「先生、来ないね」  
「倫ちゃんも居ないよ」  
 
〜誓い〜  
 
一時間目の授業が始まった。いや、始まるはずの時間だ。  
今日は糸色兄妹が来ていない。  
来ていないならまだしも代わりの先生すら来ない、というより先生が休みだとかそういうことすら伝えられていない。  
つまり、先生が学校に来ているかすら皆分からないのである。  
先生が居なければ授業も出来ないわけで、今このクラスは何をするわけでもなく皆でぼーっとしていた。  
 
「何で先生は来ないのよ!!」  
 
委員長が叫んでいる(本当は委員長ではないですけど)  
一時間目がはじまる予定の時刻からたっぷり十分が過ぎてからの一言だった。  
 
「………そういえば、去年はこの時期に見合いがあったよね」  
 
奈美の一言に教室、特に女子たちの周りの空気が凍った。  
 
お見合い……糸色家のお見合いについては杏ちゃんから聞いていた。  
変な方法だし、領地の人まで強制参加というなんとも迷惑な行事なんだろう。  
そういえば皆はまだ先生と杏ちゃんの関係を知らないんだっけ。  
杏ちゃんは……こんなときでも笑っているなぁ。でも周りの空気がいつもより重い。  
女子たち………絶望少女たちがあわただしく教室を出て行く、もし今日見合いが有るとしたら今から行けば間に合うだろう。  
自分は当然行くつもりは無い、先生のお見合いに興味は無いからだ。  
………領地の人まで強制参加?  
それってもしかして………  
気がついたら教室を飛び出していた。  
 
「倫ちゃん……」  
 
なぜ気がつかなかったのだろうか、糸色倫もその対象の中に含まれていたことに。  
 
 
なんとか皆に追いついて先生の故郷まで来ることが出来た。  
電車の中は暗い空気で満ちていたのだがこれをチャンスだと思ったらしく途中から木津さんの闘志で溢れていた。  
ほんらいライバルであるはずの常月さんが居ないからよけいやる気が出ているらしい、  
………先生が居ないところに常月さんが居るわけが無いのだが。  
というより既に杏ちゃんに負けているのを知らないのが本人にとって幸福なことだろう。  
 
駅から出るとリムジンが用意されていた、皆は経験済みなのでためらいも無く乗り込んでいく。  
最後に乗り込んだ僕は柔らかい座席に腰を下ろした。  
車が動き出し糸色家へと向かう、振動が少ないあたりが流石高級車だ。  
車内は静かだったがどこかピリピリとした空気なので心が落ち着かない。  
これからの修羅場を思い浮かべると胃が痛くなってきた。  
 
 
糸色家につくとチャラチャラした格好の先生が庭で本を読んでいた。  
大きな木下で本を読んでいた先生はこちらの姿を確認するなり青ざめた顔でどこかへ逃げようとした、  
しかし木津さんと小節さんにまわりこまれてしまい逃げ場を失った。  
 
「な、なんで貴方たちが居るんですか!?」  
 
「先生今日こそきっちりとしてもらいますからね!!」  
 
木津さんが叫ぶと周りの女子も口々に叫びだした。  
ふと、杏ちゃんを見るとまだ笑っていた……口元だけが。  
やはり……修羅場となるのだろうか。  
 
 
女子は大きな部屋に男子は………と言っても僕だけだったが小さな部屋に通された。  
小さいと言っても女子の部屋と比べたらの話であって、思わず叫びたくなるほどの広さはある。  
畳にねっころがり先ほどの執事の言葉を思い出した。  
『倫お嬢様は誰とも会いたくないとおっしゃっています』  
会えないわけではなく会いたくない、心の距離がとても遠く感じてしまった。  
 
 
 
ガラッとふすまが音を立てて開いた、顔を横に向けると横向きの先生の顔……自分が横向きなのだが。  
 
「いやぁやっと開放されましたよ」  
 
と言いつつ先生は隣にねっころがった。チャラチャラした格好なので実にこの部屋と合っていない。  
 
「少し君と話がしたくてここへきたんですよ」  
 
僕と話す事………二つしか思いつかない。  
 
「杏ちゃんと倫ちゃん……どっちですか?」  
 
「倫の方です」  
 
やはり、僕がここへ来た理由も分かっているのだろう。  
僕は倫を他の男に渡すつもりは無い。  
 
「倫はこの時期になるといつも部屋に篭るんですよ、そしてボディーガードを部屋の周りに配置して誰も近づけないようにするのですよ」  
 
それを聞いたときにからだを二つの感情が駆け巡った。  
一つは倫を他の男に絶対に取られないという安堵感、もう一つは………悔しさだった。  
他の男をに取られない代わりに倫を僕のものに出来ないと言う悔しさ。  
 
