「普通っていうなぁ!!」いつもの様に教室に空しい叫びがこだまする。普通少女こと日塔奈美は今日も絶望先生こと糸色望に『普通』呼ばわりされて憤慨していた。  
「はぁ…」放課後奈美は人もまばらになった教室で一人ため息をついて机に突っ伏していた。  
----いつも普通普通って先生は私の事----  
「どうしたの?奈美ちゃん。」そこへポジティブ少女風浦可符香が今の奈美の様子とはまさしく正反対な陽気な声をかけてきた。  
 
「か、可符香ちゃん!?」急に話かけられて声がちょっとうわずる。  
---さっきまでいなかったはずなのに---  
そんな疑問も一瞬浮かんだが、可付香の優しそうな笑顔を見ていると、今の自分の悩みを解決してくれる---そんな風に奈美は思い始めた。  
「ちょっと悩みがね…。ねぇ、可付香ちゃん」  
「何?」相変わらず笑みを浮かべている可付香に奈美は思い切って打ち明けた。  
「先生を見返したいのッ!」  
「はぁ…?」内容の飛んだ話に可付香は話を把握できてないように小首をかしげている。  
 
「あ…ご、ごめんね!いきなりこんな事いって。ほ、ほら私いつも先生に……その、ふ…」  
「普通。」  
「普通っていうなぁ!って、そう。いつもそういわれるじゃない?」  
普通---自分では言いたくないのか、奈美がためらっているのを見て可付香が言葉を繋げ、脊髄反射でその言葉に反応する。  
「だから一度でいいから違う反応を先生にさせてやりたくて…可付香ちゃんならなんかいいアイデア出してくれるかなって。お願い!きょうりょk「もちろん協力しますよぉ!」言い終わる前に可付香が答える。  
その目は新しいおもちゃを見つけた子供のような光が帯びていたがそれに奈美は気付かなかった。  
 
「ん〜そうですねぇ〜。やっぱり外見から変えるのが一番効果的だと思うんですよねぇ。」  
可付香は手を組んで胸の前に置いて明後日の方向を向きながら話し始めた。  
こういう時は可付香にエンジンがかかった証拠だ。  
「あ、あの…そんなに一生懸命にならなくても…。」  
あまりに快く引き受けてくれたためか奈美は多少戸惑っていた。  
そのうち可付香はブツブツ呟く様にしゃべり始めた。  
「…可付香ちゃん?」  
「…ポ……ッカ……来世…肉花……ポジ…ス……プ」  
危険そうな単語が途切れ途切れに聞こえてくる。  
---マズい事になりそう---奈美は直感的に感じた。  
 
「か…可付香ちゃん!や、やっぱいいや!迷惑だよね!?」  
「何を言っているのですか♪迷惑な訳ありませんよ。よし、決まりました。さぁ!準備しにいきましょう!」  
「いやぁぁ!いいってばぁ!」  
 可付香にズルズルと引きずられ、廊下を移動する。  
----もうどうにでもなれ------ 
奈美はもはや抵抗するのをあきらめ、涙を浮かべながら引きずれるがままになっていた。  
 
しばらく引きずられていると向かい側から藤吉晴美が現われた。腕には重そうな封筒が抱えられている。中身が気になる所だが今はそんな余裕は無い。  
間もなく晴美もこちらに気付く。  
「あれ?二人ともどーしたの?」  
「これから奈美ちゃんを普通じゃなくしちゃうんですよぉ♪」  
「へ、変な言い方しないでよ〜!」  
涙目で抗議する奈美を横目で見ながら、  
「へえ…た、大変ねぇ…。」厄介そうな事は避けようとそのままやり過ごそうとした時、  
「まずは服装からだと思うんだけど晴美ちゃんはどう思います?」  
服装----その言葉に体がピクリと反応した。  
 
「それってコスプレってこと?」晴美の目の色が変わる。  
晴美はしばらく奈美をじーっと見つめていると何か思いついたらしく、  
ニヤマリと笑った。  
「そうねぇ…私も手伝っていいよねぇ?」拒否不能の響きだった。  
----あぁ、私はいったい何をされるのだろう。---抱えきれない不安を奈美は覚えた。  
 
 
小一時間後、空き教室で二人は奈美を満足そうな顔で眺めていた。  
「これでいいかな?」  
「そうですね!かわいいですよ!」  
「よし!奈美ちゃんおつかれさま〜。」  
「うぅ…」  
奈美は恥ずかしくて死にそうだった。  
たくさんフリルのあるメイド服。簡単に言えばそんな格好をしている。  
ぎりぎりまで短くしたスカート。そしてニーソで絶対領域を演出している。  
上半身はというと肩は完全に露出されていて、胸元は大きく開かれて胸の谷間が垣間見える。さらに背中は半分以上が露出している。  
体を覆う部分もタイトな作りのためボディラインがはっきりと出て普通に大きい胸を強調している。  
 
