ここは糸式望女子問題調査隊、略して絶好調である。隊長はもちろん我らが糸色望。スウィーツ好きのイケメンである。  
元禄時代より続く名家である糸色家の後継者として将来を嘱望されている身でもある。  
それなのに、望は高校教師などという稼業に手を染めてしまっている。  
それだけならまだしも、年の離れた妹と同じような年齢の娘子たちとのトラブルに巻き込まれてばかりいる。  
これでは、糸色家、ひいては旧糸色家領地内の民草の安泰が危うい。  
 
 そこで、彼の日常生活を監視し、可能な限り未然に、やむをえない場合は事後にトラブルを解決し、  
もって糸色家の安寧を図ることを任務とする、絶好調が生まれたのである。  
いわば糸色家防衛隊の一部として活動していると思ってもらってよい。  
 
 隊員は、望の教え子や同僚のうち、彼と関係を持った者の中から厳選されている。  
普段は女子高生・職員として望と同じ学校に通っているが、ひとたび事件が起きると、特殊コスチウムに身を包み、問題解決のために尽力するのである。  
 
     ☆  
 
「おお、新規開店の案内が!」  
 
 絶好調の隊長室で、望がいつになく喜色満面といった調子で何やらチラシを持っている。  
隊長を囲むのは隊員のうち、当番として絶好調に詰めている、千里・晴美・あびる、そして奈美。特に望と親しい面々だ。  
 
「どうしたんですか、隊長?」  
「銀座の有名洋菓子店『アルフォンス・ミュシャ』が小石川に支店を開くんですよ。  
 開店初日にこのチラシを持っていくと、特製ピスタチオプリン1パック10個入りをを無料でプレゼントしてくれるんですって。  
 それでですね、開店日が今日なんですよ」  
「先生は本当に甘いものが好きですねぇ」  
奈美が呆れたような声を出す。  
「普通の反応ありがとうございます」  
「普通って言うなぁ!」  
「はいはい。他にも美味しそうなスウィーツがたくさんありそうですから、よく見て選んで来ますね。三時のおやつは任せてください」  
 奈美のいつもの反応をさらっと受け流し、望は身支度を整えた。  
 
「じゃあ行ってきますね。皆さんの分もありますから、どうぞお楽しみに」  
「ちょっと、隊長!」  
「書類が溜まってますよ」  
 晴美とあびるの声が聞こえなかったようなふりをして望が部屋の外へ向かう。  
「隊長〜!」  
 千里の僅かに怒気を含んだ声にも耳を塞いだまま、望はいそいそと出かけていった。  
 
     ☆  
 
「本当にもう、先生ったら! 帰ってきたらきっちりお仕置きしないといけないわね。」  
千里が額に青筋を立ててプリプリしている中、あびるがくだんのチラシにふと目を留めた。  
「あら?」  
「どうしたの? あびるちゃん」  
晴美が尋ねた。  
「この店の名前なんだけど」  
あびるが封筒を指さした。  
「先生が言っていた名前と微妙に違ってるわ。ほら」  
 
 彼女が指さしたところを一同が覗き込む。  
「本当だ!」  
「アノレフォソス・ミュツャ」  
「ばったものみたい」  
「隊長、大丈夫かなあ……」  
「まあ、いい年をした大人だからだいじょうぶでしょう。」  
 
 だが、それきり望は三時のおやつ時どころか、夕食時を迎えても帰ってこなかった。  
 
     ☆  
 
「遅いわねえ」  
「隊長、どうしたのかしら。」  
「もしかして、大人街で悪い遊びでも……」  
「なんですって! 許さないんだか…」  
 
 ここで突然ドアが開いき、まといがよろめきながら入ってきた。着衣がひどく汚れ、ところどころすり切れていて、髪もいつも以上に乱れている。  
 
「うう……」  
 
 まといが床にへたり込んだ。皆が弾かれたように立ち上がって彼女を取り囲む。  
 
「大丈夫? しっかりして」  
「何があったの?」  
 
 まといは声を絞り出した。  
 
「うう……ご、ごめんなさい。目の前で、た、隊長を……」  
それだけ切れ切れに言うと、ガクリと首を垂れた。気を失っていた。  
 
「医務室に連れて行くわ!」  
「お願い!」  
 
 ストーキングの達人として、望の日常生活の監視を続けているまといをここまで虚仮にした者はこれまでいない。  
望を拉致した者は只者ではない。  
いったい誰が、何のために!? 突発的な事態に浮き足立つ絶好調。  
だが、間もなくさらなる激震がもたらされることになる。  
 
