自然と、惹かれあうように唇を重ねあう。
触れるだけの軽い口づけから、徐々に深く絡み合う口づけへ移行していく。
先に舌を絡ませてきたのは可符香だった。望はそれに答えるように唇を開く。
お互いの粘膜が、触れ合う。
ピチャ…と、唾液の奏でる僅かな水音が、二人にはハッキリと聞こえていた。
お互いの口内を隅々まで舌で詮索するように、しばらく二人は深く舌を絡めあう事に専念した。
ともすれば長すぎる口づけが終わる頃には、二人の呼吸はすっかり荒くなっている。
お互い無意識に両の掌を重ね、強く握り合っていた。
「――ベッドに、上がりましょうか」
「……はい」
望の提案に、潤んだ瞳で頷く可符香。
可符香はさっさと先にベッドに上がると、すぐさま服を脱ぎ始めた。
しかも、何故か下の方から。
「あ、あ…、ち、ちょっと」
「何ですか?」
「い、いえ……何というか、もう少し恥らって欲しいと言いますか……」
今から目合(まぐわ)おうというのに今更恥らいも無いだろうと、可符香は内心で首を傾げつつ、
スルスルと瞬く間に、ロングスカートを脱ぐ去ってしまった。
白くしなやかに伸びる両の足が露になり、純白のショーツを惜しげもなく晒す彼女に恥らう様子はない。
望は複雑な面持ちで、「よいしょ」などと年寄りじみた声を上げながらベッドに上がる。
「えーとですね……、その、男としては脱がす楽しみを取っておいて欲しいんですよ」
「そういうものですか?」
続いてセーターも脱ぎ捨てようとしていた可符香は、望のおずおずと言った一言に動きを止めた。
上半身はキッチリ衣服に覆われ、下半身は下着のみという無防備さ。
そのアンバランスさに望は妙な興奮を覚えて、軽く身震いした。
「え、えぇ…そういうものです」
「じゃ、脱がせて下さい」
可符香はそんな望の様子には気付かなかったのか、すっと身を寄せてくる。
胸に顔を摺り寄せてくる可符香の髪を何度か撫でて、焦る気持ちを必死に静める望。
望はそっと華奢な肩に手をかけて、優しくベッドに押し倒した。
ギシ…と、小さな悲鳴を上げるベッドのスプリング。
見下ろす恋人の身体は、いつもよりずっと小さく見えた。
そっとセーターの上から小ぶりな胸に触れる。最初は撫でるように、徐々に包み込むように。
可符香は服の上から触れられる感触がくすぐったいのか、小さく笑い声を漏らした。
「そんな小さいの、触ってて面白いですかぁ?」
「大きさ何て……関係ありませんよ」
答えながら、そっと首筋に口づけを落とす。胸を弄る手はそのままに。
身じろぐ可符香。どうやらくすぐったいだけではないようで、その呼吸は少し荒くなっている。
その様子に気を良くした望は、そっとセーターを捲り上げ、質素な白いブラジャーの上から胸を愛撫し始める。
「もぉ先生、じれったいです。直接触って良いんですよ?」
布越しの感触に耐え切れず、可符香は少し身体を浮かして自らブラジャーのホックを外してみせた。
彼女自身の手でブラジャーが取り払われると、望の目前に、小ぶりながら形の良い胸が露になる。
薄い桃色に色づいた乳頭。はりのある白い肌。その全てに、思わず簡単の溜息を漏らす望。
だがそんな望の感慨もお構いなしで、可符香は望の手を自らの胸に導く。
「……ほら」
「――あ……」
ふに、と掌にダイレクトに感じる肌の感触に、望は鼓動が高鳴るのを抑えきれない。
導かれるまま、そっと両手で双方の乳房を包み込むように愛撫する。
「あは――ふぁ……」
可符香は快感を押し隠す様子もなく、気持ち良さげに声を上げて身悶えた。
猫を愛でる感覚に似ている――そんな事を思いながら、望は乳房の先端にそっと口づけた。
少し硬くなった乳頭を唇で挟み込み、舌の先端でチロチロと刺激する。
「――ふぁぁ……ッ」
どうやらお気に召したようで、可符香はよりいっそう声を高くして鳴いた。
さっき「じれったい」と言われた事を思い出し、今度は少し強めに、音を立てて吸い付いてみる。
