「それでは、糸色望先生の退院を祝して!」
千里の声高な声と共に、その場に集まる皆の腕が上がる。
各々その手に、何かしらの飲み物を持って。
『かんぱーいッ!』
キィンッ。
一斉に上がる掛け声と、涼しげなガラスの音が響きわたる。
皆近くに居る者同士で、手にしたグラスを弾き合わせた。
「ありがとうございます…」
テーブルの上座に座った今日の主役は、照れたように頭を掻いて微笑んだ。
望は数週間前まで、胃炎で入院していた身である。
退院した今では胃に優しいものならば、食事も取れるほどまで回復している。
何だかんだ望を慕っている2のへ生徒達の計らいで、今日は主催者である
千里の自宅――両親は仕事で留守との事だ――で、糸色望退院祝賀パーティと相成った。
千里の音頭が終わると、生徒達は各々料理に口を付け始める。
パーティと言えば大皿に盛られたオードブルなどを、各種好きなように取り皿に取って食べるのが主流かと思う。
だがそうすると、何でも均等にしたがる千里の機嫌を損ねてしまいかねない。
それに今回の主役は、胃炎で入院していた望である。
結果、料理は胃に優しく栄養満点「おじや」となった。
これなら千里も等分しやすいし、望も問題なく食べられる。
その点では非常に良い選択だっただろう。
だが、大勢でテーブルを囲んで食べている料理が流動食というのは、絵づら的に非常に残念である。
ズルズル…ズルズルズル…。
―――テンションの下がる咀嚼音だ。
「……すみませんね、何だか気を使わせたようで……」
無言でおじやを啜る生徒達の何ともいえない表情に、申し訳ない気分になる望。
思わず頭を下げると、望から少し離れた場所にチンマリと座っていた愛が、悲鳴じみた声を上げた。
「す、すみませんッ!私が調理に加わったばかりに、せっかくの料理を台無しにしてしまって……!
その上先生を申し訳ない気持ちにさせて…ッ、あぁ、すみませんすみません!」」
ちなみに調理を担当したのは、麻菜実、愛、奈美、可符香、まといである。配膳のみ千里が担当した。
「やだなぁ、愛ちゃん達の作ったご飯が美味しくないわけないじゃない。ね、先生?」
望の隣に座った可符香は、青ざめる愛とは対照的に、柔らかく微笑みながら望に同意を求める。
「ええ。とても美味しいですよ」
頷いて、それを示すかのように望もお椀の中身を啜る。身体の芯から温まるような、ホッとする味だ。
他の生徒からも宥められ、愛の加害妄想はとりあえずは治まったようだ。
調理に参加した面々も、褒められて満更ではないようである。
奈美は少し照れたように頬を染めている。至って普通のリアクションである。
麻菜実は少しだけ満足気に笑みを深め、愛は恐縮しているのか、ひたすらオドオドしている。
まといはパーティそのものはどうでもいいらしく、いつの間にかテーブルの下に潜り込み、
正座した望の足を凝視して微笑んでいる。もはや誰もつっこまない。
可符香は相変わらず、望の隣でニコニコと微笑んでいる。
ずるずる、ずる…。
――美味しいのは間違いないのだが、テンションの下がるSEだけはどうしようもない。
せめてレンゲか何かで食べればいいのだが、配られたのは何故か箸のみ。
どうお行儀良く食べても僅かな音は防げない。
(ぜ、絶望した――祝賀パーティとは思えない微妙な空気に絶望した…ッ!)