「いったい、何が……」  
 
 奈美が不安になって呟きかけた言葉は、けたたましい館内緊急警報によってかき消された。  
 
「緊急警報! 緊急警報! 隊長の位置情報発信装置からの電波が途絶えました! 隊員は直ちに作戦会議室へ集合して下さい! 繰り返します。隊長の……」  
 
 皆が一斉に立ち上がった。  
「ああ、やっぱり!」  
「だからあれほど言ったのに!」  
「帰ってきたら、きっちりお仕置きね。」  
 
     ☆  
 
 絶好調の全員(三六協定で休暇中の可符香を除く)が作戦会議室に集合した。  
手当を受け、意識を回復したまといも簡易ベッドに横たえられたまま、部屋の隅にいる。  
室内には、既に副隊長の智恵(教職員で唯一の隊員であるが、実質的に絶好調の影の隊長である)が待機している。  
内勤で文書作成を任務としている霧が、集まってきた面々にてきぱきとレジュメを配付する。  
皆がざわつく中、突然、正面の大型ディスプレイに外部からの強力な通信が混入してきた。  
通信係の芽留がしばらく格闘していたが、智恵に指示を仰いできた。  
 
『副隊長! 異常な波形の通信で、遮断が困難です』  
 
 智恵は腕組みをしていたが、眉一つ動かさずに指示を下した。  
 
「いいわ。おそらく敵からの通信でしょう。スクリーンに映しなさい」  
 
智恵は最後に目配せをした。芽留も智恵の意図に気付いたようだ。  
 
『……はい』  
 
 芽留が装置を操作していると、突然画面に女性の顔が映し出された。長身の艶やかな美人である。  
ブロンドはカエレのものよりさらに艶があり、緩やかに波打っている。  
 
「あ、あいつ、う……『最高の女』だわ……」  
 簡易ベッドから首をもたげたまといが呟く。  
 
『絶好調の皆さん、ごきげんよう』  
「くっ……」  
 
 何とも艶っぽい声が流れてきた。その媚びを含んでいるようなベタッとした甘い声色は、妙に智恵たちを苛立たせた。  
 
『こちらは〆布家望獲得プロジェクト、略して希望プロ。  
 用件だけ言うわね。そちらの隊長、望さんは私たちが預かっています』  
 
ここで画面が切り替わり、女の全身が映った。  
最高の女が、ぐったりとして目を閉じた望をお姫様だっこしているように見える。  
だが、よく見ると、望の両手足には細いワイヤーがかけられていて、画面上方に延びている。  
そして、上半身は赤いロープで幾重にも括られている。服が所々はだけ、青あざが見え隠れしているのが痛ましい。  
 
「かなり拷問されてるわね……」  
あびるが冷静に分析する。  
 
 ここで最高の女は望の袴をめくり上げ、妙に生白い太腿を露出させると、柔らかそうな内腿におもむろに接吻した。  
 
『あふぅん』  
 
 望の喘ぎ声がした。絶好調の全員が聞き覚えのある、隊長が本気で感じているときのものであった。  
 
 最高の女の目に邪悪な光が宿る。手がすうっと望の股間に伸びると、妖しい動きでまさぐる。手の微妙な動きに合わせ、望が  
「あっ、あぅ、ん」  
と押し殺した声を漏らしているのが聞こえてくる。  
 
 望をいたぶりながら女が言葉を継いだ。  
 
『要求は簡単よ。糸色家が我々に無条件降伏し、望さんを我々〆布家に婿入りさせること。  
 そして、ここ小石川と蔵井沢にある糸色家の利権をすべて我々に譲り渡すこと。  
 そうすれば我らの「希望」プロジェクトは第一歩を踏み出せます』  
「な、何ですって!」  
『それまで望さんは預かっておくわ。そちらから意思表示があるまで、そうねぇ……まぁ婚前交渉の一環として、せいぜい楽しませてもらうわね』  
 
「くっ!…………」  
千里やまといが歯噛みをして悔しがる。  
 
『どう?さっさと降伏する? それとも、実力でこのコを取り戻しに来るぅ? どちらにしても早くしないと……』  
 
 ここで最高の女は望の袴をぱっとはだけ、局部を露出させた。  
下着は既に取り去られていて、ありのままの絶棒がスクリーンに大映しになった。  
そうしてどういう指技を施していたのか、早くも先走りの露を滲ませて屹立している絶棒に顔を寄せ、いとおしげに舌を這わせ始めた。  
 
「あっ!」  
「や、止めてぇ!」  
 
 だが、最高の女は固くなった茎を上から下へねっとりと舐め下げ、下から上へいやらしく舐め上げていく。  
その舌捌きは真夏に美味しいソフトクリームを急いで舐め取るように、一点の隙もない。  
女は幾度となくピンクの舌先を望の茎に往復させていた。  
が、不意に、透明な涙が一滴滲んだ頭に妖艶な唇をぱっくりと被せ、そのまま深く飲み込んでいく。  
 
「いやあ! それ私の!」  
 
思わず何人かの隊員が悲鳴混じりの声をあげた。  
 
 ディスプレイの中で、最高の女はまるで絶好調の面々に見せつけるかのように、ゆっくり顔を上下させている。  
おそらくは口の中でも、舌先が敏感なくびれや裏筋を的確に舐め回しているに違いない。  
しかも、絶品の舌技を施しつつ、指先を絶棒の根本に添え、男の芯に微妙な刺激を送り込んでいるのを智恵は見逃さなかった。  
 
