私は不登校少女だった。  
だけど、いろいろあって、今ではすっかり登校少女になった毎日を送っている。  
でも、今、私は  
もう一度、不登校少女になりたい気持ちに包まれていたんです。  
 
 
今日は8月31日。  
部屋の窓から見える夕焼けは、悲しいくらい綺麗だった。  
そして、部屋の床に散らばるテキストの山から、私の目をそらさせてくれました。  
優先順位を間違えてる私も悪いけど、先生もこんな時に外に連れ出さなくても、と思う。  
いや、火事があったのは大変なんだけど。  
何とか終わったのは、絵や感想文、あと日記。  
そして、一応は得意科目と言える現国のテキスト。  
私は、古文のテキストを広げながら、残っている課題を考える。  
残りは、世界史・日本史・数学・物理。・・・を明日の朝までに。  
「むりだよぉ・・・・・」  
私は半べそをかきながら、それでも健気にテキストを進める。  
後に残るものほど苦手科目なのだ。・・・・・・間に合わない自信はある。  
こうなったら恥を忍んで誰かに助けを!  
・・・そう、思ったのは、古文を半分ほど進めた時だった。  
時計を見る。  『19:45』  
今ならまだ間に合う。  
そう思った私は、すばやく携帯を掴みメールを打った。  
『ゴメン! 何も言わずに しゅくだい写させてー!』  
・・・・・・何だか少し、気が楽になった。  
やる気が湧いた私は、再びテキストに目を落とす。  
・・・ぴろりぱらりら〜  
速攻で、メールを開く。  
『普通に人に頼んな! こっちもそれどころじゃねー! バカ!』  
・・・・・ああ、こんな時も「普通」と付け忘れないんだ。  
ちょっと逃避気味に、変な所に感心してると、  
・・・ぴろりぱらりら〜  
『日本史貸してやる 代わりに 現国か古文写させろ』  
・・・・感謝します。  
『じゃ、今からファミレスでいい?』  
『よし オゴられてやるぜ 感謝しろ』  
はうぅ・・・・・。  
とりあえず、財布と残りのテキストを抱えて、私はファミレスへと駆けて行ったのだった。  
 
 
ああ・・・・・蒸し暑い日のファミレス店内は、ホント天国。  
芽留ちゃんよりも先に着いた私は、本人が来る前に注文をしておく。  
・・・財布の中身も、冷房ききすぎだし。  
とりあえず、テキストを広げて進めていると、芽留ちゃんが来て、静かに正面の席に座った。  
彼女が、カバンをごそごそしている所で注文が運ばれてくる。  
『・・・オイ! コラ! ブス!』  
予想通り、携帯の画面が私の前に差し出された。  
私に運ばれて来たのはアイスコーヒー。  
彼女は・・・・・・プリン。  
私は芽留ちゃんに手を合わせる。  
「ゴメンね! もう今月サイフの中が厳しくって・・・・」  
『無駄使い しすぎなだけだろ  バカ』  
・・・じつは、半分ウソ。  
ここでうっかり、「芽留ちゃん、プリン食べる姿がすごく似合うの。癒されたくてさ。」などと言ったら、  
顔真っ赤にした彼女から毒舌メールの嵐が吹き荒れるだろう。  
黙秘、黙秘・・・・っと。  
とりあえず、芽留ちゃんとテキストを交換して、やりかけの古文は二人であれこれ言いながら埋める事ができた。  
・・・こっそり、プリンを口に運ぶ芽留ちゃんに癒されたのは内緒。  
そういえば・・・・・・  
「ねえ、芽留ちゃん。他の教科ってもう終わったの?」  
ちょっと期待して聞く私。  
芽留ちゃんは小首を傾げて、携帯の画面を出す。  
『終わったぜ まだやってないバカに 貸した』  
ええ!?  
淡い期待を打ち砕かれ、よろめく私。  
『いい稼ぎになったぜ』  
「有料なんだ!?」  
芽留ちゃんは、小さく首をすくめた。  
『オレも サイフの中身 サムかったからな』  
事も無げに言う彼女に、しばし放心してしまう。  
芽留ちゃんによると、あとは絵や日記などを仕上げるだけなので、もう気が楽だとか。  
『で、オマエ 間に合うのか ん?』  
うっ・・・・・・・・  
「正直ムリ・・・・・。誰かのを写すなら何とかなるけど、自力で解いていたんじゃ明日一杯かかるよぉ・・・・・」  
『マ  死ぬ気でヤレ』  
いよいよベソをかきだした私に、芽留ちゃんは、  
『ほかに写させてくれそーなヤツ いんだろ 考えろ』  
「他っていっても・・・・・・晴美ちゃんは、なぜか連絡つかないし・・・・」  
ズイ。と、携帯が差し出される。  
『しっぽ女  真ん中分け 辺りなら もう終わってんだろーよ』  
あ・・・・・そうだ。確かに、あびるちゃんは成績が上位だし、千里ちゃんはキッチリ終わらせてるハズ!  
さっそく二人に連絡。  
・・・でも千里ちゃんは、中々出ない。メールにしておこう。  
「・・・じゃ、あびるちゃん居るかな・・・」  
・・・・・・・・・・・繋がった!  
「・・・もしもし? あびるちゃん? 急にゴメンね! じつはその・・・・・・」  
オッケー!   
『しっぽ女か』  
「うん! でも、彼女もいろんな人に貸しちゃっていたから、ダブってない教科、世界史だけなんだって・・・。  
でも助かる! ゴメン! 私、行くね!」  
そういって席を立つと、芽留ちゃんも席を立った。  
「じゃ、また明日ね!」  
『骨は拾ってやらねーぞ』  
・・・・・・縁起でもない事。  
 
