私が下した決断は、何も、衝動的なものというわけではなかった。  
それは、自分の過去にまつわる真実を思い出し、冷静に自分の置かれた状況を見つめて  
………その結果として導き出された、結論だった。  
 
自分は過去に、心の底から愛し、信頼していた人間に裏切られて。この身に宿した新たな  
命の火を、消して。取り返しがつかないほど長く貴重な時間を、病んだ精神が生み出した  
妄想の為に費やした。  
全てを思い出したときには、もうこの手の中には何も残ってはおらず。ただ、ボロボロに  
なったこの心と身体を見下ろすようにして、何も無い、という現実だけが眼の前にそびえ  
立っていた。  
今まで、愛の為に全てを捧げた生きてきたつもりだった私にとって………その愛自体が  
幻だったのだ、と宣告されることは、もはや、今の私の存在そのものを否定されること  
と同義だった。  
もちろん、真実を伝えてくれた家族には、感謝こそすれ恨む気持ちなど毛頭ありはしない。  
けれど………私の妄想の為に、多くを失ったであろう両親や兄のことを考えると、私には  
もう、家族に合わせる顔も無かった。私が居なければ、家族に無駄な心労を掛けること  
も、多くの時間を奪うこともなかった。全ては、私の所為なのだから。  
そうして現実を受け止め、深く考えれば考えるほど、私は結論に近づいていった。  
いくら考えを巡らせても、生きていく理由が見当たらなかった。『生きるべき理由』は  
愚か、『生きていても良い理由』すら、見つけることができなかったのだ。  
だから………私は、自らの命を絶つという、決断を下した。  
 
だが、どうだろう。  
今、眼の前に居る彼は………私に向かって、何と言っただろうか。  
 
『死んで欲しくない』  
『君が居なくなるなんて、考えられない』  
 
『好きなんだ』  
 
私自身ですらその存在を認められなくなった、こんな、ボロボロの私に向かって。  
彼は、叫んでくれたのだ。心の底から。  
私が、『生きていても良い理由』を。  
 
ただ、涙が込み上げてきた。  
 
私は。  
また、信じてもいいのだろうか。  
 
私が生きていくことを………許しても、いいのだろうか。  
 
 
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2人で、フェンスを乗り越える。  
まず、彼女が。それを見届けてから、ボクが。  
「う、わっ!?」  
屋上のコンクリートの上に飛び降りで、そのままカッコ悪く尻餅をつく。  
冷静になってやってみると、やっぱり、足が震えてまともに着地も出来なくなるくらい  
怖かった。随分無茶なことをしたものだ、ボクも、彼女も。  
 
先にそこに降り立った彼女は、ただ、暗い空を見上げていた。まだ薄明かりの残る空には、  
星がいくつか浮かんでいた。彼女がそれを見つめているのか、それとも虚空を見つめて  
いるだけなのかは、解からなかった。  
その、憂いを帯びた横顔に………ボクは、一瞬で見惚れてしまった。緊張の糸が、切れた  
せいだろうか。場違いな感情を抱いていることは自分でも解かっていたけれど、それでも、  
その麗しい姿から、眼を離すことは出来なかった。  
そのまま、ややあって。彼女の視線が、つ、と眼の前のコンクリートの上に動き、そして。  
 
「………私、ね。」  
「………え………?」  
 
彼女が、語り始めた。  
 
「私、もう………生きていく理由が、見つからなかったの。だから、ここに来たのよ。」  
ボクの心が、軋んで悲鳴をあげ、彼女の嘆きを聞くことを拒む。しかし。  
「………そんなこと………。」  
「ごめんなさい、最後まで………聞いて。」  
彼女は、敢えてボクの言葉を遮った。  
すっかり、自然な落ち着きを取り戻した声。ボクは、言われた通りに彼女のことばを待つ。  
「愛してたもの、全部無くしちゃって。家族にも、合わせる顔が無いって思った。」  
「………………。」  
「世界が、終わっちゃった気がしたわ。このまま生きていても、仕方ないって。」  
そして。  
「………けど………。」  
視線が、こちらに向けられる。  
「久藤君は………『死んで欲しくない』って、言ってくれた。」  
「っ!」  
ほんの数分前まで、深遠な絶望の闇を湛えていたはずの彼女の瞳には………ほんの微かに、  
ではあるが、あるべき光が戻っているような気がした。  
「自分でも、『生きていても良い理由』が、見つからなかったのに。」  
「………………。」  
「こんな………こんな、私に………。」  
ボクの言葉で、彼女の病んだ心が少しでも立ち直ってくれたのなら………ボクなんかが、  
愛しい彼女の心を少しでも癒せたのなら、これほど嬉しいことは無い。  
だが………しかし。  
 
