた瞬間………望は、全身をガチガチに硬直させた。  
「え、え………えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!?」  
思わず強張った指が、図らずも、芽留のほとんど膨らんでいない胸を刺激する。ほとんど起伏が  
無いながらも、少女の柔らかさを備えたその胸は、望の指の動きに併せて微妙にその形を変える。  
「………は、ぅッ………!?」  
芽留の口から、熱い吐息と、切ない喘ぎが漏れる。しかし、芽留の声を取り戻すという当初の  
目的など完全に意識の外に弾き出された望は、そんなことなど全く意に介せず、動くに動けない  
状況のまま心と身体をこれ以上無い程緊張させた。  
芽留の手が、望の掌を自分の胸に押し当て、それを上から覆う。掌と胸が密着し、柔らかさの先端  
にアクセントのように存在する微妙な固さまでもが、掌から望の頭に伝わる。  
 
「お、音、無、さん………ちょ、何………何、何をっ!?」  
思わずどもる望の顔を、芽留は、自分の肩越しに振り返る。  
目尻に涙を浮かべ、切なげで真っ直ぐな瞳で見上げられて………望は、声を失った。  
「………っ………!」  
 
一瞬で、芽留の乱れた姿に魅入られる。  
悪魔が、その支配領域を爆発的に拡大させていく。  
 
「お………音無、さん………っ。」  
望は、ほぼ無意識のうちに、自分の掌が芽留の柔らかな胸を撫で始めたのを感じた。少しだけ  
固くなった先端が、掌の窪みの中で嬲られる。甲高い、まるで蚊の鳴くような悲鳴を上げる芽留の  
首筋に、望の唇が近づく。  
「ひ、あぁッ!?」  
うなじに口付けられた瞬間、芽留は、それまでで1番大きな声を上げた。  
首筋に紅い痕を残し、望の唇が離れ、続いて耳元に近づく。  
「………声、出るようになりましたね。」  
「や、ぁ………ん、あうぅッ!?」  
「………可愛いですよ………。」  
甘い声で甘い言葉を囁かれ、背筋をぞくぞくと震わせている芽留の耳たぶを、望の唇が挟み込む。  
刺激で感度を増した耳をついばまれて、芽留がまた、嬌声を上げる。  
脇腹から、背中から、首筋から、耳から。芽留の身体に、際限なく快楽の波を送り込んでいく。  
そうしているうちに、望は………いつしか芽留が、その脚をもじもじと擦り合わせ始めていることに  
気がついた。  
「………っ………。」  
即座にその意味を悟り、望の意識が、身体の動きを阻害する。そのまま、芽留の身体が求めている  
であろう行為に及ぶことに………一抹の不安と、躊躇いが生じる。  
「………………?」  
自分を愛でる望の手が止まり、芽留がまた、肩越しに望の顔を見上げる。2人の視線が、かち合う。  
 
『男ならちゃんと察しろよ』  
 
「………………!」  
芽留の瞳を見つめた、瞬間。望の脳裏に、さきほど見た文章がフラッシュバックする。  
「(………そもそも、ここまで来たら、もう………完全に、アウトですか………。)」  
この期に及んでまだ躊躇する自分に、苦笑しながら。望は、心の中で呟く。  
そして………意を、決したように。  
「………ぁ………っ!?」  
胸を愛撫しているのとは、別の手で………もじもじと動く芽留の太腿を、撫でた。  
初めは、表面を撫でるだけの動きで。それがだんだんと大きくなり、力強くなり………やがて、緊張  
のせいでぴたりと閉じられた太腿の間に、望の指が割って入ろうとする。  
「や、ぁ………………。」  
芽留の頬が更に火照り、その吐息が浅く、速くなる。  
「………怖いですか?」  
優しくなだめるような声で言いながら、望が、一旦その手を引く。芽留の呼吸が、徐々に落ち着きを  
取り戻し………しかし、その両眼は、どこか名残惜しそうに望の瞳に訴えかけてくる。  
ぼぅ、と、微かな音を立てて………望の嗜虐心に、小さな火が灯る。  
「………どう、して欲しいですか?」  
ここへ来ての、芽留にとっては酷な質問に、円らな瞳が見開かれる。  
「………ぁ、ぅ………っ………。」  
自分が、どうして欲しいのか。自分の身体が、望の、どんな行為を要求しているのか。  
芽留には、それがはっきりと解かっていたが………はっきりと解かっているが故に、その行為を自ら  
要求することなど、出来はしなかった。  
「………たまには、ちゃんと、自分の気持ちを言葉にしなくては。声、もう出るんでしょう?」  
優しく語り掛けるようで、しかし、やはり芽留にはどうしようもなく酷な言葉。  
一瞬戸惑うような瞳で望を見上げ、しかし、結局はいやいやと頭を振る芽留の姿に………望は軽い  
罪悪感を覚えると共に、ほんの少しの、征服感を感じていた。  
 