「んん――ッ! あは……、先生赤ちゃんみたい」
可符香は自らの胸に吸い付く望の頭を愛おしげに撫でながら、湧き上がる快感に身を任せた。
望は胸への愛撫を続けながらも、スルスルと片手を少女の秘部へと降ろしていった。
先ほど自分がされたように彼女の内股を撫で擦る。掌に吸い付くような肌の感触が心地よい。
そっと下着越しに可符香の女の部分に触れると、そこはすでに熱を持ち、しっとりと潤んでいた。
じわりと下着に染みる愛液の感触。
望は自分の愛撫が少女を快感に導いている事に、何ともいえない幸福感を感じていた。
「先生――……触って?」
「……はい」
頷く声は、興奮で酷く掠れていた。
ショーツの中に手を滑り込ませ、薄い茂みを越えると、しとどに濡れた感触が望の指に触れた。
「あ、はぁぁあ……ッ」
入り口付近を、指で円を描くように撫でる。溢れ出る愛液の量が、彼女の快感を物語っていた。
「可符香、さん」
薄く色づく唇から漏れる声を飲み込むように、望は可符香の唇を塞ぎながら、指の動きを早めていく。
第二関節程まで指を入れると、可符香は一瞬だけ眉根を寄せたものの、すぐに慣れたのかゆっくりと身体の力を抜いた。
自分を受け入れるであろうそこを解すようにかき回し、同時に親指で少し膨らんだ陰核を刺激する。
「んんんん――ッ!」
くぐもった声。強く望の着物を握り締め、訪れる快感の波に身構える可符香。
「――――ッッ!!!」
絶頂の瞬間、可符香はきつく目を瞑り、望の背に爪を立てた。
仰け反る小さな身体を抱きしめ返して、望はそっと唇を放す。
「ふぁ、はぁぁぁ……ッ」
可符香は荒く息を付きながら、虚ろな瞳で望を見つめ返した。
そっとショーツから手を引き抜くと、掌は彼女の愛液が滴るほどビショビショになっていた。
「大丈夫ですか?」
目尻に溜まった涙を拭ってやりながら問うと、可符香は長い吐息の中で満足気に答えた。
「はい――気持ちよかったぁ……」
あまりに率直な感想だったので、望は思わず小さく笑ってしまった。
「本当に、貴女は快感に素直ですね」
「嘘吐いても意味ないじゃないですか」
事も無げに答えながら、もうすっかり呼吸を整えた可符香は、そっと望の肩に手を置いた。
「じゃあ次は、私の番ですね」
「はい?」
一瞬言われた事の意味が理解出来ずに、キョトンとする望。
「よいしょっと」
そうして次の瞬間には、可符香はあっさりと望を組み敷いていた。
組み敷かれてようやく、彼女の言葉の意味を理解して、望は焦ったように身を起こそうとする。
「い、いやいやッ!私はいいんですってばッ」
「いいからいいからっ」
が、肩を押さえつけられてアッサリと抵抗を封じられる――非力にも程がある、と自分でも思う。
可符香は中途半端に引っかかっていたセーターを完全に脱ぎ捨てて、望の着物にも手をかけた。
「ほら、私だけスッポンポン何て不公平ですよ? 先生も脱ぎ脱ぎしましょうねー」
「こ、子供じゃないんですから! 自分で脱ぎますよ、もう……」
さっきまであんなに可愛らしく喘いでいた娘とは思えない。
内心でそんな事を呟きつつ、望は自ら着物を脱ぎ始めた。
――結局、可符香は全部自分で服を脱いでしまって、望に脱がせる楽しみを残してはくれなかった。
自分がもたついた所為ではあるが、その事に若干の不満を感じつつ、スルスルと服を脱いでいく。
袴、着物を脱ぎ捨て、シャツのボタンに手をかける。
すると。
「あ、ちょっと待って下さい」
望が服を脱ぐのを、一旦彼の上から降りて見守っていた可符香が、突然ストップをかけてきた。
「はい?」
「ちょっとやってみたい事があるんですよねー」
可符香は非常にイヤラシイ笑みを浮かべつつ、望ににじり寄る。
「な、何ですか?」
「あぁ、大したことじゃないんですけど」
言いながら、ガッシリと望の肩を掴む可符香。
そして。
「とりゃぁ〜ッ!」
ッバリブチブチィ!
