「キャァァッ!」  
ふいに起こった悲鳴に、思わず振り返ってしまった。  
前方、僅に一メートル、拡がったスカートの下から、散らばった石榴の実が覗いていた。  
「ちょっと先生!見たわね!訴えるわよ!」  
脚が此方を向くのが見える。眼を上げると、木村カエレだった。  
どうやら、彼女の下着を見てしまったらしい。  
いつもの事とはいえ、ここまで間近に見たのは、来日初日を除けば無かっただろう。  
「聴いているんですか!教師が生徒の下着を覗き見るなんて、恥ずかしいとは思わないんですか!」  
 
「見たくて見た訳ではありません!そもそもいつもの事じゃありませんか!」  
厄介さんとは関わらないに越したことはない、しかし、今はもう遅い。  
兎に角、今は少しでも自分を正当化しないと。  
黙殺などしたら、彼女なら本当に司法に訴えかねない。  
「い・・・いつものことですって・・・」  
「そうです!いつもです!いつも見せられてるものをわざわざ覗きませんし、反応もしません!」  
「な・・・そ、そこは反応しろよ!なに男サボってるんだよ!」  
「・・・え?」  
予想外の返事が返ってきた。  
「見られるのもムカつくけど、反応されないのも女として屈辱  
「男として、働く事を要求します!」  
「じ・・・じゃあどうすればいいんですか!反応してもしなくても、結局訴えられるじゃないですか!」  
 
「あら、先生は働かないんですか?それはよくありませんね・・・今日は勤労感謝の日ですよ?」  
しかも、きっちりさんまで現れた。おまけに、他にも生徒達も集まってきている・・・  
このままでは怠けてるのにかこつけて、きっちりさんに大人の玩具に感謝させられかねない・・・  
しかしここで反応したりしたら、それこそ他の女子に殺される・・・  
嗚呼・・・どうすれば・・・  
 
「やだなぁカエレちゃん、千里ちゃん」  
背後から声がした。振り向かなくとも、このポジティヴな発音を発するのは、彼女しかいない。  
「カエレちゃんみたいな美人のパンツみて、怠けてる男の人なんていないわよぉ」  
「じゃあ、この男はどうなのよ!」  
指を指されてしまった。しかも、指先が心なしか低い位置を指している  
「ご覧なさい!袴に張っているべきのテントが無いじゃない!」  
眼線を下ろしてみる。確かに、腰から下の袴には、一切の隆起がない。  
「これがサボってなくて、何だっていうのよ!」  
「うーん、これは・・・」  
嫌な予感がする。  
彼女を止めても  
 
「あ、そうか!大丈夫、先生はやっぱり怠けてなんかいないわよ」  
「じゃあ一体なんなのよ!」  
「先生は――――働かないんじゃなくて、働けないのよ!」  
「な・・・何を言い出すんですか一体!」  
「だって先生、袋綴じにも反応できなかったし・・・」  
「あれは私ではなく内容に問題があったでしょう!」  
「いくらカエレちゃんでも、働けない人を働かすのは難しいわね」  
「人の話を聞きなさい!」  
 
「それはよく、ありませんね・・・働けないのなら。」  
「たしかに、よくないわね・・・本当に働けないのなら」  
 
「み・・・みなさん、何を言い出すんです?」  
目の色が変わっている。しかも全員。  
「それでは、今、確かめてみましょう。本当に働けないのかどうか。」  
「え・・・」  
「働けないのなら不労働は不問!働けるのに不労働なら、偽証罪で闇の法廷に訴えます!!」  
「えええっ!?」  
 
 
「――では協議の結果、順番で確めることになりました。一人5分とします。」  
きっちりさんが発言する。  
彼女の他に、女子が5人。  
「因みに、カエレちゃんと可符香さんは審判とします。」  
つまり、女子4人に何かされるということか。  
 めるめる  
『先鋒はオレだ』  
音無芽留が前に出る。逃げ出したいが、既に手足は縛り付けられている。這うようにしか動けない。  
私は今、生徒達によって弄ばれようとしている。  
兎に角、今するべき事は一つ、ただひたすら、快楽に耐えることだ。  
『いくぜ下半身ニート』  
携帯電話を握った幼いの手が、袴へと伸びてくる。思わず、目を閉じる。  
 