 
芽留ちゃんと別れて、あびるちゃんの家に着いた時は、すでに9時を回っていた。  
でも、あびるちゃんは、こんな遅くでもすんなり玄関を通してくれて、私は現在、彼女の家の居間でテキストを丸  
写しさせてもらっていた。  
・・・・・静かなのはありがたいけど、家の人はいないのかな?  
「遠慮いらないわ。父さん、今日は遅いみたいだから。」  
私の様子でわかったのか、あびるちゃんはそう説明してくれる。  
お礼を言って、私はテキストを進めていたけど、  
「あれ・・・・そういえば、あびるちゃんの部屋ってここなの?」  
「私の部屋、今、散らかってるから。」  
そうなんだ。  
結構、部屋を片付けないタイプなのかな・・・・・・・  
「・・・臭いもきついし。」  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
今・・・・・・・何て?   ・・・ニオイ?  臭うほど散らかしてるの・・・・・?  
ビビーッ!!  
私の頭の中で疑問が湧き上がった時、玄関のブザーの音がした。  
「ああ、届いたみたいね。」  
そう言って、彼女は玄関の方へと行ってしまう。  
・・・まあ、私も、片付けは得意じゃないし、そんな事もあるかな。  
そう考えていると、ダンボールに入った荷物を抱えたあびるちゃんが居間に入って来た。  
彼女も通販とかするんだ。  
そんな事を思いながら、居間を横切っていく彼女を見ていると、  
『・・・キィーィ! イーィ! キキィー!』  
「ひっ!!」  
私は思わず声を上げてしまう。  
その怪しい動物のような鳴き声は、確かにあびるちゃんが抱えているダンボールから聞こえる・・・!  
「な、な、何!?」  
「・・・・・・・気にしないで。」  
いえ、気にするなって言われても・・・・・・  
「すぐ止めるから。」  
・・・・・へ? 止める?   
・・・・・・目覚ましのアラームか何かなの?  
硬直している私を尻目に、彼女は奥へと去っていく。  
また、その、泣き声? のような物が聞こえはじ・・・・・  
『グゲァ!!』  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
静かになった。  
目覚ましにしてはヘンなアラームだったけど・・・・・・・まあいい。とりあえず、テキストをすすめよう!  
カリカリとペンを走らせる音が響く。  
「・・・・・・ただいまー。」  
あれ、あびるちゃんのお父さんかな?  
「・・・おや、友達来てるのかい?」  
「おかえり。うん、ともだち来てるわ。悪いけど部屋に行ってて。」  
「いや、あいさつくら・・・・・・」  
 
グワンッ!!  
 
