高天原を追放されたにも関わらずスサノオはゴキゲンでした、  
 
何故なら地上の出雲の国はアンテナがバリ3と電波状況が絶好調だったからです。  
 
 
圏外だった高天原での欝憤を晴らすかの如くめるめると懲りずに毒舌メールを送ったり、  
ネット掲示板を荒らしたりと久しぶりのモバイルライフを満喫しており。  
電池残量がなくなる毎に服の裏地に縫いつけた電池と交換し  
十秒以上眼を開けれるドライアイになるほど携帯を使っていましたが沢山あった電池も底をついてしまいました。  
ガーーーン!!  
 
 
やりすぎたと青ざめ頭を垂れると、  
出雲の国を流れる斐伊川が視界に入りました、  
そして川をよく見ると箸が岸に流れついていました。  
 
『ほお上流に誰か住んでるな、  
充電させてもらうか。』  
 
斐伊川の上流へ上流へとスサノオは神々の中ではかなり小柄な体で上っていきます、  
すると山の中にひっそりと佇む高床式の住居を見つけましたが中から何故かすすり泣く声が聞こえるではありませんか。  
 
「うっうっううう・・・」  
 
電池の残量が残り少ないものの声を出したくはないスサノオは質問を書いた液晶をぐいっと泣いてる老夫婦に近づけました。  
 
『オマエら何が悲しくて泣いてんだよ、  
架空請求でもされたのか?』  
辛辣な質問に気がついた老夫婦のうちの夫アシナヅチは単眼鏡ににじんだ涙を拭きながら答えました、  
「いいえ違います、越からヤマタノオロチと言う恐ろしい・・」  
 
するとアシナヅチが喋ってる途中なのに眼鏡をかけた幼い娘のクシナダヒメと黒くゆるやかな曲線の髪が美しい妻テナヅチが泣き叫び始めました。  
 
「何で男の僕がクシナダヒメなんだよ!!おかしいだろ!!」  
 
「ええい童は黙っておれ!私こそまだ十代なのに何故こんな老婆の役なのじゃ!!」  
 
「僕の叔母だから母役でも老婆役でもいいだろ!!」  
 
「私をその呼び方で呼ぶなぁーーーッ!!」  
 
 
「まあまあお二方落ち着いて下さいオロチについて説明して・・」  
 
 
「おまえは本当に爺だから良いではないか!!」  
 
しびれをきらしたスサノオは青筋を立てながら液晶を再び向けました、  
 
 
『うるせーだまれ!!話が進まねえだろ!カス!でヤマタノオロチって何なんだよ!?』  
 
 
「お見苦しいとこを申し訳ありません、  
ヤマタノオロチというのはそれはそれは恐ろしい怪物なのです。」  
 
「私達夫婦には八人の娘がいましたが、  
ヤマタノオロチは  
「それは水兵さんが着る服よ!」だの  
「それは死体の髪形よ!」だの  
「それは今夜どう?のサインです!」だのと言い掛かりをつけて次々と娘達を訴え、  
残ったクシナダヒメも告訴しに来る時期になったのです。」  
 
 
『なんだよそれウザイなw』  
 
「ウザいのですが  
ヤマタノオロチは八つの人格と八つの谷、八つの峰にわたるほど日本人離れした体格の大蛇で、  
眼は青ざめた様に真っ青ですし、  
血がただれた様に真っ赤な布を穿いてる恐ろしい化け物なのですよ。」  
 
 
語るだけで怯え震えるアシナヅチを前にスサノオは自信ありげに微笑みます、  
 
『その化け物、退治してやっても良いぜ、  
携帯を充電させてくれればな。』  
 
 
突然液晶に浮かんだ予期せぬ言葉にアシナヅチもテナヅチもクシナダヒメも一瞬固まりました。  
 
 
「おまえの様な子どもがあのオロチを退治じゃと?」  
 
「そーだよオマエみたいなガキに出来るのかよ?」  
 
『おめーには言われたくねえよ!  
俺はガキじゃねえ三貴神の一人で荒らし・・じゃなく嵐と海を司るスサノオノミコトだ。』  
 
 
「ええぇえーーーッ!?」  
 
アシナヅチ達は驚きを隠せませんでした、  
スサノオと言えば八百万中知らぬ者はいない一柱です。  
毒舌メールや文字化けで神々を苦しめ高天原の秩序を乱し最高神アマテラスをひきこもらせた恐怖の魔神。  
震え上がる程に厳つい大男に違いないと思っていたのに、  
目の前にいる彼は夢にも思わぬ程小さくて幼くあどけない姿、  
しかも携帯メールでしか意志疎通出来ないだなんて。  
「でも世界を滅ぼしかける程のお方ならあのオロチも倒せそうですね、  
わかりましたウチで充電して下さい。」  
 
