純潔は愛する人に捧げたいという夢を踏みにじられ
その傷跡は癒えるどころか再び痛みだす
その繊細さは刃物へとすりかわり振り向きざまに血を浴びる
触れた者は傷を負う事となる
望むと望まざるとに関わらず
逃げ惑う者のうれしい悲鳴につられ千里は廊下に出ると既に傷を負った少女小節あびるが立っていた
「千里ちゃんここまでやるだなんて、
もう許せない!」
開けっ放しの扉から見える動かなくなったカエレとことのんを見るなり
荒れ狂う猟奇少女を捕縛せんと
包帯はふりほどかれ触手が如く襲いかかった
シュッシュッシュッ
ギチギチ
が千里は勘づいたのか
一瞬早く後ろに引き
包帯は前に突き出したスコップに巻きついた
「えっ!?」
驚きで包帯少女に隙が生まれるやスコップを握り締め
大柄なあびるをまるで砲丸投げのハンマーの様に遠心力をつけ思い切り投げ飛ばす
「うなああああああああああああ!!!!」
「に゙ゃーーーッ!!!!!!」
あびるはまるでドラ猫の様な悲鳴をあげ十数メートル先の二番底に転げ落ちていった
すると今度は真夜が何処からともなく取り出した松明に着火りさんで火を点け投げつけて来た
今まで彼女の暴力は好意の者にのみ向けられている
故に敵意によって攻撃するのはこれが初めてだ
ボオオォオォ
が猟奇少女は松明をスコップの刃で野球打者の様にきっちり真夜に打ち返すときっちり命中した
あついよ!あついよ!
普段人の家に放火する見たまま少女だが
今回は自分自身が炎に包まれた
「うれしい悲鳴が今日も聞こ〜える〜♪」
狂喜に満ちた歌声をあげ猟奇少女は階段を降りていく
すると
ザクウゥ!!
突如後ろから脇腹を硬い何かに貫かれ階段を踏み外しそうになった
「何がこのクラスに女生徒は一人で充分よ・・
保健室で先生に転がり込んだだけで籍を入れろと先生を困らせる
あんたが一番いらないのよ!!」
殺意を持って後ろ脇腹を出刃包丁で躊躇なく突き刺したのは
望に常軌を逸した愛情をそそぐもう一人のヤンデレ
常月まといであった
以前自分のセカンドオピニオンが愛する教師に付き纏っていた際は心臓を一突きした
だが今は脇腹に包丁を刺しえぐる様に徐々に回す
先生との愛を邪魔するこの女は悶え苦しませた後死にいたらしめたいからだ
だが何故か千里は痛がる様子もなく
静かに冷たく口を開いた
「まといちゃんたら
私の事随分嫌いみたいね、
でも安心して、
私とは顔を合わせなくてすむ世界に連れてってあげる、
先生も後で送るわ。」
身を貫く強烈な意志と
心を引き裂く事実の言葉にあの悪夢の夜がフラッシュバックし
怒りをあらわにした顔を背後のまといに向けた
「ひいいぃ!!」
ストーキング少女が思わず悲鳴を上げた形相はもはや猟奇すら超越していた
几帳面少女の中に眠る
黒き殺戮の女神が再び姿を表したのだから
「うなあっ!!」
殺戮の女神は慟哭を上げ恐怖で包丁を持つ手が緩むまとい目掛け
円を描く様にスコップを叩きつけた
ゴキャアアァバタバタバタ
凄まじい衝撃にストーキング少女は階段から転げ落ちた
それを見下ろすと彼女が刺した包丁を一気に引き抜き足で踏み割った
「こんなの先生に嫌われる苦痛に比べたら痛いうちに入らないわ!!」
修羅地獄と化す2のへを尻目に甚六は呑気に職員室でパチスロからポロロッカして入った漫画を読んでいた
「う〜むこの漫画の緊迫感は凄いのう戦場にいた頃を思い出すわい」
「キャーッ!!」
「うわああああー!!」
「いやああああああ!!」
「おぉ悲鳴すら聞こえてくる様じゃ!」
「『聞こえてくる様じゃ!』じゃありません!甚六先生!」
ふと声がする方を見ると普段冷静な智恵先生が慌てふためいていた
「どうしたんですか?
一体なんで悲鳴が聞こえるんですかな?」
「大変です!