「・・・なに、どしたの?」  
夕食の準備でもしていたのか、フライパンを片手にあびるちゃんが居間に入ってくる。  
「いつものあいさつよ。気にしないで。」  
そうなんだ。  
「・・・・あいさつがわりって言うのかな?」  
・・・・・・何が?  
彼女の呟きに、口を開こうとした私だったけれど、すでにあびるちゃんは廊下に消えていた。  
 
 
「できたー! ありがと、あびるちゃん!」  
万歳をして私はあびるちゃんにお礼を言った。  
「でも、まだ残ってるんでしょ?」  
・・・・・・クールなご意見です。  
「うん・・・・千里ちゃんにも連絡してみたんだけど・・・・・」  
そういって携帯を取り出して、新着メールがある事に気がついた。  
すぐに開くと・・・・・・千里ちゃん!   
「・・・・・・・千里ちゃんOKだって! うわー助かるー!」  
「よかったじゃない。」  
あくまでクールなあびるちゃんに何度もお礼を言って、私は彼女の家を出たのだった。  
 
 
「ゴメンね! ゴメンね! こんな遅く。」  
千里ちゃんが私を玄関で出迎えてくれたのは、11時を回ろうとした時刻だった。  
はっきり言って非常識な時間帯だ。  
そんな私を、普段と同じように出迎えてくれた千里ちゃんに「ごめんね」を何度も繰り返し、私は玄関を通された。  
「お母さん達はもう寝ちゃったから、そっと付いてきて。」  
・・・・・・・迷惑かけます。  
心の中で、何度もつぶやきながら、私はそっと彼女について暗い廊下を歩く。  
ちょっと暗くて歩きにくいけど・・・・・  
ぺと  
「・・・あひぇ」  
我ながら間抜けな声とは思ったけど、無意識に声を抑えようとしてこうなったんだろう。  
・・・って・・・・・いま、壁に手をつけたら、何かついたー!  
「あ、そこの壁。まだ、塗りたてなのよ。触っちゃった?」  
千里ちゃんはそう言って、ティッシュを渡してくれた。  
・・・あ、ホントだ。ここだけ色が違う。  
私は、もらったティッシュで手を拭く。  
「・・・修理中なの?」  
「ちょっとね。まあ、壁が厚いから、きっちり埋まって良かったけど。」  
埋める・・・・?  穴でも開いちゃったのかな?  
そんな事を考えながら壁を見ていると、  
「こっちよ。私の部屋二階だから。」  
そっと階段を上がって、千里ちゃんの部屋に通された。  
 
 
初めて来たけど、予想通りキッチリ整えられた部屋だった。  
・・・フローリングの、木目の向きまで揃ってるとは思わなかったけど。  
「他の教科は貸しちゃっていて、数学だけ、今あるの。悪いわね。」  
全然、悪くないです。・・・むしろ、拝みたいくらいです。  
「・・・ホントありがとー。速攻でパパッと写すからね。」  
「駄目よ、そんなの。」  
はい・・・・?  
テキストを開きかけた私に、彼女はピシャリと言う。  
「正確に写さなきゃ駄目でしょ。誤字・脱字も無い様に。計算式も綺麗に写す事。」  
・・・・・じ、時間かかりそう。  
「数字って、人によって形がまちまちだと思わない? そういうのイライラするのよ。」  
「・・・そ、そうかもだけど。」  
考えただけでちょっとストレスが・・・・・・  
「じゃ、あとで見にくるから。しっかりね。」  
添削付きですか!?  ってことは、やり直しもあり?  
一人、汗してる私に気付かず、千里ちゃんは部屋を出ていってしまう。  
・・・選択の余地は・・・・・・無いみたいだ。  
ちょっと開き直り気味にそう思って、私は緊張したままペンを走らせるのでした。  
 
 
緊張して何度シャーペンの芯を折った事か。  
ふと、時計を見ると、とっくに0時を回り・・・・・・・1時の方が近いや。  
自分で解くよりは確かに早いけど・・・・・・・ああ、もう、考えるのヤメ!  
とにかく進め!  
・・・・・と、思ったら、シャーペンの芯が切れた。  
予備は・・・・・・無い。  
悪いけど、千里ちゃんに分けてもらおう。  
 
