チャプ…
朝の四時、静かな浴場に水音が響く。ここはとある旅館の男湯。
昨日はクラス旅行の引率でてんやわんやの一日──とりわけ問題児の多い二のへ組、
望は昨日の疲れを取るように静かに目を閉じた。
(もう…徹夜ですねぇ…)
どれくらい経っただろう。不意に戸の開く音が耳に入る。
(早起きの男子もいるものですね)
チラリと入口の方を見る。ところが、そこには誰もいない。望は思わず辺りを見回す。
やはり誰もいない。しかし、嫌な予感がする。
「まさか…居るんですか?ここは男湯ですよ?」
返事はない。どうやら自分の聞き間違いか、と一息ついたその時だった。
「………!」
突然後ろから抱きつかれる。背中に押し当てられる肌の感触と細い腕は、
どう考えても男子のそれではない。気を抜いた瞬間だっただけに、
しばらく望は喉から声を出せなかった。
「だ、…誰ですか!何をしてるんです!」
やっとのことで叫ぶ。
「……んせ……」
聞き取れない。微かにだが…聞き覚えのある声。
(音無さん…?)
すっ、と望の前に差し出されるのは携帯電話。画面には文字が表示されている。
【オレだよオレ 何しに来たか位分かる癖に聞いてんじゃねえよ】
「だ、だめですよそんな事!出て行ってください!」
すると芽留は画面の文章を全て消し、めるめると新たな文章を綴ると、
再び望に画面を見せる。
【偽善者ぶってんのか?あ、童貞だったのか なら躊躇うのも仕方ねーな】
危うく挑発に乗せられそうになるが、ここは教師と生徒。ヤるわけにはいかない。
「何とでも言ってくれて構いませんから出て行ってください」
【まぁいい 知ってんだぜ?藤吉に何やらされてたか
何言っても構わないならオレは出て行くが】
何故だ、何故知っている?背筋が凍り付くのを感じる。
女子生徒との関係が問題になるのと男s(中略)とでは選択の余地は無い。
「………降参です…」
【情けないヤツ(藁 とりあえずこっち向いて立てよ】
望は深い溜息を吐くと素直に指示に従った。
芽留は口に手を当てて望の下半身を凝視する。
【うっわ余ってるし 最悪 つか顔と同じでこっちも貧相…
あびるが好きそうだなこりゃ】
容赦ない毒舌に、予想はしていたものの軽く鬱になる。
【おっ 少し勃ってんぞ? 見られて興奮するなんて変態だな】
事実だった。望は何も言い返せず、黙って俯く事しか出来なかった。
(うう・・・私はMだったのでしょうか・・・)
しかし、ふと彼女の顔を見た望は、ある事に気付いた。
「…? 顔…真っ赤ですよ?」
【何言ってんだバカ 風呂入ってるから当然だろタコ】
(な、なんか単調になったような…?)
もしかしたら、と望は一つ仮説を立てた。
「ちょっと…顔をよく見せてください…」
【オマエには見せたくない】
望は静かに屈むと、芽留の顎を軽く指で持ち上げ、その瞳を正面から見据えた。
すぐに芽留は目を逸らす。もう耳までが真っ赤だった。
【何見てんだよ キモイぞ】
芽留の反応は予想通りのものだった。望の変なスイッチが入る。
「それでは…これはどうです?」
いきなり芽留の唇を奪う。
【うわ】
長い長いディープキスを充分に楽しんでから、頃合いを見計らって唇を離す。
【いきなりなにしやがる!】
主導権を握っていることを確信した望は、余裕の表情だった。
「音無さんがいけないんですよ…男湯なんかに来ちゃって…」
水面下でゆらめく芽留の胸に手を添え、ゆっくりと揉みしだく。
【やるならもっと上手くやれよ下手くそ そんなんじゃオレを満足させられねーぞ?】
望は言葉とは裏腹に硬くなった双丘の先端を弄り、弄ぶ。
「体は正直ですよ、音無さん。ところでこの間私が取った資格、覚えてますか?」
【資格なんて金で買ったんだろ?ボンボンが】
「では、その体で試してみましょうか」
望は芽留の体を軽く持ち上げると、洗い場の椅子に座らせる。
芽留の体は起伏に乏しく、その毒舌に全く似つかわしくないものだった。
「あれ?生えてないんですね?それに…これはお湯じゃないようですが」
芽留の裂け目から指で蜜を掬い取ると、ゆっくりと芽留に見せ付けてから舐めとる。
【資格はどうした さっさと噴かせてみろよ】
やはり芽留はすっかり真っ赤になった顔を背ける。望には面白いほど予想通りの行動だった。
【やるなら早くやれよ まさか怖気づい】「ひ!」
不意打ち気味に“フィンガーテクニック”を披露され、思わず芽留の声が漏れる。
「なんだ、声出るんじゃないですか」
【こんなのでオレが感じると思ってるのか?バーカ】「っ………………」
「確かこんな風に…いや、こうかな…」
指の速度を上げてみる。芽留は涙目になりつつも携帯を手放さない。
【ぜんぜんものたりねーぞ へたくそ】「…んっ…ぁ…ゃぁぅ…」
「フフ、とりあえずイッて貰いましょうか」
【ちょっとまてやめろだめだめだめあああ】「…ぁぁ…やっ…ぁあ……ぁぁああああ!!」
小さな体を弓なりに目一杯のけ反らせて痙攣する。
携帯を強く握りしめたまま、芽留は失神した。
「お目覚めですか?あ、これ電話です」
芽留が意識を取り戻した時、そこは旅館の居間だった。服も着せられている。
「まさか気を失うとは…ちょっと調子に乗りました…。すいません」
「………………………」
「あぁ、そう言えば噴きませんでした。やっぱり私はまだまだですねぇ」
「………………………」
「それにしてもまったく…あまり大人をからかうものではありませんよ」
「………………って、…んせ…の事が…きだから………………」
「? 何か言いましたか?」
【言ってねーよ 幻聴も程々にしろ】
「そうですか。…ところで、あの話の件ですが……」
【まぁ黙っといてやる それにオレは何も知らないしな カマかけたんだよ】
悪戯っぽく笑う芽留。望は微笑み返すと指で軽く彼女の額を弾いた。
終