問題、  
一生癒える事のない傷を負ってしまいましたどうすればいいでしょうか?  
 
答え、  
その傷を負わせた者の一生を終わらせればいい  
 
 
こんな道徳感ゼロ社会適応性ゼロ  
まるで野蛮な原始時代の住人の様な答えをする少女木津千里  
 
 
その傷を負わせた者はさっきダム建設により水底に沈む村で刺して切って刻んで掘って叩いて埋めてきた  
 
だがその者の一生を終わらせても一向に心は晴れない  
「うっうっうっ先生・・・・・」  
 
最愛の教師とは初めから何もなかった  
全て自分の勘違いだった北極で遭難した先生が真っ先に自分の前にも現れたり  
前世で夫婦だったと知り今でも愛し合っていたと思っていたのに  
 
心に大きく開いたこの穴はなんでもできちゃうキッチリスコップにさえ埋める事は出来ないんだ  
 
 
ダム予定地は山奥だったため戻って来た時辺りは開いた穴の様に真っ暗な闇夜に包まれていた  
 
 
「うっうっひっくうぐう・・・・・」  
ガラガラガラガラガラ  
 
泣き声とスコップが引きずる音は夜の町に響くばかり  
その悲哀の二重奏に気が着いた少女が一人  
 
「えっ千里!?こんな夜中にどうしたの!?」  
 
晴美は戸惑いの色を隠せなかった  
珍しく学校を休んだ親友がこんな夜中に血塗られたシャツを着てスコップを引きずり  
一人で泣いてるだなんて  
 
「千里!一体どうしたの!?」  
 
急に聞き慣れてた声が耳に入り千里は涙で揺らめく幼じみの姿に少し驚いた  
 
「は・・るみ?」  
 
 
「そんな格好おまわりさんに見られたらどうすんの!  
私の家近いし来て」  
 
 
晴美はやや強引にぬぐった涙に濡れ震える手を引き自宅まで連れて帰った  
夜遅くまで同人誌を描きコンビニでコピーを取った帰りの思わぬ再会  
両親は既に寝ており  
幸い上の兄も帰ってこない  
 
「顔はびしょ濡れだし泥だらけだしシャワー浴びなよ  
服は私のに着替えて良いから」  
 
 
スコップは玄関に置き  
半ば強引に血塗られた服を脱がせて風呂場に入れる  
「ひっ!手に血がついた  
なんか暖かいし!!」  
 
一体何がどうなってるんだろう訳がわからない  
 
シャワーと手を洗うため捻られた蛇口から出た水  
二つの水音が鳴り響く中混乱しつつも晴美はとてつもなく嫌な予感はしていた  
 
涙と泥と血を洗い落とせたのか千里は晴美が置いたパジャマに着替えた  
 
しかし目の焦点は定まらず眉はいつもの様な気丈な釣り上がりを失っていた  
左右対象だった真ん中分けも整える様子はない  
髪だって几帳面なはずなのにきちんと拭かれず  
水滴がポツポツとしたっていたのだ  
 
 
そのまま行き慣れた晴美の部屋に入ったがまるで幽霊の様に生気がなかった  
「きょ・・今日はどうしたの?  
風邪でも引いたの?  
それとも交通事故にでもあったとか・・・・・」  
 
 
幼い頃からよく知る彼女がまるで別人の様に様変わりしている  
きっと何か相当な理由があるに違いないと問い質す  
「・・・・・」  
 
「あっ話したくないなら話さなくて良いのよ」  
 
「・・んを・・して埋めたの・・・・・」  
 
「えっまた先生埋めたの?」  
 
彼女が先生をよく埋めてるのはよく知っている  
だがいつも埋めた後は喜んでいるとゆうのに  
何故なんだろう  
 
 
「私、一旧さんを殺して埋めてきたの・・・・・」  
 
「ええぇーーーッ!?  
なんで一旧さんを不自然消滅させたの!!!!  
旧ザクのプラモからポロロッカしてガンダムアニメに入ったから!!??」  
 
「違うわ、昨日帰りに河原で無理矢理レイプされたから。」  
 
幼なじみ千里は昔からきちんとしていない人を殺してるかの様な節は多々あったがなんとか見て見ぬフリを通して来た  
 
しかしそんな彼女が強姦され復讐のために殺すなんて  
悪い予感はしたがこれほどの事だとは  
 
「私ん家からの帰りに・・そ・・そんな・・・・・」  
 
「しかもね、復讐しようと千里眼で一旧さんの居場所突き止めたら倫ちゃんにも乱暴していて、  
先生にまで暴力奮っていて・・・・・  
旧姓が欲しいだなんて理由でよくも!よくも!  
殺しても殺したりないわよお・・・・・」  
 
「・・千里・・・・・」  
 
 
再び泣き始めた親友にどう声をかけて良いかわからない  
どんな慰めをかければいいのかわからない程むごい事実を黙って聞く他なかった  
 
 
「私馬鹿よね、  
犯されながらあいつの口から先生とは何もなかったと聞かされるまでずっと初めてが先生だと、  
責任を取れと先生に迷惑かけていたなんて。  
 
ごめんね晴美、こんな話聞かせてごめんねごめんね・・・・・」  
 
 
委員長とアダ名されるほどしっかり者の彼女が顔を真っ赤にして泣き崩れている  
 
 
慰める言葉を選んでる場合じゃない  
一番苦しい時支えてあげなくちゃ  
親友なんだもの  
晴美は千里の肩をそっと抱いた  
 
「うっううっううっ・・・・・」  
 
 
震える肩ごしに伝わってくる彼女の憎しみが、苦しみが、悲しみが、弱さが、切なさが、  
彼女の負った深い深い心の傷を自分は癒す事も引き受ける事も出来ない  
 
だからせめて少しでも私の胸の中で楽になってほしい  
どうか・・どうか・・  
 
 
「うううごめんね、こんな私でごめんね・・・・・」  
 
「いいのよいいのよ、  
例え世界中が敵になっても私は千里の味方よ  
 
だから千里は千里のままでいいんだよ」  
 
 
「は・・るみ・・」  
 
 
その夜はずっと親友の胸の中で泣き続けた  
この世の誰よりも優しくて  
何よりも暖かくて  
何処よりも安心できる場所だったから  
 
 
「あれ千里、泣き疲れて寝ちゃったの?  
しょうがないなあフフフ」  
 
ベットに寝かせ電気を消し布団を被り藤吉晴美は眠りにつく  
赤ん坊の様にうずくまる木津千里を守る様に抱き抱えながら  
 
 
翌朝千里を家に送り届けた  
彼女の両親に本当の事を話せるわけもなく  
 
「少し体調が良くなり気分転換に散歩していたら  
交通事故で野良犬が死んでいたので  
一緒に埋めてあげたら彼女の気分が悪くなり  
家で一旦休ませたら眠ってしまった」  
 
 
と嘘をつくと娘の親友という事もありすんなり信じ聞き入れた  
 
 
「ほらスコップと服も洗っといたよ  
じゃあ学校行くね  
千里は調子良くなってから来て」  
 
 
「・・うん・・・・・」  
 
 
彼女はスコップと服を受け取り  
憂いの中に微笑を浮かべると自宅に入っていく  
 
 
―でもその日、千里は学校に来る事はなかった―  
 

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