・・・・そっとドアを開けて廊下に出る。  
暗くてよく判らないけど、階段と反対の廊下は、出てすぐに折れ曲がってた。  
千里ちゃんが居るとしたら、あっちかな?  
私は足音を忍ばせて、曲がり角から先を覗いてみると、  
「・・・・・・あ・・・・・千里・・・ちゃん?」  
ちょうど奥へ行く千里ちゃんの後ろ姿が見えて、ためらいがちに声をかけた。  
・・・・・ん・・・・・あれ?  
「・・・千里ちゃん? 何、持ってるの?」  
彼女は大きな・・・・・袋? 麻袋かな? を引きずっていた。  
・・・・・なんか、黒い染みが所々についてるように見えるけど、暗くてよく見えない。  
私に気がついたのか、一瞬、振り返った・・・・・・ように見えたけど、そのまま袋を引きずって、奥のドアに入って  
いってしまった。  
・・・・・・・・・・・??  
「どうしたの?」  
「ひっ!?」  
突然、後ろから聞こえた声に振り向くと、そこには小さなトレーにフタ付きの耐熱皿を乗せた千里ちゃんが立って  
いた。  
・・・・あ・・・・  チーズのいい香りが・・・・・グラタンかな?  
「・・・・いや、その。いまそこに千里ちゃんが居たと思ったんだけど・・・・・あれー?」  
彼女は一瞬、眉を寄せたが、  
「・・・ああ。お姉ちゃんが帰ってきたのね。」  
「千里ちゃんの・・・お姉さん?」  
「ええ。驚かせちゃったわね。・・・あ、奈美ちゃん。これ、夜食にどうぞ。」  
そういって、トレーを渡してくれた。  
「・・・・・・ありがとう、千里ちゃん。」  
ちょっと、ジーンとして目頭が熱く・・・・・・・・  
宿題の事しか頭になかったけど、お腹がすいていた事に気がついた。  
シャーペンの芯の場所を教えてもらい、彼女はお姉さんを手伝うと言って奥の部屋へ。  
・・・・・・何の手伝いだろ? まあいいか。  
千里ちゃんの優しさに、感動を覚え、部屋に戻った私は、テキストの残りを写し終えたのでした。  
 
夜食のグラタンは涙が出るほど・・・・・・・・・・アレな・・・・・味付けでした・・・・・・  
 
 
二回ほど千里ちゃんの添削を受け、私が彼女の家を出たのは、もう、いわゆる「丑三つ時」だった。  
私は、なるべく明るい道を選んで、小走りで進みながら思案に暮れている。  
残るは、超がつくほど苦手な「物理」。  
自力でやってたんじゃ、絶対に間に合わない。・・・・・・かといって、さすがに、こんな時間に連絡とれるような相手  
はいない。  
・・・・・・もう、適当に書いて出しちゃおうかな・・・・・・・・・  
でも、そんなことしたら先生、落胆するかな・・・・・・・・・  
・・・いや、間に合わないほうが先生の負担になったり・・・・・・・・  
つい先生の顔を浮かべて溜め息をついてしまう。  
ああ・・・・・なんだか涙が出てきた。  
「・・・・・駄目だ・・・・・どうしよ・・・・・」  
 
ドシン!  
 
「あたっ!」  
そんな事を呟いてると、誰かにぶつかって、尻餅をついてしまった。  
 
「ごめんなさい! よく見てなくて・・・・・」  
あわてて謝る。  
相手はスッと立ち上がって、私のほうに手を差し伸べてくれ・・・・・・・・あ・・・あれ?  
「ダメじゃないですよ。」  
聞き覚えのある声に、私は相手の顔を見上げた。  
一番先に目に飛び込んできたのは、銀色に光る髪止め。  
少し小柄な姿・・・・・・  
「・・・カフカちゃん!? 何でこんな所に?」  
「大丈夫です。間に合いますよ。」  
私の問いを遮るように、彼女は片手を私に差し伸べた。  
「私が、お手伝いしちゃいます。」  
そう言ってニッコリと微笑んだ。  
・・・ポロッと涙がこぼれた。  
「カフカちゃ―ん!!」  
思わず彼女の手を両手で握りしめた。  
・・・・・・地獄に仏ってこんな気分の時使うのかな?  
カフカちゃんは私の手を引いて、起き上がらせてくれた。  
思わず、ベソベソと泣いてしまった私の顔を覗き込んで微笑む。  
「ラストスパートですよ! 奈美ちゃん。」  
「・・・・うん・・・ありがと・・・・」  
涙を拭って、私も何とか微笑み返す。  
・・・・・カフカちゃんに感謝の気持ちで一杯だった。  
 
