私はいつも、彼を痛めつけることを考えている。  
それが私の愛。でも・・・。  
 
教室はまだHR中だというのに大変賑やかであった。  
ガヤガヤと騒がしいのは、高校生の中でも、彼らは‘幼い’ということか。  
委員長、もとい委員長というあだ名さえ持つ木津千里が、うるさいクラスをまとめ上げる。  
「みんな静かに!こんなんじゃいつまでもHR出来ないじゃない!!」  
クラスメイトの面々も、彼女の一声で静まりかえる。  
「ありがとうございます、木津さん」  
(しかし、本当の委員長はどこいったんでしょうねえ)  
何時までたっても教師らしくなれない男が生徒に礼をすませると、早々に連絡事項をあげる。  
「・・・ですから、明日は・・・。」  
 
この男、糸色望を見つめる視線は幾つもあった。  
この男、ぷれいぼーいにつき、っというわけではないのだが、女生徒からの人気は異常なほどで、  
生徒にストーカーされたり、求婚されたりしているのである。  
 
そんな中、彼に熱い視線を落とす女性に、三珠真夜がいた。  
しかし彼女は求婚を迫ったりするワケではない。ただ純粋に好きなだけなのだ。  
しかしだからといって問題がないわけではない。ただ・・・。  
 
HRも終わって、放課後になり、早々に帰る生徒、教室に残る生徒、格々色々である。  
教台には糸色望が、女生徒たちに囲まれて、帰るに帰れない状況である。  
「・・・・・・・・・・・・」  
「先生、バルバル星との交信に成功したチームが、  
今日ガルボア共和国から来日するんですって!だから・・・」むぎゅうっと  
「先生、今日こそきっちり印鑑をいただきます!だから・・・」むぎゅうっ  
「先生、この後お食事行きませんか?というのも・・・」むぎゅっ  
「先生も一緒にさ、みんなでカラオケいこ〜よ〜。」  
「奈美ちゃんってば、相変わらず・・・」  
『発想が普通なんだよ!』  
「普通って言うなあ!!」  
本来ならば、男として女性に挟まれるというのは、苦々しくも嬉しい状況なのだが、  
彼には疲れの表情が浮かんでいた。  
「まあまあみなさん、もっと仲良く行きましょう、仲良く。」  
「やだなあ先生、みんな仲良しですよ。ねえ?」  
「う?うん」  
「そうそう」  
「仲良しだよ、ね?」  
『オレにはそうはみ』  
「ほおら先生、みんな仲良しぃ!」  
「・・・・・・・・・・・・・」  
 
そんな様子を、少し離れて見る目があった。  
いかにも悪そうなその目つきの持ち主も、糸色望争奪戦に加わりたかったが、  
彼女は基本シャイなのか、人の騒がしいトコロは好きではなかった。  
真夜は焦っている。ただ、愛しい彼に、どうやって自分の愛を伝えるかを考えていた。  
競争率の激しい彼に、自分をいかにアピールするか。  
激しいアピール合戦を繰り広げた際に、学校に火をつけた真夜だったが、  
そのせいで新しい校舎にはスプリンクラーが設置されてしまった。(なんと!)  
 
その間にも愛しき望に対して、女生徒たちのアピールはどんどん加熱している。  
もうこうなったら、自分も参加せざるを得ない。しかし、どうやって・・・?  
真夜に残される手は、バットや刃物での凶器攻撃だが、ここ数日オンエアされないバトルにて、  
ライバルたちの強さは身に染みている。出来れば戦いたくはない。なら、どうやって・・・?  
(ああ、火をつけたい、火を、火、火、火・・・・・・)  
「そうだわ!!」  
 
何か思いついたらしい彼女は、教卓の前まで詰め寄る。  
「あら、三珠ちゃん。」  
彼女は何か、緊張した面持ちで、じっと先生を見ている。  
そんなことはお構いなしに、この男はこのシチュから抜け出すイイチャンスだと思い、  
髪の長い二人の女生徒に両腕を引きつけられたまま、顔をグイと突き出す。  
「どうしました?三珠さん?」  
こんな状態ながら、無理して優しく生徒に微笑む彼は、やはり教師なのだと思った。  
その笑顔に、真夜も微笑み返す。こちらは無理のない、望の状況を面白がったような、無垢な子供の笑い方。  
その表情に、望は呆気にとられて、見入ってしまう。思わず、動けなくなる。  
真夜はその顔を自らの小さな手で挟んで、昼寝の際枕を見つけた猫のように、  
嬉しそうに、ゆっくりと、永い接吻をした。  
 
顎の感触や男の温もりはいつまでも味わっていたいものだったが、そうもいかなかった。  
クラスは大騒ぎーーーーーーーーーーより早く、望の背後から、刃物が飛んできた。  
真夜はその小さな体を俊敏に動かし、ソレは男の顔をかすめて流れ星のように光って消えた。  
「ヒイイイ!!!」  
「よくも、よくも私の先生ををおおお!」  
真夜に襲いかかる影は一つではなかった。刃物も釘も包帯も、何でも飛んでくる。  
しかし鋭い目で見切って、ヒョイヒョイとかわしていき、廊下に出て、走っていった。  
「待てーーーーーー!!」  
 
教室に残された人間たちも、大騒ぎである。  
「オイ、見たか今の?」  
「ああ、センセイはちげーなぁ(笑)」  
「・・・あたしだってまだだったのに・・・」  
『聞こえてるぞ、ブス』  
「先生!今のは何なんですか!?きっちり説明してください!!!!!!」  
「えっ、えええええーーーーーーーーー!!!!?」  
「場合によっては、訴えるよ!!」  
「先生を殺して、私も死ぬ!!!」  
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!  
 
走り去る女生徒の表情は笑顔で、紅潮していた。  
彼女は「火をつける」ことに成功したようだが、この喜びはまた別のトコロから来ているんだろう。  
心臓の鼓動は早くなる一方だが、必死で走っているからと言うことだけではないだろう。  
「火をつけ」たことでこれからはより一層厳しい戦いになるだろう。  
しかし頑張れ真夜!負けるな真夜!その愛証明してみせるまで!!  
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー糸冬ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  

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