「……………」  
 
何も言葉が出ない。  
今口を開くと泣き出してしまう気がした、自分と倫との距離がとても遠くて、その距離を思うと泣き出してしまいそうだった。  
実際の距離ではなく心の距離がとても遠くて………  
 
「久藤くんはこんな話を聞いたことがありますか?」  
 
最後の言葉から五分ほど立ってから先生が口を開いた。  
 
「とある人が自分の好きな人とその人の兄さんが町を歩いているのを見かけたんです。  
でもその人は兄さんの存在を知らなくて、あまりに仲がよいものだから恋人なんだと思ってしまうのですよ。」  
 
先生が起き上がって蚊取り線香に手を伸ばした、気づくと耳元を蚊が飛んでいる。  
 
「で、そのあとその人は自分が好きだったスポーツ……野球を止めるんですよ、  
元々はその好きな人がマネージャーをやっていたからはじめたんですけどね。  
その人に恋人が居るならやってても意味が無い、と思ったわけですよ。  
で帰り道にってその人は好きな人に合い流れで好きな人の家に行くんですよ、そして兄さんだったってことを知る。」  
 
蚊取り線香にライターで火をつけると煙が出てきた。  
それを台にセットすると先生はこちらを向いて胡坐をかいた。  
 
「そのことをその兄さんに話すとこう言われるんですよ『お前は野球をなめている』ってね、  
そして更にこう言われるんですよ『男なら欲しいものは障害があっても絶対に取る』とね」  
 
先生はそこまで言うと立ち上がって廊下に向かった。  
 
「あとは貴方しだいですよ」  
 
そう言うと先生は襖を閉めてどこかへ行ってしまった。  
 
「そんな事言ったって、いったいどうすればいいんだよ」  
 
そう呟いて体を起こすと視界に紙切れが写った。  
糸色家の地図………しかもなぜか天井裏の地図だった。  
 
「先生………ありがとう」  
 
時間を確認すると。あと3時間ほどで見合いは始まるようだ、  
それまで、来るときにあわてて詰め込んだバッグの中を整理することにした。  
と、言ってもスクールバッグなのでそんなに入っているわけではない。  
中のものを取り出していくと、底に小さな箱が有る事にに気がついた。  
 
 
天井裏に上がると真っ暗だったが、小型のペンライトを持っていたので問題は無かった。  
地図で自分の居る場所を確認し、ゆっくりと進んでいく。  
時間は有る、迷わなければ大丈夫だ。  
………十分ほど進み、とある部屋の上で動きを止めた。  
地図に赤丸がして有るのでここに間違いは無い。  
一枚だけ動く板が合ったのでそれをどかして下に降りた。  
どさっと音がしたがボディーガードは部屋から離れた位置にいるらしくてばれてはいないようだ。  
 
大きな屏風が合り部屋を二つに区切っていた。  
自分は入り口側に居る、とすれば当然倫は反対側に居る。  
 
 
「倫ちゃん」  
 
「なぜ、ここに居る」  
 
向こう側から聞こえる声は重かった。  
怒っては無いようだが相手を威圧する迫力があった。  
 
「倫ちゃんに会いに来ただけだよ」  
 
「………今が見合いの時間だと言うことを知っての上でか?」  
 
「うん、倫ちゃんを僕のものにしたかったからね」  
 
部屋を沈黙が支配した。  
小さなため息を吐いて屏風の反対側へと向かう、そこにはきつく目を閉じて正座をしている倫ちゃんが居た。  
 
 
「………僕じゃ嫌なの?」  
 
たっぷり一呼吸置いてから倫は口を開いた。  
 
「……怖いのだ………捨てられるのが」  
 
捨てる?僕が……倫ちゃんを?  
 
「お兄様がよく言っておる『男なんて獣ばかりです、遊んだら捨てるような酷いやつもいるんですよ』と、  
……だからこれ以上深入りするのが怖いのだ」  
 
捨てられるのが怖い……たしかにそういう奴は居る、でも僕は………  
 
倫に駆け寄ると口づけをしてそのまま舌を入れた。  
 
「!!!」  
 
倫ちゃんは酷くびっくりしたようだったがめだけは閉じたままだ。  
 
「愛してるよ……倫」  
 
耳元で呟くと倫の体がビクッとはねた。  
着物の隙間から手を入れて双丘の先を触ると既に固くなっていた。  
 
「かわいいよ、倫」  
 
そう言い口づけをすると倫の体の力が抜けていった。  
力の抜けた倫から服を脱がすことは簡単だった。  
帯をはずし邪魔な布も全部剥ぎ取ると白い体が姿を表した。  
 
「最初の頃より大分大きくなったね」  
 
胸に舌を這わせながら言った。  
目をつぶって必死に耐えている少女をみると背筋がぞくぞくした。  
左手で胸を弄りつつ右手を股間へと持っていく。  
少女の秘部に指を這わせるとしっとりと濡れていた。  
そして二本の指を入れて動かしだすと、声を上げないようにしていた倫も声を上げてしまう。  
 
