ぴろりぱらぴりろら♪
「おや、メールですね。――音無さんですか。どれ。」
画面を開く。
『別に いいだろ 携帯持ったままでもよ』
「・・・・・・・・・・え?」
困惑した表情を浮かべた。
ぴろりぱら――
『なんだよ あせんなよコラ いまさら嫌なわけねーだろが』
『別に怖くねーよ! コドモ扱いすんな!』
『乱暴にすんなよ エロ教師! 優しくしろよ』
先生の表情が青ざめてゆく。
「これは――なんだか、アレを始める所にみえますが・・・・・・まさかね。」
ぴろりぱ――
『なななんだよ! イキナリ名前で呼ぶな! 恥ずいだろ!!』
『・・・しょうがねー じゃ 望って呼んでやるよ』
「うわああああああ!!」
先生は頭を抱えて絶叫する。
「お相手は私ですかぁ!! そんなバカな!! 私はここにいますよー!!」
必死に叫ぶが、もちろん携帯の向こうまで聞こえるはずもなく。
ぴろり――
『なんだよ! じっくり見んな! どうせ幼児体型とか言うんだろ!』
『ほめてるように聞こえねーよ! あ あんまり触んな!』
『よく わかんねーよ・・・ すこし くすぐったいくらいだぜ』
「ま さ か・・・・・ 影―― あああ! 音無さんー!!」
必死に返信を打とうとするが、芽留のメールの方が早く、次々と送られてくるメールに阻まれてしまう。
ぴろ――
『ああ ん・・・いいぜ 』
『は? そ そうか? 別に 責任とるとか考えんなよ いいって言ってんだからよ』
『何だよ 調子狂うじゃねーか いつも通りにしてろ タコ』
『あれ ちょっとまて おいハゲ おまえ何か』
先生の目が画面に釘付けになる。
「音無さん! 気が付いてください! それは私ではないのです!」
ぴ――
『携帯見せてみろ!』
『おま これ なんだ!? メール無』
『だれだ! オマエ! ダレ』
『やめ イヤダ! やめろ yめrお』
『せんs』
そこで芽留からのメールは途切れた。
「――――!! そんな・・・・・」
先生は青い顔で飛び出そうとして―――― どこに行けばいいのか分からず、愕然と立ち尽くしていた。
小一時間もたっただろうか。
あれから何度も打った返信に返答はなかったが、
ぴろりぱ――
メールの着信音に、先生は噛み付くように携帯を操作した。
「・・・音無さん!!」
『ゴメン ハゲ ・・・オレ ゴメン』
「音無さん! いま、どこに!? すぐいきます!」
『オレ 駄目だ オマエの事で頭一杯で ノーミソ働かねー』
先生の胸がズキンと痛んだ。
「とにかく そこに行きます!」
『会って どうすんだよ ドーセ なぐさめるだけだろーが ボケ』
『どうせ 責任取ってとか どーのこーの言うだけだろ』
「・・・確かに御仕着せな言葉ですがね・・・本気ですよ。」
『何が本気だよ』
「私と一緒になりましょう。・・・あなたを放すべきで無いと痛感しましたよ。」
『・・・あまり 嬉しくねーよ ハゲ』
「心底本気ですよ。慰めなんかじゃありません!」
次の芽留の返信がくるまで、少し間が空いていた。
ぴろり――
『オレ 何にも 喋らねーぞ?』
「知ってますよ。今更、構うわけ無いでしょう?」
『・・・結構、性悪だぜ?』
先生は少し笑う。
「それが何か?」
『・・・オマエ ロリコンって言われるぞ。』
「いいですよ。何と言われようが。」
言葉に詰まったように、芽留のメールが止まる。
「あなたが私を嫌でなければ。」
『そんなわけねーだろ!! 考えて 物言え! バカ!』
『じゃあ――――オレの事 アイシテル――のか?』
先生はボタンを間違えないようにゆっくりと打ち込み、返信した。
「愛してます。芽留さんを」
返信は無かった。
代わりに、突然、背後から小さな足音が聞こえ、背中に誰かが飛びついてきた。
「な!? なんです?」
飛びついてきた小さな影は、先生の耳元に口を寄せた。
(オレも だ)
吐息が耳元で擦れた音でなければ、確かにそう聞こえた。微かな音だった。
「音無さん!? いつ――」
先生は言いかけたが、芽留がやけにニヤニヤしている事に気が付く。
『悪いな』
「え? ・・・・・え?」
芽留の携帯の画面が差し出される。
『いや 影武者の話は聞いてたからよ ・・・チョッとな』
「ああああああ!! 狂言ですかぁ!?」
『引っかかってくれて嬉しいぜ ・・・ああ イヤミじゃねーよ』
「・・・・・・・あなたねぇ・・・・」
何か言いかけた先生に、芽留はズイと顔を近づける。
『何だよ こんな美少女が 自分の物になったてのに 嬉しくねーのかよ』
「・・・もう、何が何だか・・・・ やられましたねぇ。・・・あなた、中々の悪女ですね?」
投げやり気味な笑みを浮かべた先生に、芽留はニヤリとする。
『どうしても欲しいものなんだからよ どんな手でも使うぜ? 言ったろ? 性悪だって』
先生は肩をすくめて、芽留の髪を撫でた。
「・・・まあ、無事で何よりです。」
『悪かったな ――まあ センセイの立場もあるし 卒業するまで待ってろよ』
芽留はそう言って、先生の唇に自分の唇を重ねた。
先生は、ぎこちないキスをくれた少女の、赤く染まった頬を優しくなでた。