「死にたい…」顔を真っ赤にして俯きながら呟く奈美に、  
「よく似合ってますよ奈美ちゃん♪」  
「ホントホント。それに前から思ってたけどやっぱりこれよく似合うな〜」  
と晴美が奈美の頭についているものを撫でる。  
「やっぱ奈美ちゃんはワンコよね〜」ホレボレした様に晴美が言う。  
奈美は頭に犬耳をつけられていた。  
「もうなんなのよ!これぇ!」奈美がポロポロ涙をこぼしながら抗議する。  
「普通じゃなくなりたいんでしょう?」  
「うっ…そうだけど…」  
可付香にそういわれると何も言えなくなってしまう。  
 
----確かに自分で望んだ事だけど…これじゃちょっと…---- 
「ねえ」晴美の問いかけに奈美の思考は遮られた。  
「ん?なに?」  
「なんで普通じゃない様にしようと思ったの?」  
----え?  
「聞いてないの?」  
「ん?聞こうと思ったんだけどね?。別にいっかぁって。」  
----別にいっかぁって…私これでもかなり悩んでたのに…  
「そんなことよりもさぁ。」  
----そんなことよりって、何のためにメイド服以外にもあんなのやこんなの着たと思ってるのよ…  
 
「他の耳もつけさせてもらっていい?」  
「いいわけあるかぁぁ!」そう叫ぶと奈美は晴美に襲いかかった。  
「フガー!!」  
「ヒィイイ!?」奈美のあまりの勢いに晴美は一瞬ひるんでしまった。  
瞬く間に奈美はマウントポジションを取った。  
「あうぅ、ど、どうしたの!?奈美ちゃん?」  
「どうしたもこうしたもあるかぁぁぁ!晴美ちゃんにはもっと恥ずかしい格好してもらうからねッ!」  
「えぇッ!?なんでぇ!?」  
「何でとか言うなぁ!!」奈美はスカーフに手をかける。  
「あ、やだッ!ちょっ、ちょっと!可付香ちゃん!?奈美ちゃんを止めてッ!!」  
しかし可付香はいつの間にかいなくなっていた。そうしてる間に奈美は奪ったスカーフで晴美の両手を縛った。  
 
「ッく、痛ッ」  
運動神経は晴美の方が断然上なのだろうが今の暴走状態の奈美は第二のバッテリーが発動していた。  
身を捩って逃げようと試みる晴美を熱に冒されたような笑みで奈美は見つめる。  
「ハァ…無駄よ。晴美ちゃん。フフフ…じゃあこの耳からつけよっか。」  
晴美に逃げ道は無かった。このままあんな事やこんな事をされるのかと覚悟を決めかけたとき部屋の部屋のトビラが開かれた。  
助かった。晴美はそう思った。トビラを開けた人物を可付香だと思っていたからだ。  
しかし、正確には違った。可付香以外にもう一人いた。  
 
「あなた達こんな時間まで何をやっているのですか!今日の戸締まりの当番は私なんですよ!  
なんで私の時に限ってこんな時間にまで残っているのでしょう…ああもう絶望し…」ここまで言いかけた時やっと望は今の状況を認識し始めた。  
「あ、あなた方いったい何を…それに日塔さんその格好は…?」奈美の格好を見て少し頬を赤らめた望むが尋ねた。  
「い、いや…これはその、なんて言うか…」  
「決して変な事をしてるわけじゃあ無いんですよ。」  
いきなりの望の登場に素に戻った奈美がしどろもどろに喋るのを晴美がフォローする。  
 
「あははは…そうですよ!なんて事無いですよ!別に何も…」  
「そ、そうですよね〜先生驚いてしまいましたよ。これは証拠過多ですよね〜。」  
「アハハハハハ……」三人の乾いた笑い声が響く。  
「って信じられますかぁ!!さすがに自分に対してこの嘘は厳しいです!絶望した!!生徒達の知らなきゃ良かった秘め事に絶望した!!私は何も見てません!見てませんからぁぁぁ!」そう言うと望はばたばたと廊下を走り去った。  
「ど…どうしよう。」二人は顔を合わせて言った。  
そこへ今まで傍観していた可付香が近づいてきた。  
「おめでとう!奈美ちゃん!」  
「へ?」奈美は何の事だかわからなかった。  
「これで先生は奈美ちゃんのこと一目置く様になりますよ!普通脱却です!」  
「こんなので普通じゃないって思われたく無いよぉ!」と嘆いた。  
「普通の反応ですね。」ちょっとつまらなそうに可付香が言う。  
「普通って言うなぁぁ!」  
 
 

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