結局その夜は、王子様が最後まで逃げ切り、見合いが成立することはありませんでした。
(ちなみに、昨晩の女王様は、一時ピンチに陥ったものの、シャワーの蛇口をひねるという機転を利かせて、
メイド二人の服を濡らしてしまうという反撃に成功し、その後も水かけ攻撃で逃げ切ったそうです。・・・・・・なんかすいません)
しかし舞踏会から三日たったある日、突然王子様が国中の家々を一軒一軒周り始めました。
それに伴ってか、ツンデレラのお屋敷は何やらあわただしい雰囲気。
継「ほらツンデレラ!もたもたしない!!次は玄関とお庭のお掃除、きっっっっちりね!」
ツ「はい、お母様!」
そう言う継母も、今日は自ら掃除をしているのでした。
ア「一体どうしちゃったの今日は?」
カ「え・・お姉様知らないの!?今日王子様がこの家に来るのよ!!」
アビィは少しも驚いた様子を見せずただ、“何しに?”とだけ言いました。
カ「!・・・はぁ、お姉様って本当にこの手のにうといわよねえ。なんでも噂によると、こないだの舞踏会に突然現れた
あの女を捜して、国中の女の子たちに会っているんですって」
ア「ああ、パーティをメチャクチャにして帰ったあの子ね・・・、つまり慰謝料請求?」
カ「・・・冗談でしょ?あの王子様の様子見なかったの?あれは、絶対惚れてるのよ、これは、恋人探しなの!!」
ア「冗談よ・・・そんなに声を荒げないでちょうだい・・・」
カ「・・・お姉様の冗談は冗談に聞こえないのよ・・・。とにかく、これはチャンスだわ!!」
ア「チャンス?」
カ「!・・もお、お姉様、いい加減にしてよ、チャンスって言うのはねえ・・・」
継「そう!!チャンスなのよ!!」
いきなり継母が首をつっこみます。
継「今日この時間だけ、あのパーティの乱入者のフリをすれば、王子と結婚出来るって事よ!!」
ア「ああ・・・」
継「さあ二人とも、もっと良い服に着替えて、お化粧もきっちりしてきなさい!!」
ア&カ「はい、お母様」
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時刻にして夕方、王子様はまだこの家に現れません。
継「遅いわねえ・・・大体、“今日この家に伺います”とだけしか言わないだなんて・・・、
きっちり、何時何分に来るって言いなさいよ!!」
ア「仕方ありませんわ、お母様。この家は街から一番離れたお屋敷なんですもの」
継母は、文句を言いながら、淹れた最高級のお茶をすすります。
継「!?お茶もすっかり冷めちゃったじゃない・・、ツンデレラ!!」
ツ「はい、お母様!」
継「お茶を入れ直してちょうだい。温度はきっちり48度よ!」
ツンデレラは返事をして、さっさとキッチンの方へ急ぎます。
ア「・・・そういえば、国中の女の子って言ってたけど、あの子は会わなくて良いのかしら?」
それを聞いたカエレッタが、とたんに笑い転げます。
カ「!!?ふはっ、AHAHHAHAHAHA・・・もう、お姉様ったら、たいがいにしてよ。王子様があの子に会う?」
ア「“国中の女の子”でしょ?」
カ「ふははっ、あんなの“女の子”の内に入らないわよ。さあ、もう時間よ、下に降りてお出迎えしなきゃ」
ア「そうね、それに・・・」
カ「?」
ア「ツンデレラとこの間の女の子、全然違うものね」
カエレッタはたまらず、吹き出してしまいました。
カ「アハ、HAHAHAHAHAHA・・・そうね、本っ当にそう、ハハ、あいつが、あの女なわけ、ないわよねっクハッ、
だって、あの子はあの晩ずっとこの家にいたんだから、ハハ、AHAHAHAHA・・・・・・」
ア「(私、そんなに面白いこと言ったかしら・・・)何でも良いけど、上品にね」
カ「ム、ムリムリッ、面白くって、とまんないわあ、ハハ、」
とそこらで、下の階から呼ぶ声がします。
継「王子様がいらしたわよー!!」
ア「ハイ、お母様!!」
カ「ハ、ハヒ、おかあさま・・・ククク・・・」
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屋敷にやってきたのは、王子様と、その召使いが五人ほど。継母が丁寧にあいさつしますが、
王子様たちの方は、すぐにでも本題に行きたいご様子。
ギ「・・・では、本日の用件なんですが・・・」