「ねぇ、久藤くん………。」  
「………………。」  
宿る光は、どこか頼りなくて。  
彼女の瞳はまだ、不安に苛まれて小さく震えているように見えた。  
「私、本当に………本当に、生きていても、良いの………?」  
 
彼女にはまだ、自分がこの先、生きていても良いという、自信が足りないのだろう。  
「………違うよ。」  
「………え………?」  
ならば。  
「違うんだ。『生きていても良い』なんて………そんな、話じゃない。」  
「………………?」  
 
今のボクに、出来ることは。  
「ダメなんだ。君が………居てくれなきゃ。」  
心の底から、全身全霊を以て………彼女が存在することを、求めてあげることだけだ。  
本来なら生きていく理由など、決して他人から与えられるような物ではないのだろうが。  
彼女自身がそれを見出せずに居るのなら、ボクが、手を差し伸べてあげるしかない。  
「………………ッ!」  
立ち上がり、歩み寄り、また、彼女の身体を抱き締める。彼女の身体は、一瞬硬くなった  
けれど………今はもう、震えているようなことは、なかった。  
ボクは、ゆっくりと深く息を吸い込んで………腕の中の彼女に、語りかける。  
 
「生きていても良いのか、なんて………寂しいこと、聞かないでよ。」  
「………けど………私………。」  
「言っただろ。君が居ない世界なんて………ボクには、考えられないんだ。」  
「………ッ………。」  
「それでも、どうしても、不安なら………生きる理由が、見つからないって言うなら。」  
「………う、ん………。」  
「そのときは………ボクの為に、生きてくれないか?」  
「え………っ………?」  
「ボクなんかが、そんな大した理由になれるのか、解からないけど………。」  
「………久藤、くん………?」  
「君の為なら………何でもする。君が生きていく理由だって、作ってみせる。」  
「………本、当………に?」  
「ああ。だから………お願いだから………ボクの前から、居なくならないで欲しいんだ。」  
「………本当、に………私、なんか、で………。」  
「………だから、それは違うよ。言ったろ、ボクは………君じゃなきゃ、ダメなんだ。」  
「………わた、し………っ………。」  
「君が、好きなんだ。愛してる。ずっと、傍に居て欲しいんだ。」  
 
彼女の心を、闇から救い出したい。彼女に、生きていく勇気を与えてあげたい。  
心の底から溢れる、愛しい彼女の為の言葉は、普段物語を語るときとは比べ物にならない  
ほど自然に紡がれていった。  
彼女が自分を否定するよりも早く彼女を肯定し、彼女が自分の価値を見失う暇も与えず  
彼女の存在を求める。彼女が絶望する隙も無い程に、愛の言葉を囁き続ける。普通なら  
顔から火が出そうなほど恥ずかしいはずの台詞も、彼女の為なら、まるで躊躇無く放つ  
ことが出来た。  
 
やがて………彼女の言葉が、止み。  
「………ぅ………う、ぇ………っ!」  
代わりに、彼女の泣き声が、小さく響き始める。  
 
 
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暗くて、寒くて、死にたくなるほど苦しかった闇の底。  
そこに差し伸べられた、彼の腕は………その闇を一瞬で祓うほどに、眩しくて。  
そして、こうして身体中で感じる彼の体温よりももっと、暖かく感じられた。  
 
希望が、生まれた。  
生きていても良い、ではない………私が生きていくべきである、その理由に、出会えた。  
 
歓喜の涙を溢しながら、彼の背中に腕を回す。決して逞しくはないはずの彼の身体が、  
とても、とても大きなものに感じられた。  
顔を押し当てた彼の制服の胸元に、涙がじんわりと染み渡っていく。  
「ふ、ぇ………ひ、っく………!」  
「………好きだよ。大草さん。」  
彼が愛の言葉を1つ紡ぐたびに、私の心は救われていった。  
今の私にとっては、彼の言葉が自分の全てで、彼の存在が世界の全てだった。  
彼の存在を確かめるように、強く、彼の身体を抱き締める。  
 
