階段を一歩一歩下りてくるのは、将来この国の王となる、ノゾム王子。  
色白いすっとした顔立ちをまっすぐ持ち上げて、フロアを見る。  
もちろん、王子らしく行き交う人とのあいさつも欠かしません。  
そうこうして王子が大部屋の中央に来るまでに、周りには王子を一目見たいと言うよりむしろ見て貰いたいという  
‘自称将来のお后様’であふれかえりました。  
ゼ「あ、あの、みなさん、落ち着いてください・・・?」  
王子の声など聞こえてないといったように、会場はもう大混乱です。  
そこに一人、老紳士風の男が、この混乱を解せぬかのようにスルリと割って入りました。  
老「みなさん、ご静聴下さい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」  
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あれだけざわついていた会場をこの男は一言で静まりかえしました。  
老「失礼しました。私こちらにおわします王子の召使い、ギャリソンと申します。本日はお集まりいただき誠に光栄でございます」  
時t・・・、もといギャリソンは形通りのあいさつを淡々と述べました。  
ギ「さて、本日はただの舞踏会ではないことを、その様子では皆様ご存知のことかと思われます」  
その言葉に、静かだった会場がザワ・・・っとなる。  
ギ「いかにも、今日王子は嫁を探しに参った次第でございます。十二時になりましたら、イトシキ族見合いの儀を始めます!」  
‘イトシキ族見合いの儀’というのは面白いことが好きなこの国の王様が考えたモノで、  
目があったら即結婚という、まあ見合いでも何でもないモノなのですが、  
歴代のお后様の何人かがこの方法で決まっていたものですから、国中の人が知っていました。  
ギ「ですから、十二時までは普通のダンスパーテイとさせていただきます!!」  
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ギャリソンが仕切ってから、普通のダンスパーティが行われました。  
といったものの、ノゾム王子のお相手にと、順番待ちをする女の子たちが後を絶ちません。  
ダンス中も、ノゾム王子に積極的に話しかける女性ばかり。王子は会場の女性たちをのべつ幕なく相手をするのでした。  
その一人一人に丁寧に返すものの、心から楽しんでいるのかはわかりません。  
ギャリソンもその一人一人にチェックを入れます。  
ノ「(私は、消極的な子の方がいいんですがねえ・・・いや、そんな人、いるわけがない・・・)」  
王子の周りにはいつも積極的な人間ばかりでした。そのくせ、みな王子に対して遠慮がちな態度です。  
あるいは、口下手な人は、無理にでも話しかけようとしました。  
王子は、そんな人たちに、うんざりだったのです。  
ノ「はあ・・・。」  
女「あら王子様、私程度では、お楽しみ頂けませんか?」  
自分を卑下したコトバでしたが、その態度には自信で満ちていました。  
ノ「いいえ。・・ただ貴方の魅力の前に、力が抜けてしまったのですよ」  
女「勿体ないお言葉、カエレッタは嬉しゅうございます」  
さりげないアピールも忘れない。別に、この女性が悪いというわけではないのですが、  
言うなれば王子は、運命というモノを求めていました。  
ノ「(今夜の見合いの儀・・、けして目を合わせずに、時間制限の朝を迎えてみせる・・・。なあに、私はこの日のために、  
特訓として一週間誰とも目を合わせずに生活してきたんです。やってやるよL・・・もとい父上!)」  
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パーティもそろそろ後半になってきた頃、王子の周りにまた人が訪れていまし7た。みんな十二時の鐘の音と共に、  
王子と目を合わせようという魂胆です。王子のダンスも、小さく踊るしかないようです。  
・・・そんなとき、この部屋の一番小さな扉、といっても縦横3mくらいのものから、背の低い女性警備員が走って現れました。  
鋭い目つきを持ったその女性が、息を切らしながらあたりをギロリト見渡しました。  
ギャリソンが対応します。彼はこの宮殿の中でも古株なのでしょうか。  
ギ「何ですはしたない・・・。ここはダンスパーテイ会場なのですよ・・!」  
その警備員にギャリソンが詰め寄って、彼女の耳打ちをかがんで受け取る。  
ギ「・・・・・・・・!!なんと・・・あいわかった・・・。」  
ギャリソンはそのまま警備員が来た扉から出て行ってしまいました。代わりに、目つきの悪い警備員が残りました。  
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パーティが終盤となってきた頃、王子の周りはいよいよ女性だらけになりました。  
人がいっぱいでホールはまるで芋を洗うよう、中国的に言えば餃子を茹でるよう、ム○カ的に言えば人がゴミのようだあ!です。  
そんなにぎゅうぎゅうでモミクチャですから、あちこちで怒号が聞こえたりする始末。  
女1「何でお母様までここにいるのよう!!」  
女2「何でって、この見合いの儀はねえ、老若男女はおろか、人間じゃなくたってその対象になるのよ。  