 
「・・・えっと、どうすればいいの? カフカちゃんのを写させてくれるとか?」  
彼女に先導されて、私たちは急ぎ足で夜中の商店街を進んでいた。  
「ズルはいけませんよ。・・・先生が悲しみます。」  
・・・・ううっ・・・・  
良心がチクチクする・・・・・・・・じつは、もう、ズルしちゃったんですが・・・・・  
そんな私の葛藤を知ってか知らずか、  
「方法は一つです。」  
「・・・うん。」  
彼女は立ち止まり、振り向いた。  
「缶詰めになればいいんです!」  
・・・・・うんうん・・・・・・・・・・って、・・・・・はい?  
「缶詰め。それは古来より伝わる、由緒正しき、能率向上方法なのです!」  
・・・・・そうなの?  
私が口を挟む間もなく、  
「作家・漫画家の著名人に始まり、神様と呼ばれるあの方も、この方法を愛用なさっていました。そして皆、物理  
的には不可能と言われた締め切り間際でさえ、缶詰めの起こす奇跡により乗り切っていったのです。」  
・・・なんか、そう言われると凄い事のように・・・・  
「・・・・・私がその方法を伝授し、全力でサポートします! 奈美ちゃんは、安心して自らの力でこの苦境を乗り切  
って下さい!」  
・・・・・・・・・・!  
「・・・うん! やるわ! 私!」  
彼女の言葉に私は、力強くうなずく。  
ちょっとノセられてる気がしないでもないけど、カフカちゃんが本気で言ってくれてる事は伝わってくる!  
 
 
「こっちです。」  
路地裏に入りしばらくゆくと、重そうな鉄扉が見えた。  
私達はそこに入り、ほとんど真っ暗な建物の中を進み、  
「ここを使って下さい。」  
カフカちゃんが開けてくれたドアから、その部屋に入る。  
その部屋は、中央に事務机が一つだけあって、左右にドアが一つずつあるだけの殺風景な所。  
「・・・何だか取り調べ室みたい。」  
ぽつりといった私には構わず、カフカちゃんは説明を始めた。  
「ここに、筆記具や、電卓。電子辞書。その他、便利な道具が入ってます。トイレは左のドアですよ。」  
机の引き出しを開けながら。明るく説明をしてゆくカフカちゃん・・・・・・・・  
・・・・・この明るさはどこから来るんだろ?  
「眠気が一番の敵ですよ。この、カフェインドリンクを、栄養剤といっしょにどうぞ。眠気に負けないでくださいね。」  
小首を傾げて微笑まれ、私は、少し眠気が湧いてきていることに気が付いた。  
ダメダメ! あともう少しなんだ! カフカちゃんがこんなに応援してくれてるんだから・・・!  
「・・・うん! ありがと、カフカちゃん! ガンバル・・・・・!」  
「はい! 私は隣の部屋にいますね。何か困ったら呼んでください!」  
そう告げて、軽く手を振り、彼女は右のドアへと消えた。  
それきり、部屋の中は静まりかえり物音一つしない。  
・・・そういや、来る途中も人の気配なんか無かったなぁ・・・・・・  
そんな事を考え、私は何気に携帯を机の上に置いて・・・・・  
ディスプレイの『4:29』が目に入る。  
やばい!   
すぐさま座ってテキストを広げ、カフカちゃんにもらったドリンクと栄養剤を飲み干し・・・・・・・  
「にがっ!!」  
・・・ううう、苦くて当たり前! 眠気覚ましなんだから・・・・  
・・・・・・・そういや、何て商品なんだろ?  『安眠打破』・・・・聞いた事ない・・・・・  
「・・・・・・・・ん・・んん?」  
不意に、頭の中を爽やかな風が吹き抜けるのを感じた。  
・・・・・広い・・・・・・とてつもなく広大な空間を感じる・・・・・・  
なんだろう?  清浄な場所に私はいる・・・・・・・・  
自然と、ペンが動きテキストに文字を走らせる。  
いつもなら、紙の上に乾いた音を立てるだけ・・・・・  
だが、今のその音は・・・・・いや、音色は美しい旋律を奏で、私の背筋に電気が走った。  
シャーペンをノックする。  
軽やかな鈴の音が私の耳を打つ。  
走るペンの音。紙の擦れる音。  
全てが組み合わせられ、様々な音階を作り上げ、楽曲を奏でてゆく。  
今、私は、まさに指揮者だった。  
私の作り上げた旋律は、この広大な空間を駆け抜け、響き渡る。  
それは重厚な交響曲のようだった。  
様々な音色を私は作り上げ、自身の耳を駆け抜けさせていた・・・・・・・・  
 