 
その言葉を聞くとスサノオはすぐに充電器を携帯につけてコンセントをガシっと差し込みました。そして充電中の電池マークが点灯する携帯でなにやら  
めるめると文字を打ち初めました、  
 
『うむ助かったぜ、しかしオロチを倒すにはおまえらの協力がいる、  
とびきり強い酒を八樽造り外に置け。』  
 
 
「えっオロチと酒宴でもする気ですか?  
何故ですか!?」  
 
 
『まあそんなとこだ、急げ!おまえらは酒の神の子だからすぐ造れるだろ、早く!!』  
 
 
「はっはい!わかりました!」  
 
アシナヅチとテナヅチはよくわからないまま急いで酒を用意し始めました。  
 
アシナヅチとテナヅチが腑に落ちない顔でいそいそと酒を用意し、  
外に置いて行く様を充電器で充電したままの携帯を片手にスサノオは眺めているとまだ未成年で酒造りに参加出来ないクシナダヒメが喋りかけてきました。  
 
「子どもは酒飲んじゃいけないんだぞ。」  
 
 
『だからオメーが言うな!  
それよりおまえの姉貴は髪形やら服装やらくだらねー理由で訴えられたそうだがおまえは何で訴えられるんだ?』  
 
 
「あぁ僕の一つ上の姉さんを訴え終わったオロチが  
「末娘のあんたクシナダ姫っていうの、変な名前。」  
って言ったんで思わず  
 
「おまえが言うなよエセドラゴン」  
と言い返すと  
 
「この!訴えてやる!!」って」  
 
『やっぱりくだらねーじゃねえかw』  
 
 
「そう・・そんなくだらない理由で獄中生活だなんて・・僕やだよ・・」  
 
 
『・・そんな事はさせねえ、俺がオロチをブッ潰してやる。』  
 
 
「スサノオ・・・・」  
 
 
――恋が始まるには、  
ほんの少しの希望があれば充分です。  
 
 
その一方酒の用意が出来た途端ドドドドと凄まじい地響きが起こりだしました、  
不動のはずの大地を揺るがし  
日本最古にして最大最強の怪物が襲来したのです。  
 
 
「私をこんな化け物にキャスティングするだなんて訴えてやる!!」  
 
 
「大和の神話に出れたのですからここは和を持ってよしとしましょう。」  
 
「めんどくせーみんな殺っちまおうぜ!」  
 
 
「この様な怪物に配役すると言う事は女性蔑視に繋がるゆゆしき問題です」  
 
ヤマタノオロチの八つの人格から発する御叫びは遠い山々まで響き渡り、その日本人離れした巨体は木々を薙ぎ倒していきます。  
鳥や獣や達は訴えられてはたまらないと逃げ出しました、  
同類の蛇でさえも。  
 
その恐ろしさに太陽は西の大地へ逃げ込み  
代わりに出た月にいつもの美しさは失せ  
星たちは輝く事さえやめてしまった、  
 
 
誰がこの邪龍を止められようか?  
 
 
アシナヅチ宅を眼にするとオロチは再び恐ろしい声で叫びだしました。  
 
 
「さあクシナダヒメを出しなさい、  
出さないと告訴するわよ!!」  
 
 
家の中で震えるクシナダヒメ達は理不尽な慟哭に益々震える怯えました、  
すると  
 
ぴろりぱらぴろ♪  
 
 
「やっと法廷に出る気になった様ね、  
ん?クシナダヒメのアドレスじゃないわ!?」  
 
 
『俺はスサノオってモンだ、おまえのアドレスはクシナダヒメに聞いたんでな。』  
 
オロチが再びアシナヅチ宅を見下ろすと、  
クシナダヒメよりやや大きいものの随分小柄な人影があり、  
携帯のディスプレイに照らされて顔がぼうっと光って見えました。  
 
 
「あんたがスサノオ?  
強そうな名前の割に随分かわいい見た目なのね。」  
『おまえに比べれば誰だってな』  
 
「この!訴えてやる!!」  
 
『まあ待て、おまえも裁判続きで大変だろう。  
酒でも飲んで一息つけよ。』  
 
「酒で私を買収する気なの!?」  
 
 
しかし大酒飲みをうわばみ(大蛇)に例える様にオロチは酒が大好きです、一度意識するて爽やかながら鮮烈な酒の匂いが離れません。  
 
 
「まあちょっと位なら告訴するのに支障は出ないわね、どれどれ・・・・」  
 
 
軽い気持ちでオロチは樽に入った酒をゴクゴクと飲み始めました、  
まさにうわばみ。  
 
「ぷはぁ〜このお酒鮮烈な味で香りも良いわね、  
・・・・・ん?」  
 
 
よく見るとスサノオもまけじと何かを飲んでいました。  
 
「フフフ、あんた子どものくせにオロチの私と飲み比べようっての?  
良い度胸じゃない。」  
 
 
そう言うとオロチはこの生意気なスサノオを圧倒してやろうとペースを上げて飲み続けました。  
 
 
「うぅ・・ん、ヒック」  
どれほど飲んだでしょうか流石のオロチも酔いが回り顔も赤くなってきました、  
しかしスサノオの方は何故か最初とまったくかわらぬ様子で飲んでいます。  
何故ならオロチが飲んでいるのはアルコール度数が50以上の火がつく様な強い酒であるのに対し、スサノオが飲んでいるのはただの清涼飲料水だからです。  
 