 
そして。  
「………久、藤………くん………。」  
「………なに?」  
私の中に、ある衝動が、芽生え始める。  
 
もっと近くで、彼を感じたい。もっと強く、生きる理由を感じさせて欲しい。  
彼の言葉に生かされ、彼の為に生きていくことを………もっと、もっと実感したい。  
 
私は、つ、と視線を上げて。少し高い位置にある、彼の瞳を見つめてから。  
眼の前の、彼の唇と………唇を、重ねた。  
「………っ………!」  
突然の行動に、彼も少なからず驚いたようで。唇が触れ合った瞬間、彼の身体が強張った  
のが解かった。今日まで、彼が動揺した姿なんて見たことがなかったから………なんだか、  
彼がとても可愛く見えてしまった。  
しかし。すぐに、彼も私の求める行為に、応じてくれた。  
どちらからともなく、唇を開いて、互いの舌を絡める。彼の腕が私の首の後ろに回され、  
私の頭を掻き抱く。私達はぎこちない動きで、長く熱いキスを交した。  
やがて。唇が離れ、名残を惜しむように舌と舌を透明な糸が繋ぎ。  
 
「ねぇ………久藤、くん………。」  
 
ぼう、とした、浮遊感にも似た心地良い感覚の中で。  
私は………彼を、求めた。  
 
 
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冷たいコンクリートの上に、申し訳程度に、脱いだ制服を広げて。  
その上に、彼女の身体を横たえる。  
 
自分が求められていることを、もっと、感じさせて欲しい。  
 
彼女はそう言って………ボクの腕を引き、自分の身体に導いた。  
もちろん、最初は心臓が止まるかと思うほど驚いた。こんな形で、長い間恋焦がれてきた  
意中の人に求められるだなんて、予想だにしなかった。  
けれど………やはり所詮、ボクも男だということか。潤んだ瞳で、上目遣いにそんなこと  
を囁かれて………ボクは、彼女の求める行為を、拒むことが出来なかった。  
本来ならば、もっと相応しい段階を踏んで辿り着くべき行為である、と頭では解かって  
いたのだが。彼女自身にそれを求められては、ボクももはや、自分の理性に従い続ける  
ことは出来なかった。俗っぽい言葉は好きじゃないけれど、据え膳食わぬはなんとやら、  
という言葉もある。  
それまでとは違う意識で、導かれた先の彼女の身体に触れ。ボクの身体は、徐々に自制が  
きかなくなっていった。  
そのまま、再び、互いを貪るような激しい口付けを交す。なんだか、頭の中が蕩けて何も  
考えられなくなっていくような、妙な感覚を覚えながら、ボクは、彼女の身体を愛でて  
いった。制服の上から彼女の胸を撫で、腰に回した手で彼女の身体をくすぐる。彼女は  
時折その身を捩りながらも、積極的にボクに身を寄せてきた。  
 
そして、今。ボクはこうして、彼女を………押し倒す、ような形になった。  
頬を赤らめながら、少しだけ息を乱しながら、彼女が覆い被さったボクと視線を通わせる。  
既に彼女の制服は前がはだけて、その隙間からは、白い下着が覗いている。  
さっきまで密着していたせいでよく解からなかった彼女の顔が、まともに眼に入る。その、  
まるで熱にうかされているような惚けた表情に言いようの無い魅力を感じて、ボクは思わず  
生唾を飲み込んだ。  
 
「………緊張、してる?」  
彼女が、囁くようにそう言って、眼を細める。なんだか彼女にからかわれているような気  
がしてしまって、どうしようもなく恥ずかしい気分になった。経験の無さが、悔やまれる。  
「………それは………まぁ………。」  
どう答えればよいか解からず、思わず、本音を口走ってしまう。彼女の表情が、綻ぶ。  
「………なんだか………可愛い、久藤くん………。」  
「………〜〜〜ッ。」  
更に、顔から火が出るんじゃないかと思うほど、恥ずかしくなる。ここまで散々彼女の  
身体を愛で、彼女と唇を重ねておきながら、今更な気もするが。  
そして。ボクが俯いて、顔の熱が引くのを待っていると。  
「でも、私も………ちょっとだけ………。」  
彼女が、不意に、そんなことを呟いた。顔を上げた先では、彼女もボクと同じ様に、どこか  
恥らう様な表情を浮かべていた。  
 
