夕方、人影の無い校内にトロイメライが響き渡るころ・・・  
 ここかなと思い、図書室の扉を開ける。傾いた日が綺麗なんだけどまぶしくて、びっくり  
して目を瞑る。  
 ・・・・・・みつけた。  
「やっぱり、ここにいたんですね」  
 逆光の中で、人影が本から顔を上げる。見慣れた糸色先生の顔だ。  
「どうしたんですか?こんな時間に」  
 先生は入り口すぐの席に座って、いかにも古そうな糸綴じの本を読んでいた。そういえば  
大学のコネで特別に取り寄せたんですよ、なんて自慢してたっけ・・・先生以外に読んでる人  
見たことないけど。  
「これ、渡そうと思って。あんまり高いチョコじゃないですけど・・・どうぞ」  
 向かいの椅子に腰掛けて、包みを渡す。駅のデパートで買ったプレゼント用の、といっても  
高いというわけでもなく――まぁ、普通のチョコレートだ。  
「(本命じゃないみたいですね。ふぅ・・・)ありがとうございます。じゃあ、後で頂きますね」  
 先生はちょっと困ったような笑顔を浮かべて、ちらと視線を後ろに向ける。背後にずらっと、  
図書館の横幅いっぱいに並んだ紙袋。あれ、もしかして・・・  
「もしかして、その後ろの袋、全部貰ったチョコですか??」  
「はい・・・冬場ですし、大丈夫だとは思うんですけど・・・どうしたらいいんでしょうね」  
 あはは、と先生が申し訳なさそうに笑う。  
 
 先生、見た目はカッコいいし、いい人だし、屈折してるけど、たくさんの人に好かれるのも  
当たり前・・・だよね。チョコレートもらう時って、どんな気持ちなのかな。好きなタイプって  
どんななのかな。今、好きな人いるのかな。・・・・・・私のこと、どう思ってるのかな。  
「このチョコレート、全部に返事するんですか?」  
「うーん・・・HRでも言いましたけど、心変わりが怖いので返事はしないことにしようかなと・・・。  
二のへ以外では世間体気にしてますけど、こんな性格ですからね」  
「・・・そう、ですか・・・」  
「?」  
 
 ・・・私、今、どんな表情してるんだろう。怖いけど、でも、伝えなきゃ。私・・・。  
「・・・でも、もしかしたら」  
「・・・」  
「もしかしたら、先生のこと、性格もよく知ってて、初めて会ったときからずっと、好き、って  
人だっている、かも・・・」  
「・・・」  
「・・・」  
「・・・日塔さん?」  
「私・・・、私、先生のことが、好き、です」  
「そう、ですか・・・」  
「・・・」  
「・・・気持ちは嬉しいですけど、ごめんなさい。私は教師で、あなたは私の生徒なので・・・」  
「分かってます! でも、それでも私、先生の"特別"になりたい・・・!」  
「!」  
 何言ってんだろ、私・・・。ひどいワガママだし、先生、困ってるよね・・・。  
「や、やっぱり迷惑、ですよね・・・。突然変なこと言っちゃってごめんなさい。今日のことは、  
なんていうかその、なかったことに、なんて、あはは・・・」  
 もう、これ以上先生と話すのが辛くて、目も合わせずに席を立つ。なんか私、泣いてるし・・・。  
「日塔さん」  
「? ・・・ひゃっ」  
 呼ばれて振り返ったら、一瞬、何されたか分からなかったけど・・・  
 ちょっとだけ、涙の味がした。  
「・・・」  
「ん・・・」  
「・・・ふぅ。・・・やっぱり、教師と生徒ですし、ここ、学校なので・・・今日はこのへんで、帰りましょうか」  
「はっ、はい・・・」  
 辺りはますます赤く染まって、本当に綺麗だった。滲んでよく見えなかったけど・・・。  
 

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