口にすると愛がまた半狂乱になりそうなので、胸中でこっそり絶望する望。
「ちょっと熱いですね」
可符香は相変わらずマイペースに、おじやをフゥフゥと吹き冷ましている。
――まぁ、酒も無ければ料理はおじや、というこの状況でも、
皆何だかんだと自分の事を心配していてくれたのは、薄々望もわかってはいた。
それに何より、こうして愛しい少女が楽しげな笑みで隣に居てくれるなら。
(絶望、する事もない……か)
そう思い直して、もう一口おじやを啜る。
優しい味が心の芯まで温めてくれるかのようで、望は思わず頬が緩むのを感じていた。
始まりこそ妙な雰囲気が漂ったものの、基本的にキャラの濃い面々の集まる2のへ生徒たちである。
どういう方向であれ、何かしらの盛り上がりを見せないはずがなかった。
ズルズルというSEは終始流れていたものの、後半はいつものごとく騒がしい空気が場を満たした。
――そんなこんなで、時刻は夕刻。
解散の時刻となり、皆で片付けを手伝った後、各々家路につく事となった。
「今日は本当に、皆さんありがとうございました」
解散の際、望が生徒達全員に向けた一言は、彼の心からの感謝の言葉だった。
まぁ途中で少々悪乗り気味に盛り上がってしまったものの、パーティは成功と言っていいだろう。
集まった生徒たちは、概ね皆満足気な顔で――一部乱痴気騒ぎの被害者は辟易した顔で――帰路につく。
望も宿直室へ帰ろうとしたその時、さり気なく寄り添ってきた可符香にそっと手を握られた。
思わずぎょっとする望。
――望の入院以来、二人は何だかんだと色々あって、恋人同士と言える関係を結んでいた。
だがそれは、他の生徒達には秘密である。
そもそも声を大にして言うような事じゃない、というのもあるが、何よりお互いに自分の身が大事というのが本音である。
表面上、可符香は今まで通り、望争奪戦には加わっていないという事になっていた。
だからこうして、まだチラホラ他の生徒の目がある場所で手を触れ合わせるというのは、嫌ではない(むしろ嬉しい)ものの非常に心臓に悪い。
だがそこの所は抜け目の無い可符香である。ちゃんと生徒達の死角になっていない限り、こういった事はしない。
そこまで考えが及ばず狼狽する望の手に、可符香はそっと、小さな紙きれを握らせた。
手に触れる乾いた感触に、訝しげな顔で無言の問い掛けをする望。
可符香は望がメモを受け取ったの確認すると手を離し、そっと耳打ちした。
「この後二人で、改めて祝賀パーティしましょう」
それだけ早口で囁くと、可符香は羽のような軽い動作で望から離れる。
「それじゃ、またね先生!」
望に何か問う暇を与える事なく、可符香は他の生徒達に混じって歩き去ってしまった。
二人で、改めて。
「あ、う」
その言葉の意味を思わず深読みしてしまって、望は慌てて頭を振った。
(な、何を考えているのやら――彼女はまだ高校生ですよ?)
咄嗟に浮かんだ不謹慎な妄想を振り払いながら、渡された紙に目を落とす。
可愛らしい文字で「七時頃にいらして下さい」と記された紙には、どこかで見覚えのある住所が書かれていた。
「――え?」
それもそのはず。その住所は、彼が宿直室の主となる以前に住んでいた家の、隣の住所であった。
そして望は、その場所に住んでいるはずの、一人の人物を知っている。
「隣の、女子大生さんの…家?」
密かに憧れた、落ち着いた雰囲気を漂わす女性の面影が脳裏に過ぎる。
様々な疑問が次々と浮かんでくる。
望は悶々としながらも、一旦は交と霧の待つ宿直室へ帰る事にした。
とりあえず訊ねてみよう――そうすれば、自ずと疑問も晴れるだろう。
沸々と湧き上がってくる疑問や想像にやきもきしながら、七時までの小一時間を過ごす事となった。
「…ここで、間違いありませんよね」
可符香の指定時刻、午後七時ピッタリに、望はメモに記された住所へやって来ていた。
何度も何度も確認したが、書かれた住所は間違いなくここ――隣の女子大生の家を記している。
「やはり、ご家族なのでしょうか」
チャイムを鳴らそうと延ばした指を彷徨わせながら、望は一人ごちる。
可符香は度々、隣の女子大生を知っているかのような言動をしていた。
望の彼女に対する気持ちも知っていた節もある。
可符香が彼女と家族であるならば、その事に何の不自然もない。
「――窺えば、わかる事ですよね」
望は覚悟を決めて、ゆっくりとチャイムを押した。
ッぽーん。
間の抜けた音。少し遅れて、ドアの向こうから女性の返事が聞こえた。
「はーい、今開けます」
パタパタと軽い足音。
その言葉通りすぐに玄関が開き、姿を現したのは紛う事なく隣の――いや、元隣の女子大生である。
以下、面倒くさいので女子大生と呼称する。
彼女は予想外の客人に驚いたようで、キョトンと目を丸くした。
「あら先生ッ、お久しぶりです。どうされたんですか?」
「ご無沙汰してます。あの…こちらに可符香さんはいらっしゃいますか?」
やはり住所を見間違えたのではないかと一抹の不安を抱えながらも、恐る恐る訊ねる望。
彼女はそんな望の不安を、驚くべき言葉でかき消した。
「可符香なら今は外出中ですけど…妹に何か御用ですか?」
「―――い、妹ッ!?」
思わず素っ頓狂に聞き返すと、彼女は事も無げに頷いて見せた。
「はい。いつも妹がお世話になってます」
「で、ですがあのッ、唐突過ぎませんかその設定!