継「ああ、お待ちください!まだお紅茶の準備が・・・。」
ギ「いいえお気遣いなく。私どもおとといから国中の家々を歩き回っているものでして、この家が最後なのです。」
継母の喉がゴクリと鳴りました。
ギ「というのも我々は、昨日の舞踏会でのある人物を捜しているのです。つまり、この家に私たちの探し人がいると思うと・・・」
ギャリソンはかなり感極まっていました。
ノ「・・まあ、そうとは限らないのですが・・・」
ギ「こちらの家には二人のお嬢様がいらっしゃると聞きましたが・・・どちらに?」
継「はい、ただいま。二人ともいらっしゃい。」
継母からみて右の扉が開かれて、中から年頃の娘が二人現れました。二人とも、よそ行きの格好で、しっかりしたメイクをしています。
王子は顔を乗り出して、じいっと凝視しましたが、もうがっかりしすぎてそれさえ出来なくなってしまったのか、黙って座り直します。
アビィとカエレッタがきっちりした挨拶をして、ギャリソンが本題に入ります。
ギ「では、教えていただきたいのですが、舞踏会の日・・」
カ「それは私です!!」
ギャリソンの話している途中で、カエレッタが、が割って入ります。彼女は王子の方に顔を向けて言います。
カ「王子様、あの晩は大変失礼しました。ですが、あの日はああするしかなかったのです!」
王子は、“またか”といった風に、憂鬱そうにして目を合わせませんでした。
ギ「では、あなたは・・・?」
アビィは一度継母に目配せしてから答えます。
ア「はい、あの晩の乱入者は私です」
ギャリソンは困ったように、ですが初めから分かっていたかのように機械的に王子の方を向きます。王子は無言で指示します。
ギ「・・どちらにせよ、この年の女性たちには全員アルコトをしていただいているのです。ジム、アレを・・・」
その台詞に、継母とカエレッタのがピクリと反応します。二人の目線の先には、きれいで小さな、
ガラスのように透き通った、光輝くハイヒールがありました。
ギ「我々は、この靴を頼りに、例の女性を捜しているのです。というのも実は、彼女がこのハイヒールを履いていたのですが、
落として行かれたのです。・・というか、私どもが銃撃して無理に脱がせたのですが、この通り傷一つないことには驚きました。
・・・まあ、そのご本人ならお分かりのことでしょうが・・・」
カ「・・!もちろんですわ!!どこに落としたものかと思っていたんですのよ!!・・・!!!!!!」
カエレッタがあわてて対応するのと対照的に、アビィはただただ黙っていました。
ギ「・・続けてよろしいですかな?、今日あなた方には、このハイヒールを履いていただきたいのです。
足がぴったり入ったとしたら、あなたがあの女性だと言うことです。・・・あと、無理はなさらないでください・・。」
そういうと、ギャリソンはアビィの手をとり、前へ引きます。他の召使いが、彼女の左足の靴をそっと取り、
爪先だけ硝子のようなハイヒールに導きます。
継母たちがじっと見る中、アビィは何とか入れよう入れようとします。
ア「んっ・・・んんっ・・はぁっ、ふっ・・・、はぁ。駄目です、狭くって、入りません・・・。」
ギ「あなたは、あの女性ではありませんね・・?」
ア「・・すいません・・・。」
不機嫌そうな継母の元へ、彼女は帰りました。次はカエレッタの番ですが、不安そうに継母に耳打ちします。
カ「・・・どうしましょうお母様?・・・私、お姉様より足のサイズ大きいのです・・あんな小さい靴、到底・・・」
それを聞いた継母は、顔をしかめて考えました。考えて考えて、計算して計算して、ボンッという音とともに、継母の“何か”が壊れました。
継「・・・カエレッタさん・・、あるわ、足が入る方法・・・。」
カ「ど、どうすればいいの!?」
継「・・・切ればいいのよ、指の三本も落としたら、キッチリ入るわ。」
カ「・・はぁ?、お母様、こんな時に冗談言わないでよ。そんなこと出来る訳ないでしょう?」
継「・・でも・・・だ・・。」
カ「・・?」
継「でも、原作通りだから!!!!」
継母はいつの間にか魚の目になっていました。乱れそめにし前髪が、何か尋常ならざる精神状態をアピールしています。
カエレッタは思わず退いて、王子たちは何事かと行ったように目を向けます。