「そ、の………凄く………久し振り、だから。こんなの。」  
「………………っ。」  
その言葉を聞いて。ボクの中の何かが、弾ける。  
久し振り、というその言葉に、ボクは………その瞬間まで意識の外に弾き出されていた、  
あの事実を思い出してしまった。  
彼女は、過去に、ある男の子供を身篭っていた。  
それはつまり、今更言うまでも無いことだが………彼女が、その男と、肉体の関係を  
持っていたことを意味する。彼女の身体は、既に、その男の腕に抱かれているのだ。  
しかもおそらく、それは1度や2度ではないのだろうと思う。  
 
それを意識した瞬間。ボクの中に、抑えがたい衝動が芽生えた。  
 
「………大草、さん………っ!!」  
「ひ、ぁ………ッ………!?」  
ボクは何の前触れも無く、眼の前に横たわる彼女の身体に手を伸ばした。白い下着を、  
少し乱暴とも言える手付きで押し上げて、美しい形の胸を曝け出す。そのまま直に彼女に  
触れ、2度、3度と円を描くように揉みしだいていく。  
「や、ァ………だ、だめ、急にそんな………ッ!」  
彼女の抗議も聞かず、指に嬲られて起き上がった彼女の先端をついばむ。ボクが動く毎に、  
その身体が、ぴくん、と素直な反応を示す様が、ボクの心を堪らなく刺激する。  
 
彼女を過去に縛りつける鎖を断ち切って、彼女を、ボクだけのものにしたい。  
叶うならば、暗く辛い過去も、かつて彼女を捨てた、ボクに言わせればこれ以上ないほど  
の失態を犯した不幸な男の存在も、全て忘れさせて………この先生きていく理由など考える  
暇も無いくらいに、彼女の心を、をボクの存在で満たしてあげたい。  
 
ともすれば、身勝手とも思えるような、独占欲にも似た強烈な衝動。さきほどまで感じて  
いた気恥ずかしさや遠慮が無に帰してしまうほどのその衝動に、突き動かされる。  
経験が無いことを悔やんでいたのも、今は昔。まるで、蜜蜂が甘い蜜の香りに惹かれていく  
ように、ボクの身体は、本能に従って彼女の身体を愛していった。  
執拗な程に彼女の胸に口付け、舌を這わせながら。自然と、手が彼女の脚の間に伸びる。  
「ん、ぅ………っ………。」  
彼女は一瞬だけ表情を強張らせ、怯えるように全身を震わせたが………ボクの手が内腿を  
さすってあげると、やがて、ゆるゆるとその脚を開いていった。  
つ、となぞるように、指を這わせていく。そして。  
「………は、ぁっ………!」  
その先で、待ち受けていた………彼女の入り口を覆った下着に、指が触れた瞬間。彼女が、  
それまでよりもより一層熱く、甘い吐息を漏らした。潤んだ眼差しが、ボクに向けられる。  
1回、2回と、親指の腹で下着の中央付近を圧迫する。その度に、彼女の隙間に下着が  
食い込んで、その向こうにある入り口の形が1本の線になって現れる。そこは指が溶ける  
かのように熱く、そして、絡みつくように光る液体で濡れていた。  
「………く、ど………久藤、く、ん………ッ………。」  
ボクは今一度、彼女の表情を伺う。何かに耐えるように眼を細め、だらしなく半開きに  
なった口の端から荒い息を漏らしながら………彼女の瞳は、何かを期待するかのように、  
ボクを見つめていた。  
 