2のへの木津さんが暴れ狂って手がつけられないんです!」
甚六は耳を疑った
何故なら2のへ担任の望の教師力を高く評価していたからだ
進級間もない頃彼の生徒の進路希望は非現実的なほど夢があったし
ガンコな引きこもりの生徒を登校させたり
授業も人数以上の熱気にあふれていたからだ
「でもそんな先生にも手がつけられない事態なんですな・・・・・」
すると甚六はロッカーに入れていたゴルフケースを出した
その中に納められているのはクラブではない
いまだ学生運動がやまぬ昭和82年現在
暴徒鎮圧用に麻酔弾を装填したライフル銃だった
不逞の輩を無力化するために置いていたライフル
まさか尊敬する後輩教師の教え子に向けねばならぬとは
唖然とする智恵先生に構わず薬室に麻酔弾を装填すると
席を立ち悲鳴がする方向に向かう
だがその殺気は凄まじく戦場でも感じた事のない程
すると髪を振り乱し血がしたたるスコップを持つ殺戮の女神が見えた
距離は約十メートル
甚六の技量なら眼をつぶってもはずさぬ射程
だがまるで劣化ウラン弾を装填した戦車に狙われているかの様な気分だ
「南無三・・・・・」
ズギューンッ!
渇いた音とともに麻酔弾は千里の薄い左胸に命中した
「チェホンマンも止めれる特製麻酔弾、
この娘の体重を45キロとして覚醒には2週間かかるわい」
が千里は倒れなかった極度ストレスによりアドレナリンが異常分泌しており麻酔を無力化していたのだ
「ば、馬鹿な!」
ズギューン
「うなあああああああああーーーッ!!!」
ガリガキュグキュリ
音速で飛ぶ麻酔弾をかわしたかと思うと
千里はスコップでライフルの長い銃身をアルミカンの様に潰しながら
甚六の体を吹き飛ばした
「ヤンデレ大全に
『千里はクラスのちょっとしたモンスター』と書かれていましたが
もうそんなレベルではありませ〜ん!!!!」
最近アニメOPの影響で鬼畜キャラで通していた糸色望は本当の鬼畜を目にしてすっかり初期のヘタレに戻り逃げ惑っていた
すると情けない彼に声をかける少女が
「お兄様!?何故止めずに逃げているのですか!!」
「無理です!もう自衛隊か米軍でも呼ぶしかありませ〜ん!!」
自分と同じく兄の友に凌辱され自分の代わりに復讐を遂げてくれた千里をまるで怪獣の様に言う望に倫は激怒した
「お兄様!なんたるチキン!!
自衛隊も米軍も彼女を止める事は出来ません
眼に写る物全て破壊し
生きとし生ける者全てを殺戮しても彼女は決して救われません
何故なら彼女は血に飢えた怪物である前に一人の傷ついた乙女なのです
お兄様への愛で苦しむ彼女を救えるのは・・お兄様・・お兄様しか・・いないのです・・」
自分は三千の弟子を抱える華道師範なのだ
これしきの事で、
と自分に言い聞かせていた
だがもう涙を抑えきれなかった
「・・・・・倫、
解りました、
私は教師としては止めにいきません一人の男として彼女を救いにいきます」
「騒がしいな・・・・」
宿直室で交の勉強を見てやりながら自習していた小森霧は聞こえてくる悲鳴と銃声を気にとめた
すると突然宿直室のドアを開けて一人の女生徒がやってきた
「大変よ小森ちゃん!