――あれは、古来より伝わる禁忌の房中術、筒涸らしの術!  
智恵の顔色がわずかに変わった。  
 
 早くも達するのか、望が緊縛された全身をしきりに捩っていたが、ぴくぅんっっと大きく痙攣したのを境にぱったりと動かなくなった。  
最高の女は、何かを美味しそうにほおばっていたが、やがて絶棒から口を放すと、ごくりと喉を鳴らして望の屈服の証を嚥下していく。  
 
『うっふふ……美味しかったわよ♪』  
「く、悔しい!」  
「おのれぇ!」  
『早く来ないと、このままぜ〜んぶ絞り取っちゃうわよ。それとも、私たちの僕として改造しちゃおうかしら』  
 
「本音はそっちね」  
智恵が低く呟く。  
 
『じゃあ、待ってるわよ〜』  
ここで通信が途絶えた。  
 
 会議室に重苦しい沈黙が広がりかけたが、すぐに智恵が指示を出した。  
 
「仕方ないわ。すぐに隊長の救助に向かってちょうだい。なんとしても改造される前に救い出すのよ!」  
「はいっ!」  
「音無さん!」  
『解析できてます。奴らは小石川区内ポイントC地点にいます』  
「流石芽留ちゃん。よくやったわ。そうね……木津さん、小節さん、加賀さん」  
「はい」  
「あなた方が出撃して。フォーメーションH、パターン69」  
「了解っ!」  
 
 かくて絶望戦隊ノゾムンジャーは、隊長救出という史上かつてない重要な任務を帯びて出撃することになった。  
頑張れ、絶望戦隊ノゾムンジャー! 負けるな、絶望戦隊ノゾムンジャー!!  
 
 
 
 通信を終えた最高の女は、望をベッドに投げ出すと、改めて四肢を革バンドで大の字に拘束した。  
望はある程度はベッドの上で身を捩ってみたものの、とうていそこから逃げ出すことは出来ない。  
 
 望の全身の青あざは、もちろんキスマークによるものである。  
ケーキ屋に似せて造られた罠にまんまと吸い寄せられた望は、あっさり〆布家本部アジトに連れてこられた後、すぐに衣服をはぎ取られた。  
そして、宇宙の真理を知っている団地の奥さんに望の性感帯を全て探査・発見された。  
その憎いほど的確な指示の基で、須寺夫人や目尻に小皺のある妙齢のメイドを始めとする微妙な女性たちによって、  
それらをことごとく青あざが出来るほどキツく吸い上げられたのだった。  
この刺激により、望の性感は体の芯の奥の奥から掘り起こされることとなった。  
今や望は全身を快感スポットに覆われていると言っても良い状態になっている。  
つまり、どこを触られても快感で悶えるほどえっちな体になってしまっているのである。  
 
☆  
 
「うう……もう、放してください」  
「あらぁ……うっふふ、この人質さんは面白いことを言うわねぇ」  
 
 女はますます笑みを深くしながら望の耳たぶをてろっと舐め、うひゃぁという声を上げさせた。  
そうしておいて、そっと耳たぶを摘み、顔を寄せると耳元で優しく呟いた。  
 
「なめるんじゃねーぞ、このウスノロ」  
 
驚愕した表情の望を見下ろしながら、女はあくまで優しく、だが絶望的に宣言した。  
 
「お前はこれからすぐ改造手術をしてやる。我らの従順な僕として、死ぬまでこき使ってやるわね。  
 いや、死んでも使い続けてあげるわ。  
 ……うふふ……あっはははぁ………お――っほっほほっほほほ……」  
 
 女の高笑いはしばらく続いた。  
 
 
☆  
 
 
 木津千里は、レッドチリに変身した。赤いセーラー服(これが千里の特殊コスチュームである)に身を包んだレッドチリが、C地点の正面突破を図るべくダッシュしかけたその時である。  
 
「木津さんじゃない。何してるの?」  
 
 突然声を掛けてきたのは准であった。  
 
「今忙しいの。後で!」  
彼の脇を駆け抜けようとしたレッドチリだったが、その腕を准がはっしと掴んだ。  
 
「ちょ、ちょっと、久藤君! 何をするの!」  
「木津さん。ボク、お話を聞いてほしいんだ」  
「え!? この非常時に、何を……くっ……」  
手を振り解こうとするが、まったく准の力は緩まない。変身後のチリのパワーは常人の5倍はあるから、これは明らかに異常事態である。  
 
「お願いだから、聞いてよ」  
 
 准の声は相変わらず淡々としている。  
 おもわず准の顔を覗き込んだレッドチリの目に飛び込んできたのは、彼の目に妖しく輝く邪悪な赤い光であった。  
吸い込まれるようにその光を凝視しているうちに、レッドチリの力がすうっと抜けていった。  
 
――こ、これは!  
「じゃあ、話すよ。  
 『私こと木津千里は、糸色望先生のことを考えると身体が火照って仕方がない。  
 いけないことだとは分かっていても、つい手がアソコに伸びてしまう』  
 
――な、なんて破廉恥な! ああ、でも、手が!  
 
 驚いたことに、千里の意志に反して、手が秘所に伸びていった。  
 
――ああ、駄目よ、ダメ! 私ったら、どうしたのかしら……。  
 

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