・・・・・・ぶぅ〜ん、ぶぅ〜ん、  
「・・・へ?」  
袴の上から、微かな振動を感じる。目を開けると、携帯電話が振動していた。  
「・・・こ、これだけ?」  
男子たるもの、携帯電話やらゲームのコントローラやら祖父の電気あんまやらで、  
思春期に一度は考えたであろうことだ。まさか、のっけがこれとは・・・  
自分もそこまでは若くない。この程度ならば5分くらい、耐えられるだろう。  
 
『あめーんだよニート』  
メール弁慶が画面上の文をみせる。しかし、振動は依然として続いている。  
次の瞬間、懐から冷たい物が侵入してきた。それも私の胸元で振動し出す。  
「わひゃっ!?に・・・二刀流!?」  
つい、声を出してしまった。いけない、この程度で負けてどうする・・・  
気を直し、メール弁慶を睨み付ける。  
目があった。これが見合いでなくてよかった。  
上目遣いに、頬を朱らめ、携帯電話を持つ両手を動かしている。  
振動場所が鎖骨、胸骨、乳輪と、ゆっくりとではあるが移動する。  
もう一方でも、内股、付け根、竿付近と這い回る。  
それを動かす両手の主は、目が合うと慌てて反らし、間をおいてまたそっと見上げる。  
もじもじ、ぶぅ〜んぶぅ〜ん・・・  
たったこれだけなのに何故だろう、とても気恥ずかしい。  
次第に、自分の頬にも血液が集まり出す。  
血液たちは、やがて顔だけではなく下へと集まり出して・・・・・・  
 
ピピーッ  
「残念、時間切れです。」  
『ちっ、しぶといなこの下半身介護』  
 
振動が止み、我に返る。  
あ・・・危なかった・・・  
あと少し遅ければ、我を失う所だった。現に、血液の数パーセントは腰より下に集まり出している。  
もっと気を引き締めねば・・・あと3人、耐えきらなくては!  
 
 
背中に、暖かいものが覆い被さった。  
「次は私ですね、先生」  
「い・・・いつからそこに?」  
常月まといの声だ。彼女が、後ろから抱きついているのだろう。  
「ええ、ずっと」  
耳許で、囁くように返事が返される。彼女の吐く息が、耳にあたる。  
「・・・せんせい」  
囁きが近づき、背中で彼女が動くのがわかる。  
肩胛骨に、二つの弾力を感じる。  
暖かい弾力が背に被さるのが、、二枚の布を通してわかる。  
「・・・ふぅっ、先生、これを、こうするね・・・」  
首筋に冷たい指があてがわれる。指は、すぐに襟へとかけられる。  
指が離れると、首から肩にかけてが冷えた外気に触れる。襟が下ろされているらしい。  
背の弾力は相変わらずそこに存在し、間の繊維だけが下へと流れていく。  
繊維が流れる度、その摩擦がむず痒い。  
と、摩擦が途切れた。人の肌の感触が次に来る。  
二つの弾力が、より強く、広く、暖かく押し付けられる。  
「はあっ、せんせい、あったかい・・・」  
耳許の吐息も強まる。  
見えない分、どうしても背の弾力を想像してしまう。  
「はぁ、想像して、せんせいにあたってる、わたしのこれを・・・」  
また弾力が移動する。柔らかさの中に、二つの塊があることがわかった。  
弾力が動くに伴って、徐々にその塊も擦れ、固くなっていく。  
その姿を想像す・・・  
 
ピピーッ  
「はいそこまで」  
ハッ・・・  
またしても我を失いかけていた・・・  
慌てて下を確認する。幸い、テントはまだ張られていない。今はまだ、だが。  
 