その表情から、彼女がその先の行為を求めていることを察し。ボクは、意を決して………  
彼女の最も大切な場所を覆う下着を、取り払った。  
「ん………や、ぁ………ッ………。」  
彼女が蚊の鳴くような声を上げて、恥ずかしさの余り、真っ赤になった顔を両手で覆う。  
その態度とは裏腹に、ボクに向けて開かれた彼女のしなやかな脚の間では………彼女の  
入り口が、何にも遮られること無く、曝け出されていた。  
薄く毛の生えた彼女の入り口は、ボクの眼の前で、てらてらと光る液体を吐き出しながら  
ひくひくと切なそうに震えていた。初めてそれを眼にした興奮と、頭を蕩かすような香り  
が、僅かに残っていたボクの理性を容赦なく崩壊させていく。  
無意識のうちに、身体が彼女の脚の間に割り込み、顔が近づき、そして。  
「ひゃ、うッ!!?」  
ボクの舌が、彼女の秘所の上を這った。彼女の身体が、まるで感電でもしたかのように、  
激しく仰け反る。  
「………可愛いよ、大草さん。凄く可愛いし、それに………綺麗だ。」  
「ふ、ぁ………だ、ダメっ、そんな、い、いきなり………ィ………っ!!?」  
彼女が、ガクガクと腰を浮かせながら必死で制止するのも、全く意に介さず。ボクは、  
飾り気も何も無い率直な感想を並べながら、夢中で彼女に貪りつく。這わせた舌で彼女の  
入り口を押し開き、音を立てて彼女から溢れる蜜を啜る。  
「ダ、メぇ………ひさ、久し振りなのに、こんな………激、し………。」  
「………もっと………大草、さん………っ。」  
「あ、あ、ああぁぁぁ………ひ、ぐっ………!!」  
更に、開いた隙間から、彼女の中に指を侵入させる。舌が届くよりもずっと深く沈み込んだ  
指で、彼女の内側を愛撫していく。入り込んだボクを更に奥深く誘うようにうごめく彼女  
の内壁は、火傷しそうなほどに熱く火照っていた。  
「ひゃ、ぁん………ゆ、指………お、奥まで、来てる、ッ………!!」  
「凄い………熱くて、びしょびしょで、指が溶けそうだ………。」  
「あ、ひッ!!だ、ダメ、曲げ、曲げちゃ、ぁ………ああ、ぁッ………!!?」  
侵入させた指を、内壁を引っ掻くように曲げ、そのままゆっくりと出し入れし、また元に  
戻す。2本の指で、入り口を左右に押し開く。彼女の反応がいちいち愛しくて、彼女に  
刺激を送るのが止められなくなる。  
と、そのとき。ボクの眼が、ある一点で止まる。  
「………ぁ………っ。」  
刺激に酔いしれ、鮮やかな桃色を覗かせながら濡れるスリットの、終点。赤く充血した、  
花のつぼみのような小さな突起。  
彼女の………最も、敏感な部分。  
「………っ………。」  
ボクは、吸い寄せられるようにその突起に顔を近づけていく。ふ、と軽く息を吹きかけた  
ところで、彼女はようやく、ボクがそれに興味を示していることに気付き………眼を、  
丸くした。  
「や………だめ、今………ッ………!」  
ここまで気分が高まっているのに、だめ、の一言だけであっさり引き下がれるわけもなく。  
ボクは、ゆっくりと舌を伸ばして………縦に走ったスリットの上、小さく膨らんだ彼女の  
突起を、ほんの少しだけ、弾いた。  
「ひ、ぅ………〜〜〜ッッッ!!?」  
瞬間、彼女の身体が、まるで電流を流されたかのように大きく跳ねた。予想外の反応に、  
ボクも思わず1度身を引いてしまった。  
「あ、あぁ………あ、は………ぅッ………。」  
しかしボクは、形振り構わず乱れる彼女の姿に魅せられて、その後も恐る恐るながらも  
舌を伸ばし、彼女の芽に刺激を送り込んでいった。その度に、彼女はまた面白いように  
激しい反応を見せ、頭の奥の奥まで響くような甘美な嬌声を上げる。その様に、嗜虐心を  
刺激されてしまったのだろうか、ボクは更に執拗に彼女の肉芽を責め立てていった。  
「ら、め………お、おか………おかしく、なっちゃ、うぅ………う、ぁあッ!!」  
身を捩らせ、腰を浮かせ、桃色の花弁を切なげに震わせながら。やがて、彼女の身体が  
みるみるうちに緊張し、強張っていく。  
ボクはほぼ本能のレベルで、彼女の身体に、限界が近づいていることを悟った。  
ぴたり、と、刺激を送るのを止める。彼女の入り口から、身体を引き離す。  
 