今までそんな話、これっぽっちも出て来ませんでしたよ?」
「えぇと…そんな事言われても困ります。事実可符香は私の妹なんですから」
本当に困ったように眉をハの字にする女子大生。
望はそんな彼女の様子に、慌てたように両手をパタパタと振った。
「す、すみませんッ。いきなりだったもので、つい動揺してしまって…。
そうですよね、妹なら仕方ないですよね」
何が仕方ないのか自分でもわからなかったが、望はとにかくこれ以上彼女を困らせないよう必死に言い繕う。
納得してもらえて安心したのか、女子大生はホッと息を吐いた。
「妹に御用でしたら、良ければ上がってお待ちになって下さい。汚い所で申し訳ありませんが」
「い、いいえいいえ!滅相もありません。ありがとうございます」
望は恐縮しながらも、内心ドキドキしながら玄関をくぐった。
汚いどころか良く掃除の行き渡った家である。
望を居間に通すと「お茶を入れてくる」と言い残し、彼女は台所へ引っ込んだ。
緊張した面持ちで、どうぞと薦められたクッションの上に腰を下ろす。
仄かに感じる、女性宅特有のどこか甘い香りに、余計に妙な気分になってしまう。
(あああ、何を考えてるんだ私は…!!絶望した、節操のない自分に絶望したッ!)
「先生、ミルクティーで良いですか?」
「っへ!?あ、はいッ」
台所から聞こえる女子大生の声に、疚しい気持ちを読まれたような錯覚に陥って、思わず返事が裏返ってしまった。
高鳴る動悸を抑えようと、必死に胸中で「落ち着け、落ち着け…」と呪文のように繰り返す。
少しすると、女子大生はお盆に二人分のマグカップを乗せて戻ってきた。
「お待たせしました」
「――ありがとうございます」
今度はどうにか落ち着いた声音で答える事が出来た。
望は差し出されたミルクティーで、緊張で乾いた喉を湿らせた。
「あの、妹さんは今どこに居るかご存知ですか?」
時間を指定までしておいて、本人が居ないとはどういう事だろう。
至極当然の疑問を投げかけると、女子大生は「うぅん」と小首を傾げて、
「今日はお友達の家でパーティがあるって、お昼頃に出かけてから……まだ戻ってきていないんです」
「えぇ?」
つまり可符香は、望と別れてから一度も帰宅していないという事か。
姉に詳細までは伝えていないのか、望がそのパーティに出席していた事を彼女は知らないようである。
「そのパーティ、私も出席していたんですよ」
「そうなんですか?」
出席も何も主役である。
「解散したのが六時前――妹さんは、一度も帰ってきてないんですか?」
神妙な面持ちで再確認すると、女子大生は戸惑うように頷いた。
「はい……変ですね。何か他に用事があったんでしょうか」
「でも私を呼び出したのはあの子です。時間まで指定したのに、帰ってないのはおかしい」
望は言いながら、携帯電話を取り出して、可符香の番号にコールする。
すると、何処からかハマショーの着歌が流れてきた。
―――何故自宅から、可符香の携帯のコール音が流れるのか。
「あっ。あの子ったら携帯忘れて行ってる」
女子大生は口元に手を当てて、鳴り響く妹の携帯があるであろう二階の部屋を仰ぎ見た。
あちゃあ、口の中でぼやきつつ、携帯を仕舞う望。
「仕方ありませんね。少し、表を探してきます」
そう言って立ち上がる望の袴の端を、女子大生はおずおずと掴んで引き止めた。
「あの――もう少し待ってみませんか。あの子の事だから、心配するほどの事でもないでしょう?」
