小さいながら提灯が並べられ、秋の夜に楽しげな祭りの雰囲気が漂う。  
望は祭りの喧騒の中に一人たたずんでいた。  
「規模は小さいですが、良い祭りですね」  
「望さんっ」  
背後から聞き慣れた声がする。  
振り向くと浴衣姿のあびるがいた。  
「お待たせしちゃいました?」  
「いえ、私も今来たところですよ」  
カップルお決まりの問答をしながら二人は笑い合う。  
「でも現地で待ち合わせだなんて望さんて結構慎重なんですね」  
「先日、あんな事があったばかりですからね。さすがに慎重になりますよ。それに…」  
「それに?」  
「楽しみはギリギリまでとっておきたい方ですからね」  
あびるの艶やかな浴衣姿を指差しながら言う。  
「もう、おだてても何も出ませんよ?」  
「ふふっ、ひどいなあ、本心ですよ。さあ早速祭りを見て回りましょう」  
「はい」  
二人は人込みに向けて歩きだした。  
 
―金魚すくい―  
「わあ〜〜〜」  
ぴょこぴょこと水を掻くしっぽ(正確には尾びれ)にあびるが目を輝かせている。  
「さすがにしっぽには目がありませんね、よし!先生が金魚すくいの見本を見せてあげましょう。これでも金魚すくい師の資格をもっているのです!」  
豪語しモナカを構える望。  
「てやあっ!」  
ちゃぽっ  
「はぁっ!」  
ちゃぽん  
金魚は無情にも水面へと戻ってゆく。  
「店主!このモナカ薄すぎやしませんか?」  
「そんなことねぇよ」  
「絶望した!偉そうに豪語したのに一匹も獲れない自分に絶望したぁ!」  
 
―射的―  
スコンッ!  
あびるのコルク弾が標的を打ち落とす。  
「やったあ!これで五個目です。望さん、私もやればできるんですよ!」  
胸を張るあびる。  
「おお、すごいですねー」  
(さすがは砂漠のネリ消しの娘…怒らせることのないように気をつけなければ…)  
次々に標的を打ち落とすあびるを見ながら望は密かに誓いを立てていた。  
 
「ふぅ、少し休憩しましょうか?」  
「はい」  
 
ベンチに腰掛け、出店で買ったたこ焼きの箱を開ける。  
「おおっ、これは何とも美味しそうですね」  
「よっ」  
あびるはたこ焼きを楊子に無造作に突き刺す。  
「望さん」  
「はい?」  
「お口開けてください。食べさせてあげます」  
「え、あ、それはちょっと恥ずかし…」  
望が言葉を言い終わる前にたこ焼きを笑顔で差し出す。  
「はい、あ〜ん」  
望は一瞬だけ躊躇する素振りを見せるもののあびるの笑顔に折れたようで。  
「……あ、あ〜ん」  
ぱくっ  
「望さん、美味しいですか?」  
「は、はい」  
顔を真っ赤にしている望を見ながら幸せそうに笑うあびる。  
その顔を見ると望も自然と笑顔になる。  
「さて、そろそろ行きますか」  
「あ、もうそんな時間なんですね」  
今夜の祭りのメインイベントが始まる。  
 
どん、どぉん!  
色とりどりの美しい花火が打ち上がる。  
「花火はヘリコプターでみるのが一番キレイなんですけどね」  
望がいつも通り冗談を飛ばす。  
「でも、別れてみる花火よりは良いでしょう?」  
「意地悪ですね」  
「お互い様です」  
そう言うとあびるは望の指先に自分の指先を軽く触れ合わせる。  
その感触に気づくと望はあびるの手をぎゅっ、と握る。  
二人の頬が紅く染まり、互いに見つめ合う。  
何も言わず頬笑み合う二人は再び花火に目を向ける。  
その後ろ姿はまるで―――  
 
 
「まるで夫婦みたいだな」  
目尻をつりあげながら交が呆れたような口調で言う。  
「本当ねぇ」  
晴美は交を腕に抱えながら同意する。  
「甥っ子放っておきながら自分は教え子とデートかよ」  
「まあまあ、交くんそんなに拗ねてないで、今日は私と楽しくデートしましょ?」  
「は、晴美姉ちゃん…」  
交は少し照れている様だ。  
「ね?」  
晴美が優しく頬笑みながら話しかける。  
「う、うん…な、なぁ…晴美姉ちゃん」  
「ん?何?」  
「き、今日はありがとな…」  
「ふふっ、どういたしまして」  
どぉん!  
「わぁ!」  
「わっ、本当にキレイだねー」  
 
様々な想いの交差する秋の夜空の下、打ち上がる花火は美しく大輪の花を咲かせていた。  
 

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