なら、歳は離れていても、私にだってチャンスはあるの!!今度こそ私は、王子と結婚してやるんだからあ!!」  
女2「うううお母様あ!!!」  
 
この混乱の中、王子はもう踊ってなんかいられません。  
ノ「うう・・・ギャリソン!いないのかギャリソンん!!」  
返事はありませんでしたが、そのとき、爆発音のような激しい轟音が、どこからともなく聞こえてきました。  
一体何事でしょうか。地震の様でもありますが、揺れは一切ありません。音は鳴りやまず、むしろこちらに迫ってくる感じです。  
ノ「その扉だ!離れろお!!」  
王子が指さした扉は先ほどギャリソンが出て行ったものです。そこからどんどんと音の発生源が近づいてくるのが解ります。  
しかし何でしょうか、この今までに聞いたことのない爆音は!?人々は恐ろしくなったようで、  
とたんに、そこから出来るだけ離れようと、もう押せや退けやの大パニック!王子も何もあったモンじゃあないようで、  
ノ「お、押さないでください!わわ、!引っ張らないで!!あぶ!!」  
王子は転んでしまいました。その後何人に踏まれてしまったか解りません。  
ノ「(・・・・・・・・・・だから貴族は嫌いなんだ。とても付き合いきれない・・・。  
ああ、結婚・・・。結婚するなら、昔、まだ5歳か6歳だった頃に街であったあの女の子がいい・・・。  
きっと百姓の娘なのだろう、服とも布とも分からぬものを着ていた・・・、可哀想に・・・もう死んだのかもしれぬ。  
私は、たまにそんな彼女のことを思い出して、たまらない気持ちになる。  
けれども、君たち貴族は、そんな彼女の心を絶対理解できないばかりか、軽蔑しているんだろう?  
人から尊敬されようと思わない人と結婚したい。けれども、そんないい人たちは、僕と結婚できやしない。  
僕は、王子だ。貴族だ。だからいやなんだ。・・・決めた、この見合いの儀、誰かと結婚することになったら死のう。)」  
うずくまる王子を見ていたのは一つの鋭い目だけでした。  
その目の持ち主が王子に駆け寄ろうとした瞬間、爆音の正体はいよいよ扉を破りました。  
警「おっ・・王子ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」  
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扉をぶっ壊して入ってきたのは、なにやら車(車輪)のついた黄色い塊でした。後ろの方にギャリソンがしがみついています。  
ギ「危ない、王子!!!!!!!!!!!!11」  
ノ「へ?ってうわああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」  
王子は、その黄色いモノにぶつかられてしまいました。(車楽)  
そこで、黄色いモノ、もといラインバックはおとなしくなり、止まります。ギャリソンと女性警備員が王子に駆け寄ります、が、  
それより早く、ラインバック、もといランボルギーニの中から誰かが出てきます。  
それは、大変美しく着飾っていて、なおかつ自身の髪は例えるならカラスの濡れ羽色、細くすらりとした体型は、  
例えるならカワセミのような・・・、そう、小鳥。小鳥のような少女、ツンデレラでした。  
警「・・・!?」  
ギ「なんと・・・!?」  
ツ「はあはあ・・・すごい速さだったわ・・・」  
ラインバックは、彼女を落っことして、さっさと元来た道を帰っていきました。そのお陰で、ツンデレラにも王子の姿が見えます。  
夢にまで見た、しかし写真でしか見たことの無かった王子様は、仰向けになって泡吹いて倒れていました。これは絵としてやばいです。  
ツ「ええっ、お、王子様っ!?すいませんすいません、本当にすいませんすいません!!」  
ホールには一人謝る声だけが響いていました。  
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ここは、王子様の記憶の中。15年前の町並み。そこを、大きな馬車が通っています。周りの人間はそれを直立不動のまま見つめます。  
馬車の中には王家の人間が入っているのです。みな、不審な動きをして、警備員に酷い仕打ちを受けないよう、恐れているのです。  
そんな緊迫した雰囲気の中の馬車は、実に和やかでした。  
もうすぐ7歳になろうかという王子様が、隣の国の王様から貰ったボールで遊んでいます。  
すると、突如大きくガタンと馬車が揺れ、王子はそのボールを馬車から落としてしまいました。  
飛び出したボールはテンテンと勢いよく人ゴミの方へ飛び出したのですが、人々はそれをあろう事か避けるのでした。  
貰ったばかりの大事なボール、訳も分からず王子もまた馬車から飛び出しました。  
王様たちがあわてて馬車を止めさせます。王子は馬車から落ちたとたん、すっ転んでしまいました。  
しかしそんなことはなかったかのように、ボールを探そうとしています。  
生まれて初めてたった一人で見た世界は、大人たちの謙譲とも嫌悪とも解らぬ、真っ黒な視線に囲まれていて、ボールの姿など  
見えませんでした。王子は不安でたまらなくなり、泣き出してしまいます。そこで、女王様が現れます。  
女「あらあら、大丈夫ですか?ノゾム?」  
王子は、痛みで泣いているんではないのです。泣き出した視線は女王様も感じていますが、そんなのはないかのように振る舞います。  