なんと千里ちゃんがクラスの皆を血祭りに上げ始めたのよ♪」
以前引き篭っていた自分を外に出した時の様に恐ろしい事を嬉しそうに語る可符香に唖然としてしまう
「あびるちゃん、真夜ちゃん、まといちゃんまで倒されたの♪
次なる餌食は先生に心中候補になる程好かれてる小森ちゃんよ!うふふふ♪」
満面の笑みで告げられるその言葉に霧は凍りつき交はトラウマがフラッシュバックしはじめた
「恐いよ恐いよ・・」
「あぁ交君落ち着いて・・このままじゃ私どころか交君までやられちゃうよ!」
「う〜ん交君この年にしてこれ以上トラウマ増えるのも問題だし
第一小森ちゃんがやられたらこの学校滅びちゃうわね・・そうだ!」
可符香は手をポンと叩くと二人を連れだし核シェルターに避難させる事にした
ドスン!ギュッギュッギュッ
分厚い扉を締めると霧は内側から強く鍵を締めた
「可符香ちゃん!小森ちゃんと交君は何処!?」
千里は不気味な千里眼であっさり二人のいる場所を見つけたが不下校で先生に誰よりも気にかけてもらっている女生徒と先生が縮んだかの様な男児の姿はない
「あ〜なんかこの核シェルターに避難したわよ♪」
自分で避難させておきながら可符香はわくわくしながら核シェルターの扉を指差すと
千里は凄まじい速さで飛びかかった
「核シェルター?そんな物こじあけてやる!!」
「あけないでよ!」
ガツンガツンと分厚い扉に突き立てるが無数の血を吸ったキッチリスコップも核爆弾に耐えれるシェルターの扉には文字通り刃が立たず
先が次第に潰れていった
「ええい、こうなったら!」
潰れたスコップを捨てると千里は拳を握り締めて構えた
「うなああああああああああああああああああ!!!!!!」
ドゴオォオオォオ!!ズズウウウン
凄まじい音がしたかと思うと核シェルターの扉は破壊され内側に叩き落とされた
「うわ〜ん!!」
「こわっ!!」
千里の最たる凶器はキッチリスコップでもデチューン包丁でもない
世界すら真ん中分けする自身そのものだ
核攻撃に耐えうるはずの扉は核以上の衝撃によってもろくも崩れ落ちた
が開いたとゆうのに千里は入ってこない
攻撃を辞めたのかと淡い希望を抱いたがそれはすぐに掻き消された
ドスンドスンドスンドスンドスン
突如鳴り響く地震の様な地響き
殺戮の女神と化した千里にとって先生の愛を誰よりも受けてる霧と
隠し子に見える程先生の面影を持つ少年は普通には倒さない
地面を何度も踏み砕き
大地ごと核シェルターを壊して生き埋めにするつもりだ
「小森姉ちゃん恐いよー!!!」
「交くーーん!!!」
シェルターの天井にヒビが入り徐々に崩れゆく中で霧は交を震えながらも守る様に抱き抱える
「せめて・・この子だけは・・・・」
すると突然祈りが通じたかの様に地響きが止まった
殺戮の女神が見つめるのは大地ではなく部屋の扉を開けて現れた男
「木津さんやめなさい!
貴女の一番の目標は私のはず!
だから私を殺しなさい!!!」
気が狂う程に愛しき先生
糸色望だ
覚悟を決めた望は殺戮の女神に怯む事なく歩み寄りあお向けに寝転がり大の字となった
「さあ貴女の気が済むまで!!」
「うなあ!うなあああああああああ!!!!」
人とは思えぬ抱吠を上げ千里は躊躇なく望の上に乗り足踏みを始めた
ドスンドスンドスンドスンドスンドスン
「うぐぐぐぐ・・・」
強力な魔神たちを打ち倒しても殺戮の女神カーリーの興奮は止まず踊りで大地は砕けそうになる
困り果てた神々が助けを求めたのは最高神シヴァ
シヴァ自身も混乱と恐怖を巻き散らす破壊神であったが
世界を守るため己を下敷きにしクッションとなった
彼の献身により殺戮の女神は我に戻ったとゆう
それと同じく散々足踏みをした千里もついに正気を取り戻した
「あれ、私は今まで一体?」
シェルターから上がって来た霧は過充電後された自分が先生によって放電された時を思い出した
だがその時以上に望の体はボロボロになっていたのだ
「あっ、先生!?
ごめんなさい私ったら。」
殆ど動かず祖父の様にぐったりした望を気使う姿に殺戮の女神の面影はなく
千里はいつもの几帳面少女に戻っていた
すると望は静かに口を開いた
「木津さ・・いや千里
私は貴女が羨ましかった
信じる物を何の疑いも持たず一途にひたむきに愛する事が出来る貴女が・・・
でも世の中はうまくいかずいつも貴女はイライラしていてどう触れれば良いのかわからなかった
そんな貴女は旧校舎にて再会した旧友、いや一日友を殺した後も暴れ狂う程に追い詰められていたんですね」
望の言葉は千里の心の奥底まで響いていた
彼が私をそう思ってくれていたなんて
「しかし貴女のしでかした事は許される事ではありません
でも今は好きなだけ泣いて下さい
涙は私が全て受け止めますから」
流しつくしたはずの涙が溢れて来た
何故ならそれは今まで流した悲しみの涙ではなかったから
「ううあああ!せ、先生!先生!」
千里は赤子の様に泣いた今までの苦しみを洗い流すかの如く
それを開いたドアから晴美と倫は見ていた
「フフフかなわないな、先生には」
「私の分まで救われたのか」
混乱と破壊とゆう絶望を呼び
逆らう者に容赦なく苦痛と死をもたらす
でも憎みきる事が出来ないのは奥底にある優しさを感じれたから
残虐で愛らしい
ヤンデレな神が支配する
―終劇―