「・・おか・・しい・・まるでジュースでも・・飲んでるかの様に・・グイグイと・・」  
 
 
『もう終わりかよ?』  
 
「うるさい!和を持ってみんな飲み尽くすのが義務・・!!」  
 
 
オロチは今八つのどの人格かもわからぬ程酔ってもなおガブガブと飲み続け、  
八樽目にまでなるとうまく言葉を発する事さえできなる程泥酔してきました。  
 
『この瞬間を待っていたぜ!  
今日はパンツ見せんなよ誰も化け物のパンツなんて見たくねえからな。』  
 
『大和撫子と言っても外人のオタクどもには結構嫌われてたぜ!』  
 
『内戦地帯だから攻撃的とかキャラが安易過ぎるんだよ』  
 
『ジェンダーフリーとか言ってもどうせおまえも訴えるしか能がないんだろ(゚ ∀゚ )』  
 
 
スサノオはオロチの八つの人格に応じた八種類の毒舌を容赦なく発していきます、  
 
 
しかしオロチは泥酔し訴える事も言い返す事もままならずに毒舌を受け続けついに・・・・  
 
 
「ぼえぇ―――っ!!!」  
 
ヒドイ断末魔を上げ血の様に真っ赤な布をひるがえしながら息絶えてしまいました。  
 
「やった!あのオロチを倒したあ♪」  
 
「まさか本当に倒してくれるとはのう!」  
 
 
クシナダヒメ達は長年自分達を苦しめてきたヤマタノオロチが倒され抑圧されていた喜びに満ちあふれていました、  
しかし倒した当人のスサノオは何故か冷静です。  
何故ならもしオロチに仲間がいて訴えられでもしたら自分は殺人・・いや殺蛇犯として判決を受け獄中生活を受けなければならないからです。  
 
 
『そうなる前に根絶やしにしてやる!』  
 
 
そうしてスサノオは携帯カメラのライトで道を照らしオロチが通った跡をたどっていきました。  
 
 
長く長く続く蛇の道をたどっていくと大きな洞窟にまでたどりつきました、  
クシナダヒメの名前が載った書きかけの告訴状もありここがオロチの住家に間違いない様です。  
 
 
『仲間はいねえみたいだな・・』  
 
 
告訴状をのかしゴソゴソと漁っていると札束が大量に出てきました、  
おそらくクシナダヒメの姉たちから絞り取った慰謝料でしょう、  
 
そうして告訴状やら札束やら大量の紙を退かしていくと剣が出てきました、  
 
『そういや姉貴は女なのに帯剣したり俺の剣から女神生んだりと剣好きだったな、  
この前のおわびにこれでもくれてやるか。』  
 
 
スサノオがアマテラスに献上するこの剣こそ草薙の剣、  
天皇家に伝わる三種の神器の一つです。  
SMAPのいいひとではありません、  
 
 
こうして剣と両手に抱えきれない程の札束をみやげにスサノオはクシナダヒメ達の元に凱旋してきました。  
 
 
『服役してるおまえの姉貴達を保釈する位になら足りるだろうよ、』  
 
 
「うわあスサノオ何から何までありがとう、  
僕最初女役とか嫌だと思ってたけどスサノオの妻にならなりたいよ。」  
 
 
するとそれを聞いたアシナヅチとテナヅチは喜び勇みます、  
 
「おぉオロチを倒しただけでなく娘達も保釈出来てそのうえ婿になってくださるだなんて!!」  
 
 
「これはなんともめでたいのう♪」  
 
 
こうして保釈された姉達も加わり盛大な挙式が行われました、  
高天原に住む天津神に対し大地に住む国津神たちの新たなスタートでもあるのですから。  
 
 
挙式が終わるとスサノオとクシナダヒメ夫妻は新たな新居を造る場所を出雲国で探しました、  
 
 
『なんかここアンテナがずっとバリ3ですがすがしいな。』  
 
「じゃあここにしよう」  
 
そのためこの地は須賀と呼ばれ様になりました、妻もめとり、  
須賀須賀しい宮も建ち、  
最初出雲に来た時以上にご機嫌なスサノオは和歌を詠む事にしました。  
 
 
『アンテナ立ち、出雲八重垣妻ごめ八重垣造りて八重垣を』  
 

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