継「原作のシンデレラ【灰かぶり姫】は、継母に次女が踵を切り落とされるから!!原作通りだから!!」
継母は、どこからともなく包丁を取り出し、次女に襲いかかります。
継「うなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
カ「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアア、NO、NOOOOOOOOOOOOOO・・・!!!!!!!!!!!!!!」
走り回って必死で逃げるカエレッタを、継母が包丁を持って追いかけるという狂気な雰囲気。
ギ「・・・これは、もうお暇させていただきますね・・・。」
ア「はい、本日はご足労いただき有り難うございました」
アビィが勝手に挨拶をすまし、残念そうに王子様たちが立ち去ろうとしたそのとき、
ツ「遅くなってすいません!お紅茶お持ちしました!!」
その場にいた全員がハッと振り返ります。年の頃17ほどの、若い少女がそこにいました。
ツ「・・あの、お紅茶・・・もしかして、ご迷惑・・・でした、か?」
継母が我に返り、憤慨して言います。
継「遅いのよ!!何でもっと早くできなかったの!!?」
ただただ謝る少女を、王子様だけがじっと見つめます。その視線に気がつき、継母が取り繕います。
継「あはは、すみません・・・。お見苦しいものをお見せしました・・。あははは・・・。」
ギ「・・・では王子、帰りましょうか」
ノ「いいえギャリソン、この少女にも履いてみてもらいます」
やはりその場にいた全員に、妙な空気が流れます。
継「・・何をおっしゃられるかと思えば・・、お言葉ですが王子様、この子はあの日の夜、ずっとこの家にいましたんですの。
ありえませんわ、ねえツンデレラ?」
今までずっとあの日の夜のことを誰にも話しはしなかった。ツンデレラはどもったまま言い返さない。
継「ツンデレラ!!」
しびれを切らした継母が、きつく返事を求める。
ツ「は、はいぃ!!お母様!!」
それを聞いた継母が、笑顔を作って王子に振り向く。王子は、そんなやりとりに関心のない様に、ツンデレラを見つめていました。
ノ「そうですか、ツンデレラ・・・ツンデレラ・・、ツンデレラ・・・」
呪文のように彼女の名前をつぶやきながら、召使いから例の靴を奪い取りました。
その靴を片手で持ちながら、王子様が一歩一歩ツンデレラに歩み寄ります。
それを察した彼女は、王子様を歩かせてはならないと、王子の元へ小走りで近づきます・・・。
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二人の距離がさっと短くなり、ツンデレラが王子様を見上げる形になります。
王子様の瞳に吸い込まれそうになりましたが、はっとして王子にお辞儀をしました。
細い指に摘まれたボロ絹のスカートからは、汚れた裸足の足が伸びています。王子様が片膝を付き、手に取った足は冷たかったです。
逆に、足を持たれた方は、王子の暖かみをその足に感じ、気恥ずかしながら、申し訳ないながらも、とても心地よく、
ツンデレラは顔を赤くしてはにかみます。
二人を見届ける視線の主たちは、その状況を理解できず固まったままの者、無駄だと知っていると言うように冷たく腕組みする者、
本来王子のしていることは自分の仕事なのに惚けている者と言ったように様々でしたが、そこには力が、
まるで二人しかいないかのような錯覚を覚えさせる力がありました。そして・・・、
細く儚いその足と、白く輝くその足と、細く儚いその靴が、白く輝くその靴が、恋人同士が抱き合うように、一つになったのでした。
そして、二人もまた・・・。
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今日は国中がお祝いムード一色といった感じです。町中の人が国で一番大きい教会の元に集います。
教会の中では、出席を許された数十人が、将来この国を担う新郎新婦をお祝いしました。
二人の結婚式は通例通りの流れで行われ、お祝いの言葉や誓いの儀など、全てが問題なく終了しました。
後は男女の晴れ姿を大衆に見せるだけとなりました。広い教会には二人以外もう誰もいません。