しかし、そのまま芽留の言葉を要求し続けるのは、流石に忍びない。望が、言葉を変える。  
「………そうですね、言葉にしなさい、というのは少し言い過ぎましたか………すいません。」  
「………………。」  
「けれど、やはり先生は………あなたから、聞きたいんです。あなたの、意思を。」  
「っ!」  
「言葉でなくとも、構いませんから………。」  
今度は本当に、優しく、なだめすかすように囁く。  
芽留は、その言葉にしばし自分の中で葛藤した、その後。  
「………ん………っ。」  
望の言葉に従い、自ら………ぴたりと閉じていた両脚の力を、緩めた。  
再び、望の指が芽留の太腿に着陸する。さきほどと同じ様に、優しい手付きで滑らかな肌を撫で、  
そして………今度は迷い無く、躊躇い無く、その内股をさかのぼっていく。  
「………ふ、ぁ………。」  
滑るように、徐々に自らの最も大切な場所へ接近するその動きに併せて、芽留の身体は震え、同時  
に高まっていく。その、最奥………白い下着に、望の指がぶつかった瞬間。望は、膝の上の芽留の  
身体が、急激に強張っていくのを感じた。  
「ひ、ッ………!」  
「………大丈夫です。そんなに、乱暴なことはしませんから。」  
なるべく驚かせないよう慎重に、その様子を探る。徐々に指に掛かる圧力を増していくと、押し  
付けられた布地が、微妙に湿り気を帯びているのが感じられた。  
「………ひゃ、ん………っ………。」  
一旦力を抜き、また力を込める。それを数回繰り返し、芽留の最も敏感なその場所に、自分の到達  
を知らせる。同時に胸を愛で、首筋や耳に唇の愛撫を加えてやると、芽留の身体も徐々に解れて  
いくようだった。  
望は頃合を見て、前後に圧迫するだけだった動きに、徐々に、上下に擦る動きを加えていく。  
「………あ、ぅ………ぅっ………。」  
指先が、いまやしとどに濡れた布地の向こう側の、芽留の形を感じる。脚の付け根の間に走る、  
スリット。未だ何者の侵入も許していないであろう、芽留の、秘部。  
望の愛撫に応える様に、温かな液体を滲ませながら。そこは確実に、望の愛を受け入れる体勢に  
入りつつあった。  
「ん、あ………ひんッ、ん、やぁ………ッ!」  
上下に擦る速度を、上げる。芽留の声の艶が、増して行く。  
芽留の入り口が十分に濡れ、解れ、自分の指を受け入れる準備が整ったことを確かめてから。  
望は遂に………脚の付け根から、下着の内側へと、侵入を開始した。  
「〜〜〜ッッッ!!!」  
芽留の愛液に濡れた望の指が、直に、芽留の秘部に触れる。その瞬間、芽留の背筋から全身へ  
向けて、痺れるような強烈な感覚が放たれた。  
体中の熱が増して、それが一気に頭の中に流れ込む。脳髄が痺れて、何も考えられなくなる。  
「………大丈夫。怖くありません………大丈夫。」  
生まれて初めての、あまりに強烈な感覚に飛びかけた意識を、望の抱擁がつなぎとめる。  
「ちょっとだけ、我慢してください………少し、馴染ませますから………。」  
望は芽留の耳元でそう囁いてから、芽留の秘部に指で軽い愛撫を加え始めた。指が上下に動く  
のに併せて、芽留の身体が痙攣し、愛らしい声が上がる。  
「あ、ひ、ぁッ………あ、あうぅ………!?」  
直に触れたその感触が、芽留の準備が既に整っていることを知らせる。望は、ほんの少しだけ  
躊躇した、後………その躊躇いを振り切るかのように、芽留の首筋に口付けを落とし、そして。  
「………失礼、します………っ。」  
「………は、ぁ………あ、あ、あぁぁぁッッッ!!?」  
芽留の内部へと、侵入した。  
常人より細いその指が、芽留の幼い入り口を押し開き、侵攻を開始する。緩んだ入り口は存外  
すんなりと望の指を受け入れたが、しかし、灼熱のその内壁は、異物であるそれを排除しよう  
としているのか、痙攣を繰り返しながら望の指を容赦なく締め付けてくる。  
「は、はッ、っ、あ、ぁ………あ、ひぁッ、んぅぅ………!?」  
生まれて初めて感じる他者の異物感と、圧迫感と、それを覆い尽くすような快楽の波。それらが  
混ざり合った渦の中に、芽留の心が溺れていく。  
普段の彼女なら有り得ない声量で、芽留は絶え間なく喘ぎ声を上げ続ける。  
 