「きゃぁっ!!」  
 
それでもしっかりと目は閉じられている。  
しかし、指を動かしていると声も段々大きくなってきた。  
最後に強く中を引っかくと今まで出一番大きな声を上げて倫が大きく跳ねた。  
 
「あああっっっっっ!!」  
 
その時、しっかりと閉じられていた目を倫は開けてしまった、僕は倫の顔をずっと見ていたので目が合った。  
 
「これで、僕のものだね」  
 
そう言ってズボンのジッパーを下げて自分のものを出した、そして倫の入り口にあてがうと一気に挿入した。  
 
「んぁぁああぁぁぁっっっ!!!!」  
 
倫は目を見開いて叫んだ、口づけをしつつ腰を動かすと、ストロークのたびに倫の体は大きく跳ねた。  
最近してなかったからか自分も倫もすごい感じている。  
倫の締め付けはいつもよりすごかった。  
 
「倫……もう出そうだけど……どうしたい?」  
 
倫は僕の顔を見ると笑いながら言った。  
 
「わ…たしは……んっ……お前の…ものに……あっ……なったのだぞ……」  
 
それを聞いた僕は思いっきり突き上げた。  
 
「んぁぁぁっっっっっ!!」  
 
倫が大きくのけぞった、それと同時にすごい締め付けが自分の分身を襲った。  
その締め付けに耐えられず倫の中に全てを解き放った。  
 
 
 
 
朝、目が覚めると体が動かなかった。  
隣を見ると愛しき少女の顔があり、自分が抱きしめられているということに気がついた。  
額にキスをしてそっと抱きしめた、このぬくもりを幸せというのだろう。  
抱きしめているともぞもぞと倫が動き出した。  
 
「おはよう」  
 
そう言うと眠たそうな声で返事が返ってきた。  
時計を見ると十二時前だった、そういえばおなかがすいている。  
 
「とりあえずご飯食べよう」  
 
そう言って起き上がると少女も続いて起き上がった。  
服を着るとポケットに何か入っている、取り出してみるとバッグの底にあった箱だった。  
 
「倫ちゃんこれあげる」  
 
そういって箱を差し出すと倫はうれしそうに受け取った。  
倫が開けると小さなサファイアのついた指輪が入っていた。  
 
「学生だからそんなものしか買えなかったけど、とりあえず受け取ってね。  
稼げるようになったらちゃんとしたの買ってあげるから。」  
 
なんとなく恥ずかしくなって部屋から出ようと廊下へ向かおうとした時に後ろから抱きつかれた。  
 
「ありがとう」  
 
このぬくもりを幸せというのだろう。  
 
 
終わり  
 
 
 
十年後  
 
ピンポーン  
「「倫おばさん!!」」  
 
チャイムと同時に元気な声が聞こえて台所に居た倫は玄関へと向かった。  
 
「おはよう好(よし)、叫(さけぶ)。可符香は来てないのか?」  
 
「おかあさん?僕たち走ってきたから、後から来るよ」  
 
兄である叫が答える。それは自分の兄の幼い頃とそっくりだった。  
 
「あっ俊!!」  
 
妹の好が元気な声で言った。それは元クラスメイトとそっくりだった。  
後ろを見ると自分の息子が本を持って立っていた。  
 
「好!!叫!!久しぶりだな」  
 
息子が近づいてきた。  
 
「遊びに行こうよ!!」  
 
「お母さん遊びに行って来て良い?」  
 
「ええ、いいわよ」  
 
そう言って微笑むと3人は元気に笑いながら駆けていった。  
 
「「「行って来ます!!!」」」  
 
見えなくなるまで見届け、台所へ戻ろうとすると新たな人影が見えた。  
 
見えなくなるまで見届け、台所へ戻ろうとすると新たな人影が見えた。  
 
「おはよう倫ちゃん!!」  
 
「おはよう義姉さん」  
 
玄関に立っていた可符香はいつもと変わらず元気だった。  
 
終わり  
 
 
 
 

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