晴美の家についたのは、ちょうど8時くらいだった。この辺りは昔からの住宅地で、  
晴美の家もかなり古い木造住宅だ。駅からも歩いて数分と便利なところにある。  
 今日は文化祭の展示物を作る、というのは口実で、半分は晴海とおしゃべりをするた  
めにやってきたのだ。  
 玄関でインターフォンのボタンを押すと、がたがた2階から降りてくる音が聞こえ、  
インターフォンで応答することもなしに晴美が扉を開けた。ちょうど彼女の部屋から  
ここが見えるのだろう。  
 「晴美、ケーキ買って来たよ。」  
 「ふーん そうなんだ」  
 「もう、お礼ぐらい言いなさいよ。」  
 晴美はいつもこんなふうだ。私も彼女も末っ子で妹だが、彼女の方は三人の兄の後に  
続いて生まれた女の子のせいか、おっとりした性格だ。私がお姉さんタイプと言われる  
のとは大違いである。  
 
 「あがって、今日誰もいないから」  
 両親は旅行で、まだ家を出ていない兄の一人も今日はどこかへ出かけているらしい。  
別に大騒ぎをするわけじゃないけど、気楽でいい。  
 晴美が入れた紅茶を飲みながら、買ってきたケーキを食べた。私はチーズケーキで晴  
美に買ってきてあげたのはタルトだ。中学生の頃からの友達だから、彼女が何が好きな  
のかは良く知っている。  
 ただ、今日とは逆に彼女が買ってくるときには私の好みを忘れて自分の好きなタルト  
を二つ買ってきたりする。私がそういうきちんと切れない、形が崩れてしまうものが嫌  
いだというのをちっとも覚えてくれないのだ。  
 ま、悪気はないんだろうけど。  
 
 文化祭の展示物は私が文章を考え、晴美がイラストを書くというものだ。私達の班が  
担当したものは世界史に関するものだ。私の好みで「文化大革命と四人組」というもの  
になった。本当は「ポルポト大虐殺の真相」にしたかったのだが、それは文化的過ぎる  
ということで却下されてしまった。  
「もうちょっと面白いものやればいいのに。毎年糸色先生のクラスの出し物ってつまら  
ないことで有名らしいよ」晴美が言う。  
「なんか先生のこだわりがあるみたいだから、しょうがないよ。」  
 
 0時を過ぎるころには、予定していた作業もあらかた終わり、晴海がイラスト描いて  
いる横で、私は彼女の本棚にぎっしり詰まっている同人誌を手にとってぱらぱらめくっ  
てみた。  
 「よくこんなくだらないもの読むわねえ」我ながらひどいことを言う。  
 「そんなこと言わなくてもいいじゃない!」  
 晴美が漫画好きだったのは昔からだが、最近の彼女の創作物は、私にはさっぱり理解  
できない。私も知らないことはない漫画の登場人物が、もともとのストーリーや性格を  
無視してあれこれ組み合わされて、みたいな内容だ。  
 「無理やりよね、これ」もともとはギャグ漫画なのに、その登場人物を使ってエロパ  
ロディにしているものをみてそういった。  
 「そういうの流行っているらしいよ」流行っている、というのがどこでの話なのか私  
にはさっぱりわからない。  
 
 さらに2時間ほどが過ぎ、さすがにおしゃべりにも疲れてきて、今日は寝ることにした。晴美が押入  
れから布団を出して敷き、私は部屋の隅に用意してあった来客用の布団を自分で敷いた。  
 私は寝巻きとして使うためのトレーナーにパンツに着替えていた。彼女はジャージの  
上下という格好だ。  
 「いつもその格好で寝てるの?」私は聞いてみた。  
 「そうだね、夜はほら、遅くまで原稿書くこと多いから、この格好のまま寝ちゃうこ  
とが多いよ」  
 「パジャマくらい着なさいよ」  
 「んー、なんか面倒なのよね」  
 学校でもそうだが、どうもファッションとか格好にはあまりこだわりがなさそうだ。  
髪の毛だってぼさぼさ気味の時があるくらいなのだ。ただ、こんな格好でもスタイルがいいのは良くわかる。  
 もうちょっと気を使えばずっと綺麗になるのに、私はいつもそう思っていた。  
 運動神経はいいし、顔もスタイルも女の子としてのポテンシャルはとても高いと思う  
のだ。特に私は体つきについてはコンプレックスを抱いてさえいた。自分で認めるのは  
悔しいけれど、この歳になると、どうしようもなく差をつけられていることが良くわかる。  
 