観音開きの大きな大きな扉の前で、
高級そうな真っ白な衣装に身を包んだ王子様が、同じく純白のウエディングドレスを着飾った王女様に言います。
「あの・・、一つだけ聞いてもよろしいでしょうか・・?」
「はい、私のような者で良ければ何なりと」
「いや・・、それは私のセリフなのです・・・」
「へえ?」
「・・・私が、王子であるからと言って、無理に結婚する必要はないのですよ・・・。
思えば、この結婚は私の一方的な一目惚れ・・・。貴方が私のことを、結婚するほどには好きにではないというのなら、
まだここで終わりにも出来ます・・・。・・・本当に、私のような者でよろしいのでしょうか?」
少々暗がりになった教会の中が静まりかえる。扉が閉まっていても外からの大歓声がハッキリ聞こえる。
シルクの手袋でブーケを持った女が何か言いにくそうに、顔をうつむけてモジモジするのを見て、
同じ絹のタキシードを着ていた男に緊張が走ります。
「あ・・、あ・・・。」
「、はい、何ですか。ハッキリと言ってください!!」
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「 あ な た の た め に 結 婚 す る わ け じ ゃ な い ん だ か ら ね ! ! ! ! ! ! 」
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別れの音を響かせた鐘が、今日は二人の始まりを告げる。扉の取っ手をそれぞれが片方ずつ握る。徐々に光が差し込んでくる。
そして二人は今、共に明るい未来に走り出した。一つになった白い影が、白い光に溶け込んでゆく。
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ツンデレラは、王子様と一緒に、いつまでも末永くしあわせにくらしましたとさ。おしまい。
久藤准「・・・と言う話はどうかな?」
風浦可符香「さっすが久藤くん!いろんな昔話知ってるんですねえ。今度の文化祭はこれで行きましょう!」
久藤准「いやあ、この話の本は図書室で見つけたんだ。
ほこりだらけの汚らしい見た目と、あまりにつまらない内容で、逆に覚えちゃったよ」
糸色望「久藤くん・・・意外と毒舌ですねえ・・・。確かに、最低限文化的なシナリオでしたが、私や時田、まして甚六先生を使う
なんてことはできませんからね!・・なんですかスナイパーって、甚六先生に失礼でしょ!!」
加賀愛「・・と言うか、私なんかが主役じゃあ、このクラスの人気が下がって、きっと誰も見に来なくなります!!」
木村カエレ「そうよ!なんで私が脇役なのよ!!私、主役じゃないなら出ないから!!」
小節あびる「・・そう?ハマリ役だと思ったけど・・・」
木村「・・訴えるわよ・・・」
木津千里「と言うかあなた、“まだ・・・・・・、フラグたってない”ってどういうこと!?きっちり説明して!!」
小「どうって・・・どうもこうも・・・」
関内・マリア・太郎「センセイが甚六のこと知らないのとイッショだヨ」
日塔奈美「別にいいけど、何で私メイドなの?」
関「ふつうのメイドたんってやつカラか?」
日「普通って言うなあ!!」
大草麻菜実「・・・絶望した・・・、普段ではありえないキャラクターを演じなくてはならないことに絶望した・・。
しかも入浴シーンって・・・。ユミカヲルか私は!!」
糸「大草さん、それ私のセリフ・・・。でもまあ、大草さんは無駄に喋らされてますよね」
風「三珠ちゃんも絶望したいの?」
三珠真夜「・・・(コクン)」
風「“絶望した!普段絶対に出さない大声のセリフ一つだけという事実に絶望した!”・・ですって・・。
てゆうか、私も絶望しました。本編で一度メイド服着ただけでこんなことになるなんて・・・。
その上当初“アンデレラ”になるはずだったのに、互換の良さだけでツンデレラになるだなんて・・・絶望しt」
糸「絶望した!!生徒に絶望を奪われたことに絶望した!!てうわっ!!三珠さんっ、じゃなくてどこからともなく火がああ!!」
三「!!?(オロオロ)」
風「やだなぁ、三珠ちゃんが犯人なんかじゃあありませんよぉ・・・(本当にね・・・)」
今度こそ本当の、おしまい。