「(………い、1本入れただけで、これでは………大丈夫なんでしょうか………。)」  
一抹の不安を感じながらも、望は、挿し込んだ指を恐る恐る前後に動かし始める。呑み込まれた  
指が芽留から引き抜かれてゆき、それがまた新たな感覚の波を生み出す。  
そうして抜き差しを繰り返し、芽留の身体を、行為の終点に向けて徐々に高めていく。  
少しずつ、指の動きにバリエーションを持たせていく。指を曲げ、伸ばし、内壁を優しく擦る。  
「や………ぁ………ッ!?」  
やがて。芽留自身の身体が、自らの臨界点を感じ始める。  
今まで、自分で自分を慰めたことが無いわけではないが………しかしこうして、他人の手で絶頂  
へと誘われるのは、もちろん初めての経験だ。良い意味でも悪い意味でも、自制など効くはずも  
なく、与えられる衝撃はかつてない強烈なものとなる。  
それまで経験したことのない大きな波が迫るにつれ、芽留の心に、ぽつり、ぽつりと恐怖にも  
似た感覚が浮かび始める。ぼうっと中空を見つめていた眼がきつく閉じられ、緩んでいた口が  
歯を食い縛る。ぞくぞくと背筋を走る快感に、寒気のようなものが入り混じってくる。  
「ひ、ッ………………!!」  
 
しかし。  
様々な感情、感覚がない交ぜになったその想いを、口にすることもままならず………ただ、  
すぐそこまで迫り来る『その時』を感じ、震える芽留の小さな身体が。  
不意に、暖かな物に包まれる。  
 
「ぁ………っ………?」  
制服が捲くれ上がった背中全体から、じんわりと伝わる体温。  
望は、芽留への愛撫を続けながら………その全身で芽留の身体をすっぽりと包み込むように、  
彼女に寄り添った。  
芽留の身体が………愛しいその人を感じる面積が、広がる。それにつれて、快感の中に混ざり  
込んでいた恐怖の濃度が、薄まっていく。そしてその代わりに………充足感というか、幸福感  
というか、とにかく芽留にとって幸せな暖かさが、心に流れ込んでくる。  
「………大丈夫です。心配しないでください。私は………ここに、居ますから。」  
耳元で、酷く優しい声がそう囁く。  
その声と、柔らかな幸福感と、じんわりとした体温に包まれながら。  
 
芽留は………生まれて初めて、愛する異性から与えられた絶頂を迎えた。  
 
 
 