 洗面を済ませ、布団に入る。もちろん急に寝られるわけもなく、おしゃべりが続いた。  
ようやく話題も途切れかけたころ、晴美が唐突にいった。  
 「千里ってさあ、本当に先生のことが好きなの?」  
 「えっ」  
 急にそんなことを言われても答えようがない。  
 「先生もさ、あれでいろいろ行動しているっていうか、隅に置けない性格だよね」  
 まあそれについては私もわかっている。教室で先生を狙っているのが一人二人じゃない  
ことはみんなが知っていることだ。私が出遅れているというか、先生にとってはどちらかと  
いえばやっかいな存在であることにも気づいていないわけじゃない。  
 
 「そういう晴美はどうなのよ? 誰か好きな人いるの?」正直なところ、親友の割に  
はこういう話題について触れることはほとんどなかった。  
 「私? 私は・・・そういうのないね。だって・・・」そこで言葉が切れた。  
 「まあ、少なくとも先生は好みじゃないみたいね」  
 「うん、千里には悪いけど、そうね」  
   
 並んで横になりながら、しばらく沈黙が続いた。  
   
 ふと横を見ると、晴美は肘を付き、頭を支えた状態でこっちをみていた。薄暗い中でも私の顔をじっと見つめているのが良くわかる。  
 「千里ってさあ・・・こんなことされたら、嫌かな・・・?」  
 晴美の顔が近づくのを感じ、何をしようとしているのかわかった時には、もうどうし  
ようもなかった。  
 彼女の唇が私の唇に押し当てられ、私はあまりの驚きに声を出すことすらできずにい  
た。全身がこわばるほど緊張しながら、抵抗することできず、その状態を受けて入れて  
しまっていた。  
 しばらくその状態は続き、私もそれを望んでいることがわかった。  
 「千里が嫌じゃなかったら、私欲しい」  
 私は何もいわず、それが拒絶のサインでないことはすぐに伝わったようだった。晴美  
はもう一度唇を重ねてきた。さっきよりもずっと激しく、長く。私もさっきとは違って  
ぎこちなく唇や舌を動かしていた。  
 
 「こんなことしたら・・・駄目だよ晴美」  
 「私、言えなかったけど、千里のことね、ずっと・・・」  
 いつもののんびりした晴美とは違っていた。私はすっかり晴美にリードされ、される  
がままになっていた。  
 私は形ばかり少し拒絶しようとした。でも結局は裸にされ、彼女も服を脱いで抱き合った。素肌が触れる感触は、私が想像していたものよりずっとずっと気持ちが良かった。  
 「晴美って綺麗な体してる」私はそういって、晴美の豊かな胸に手を触れてみる。こ  
れに比べると私の体はとても貧弱だ。そう考えると恥ずかしくなった。  
 「あたしって、この歳にしては・・・」  
 「そんなことないよ、千里だってスタイルいいよ」  
 晴美の手が私の体をまさぐり、私はその気持ちよさに目を閉じてしまう。全身が熱を持  
ったみたいに感じられる。  
 さらに晴美の手や唇で愛撫され、じっくりと上り詰めるような快感に身を任せた。  
 晴美に促され、私も晴美に同じことをしてあげる。  
 
 * * *  
   
 「綺麗な髪だよね」ことが終わり、晴美が私のすぐ横にくっつくように横になり、指  
で私の髪の毛をくるくる巻いて遊んでいる。少しけだるく、しかし満足感があった。  
 「そんなに触っちゃだめだよ」私の髪は不安定なのだ。「明日の朝ひどいことになっちゃうから」  
 「それは面白そうだ」晴美が笑い、私もつられて笑った。  
 「また・・・いいかな?」晴美が聞いた。  
 「だめだよ、こんなこと」私は答えたが、その声に説得力がないことは自分でも良くわかっていた。  
 
おしまい  
 
 

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