「………ぇ………?」  
絶頂まで誘われかけた身体を、突然解放されて。彼女は、まるで呆けたような表情で、  
ボクの顔を見上げた。涙と涎の垂れた無防備な表情が、また、ボクの心を刺激する。  
だが、その心以上に………今の今まで彼女を愛することに徹してきたボクの身体は、  
我慢の限界を迎えつつあった。  
「ごめん………けど、ボクも、もう………。」  
どう説明すればよいものか、迷う。が、その言葉で彼女はボクの気持ちを察してくれた  
らしく、また、顔を綻ばせた。  
「う、ん………いいよ。私も………。」  
「………大草さん………。」  
 
「私も、久藤くんと………一緒に、なりたい。」  
 
さきほどボクを恥ずかしがらせたときとは比べ物にならないほどの色気を帯びた表情と、  
崩れ落ちかけた理性に止めを刺すような甘い言葉。  
「………ッ………!!」  
完全に、その誘惑に負けて。ボクはズボンに手を掛け、彼女の姿を眼にして既に最大限に  
膨張した怒張を、取り出した。彼女の様子を確認する余裕もなく、彼女に覆い被さり、  
その熱く濡れた入り口に先端を宛がう。  
それが触れ合った瞬間、彼女がまた、全身を強張らせる。彼女が感じている緊張が、ボク  
にもひしひしと伝わってきて、こちらの緊張も倍増されてしまう。  
お互いの緊張を、少しでも拭い去ろうと………ボクは夢中で彼女の身体を掻き抱き、その  
顔に口付けの雨を降らせた。  
そして。十分に互いの意思を確認し………覚悟を、決めて。  
「………じゃぁ………。」  
「うん………来て、久藤くん………。」  
「行くよ………ッ!」  
ボクは………彼女の奥底目掛けて、一気に、腰を沈めた。  
一瞬の圧迫感の後、すぐに、先端が熱いものに包み込まれる感覚があって。そして、次の  
瞬間にはもう………ボクは、しとどに濡れた彼女の内側に、飲み込まれていた。  
「………ッ………〜〜〜ッッッ!!?」  
全てが、彼女に包み込まれた瞬間。彼女の口から、声にならない悲鳴が漏れた。  
細い腕が、きつく、ボクの身体を抱き締める。鼓動が混じり合いそうなほど、ボクと彼女  
の身体が密着する。首の裏に届いた指が、カリカリと、小さな引っ掻き傷を作った。  
ボクは彼女と1つになったまま、彼女が襲い来る感覚の波から立ち直るのをじっと待つ。  
「は、はぁ………ッ、っは、ぁ、あっ………!!」  
しばしの間浅く短い呼吸を繰り返して、やがて、彼女の全身を襲っていた引き攣るような  
緊張が、徐々に弛緩へと転じていく。  
「………大丈、夫………っ?」  
目尻に涙を浮かべる彼女に、呼び掛ける。本当はボクだって、彼女と1つになった感覚に  
酔いしれておかしくなりそうだったけれど。今はボクが彼女を包んであげなければいけない  
という使命感が、ギリギリの所で、ボクを繋ぎ止めていた。  
「う………う、ん………ッ………。」  
焦点を失いかけた眼でかろうじてボクの姿を捉えながら、彼女が1度、震えながら頷く。  
そして。  
「大丈夫………大丈夫、だから………。」  
「………っ………?」  
「も、っと………もっと、来て、ッ………!」  
そう言うが早いか、彼女はもうほとんど力が入らないであろうその身体で、必死に、腰を  
動かし始めた。沈み込んだ怒張がほんの少しだけ引き抜かれ、また飲み込まれる。勢い  
余って彼女の最深部に先端がぶつかると、彼女が甲高い悲鳴を上げる。  
「ちょ、ッ………ま、待って………。」  
「や、ら………だって、もう、我慢………ん、ぅ………ッ!」  
どうやら彼女の欲望も、もはや取り返しのつかない程に激しく燃え上がっているらしい。  
それならばこちらも、躊躇などしている場合ではない。  
 