 
・・・・・・・・!  
ふと、音が途切れた私の目の前には、テキストの最後のページがあった。  
・・・・全部書き込まれている。もちろん自分の文字だった。  
「とうとう、やり遂げたんですね。奈美ちゃん。」  
いつの間にか目の前にはカフカちゃん。  
胸の前で祈るように手を組み、私を見つめている。  
・・・・・そうか、私、終わったんだ!  
「・・・ありがとう。カフカちゃんのおかげだよぉ・・・・・」  
彼女の手に自分の両手を添え、私は涙ぐむ。  
・・・・・・私、結構、涙もろかったんだなあ・・・・  
「奈美ちゃんの実力ですよ! お疲れ様で・・・た。・・・ご協・・・に感・・・・・・ます。」  
何だか最後の方が聞き取れなかったけど、カフカちゃんも喜んでくれていたみたいだ。  
 
 
「おっはよう! 芽留ちゃん!」  
私は小走りで登校中、あくびをしながら歩いている芽留ちゃんを見つけ足を止めた。  
あんまり寝てないのかな? 眠そうな目をしてる。  
『間に合ったのか?』  
携帯の画面を私に見せる。  
「バッチリ! まあ、徹夜だったけどねー」  
『・・・チッ・・・・』  
「チッ、ってあなた・・・・」  
私は苦笑を浮かべ、昨夜の一連の出来事を話してゆく。  
あびるちゃん家の話をした時、彼女は小さく呻き、千里ちゃんの家の話で、ロコツに眉をしかめた。  
『節穴か!?  オマエの目!?』  
「・・・え?」  
私は首をかしげた。  
「・・・・・・そういや、少しヘンだった気がしないでも・・・・」  
『鈍いっつーの!!』  
私は苦笑を浮かべ、  
「でも、あの時は宿題の事で、頭が一杯だったし・・・・・・・。最後にカフカちゃんに助けてもらったから良かったけ  
ど。・・・じゃなきゃ終わらなかったよ。」  
芽留ちゃんの手から携帯がポロッと落ちた。  
慌てて拾い、青ざめながら文字を打って、  
『何で そこで 電波女が出てくるんだ!?』  
「・・・え? 偶然会ったんだけど・・・・・」  
『そんな キモい偶然 あるかっつーの!』  
・・・・・・・言われてみると、まあ・・・・・・・。  
「・・・・・うん。まあ。宿題はできたし。」  
『・・・・・・・・オマエ・・・・・』  
がっくり肩を落として沈黙してしまった芽留ちゃんの手を引いて、私たちは校舎へと入って行ったのだった。  
 
 
・・・・・・ひょっとして・・・優先順位・・・・・間違っちゃったのかな?  
 
 
『(¬_¬)・・・普通にナ。』  
「普通って言うなぁ!」  
 
 
 
<芽留の追記>  
『その後、三日三晩、謎の高熱に見舞われた普通女が居た事は・・・・・・まあ、書いておいてやるか。・・・ヤレヤレ』  
 

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