確かに可符香なら不埒な輩に絡まれても、逆に相手を懐柔してしまいそうではある。
だが万が一というのもある。可符香とて年端の行かぬ少女である事にかわりはない。
何より望は、以前心を寄せていた女性(しかも現恋人の姉)と二人きりというこのシチュエーションに、限界を感じていた。
「何かあってからでは遅いですしね。やっぱり、ちょっと見てきます」
答えて歩き出そうとするものの、袴を握る彼女の手には余計に力がこもるばかりだ。
望はさすがに戸惑って、訝しげな顔で女子大生を見下ろした。
「あの…」
「先生、待ってください……、待って」
どこか切なげな声で、なおも望を引き止める女子大生。
俯いた彼女のうなじに掛かる、一つに纏めた長い髪が美しい。
くらりと眩暈を覚えるも――すぐに頭をぶんばぶんばと頭を振りかぶり、必死に雑念を頭の中から追い払う。
「どどどど…ッ、どうかされましたか?」
「あの……わた、私――ッ」
声を上ずらせて望を見上げる彼女の瞳は、しっとりと潤んでいる。
小さく開いた唇から覗く、赤い舌が艶かしい。
蟲惑的とも取れる表情に、望はもはや動機を抑えられなかった。
ミルクティーで潤したはずの喉は、とっくにカラカラに乾いている。
「お、お姉さん――」
呼びかける声は掠れていた。それが緊張によるものか――興奮によるものか、望にはまだわからない。
彼女は何か言おうと唇を開く。
「…は…ぁ…ッ」
だが、薄く色づいた唇からは熱い吐息が漏れるのみ。
それでも何か紡ごうと、なおも口を開こうとする女子大生だったが――
「……ッ」
苦しげに眉根を寄せると、彼女はグッタリと床にその身を投げ出した。
長い髪が、床に広がる。
「お姉さんッ!?」
望は慌ててしゃがみ込み、ほっそりとした身体を抱き起こす。
望の腕の中で苦しげに胸を上下させる彼女の顔色は、やや青白い。
「大丈夫ですか!?すぐ、お医者様を―――」
「だ…大丈夫、です。きっとただの貧血、でしょうから……」
か細い声で答える女子大生は、きゅっと望の着物を握り締めた。
「あの――お願い、します。少しだけ…一緒に居てくれませんか…?……心細いんです―――」
弱々しいながらも、必死に縋りついてくる彼女を置いていけるはずがなかった。
「……はい、私でよければ」
脳裏に過ぎる愛らしい恋人の姿に心を痛めながら、望はゆっくりと頷いていた。
チッチッチッチ―――
時計の針が時を告げる音が、嫌に大きく聞こえる。
立ち上がれない程に脱力してしまった女子大生を抱き上げて、二階の彼女の部屋のベッドに寝かしつけたのが、つい今し方の事。
望はベッドに横たわる女子大生の顔を、苦虫を噛み潰したかのような表情で見つめた。
ハァハァと荒い息を吐いているその様子は、おそらく貧血ではなく風邪か何かによる発熱だろう。
薄っすらと頬を赤らめて、汗で額に張り付く髪を気だるそうに取り払う姿はどこか妖艶だ。
「……すみません、ご心配おかけして」
「いいえ、そんな」
ベッドの傍らに膝を付いていた望は、彼女のその一言を切欠にするように立ち上がった。
すると彼女はとたんに心細そうに眦を下げ、泣き出しそうな表情になる。
その表情に胸を締め付けられながら、望むは痛みに耐えるようにぎゅっと拳を握り締めた。
「……どちらへ行かれるんですか?」
「か、看病に必要なものを買ってこようかと」
答える声は、情けなく裏返っていた。