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「………面目次第も御座いません………。」  
望が、心底申し訳なさそうな声で謝罪する。今度は土下座ではなく、行為を終えた姿勢のまま、  
膝の上の芽留に向かって、である。  
『んなこたどうでもいいんだよ』  
「いえ、しかし………まさか、腰を抜かしてしまうとは思わなくてですね………。」  
『どうでもいいっつってんだろ それ以上言ったら悲鳴上げるぞ』  
「………はい………。」  
そもそも芽留に悲鳴を上げるなんて芸当が可能なのか………という疑問に思い至る余裕も無く、  
望はやはり申し訳なさそうにうな垂れた。  
そうして落とした視線の先に、また、ディスプレイが現れる。  
『それよりも』  
「………な、なんでしょう………?」  
芽留は、望に寄り掛かったまま………しかし、望の視線を避けるように携帯を身体に引き寄せて、  
次の文章を打った。  
そして、続く言葉を読んで………望が、ぎくりとする。  
『お前 そのままでいいのかよ』  
「………え………あ、いや………。」  
嫌な汗が、首筋を流れ落ちる。  
『バレバレなんだよさっきから ずっと当ててんだろうが』  
「いやその………これはですね、なんと言うか………。」  
『オレの身体弄くって そんなんなってんだろ 違うか?』  
反論など出来るはずもなく、望は頬を赤らめながら肩を縮ませた。  
 
望の意識が集中すると………望の分身は、余計に、膨張してくるような気がした。  
行為の間中、芽留の身体に押し付けられ続け、絶棒は既に完璧な臨戦態勢を整えていたのだ。  
 
『このロリコン野郎が そんなんなってたら 最後まで相手しねぇと気分悪いだろうが』  
芽留が、少し遠回しな提案をする。望は、一瞬だけその先の行為を想像し、また余計に絶棒を  
反応させたが………すぐに、疲れきったような微笑を浮かべて、それを断った。  
「お気持ちは、嬉しいですが………それでは、音無さんの身体が持たないでしょう。」  
『あ? チビだと思ってナメてんのか』  
「無理はいけませんよ、大切な身体なんですから。それに………。」  
『………なんだよ』  
「その………音無さんさえよろしければ、いつでもお相手しますから。」  
文字を打つ指が、止まる。  
「………そんなに、焦らずとも………時間はありますから………。」  
望は、声でも携帯の画面でも沈黙した芽留の髪を、そっと、撫でた。  
『………おいコラ』  
ディスプレイに、短い文章が映し出される。  
「はい?」  
『こういうときは苗字じゃなくて 名前で呼ぶのが礼儀ってもんだろ』  
「あ………す、すいません………。」  
『マジKYだなお前 すいませんじゃねぇだろ いいから呼べ』  
望が、苦笑する。  
「………はい、はい。」  
『早く』  
「………愛してますよ………芽留さん。」  
芽留の体温が、また、上がった。  
 
 
 
 文字と声 おまけ分 
 
(作中に入れたかったけどどうも上手く組み込めなかったんでおまけ化)  
 
「ところで………今まで、声が出なくなったこととかって、あるんですか?」  
『いや 無ぇよ』  
「そうですか………どうしてでしょうねぇ。昔は、少しは喋ってたんですか?」  
『お前が来る前の担任は 少しでも喋らせようとして 必死だったみてぇだからな』  
「………まぁ、更正させようと思うのが、普通の教師ってことですか………。」  
『お前全然そういうのツッコまねぇからな 喋る機会なんてどんどん減ってったぜ』  
「そうですか。いやはや………そうなると、少し考えた方が良いかも知れませんねぇ。」  
『何がだ?』  
「いえ………声が出なくなったのも、私が指摘しなかった所為なのではないか、と………。」  
『別に 今まで通りで構わねぇよ』  
「うーん………しかしそれでは、またこんなことになってしまうかも知れませんし………。」  
『構わねぇっつってんだろ 何回言わすんだボケ マジ空気読めよ』  
「は………空気………?」  
『いつでも相手するっつったのお前だろ どんだけ鳥頭なんだクズ野郎』  
「あ………………。」  
『ここまで言わす前に気付けボケ 鈍感 ロリコンメガネ』  
「………解かりました。そのときは………また、お手伝いしますよ。」  
『解かりゃいいんだ 全く世話の焼ける担任だぜ』  
「………面目次第もございません。」  
 

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