女「はいはい、痛かったですねえ。・・・それと、ボールは後でまた用意してあげますわ。だから泣きやんで下さいね」  
ノ「うっうっ・・・でも、でもお母様、ボール、ボールはこのあちゃりにきっとまだありましゅ・・・」  
女「・・・そうね、でも私たちは、探すことは出来ないのよ」  
ノ「・・?なんで・・ですか・・?」  
女「それはね、貴方が、王様の子だからよ。王子様は、ボールなんて探してはいけないの。ノゾムは偉いから、わかるわよね?」  
女王様は王子の答えを待たずして、手を取り連れて行きます。  
ノ「あっ、あっ、お母様。でも、でも、・・・」  
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そんなとき、人混みの方で大きなざわつきが起こります。女王様、王子様がそこを見ると、  
2歳くらいでしょうか、一人の少女がこちらへ走ってきます。  
いやそれよりも、特筆すべきはその出で立ち。  
ひもで髪を後ろに短く結び、ボロボロの、おそらく元は雑巾だったのではないかというくらいの服を着た  
少女が、その姿に合わぬ、高級そうなボールを持っています。どれほどの距離を走ったのか、  
はあはあという息遣いがここまで聞こえてきます。  
ノ「僕のボールぅ!!」  
その声に少女がにっこりと微笑み、尚のこと近づいてきた時、二人の間に、白髪の男が割って入ります。  
ギ「お止まり下さい!!」  
その声に小さい2人はより小さく縮こまってしまいます。  
ギ「ボールをとっていただいたのですね。有り難うございます。ですが、失礼ながら、  
貴方のような者が、王家の人間に接触することは出来ないのです。ボールをおいて、そこを去っていただきますか?」  
女「・・いいえギャリソン、そこをどくのは貴方の方です。」  
ギ「!!?・・・・・・・・・わかりました、失礼しました」  
そういうと黒服は女王様、王子様にそれぞれ一礼して、無言のまま馬車の方に歩き出しました。  
女「御免なさいね。彼も悪気があった訳じゃないのよ。と言っても、まだ解らないわよね」  
女王様は周りを気にしてか、ひっそりと小声で話す。包容力のあるその言葉遣いに安心してか、笑顔を取り戻しました。  
少女は、無言で王子様にボールを渡します。王子は、そのボールを嬉しそうに眺めてから、一言  
ノ「ありがとお!!」元気な声で礼を言いました。周りの人間は一層騒ぎ出します。  
王家の人間が、ましてあんなみすぼらしい格好の少女に口をきくということは、それだけとんでもないことなのです。  
女王様が、ノゾムの腕を少々強引に引っ張って帰る際に、少女とすれ違います。  
女「本当に御免なさい。今日のお礼は、いつかきっとしますからね・・・」  
女王様はボソッとこぼすように言いました。後頭部で縛った髪を揺らしながら歩いて、馬車へ乗り込みました  
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王子は、当たり所がよかったのか、ゆっくりとでしたが意識を取り戻していきました。目の前には泣いて謝る人物がいます。  
ノ「夢・・・?貴方は・・・何をしているんですか?・・・あ・・・!!」  
王子は一週間誰とも目を合わせない用に努めて来たのですが、ここに来て目を合わせてしまいました。  
一週間ぶりの人間に瞳は、涙に濡れて温かい輝きを見せていました。  
ノ「あ、ああ・・・!?」  
王子様の瞳にその光が差し込んできます。  
ツ「あ!王子様!!目を覚ましてくださいましたか!!・・・すいませんすいません!私のせいでこんな事になってしまって・・・」  
ノ「あ、ああ・・・(何だろうこのヒトは・・?)」  
ギ「待ちなさい!貴方は一体何者ですか!」  
ツ「え、えと、私は・・・」  
当然です。どこの誰とも解らぬ人間が、これほど派手な登場をしておいて、怪しまれないことはありません。  
女性警備員も、その鋭い眼で睨みを効かせます。  
ツンデレラはパニックにパニックが重なり、口をきくことが出来ません。すると王子が、  
ノ「やめなさいギャリソン!怯えてしまってるじゃあないですか!彼女はただ、舞踏会にいらしただけです!私が認めます!!」  
ツ「お、王子様・・・」  
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ノ「お嬢様、私と踊っていただけますか?」  
なんと言うことでしょう、王子自らお誘いなさるなんて。  
本来、相手が王子ともなると、身分の低い者から誘うのが通例なので、ギャリソン始め会場の人たちはひと騒ぎです。  
ツ「そ、そんな、私のような者と踊られては、王子様のお手が穢れてしまいます!」  
これまたとんでもないこと、王子のお誘いを断る人間など、他にこの国にはいないのではないでしょうか。  
王子は一瞬ためらった後、ツンデレラの手を強引に握りました。  
ツ「あ・・・!」  
ノ「そんなことありません・・・。それとも、私のような者では力不足でしょうか」  
ツ「そんな・・とんでも、ない、です」  
彼女の目から光るモノが溢れました。  
ツンデレラは生まれて初めて、人間の温かさを、その手の平から感じた気がしました。  
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