放課後・・・。  
 人気もなくなった校舎の中、茶道部の部室で木津は一人備品の点検や整理を続けていた。  
「もう、勝手なことされちゃ困るのよね」  
 備品の畳の位置が変わっていたり、什器が使われている跡があったり、最初は誰の仕業  
かわからなかったのだが、最近になってやっと小森が使っていることに思い当たったのだ  
が、印象と違い気の優しいところもある木津は、どう注意したものか言いあぐねていた。  
 「きっちり貸出票でも記入してもらおうかしら」  
 今日は部活動は休みの日である。他に何も予定はないし、木津にとっては心の休まる瞬  
間でもあった。  
 
 コンコン、ノックの音がした。  
 「どうぞ」一体誰かしら? 木津は考えた。  
 「おじゃましまーす」  
 引き戸をがらりとあけて、ちょっと能天気とさえいえそうな明るい声を上げて入って  
きたのは風浦可符香であった。  
 「明かりがついていたらと思ったら、やっぱり千里ちゃんだ。熱心ねえ」  
 「整理整頓していないとすぐに汚くなっちゃうから」  
 「きっちり粘着質だね、千里ちゃん」  
 普通ならかなり嫌味な言い方なのだが、可符香の場合あまりに自然にそれをいうので、  
どうにも反論のしようがない。  
 「そうね」木津は怒るのをあきらめてそう答えた。  
 
 「あれ? そういえば千里ちゃんはカラオケ行かなかったの?」  
 「え、カラオケ?」そう答えて木津はやっと意味がわかった。今日の昼休み、晴美や  
小節さん達が教室で何やら話しをしていたのだが、木津が近づくとちょっと困ったよう  
に話題を変えたのだ。  
 (私を誘うのが嫌だったんだ・・・)そんなのはなんでもない、と無理に思い込もうと  
したが、やはり傷ついた心はごまかせない。  
 「あ」  
 可符香も自分の問いが引き起こした結果に気づいたのだろう。慌てて視線をそらして  
話題を変えた。  
 ただ、木津の位置からは見えなかったのだが、可符香の瞳には一瞬邪悪な光が浮かん  
で消えた。  
 「あたし良かったら、少しここにいたいですけど」可符香が言った。  
 「いいわよ、別に。お茶でも飲む?」  
 「うん。ありがとう」  
 
 二人分のお茶とお茶菓子を用意し、畳の上にお盆を置いた。  
 「うわあ、やっぱり千里ちゃんのお入れたお茶は美味しいな」  
 「ありがとう。ま、きっちりお湯の温度まで気を使っているから」  
 「こういうのものんびりできていいね」  
 木津はあらためて可符香を見つめた。最初の頃は単なる天然ボケキャラなのかな、と  
思っていたが、どうもこの子は人の心を手玉に取る才能がある、そんな風に考えるよう  
になってきた。  
 最近では音無芽留も可符香にすっかりなついてしまっているようだった。いや、単に  
私が誰とでも友達になれる彼女に嫉妬しているだけなのかもしれない・・・。  
 (どうしてなんだろう・・・? 私もこんな風に脳天気だったら、もっと毎日が楽しい  
のかな?)  
 
 「千里ちゃんって本当に奇麗な髪の毛をしているね。ちょっと触っていい?」  
 「え、でもそっと触ってよ」以前の大惨劇を思い出し、木津は言った。  
 可符香は千里の横に移動してくると、髪を手にとり、それを鼻に当てて匂いをかいだ」  
 「可符香さん!」  
 「千里ちゃんの髪の毛、とってもいい匂い」耳元で囁くように言う。  
 「先生が一度、ガムシャン、って言ってたよね。あれ、ひどいと思ったんだ」可符香  
はそういったが、「ガムシャン!」と一番嬉々として叫んでいたのが可符香であること  
を木津は知らない。  
 「うん、あの時はちょっと傷ついちゃった」つい本心を漏らしてしまう。  
 「あたしもこんな長い髪にしてみたいなあ」木津の横に座り、なおも顔を寄せてくる  
可符香に対し、思わず身を引いた。  
 可符香も座りなおし、少ししょんぼらとした表情になって木津を見つめた。  
 「千里ちゃんってあんまり私のこと好きじゃないのかな?」  
 「え、そんなことないわよ。いつも仲良くしてるじゃない」  
 「でもなんか、ときどき避けられているような気がするよ」  
 木津はどきっとした。確かに最近可符香に対して苦手意識を持っているのではない  
か、という考えを持つようになった。ただ、それをあからさまに示したことなどないは  
ずであるが。  
 「そんなことないよ、いい友達よ」  
 「うれしい! あたしもっとももっといい友達になりたい!」  
 そう叫ぶと、可符香が木津に抱きついてきた。木津は驚いたが、それだけでは済ま  
ず、勢いに負けて畳の上に倒されてしまう形になった。  
 「ちょっと、可符香さん!」木津はあわてて引き離そうとしたが、可符香はぎゅっと  
抱きついたまま離れない。  
 可符香の髪の襟足が木津の口元に当たるような格好で、可符香はさらに耳元でささや  
く。  
 「千里ちゃんがいいなら、あたしもっともっと仲良くなりたい」  
 「どういう意味?」  
 可符香は木津より一回り小柄だが、そこから想像もできないほど力があり、木津は押  
さえつけられるような形になってしまっていた。  
 「こういう意味です!」  
 顔を上げた可符香はにっこり笑うと、木津にキスをした。  
 
 最初こそ抵抗したものの、木津はすぐに可符香のされるがままになった。  
 可符香の舌が木津の口の中をまさぐるように動き、その奇妙な感覚に木津も我を忘れ  
 て応えてしまった。  
 次に可符香が服を脱がせに掛かったときには、もう拒否することはできなかった。  
 「可符香さん、こんなことしたら、もう・・・」  
 「大丈夫だよ、千里ちゃん、まかせておいて」  
 可符香は手馴れた様子で木津の服を脱がせていく。  
 (もしかして、こういうことに慣れているのかしら・・・?)  
 木津は芽留が可符香になついてしまった理由に思い当たった。だがそれを問うことは  
できず、可符香の手と舌を使った技の巧みさに、思わず声を上げてしまうほど感じてい  
た。  
 可符香は献身的ともいえる熱心さで、木津を攻める。  
 「千里ちゃんの体ってとってもきれいね」  
 木津も可符香の体の感触を楽しんでみた。木津のものとは違い、ずっとふくよかなも  
のに感じる。  
 「別に・・・お世辞を言わなくてもいいわよ」  
 「そんなことないよ」  
 
 
 茶道部の窓の外では、雨どいからがぶら下がったマリアが一部始終を見ていた。  
 手にはカメラを持っている。  
 「これはいい証拠写真になるナ」  
 シャッターを押そうとしたそのとき、ファイダーの中の可符香がマリアの方を向き、  
かすかに首を横に振った。  
 「ん?」  
 意味を図りかねたが、シャッターのボタンから手を離した。  
 
 可符香には自信があった。そんなものに頼らなくても、今木津の心をしっかり自分の  
ものにできたのだということを。  
 
おわり  
 
 

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