「………大丈夫………ボクに、任せて。」  
「………ん………っ………?」  
彼女の耳元に唇を寄せて、吐息を吹きかける様に優しく呟いてから。  
ボクは………自ら腰を動かし、彼女の求める物を、彼女に与え始めた。  
「あ………あッ、ん、ッ………ああッ!!」  
「ふ………っ、はあッ………っ!!」  
ボクが動き始めると同時に、彼女の身体がまた緊張し始める。そして、今度はそれと同時  
に、ボクの中でも何かが高まっていく。  
「大草さん………ッ!!」  
「く………久、ど………く、んッ………!!」  
迫り来る予感を感じながら、夢中で腰を振り、彼女の内部を抉るように愛撫していく。  
繋がり合った部分から響く淫靡な水音と、互いの荒い息遣いだけが聞こえる。視界にも、  
彼女が美しく、愛らしく乱れていく姿しか映らない。  
全ての感覚で、彼女と、彼女との繋がりだけを感じながら………やがてボクは、自分の  
身体の中で高まりつつあったものが、限界に近づいていくのを感じた。  
「………ごめん、もう………ッ!!」  
「う、うんッ………私、私も、もう………!!」  
彼女も、切羽詰ったような声でそう言って、より一層強くボクの身体にしがみ付く。  
「お………お願い、この、まま………ぁ………!!」  
「で、でも………そんな………。」  
「い、いいの!!お願いだから………このままッ………!!」  
危険を感じて慌てて身を引こうとするボクの身体を、がくがくと震える腕で必死に捕え  
ながら。彼女は喘ぐように、それを求めた。  
ほんのわずかに回復した理性が、このまま事を終えようとするボクに、警鐘を鳴らす。  
しかし………それが危険な行為であることは承知しながらも、ボクは、彼女がこれほど  
必死になって求めることを、拒絶することが出来なかった。  
………いや。それは、単なる言い訳に過ぎないのかも知れない。確かに彼女は、そのまま  
最後まで行き着くことを望んでいたが、ボク自身も、もしかしたら彼女以上に、自分の  
衝動を彼女の中に叩き付けることを、それによって彼女を完全に自分のものにしてしまう  
ことを、望んでいたのだろう。  
 
とにかく、ほんの些細な心のブレーキなどでは、燃え上がったボク達の衝動を抑え付ける  
ことなど出来ず。ボク達は、互いに互いと繋がったまま………絶頂を、迎えた。  
ぷつり、と糸が切れたような感覚の後。ボクの怒張は激しく脈打ちながら、彼女の中に、  
熱い迸りを注ぎ込んでいった。まるで体中の熱が吸い取られていくような感覚に、思わず  
背筋がぞくぞくと震える。  
最高潮に高まった身体の、最も深い部分でそれを受け止めた彼女は、ピンと背筋を逸らせ  
ながらしばしの間、声にならない悲鳴を上げていた。脈打つ怒張を締め付ける彼女の内部  
が徐々にその緊張を解いていき、それに合わせて、彼女の身体も力を失っていく。  
 
脱力し、崩れ落ちそうになる彼女の身体を、同じく脱力し掛けた身体でなんとか支える。  
ボク達はしばしの間、結合を解くことも忘れて、無言で互いの蕩けきった表情を見つめ  
合い………そして。  
どちらからともなく、唇を重ねた。  
 
 
 
 
 
//////////////////////////////////////  
 
 
 
 
 
やがて、頭上で星が瞬き始める。  
「………寒く、ない?」  
片腕を私の枕に、もう片方を自分の枕に使いながら、彼が呟く。  
硬いコンクリート上で、彼と身を寄せ合いながら………私は、小さく首を振った。  
「………寒くない。」  
「そう。」  
「久藤くんと、一緒だもの。」  
そう言って擦り寄ると、彼は、ほんの少しだけ頬を上気させた。  
………本当は、少しだけ背中が涼しかったけれど。  
そんなこと、忘れてしまうくらい………彼の身体は、暖かかった。  
 
 
 
その体温を、感じながら。  
怖いくらいの幸せを、噛み締める。  
生きる理由に出会えたことを、彼に出会えたことを、神様に感謝する。  
 
 
 
「みんな、心配してるかもね。大丈夫かな………」  
 
1度は、捨てようと思った、生きる意味を見失った、私だけれど。  
 
「もう………帰りたい?」  
 
彼の為なら………まだ、生きていける。私は、私が生きていくことを、許してあげられる。  
 
「………いや、全然。」  
 
だから、有難う。  
 
「………うん。私も。」  
 
今は………全ての物に、有難う。  
 
 
 
 
 
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そうして、闇は晴れ。  
2人の徒花が、実を結ぶ。  
 
 
(END)  
 
 

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