嘘ではない。嘘ではないのだが、彼の中で事の優先順位は彼女の看病よりも、恋人の捜索に傾いている。
その事を恥じる事はないのだが、今こうして苦しんでいる恋人の姉の姿を前にすると、どうしても罪悪感を拭えなかった。
ざわつく感情を振り払うように一歩、足を踏み出す。
「待って……ッ」
するとすかさず女子大生の手が望の袴に伸び、逃がすまいとしっかり握り締めてくる。
まるで親に置き去りにされたかのような気弱げな表情を浮かべる彼女を、望は心底困り果てた表情で見返した。
「少しの間だけですから……」
そう言ってもう一度しゃがみ込み、安心させるように頭を撫でる。
袴からは手を離してくれたものの、今度は直接望の手首を握り締める女子大生。
手首から感じる彼女の体温は、望のそれより随分と熱い。
「嘘です――妹を探しに、行くつもりなんでしょう」
まるで非難するかのような言い方に、望は思わず聞き返した。
「先ほどもお伺いしましたが、お姉さんは妹さんが心配ではないのですか?」
「あの子の事ですもの。心配なんてしなくても大丈夫ですよ。
あの子は何だって、一人で全てどうにかしてしまうもの」
言われて考え込む望。確かに、彼女の言う事も一理ある。
可符香の飄々とした態度を見ていると、確かに彼女に怖いものなどないように思えてくる。
だが――それでも、望は知っている。
姉と同じかそれ以上に、彼女が寂しがりやだという事を。
夜、肌寒い秋の夜長。月明かりの射す保健室。
泣きながら必死に自分に縋り付いてきた、月明かりに青白く染まる彼女の顔を、忘れられるわけがない。
望はゆっくりと、申し訳なさそうに頭を振った。
「すみません……やはり、心配なので……」
望の答えに、女子大生は戸惑ったように喉の奥で息を詰まらせた。
「どうしてそこまで、妹の事を心配してくれるんです……?」
「それ、は」
ずばり問われて、望は思わず返答に詰まった。
そう――確かに、彼女の姉である彼女には、いずれ二人が恋仲だと告げなければならない。
けれどそれを躊躇するのは、恥じらいや、彼女と自分が教師と生徒の間柄であるという事以上に、
何よりも、自分はまだこの女性に対する想いを――完全に捨てきれていないのではないか。
「やっぱり私の勘違いだったんですか?
先生が、もしかしたら私の事――好いてくれてるんじゃないかって、思ってたのに……」
「!!」
そんな内心の葛藤に追い討ちをかける様な呟きに、望は思わず驚愕に瞳を見開いた。
硬直する望の手首をより強く握り締めて、彼女は上ずった声で畳み掛ける。
「勘違いだったとしても良いんです。わ……私は確かに、先生の事が――ッ!」
感極まったのか、勢いに任せて身体を起こし、望ににじり寄る女子大生。
だがやはりまだ自由に身体を動かせないのか、すぐにくたりと力尽きてしまう。
「ッ! お、お姉さん!?」
ベッドから落ちかけた彼女の身体を咄嗟に支えようとするも、突然の事だった為に、望もバランスを崩してしまった。
そのまま、なし崩しに床に転がる二人の身体。
ッごべ!
「わぐっ!」
強かに後頭部を打ちつけ、妙な呻きを上げる望。カーペットが敷かれているとはいえ、痛いものは痛い。
だがその痛みも、すぐに自らの身体に押し付けられた女体の柔らかさに掻き消された。
「――あは。押し倒しちゃいましたぁ…」
女子大生は何か吹っ切れたような表情で望の顔を覗き込み、
より強く、自らの身体を望のそれに押し付けた。