 
目を上げると、他の者の背から、異様なオーラが放たれていた。  
 
「次、わたし」  
引き籠り少女が前に出、常月まといが背中から離れる。  
小森霧が、息が顔にかかるほど接近し、じっと私の眼を見詰めてくる。  
不意に、視界が靄にくるまれた。いつの間にか、彼女が私の眼鏡をかけている。  
「先生・・・目、あけないでよ・・・」  
そう呟く少女の口から、舌が覗いた。真っ白な肌と相まって、それは艶かしく映える。  
赤い舌が、接近してくる。靄に覆われた視界が赤い舌に支配されていく。  
その尖端が眼球に触れそうになり、思わず目を瞑ってしまう。  
吐息が顔を撫でる。瞼に、湿った暖かいものが触れる。  
なめくじをを連想させるそれは暫し上瞼に留まり、それから下へと移動を開始する。  
下瞼、頬を塗らしたなめくじが、唇に被さり、また動きを止める。  
口に侵入するのか?そう身構えたが、なめくじは下への進軍を再開する。  
首に達したとき、頬に冷たい物が触れた。目を閉じていて解らないが、私の眼鏡らしい。  
なめくじが通った跡に、時折暖かい息がかかる。それを追うように冷たく固い眼鏡が触れる。  
先程はだけられた肩を、鎖骨を、赤いなめくじが濡らしていく。  
何故だか、目が開けられない。ただ、自分と少女の吐息だけが聞こえる。  
腹や腕に、少女の髪がかかってくる。  
なめくじが片側の乳輪を一周する。そこで一旦離れ、全体に覆い被さってくる。  
竿に、血液が集まりだしたのがわかる。  
働かないように意識を集中するが、かえっていけなかった。  
なめくじが竿や袋をを這い回る姿を想像してしまう。  
なめくじは今、臍に沿って動き、窪みを湿らせている。  
いけない・・・こ・・・このままでは・・・  
 
ピピーッ  
「はい、終了。しぶといですね先生。」  
た、助かった。  
「先生、本当に働かないんですね・・・引き籠りだって働くのに」  
眼鏡を返し、残念そうな口調で小森霧が去っていく。  
 
「さあ、最後は私です。」  
木津千里が進み出る。目が座っている。  
「気のせいか、前の3人で働こうとしてませんでしたか?」  
「そ、そんなことはありませんよ、はは・・・」  
正直、かなり危ない。心の中の偉大な同士様達が、労働の喜びを訴え出している。  
あと一人・・・耐えて見せねば・・・闇の法廷で裁かれる  
「みんなやり方がぬるいわ。働けないかどうか確かめるなら、きっちりやらないと。」  
手にリップクリームが握られている。  
「働けないのなら、これでも何ともないはずです。」  
「い・・・いったい何を?」  
「こうします」  
抗う間もなく、袴が下ろされた。首をもたげかけた竿が露になる。  
「キ、キャー!何をするんですか!ってか、最後の最後にそうきますか!?」  
「問答無用。」  
リップクリームが、繁みに、竿に、玉に、塗りたくられる。  
しかも、メンソール入りだった。  
「冷た!ち、ちょ・・・あ、熱う!痛っ!」  
男の弱点が、冷たい焔で燃えたぎる。  
血液が、この一点に集中する。今、私の男としての機能が働き始めてしまった。  
 
「やった・・・先生が、先生が立った!」  
「ハ○ジみたいに言うなぁ!」  
「あら、ちゃんと男として働けるじゃないですか。」  
「決まりね、偽証罪で闇の法廷に訴えます。丁度縛られてるし。」  
「いやぁぁぁっ」  
 
 
 
「判決。有罪。」  
目隠しをされ、つれてこられた法廷で即刻判決が言い渡された。  
流石に股関の炎は、もう鎮まっている。またこれが正常に働くかどうかは疑問だが。  
「被告人は不労働の偽証罪により、本日一日ムダ働きの刑に処す」  
「ム・・・ムダ働き?」  
「執行官、ここに」  
仮面の、何処かで見たような執行官が数人入ってきた。  
全員、手にリップクリームを握っている。  
「被告人は今日一日、ずっと労働すること。休みなしで。」  
「ええっ!?」  
「温情として、執行官はクリームを塗る以外には何もしないから安心しなさい」  
「そんな温情要りません!ホントにムダ働きじゃないですか!ってか、ホントに働けなくなるじゃないですか!」  
「執行!」  
ぬりぬりぬりぬり・・・  
「熱ぅ!いやぁぁぁぁぁぁ・・・」  
 
 
《『ぼくは勤労ができない』 完》  
 

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