ボタンが弾け飛ぶのも構わずに、そのまま思い切りシャツを左右に引っ張る。
露になる、男にしては華奢な体躯。
「――い、いぃやああああ!!」
「お、良いリアクション」
咄嗟に何故か胸を隠して悲鳴を上げる望の反応がお気に召したのか、可符香は満足気に頷いた。
望は何故か強姦されたような気分になって、破れたシャツを引っ掛けたまま涙目で訴える。
「何するんですか!っていうか、何がしたかったんですか!?」
「いやぁ、先生は服破られるのとか似合いそうだなぁ〜、何て」
「意味がわかりません!っていうか、意味がわかりません!!あえて二回言います!」
さっきまでのしっとりとした雰囲気はどこへやら、すっかりいつもの調子でおちょくられてしまった。
らしいといえばらしいのだが、何もこんな時にまでからかわないで欲しいと、望は心から涙して項垂れた。
「あはは、すみません。じゃあお詫びに……」
と。さっきまでのふざけた雰囲気から一変して、妖艶な女の表情になる可符香。
またも押し倒されながら、望は少女の肢体を見上げ、その美しさに思わず心奪われた。
灯りは点けたままなので、彼女の身体は余すところなく望の目に晒されている。
「何見てるんですか?」
「いえ……改めて見るとやはり……想像以上に、綺麗なもので」
「あれ、先生ってば、いつも私の裸とか想像してるんですか?」
「い、いえ!そんな事は――」
―――ない、事もない。だが「いつも」というのには語弊がある。
いや、そもそも好きな女性の服の下の事を妄想するのは、男としてそうおかしな事ではないと思いたい。
そんな事を悶々と考えている内に、可符香はスルスルと望の下腹部へ手を滑らせていく。
すっかり下着の中で窮屈そうにしているソレを、何の躊躇いもなく握り締められた。
布越しに感じる可符香の掌の感触に、望は思わず喉の奥で小さく呻き声を上げる。
「あはっ。先生苦しそう」
可笑しそうに笑いながら自身を弄ぶ可符香。
スルリと下着を取り払われると、ぴょこんと元気良く自己主張する自分自身に、羞恥心が込み上げる。
「元気ですねぇ、先生」
先走りで濡れた先端を、細い指先でグリグリと弄られる。望は呼吸を僅かに止めて、必死に声を堪えた。
可符香はねっとりとした指使いで望を弄びながら、男の胸に顔を寄せ、小さな舌で乳頭を愛撫する。
「お、男の乳首なんてただの飾りですよ…ッ」
思わず「偉い人にはそれが以下略」などと口走りそうになるも、そんなふざけた事を言える程の余裕が残念ながら彼にはない。
「やだなぁ、そんな意味のない器官なんてあるわけないじゃないですか。
あるものには須らく意味があるんです。有効活用しなきゃ勿体無いですよ」
可符香はそう言いながら望の乳首を甘噛みする。
慣れない刺激にどう反応すればいいものかわからず、望は戸惑ったように呼吸を震わせた。
「あ、そっか。舐められるならこっちの方が良いって事ですね?」
「え、あ。な、ちょ――!」
胸から顔を離したかと思うと、制止する間もなく望のソレをくわえ込む可符香。
そのあまりに迷いない行動に、もはや呆然とするしかない望。
が、すぐに襲いくる快感に、悲鳴じみた声を上げる事になる。
「ぅ、あ――は……ッ!」
「んー……、んむぅ…」
深く深く銜え込まる。生々しい水音が、余計に望の興奮を煽った。
少し苦しそうに鼻で息をしながら、丹念に舌を這わせ、時には吸い上げる。
掌で柔らかく睾丸を揉みしだかれると、望は頤を反らして掠れた呼吸を繰り返した。
「――ひ、ぁ……は――ッ!!」
(こ、これはちょっと、まずい――!!)
「か、可符香さん――ッ!」
「――んむぁ?」
じゅるんっ。
急速にせり上がってくる射精感を必死に堪えて、望は咄嗟に可符香の頭を掴み、引き剥がした。
「何ですか先生?このまま出してくれたら、飲んであげたのに」
「事も無げに何てこと言いますか!」
ゴシゴシと口元を拭いながらさらっと言う可符香に、思わず赤面する。
だが、恥ずかしがっているのはどうやらこちらだけのようだ。
「そ、それにですね……、先生、あまり…その、回数には自信が無くて、ですね」
「――ああ!そっか、先生枯れた大人ですもんね」
ポン、と両手を打ち鳴らす可符香。
「納得されても悲しいです……」
だがまぁ、悲しいかな事実なのである。
気持ち的には何度でも、愛しい少女と目合(まぐわ)いたい次第ではあるが、
身体がついていかなかった時の事を考えると、非常に情けない事になりかねない。
「それに最初は――やっぱり、貴女と一緒に、ね」
見返してくる大きな丸い瞳。
そこに映る自分の顔は、興奮で上気しながらも柔らかな笑みを湛えていた。
「……はい、先生。私の中に、来てください」
すぅ、と。大きな瞳が閉じられる。
それが口づけの催促だと、望はもう手に取るようにわかっていた。
もう一度、唇で深く交じり合ってから。
二人は身体を絡み合わせて、ゆっくりとベッドに沈んでいった。