オオクニヌシ  
出雲大社の祭神であり、アマテラスが天にいる天津神の王であるなら、  
オオクニヌシは地上にいる国津神の王なのです。  
 
しかし彼も最初はオオナムジという加害妄想しがちの気弱な神でした。  
 
 
「あぁ早く行かなければお兄様達にご迷惑をかけてしまう!!」  
 
 
オオナムジの八十柱の兄達は絶世の美女ヤガミヒメにプロポーズに行ってるのですが、  
オオナムジは末弟で加害妄想が強くておどおどしてる癖に一番モテるため兄達の荷物持ちをさせられていました。  
 
いそがなくては迷惑をかけてしまうとはいえ八十人分の荷物、  
重くて重くて歩くのが精一杯。  
 
なんとか進もうと前を向くと海岸に赤い物が落ちていました、  
ユッケ?いいえよく見ると皮を剥がされたうえにひび割れて血を流してぐったりしているうさぎです。  
驚いたオオナムジは荷物を放り出してうさぎに駆け寄りました、  
 
 
「ひい!うさぎさんどうしたんですか!?」  
 
 
瀕死のうさぎは力を振り絞りなんとか口を開き  
事の顛末を語り始めました。  
 
「・・・実は私因幡に住んでるんですけど健康食品を売りにこの壱岐島まで来たんです。」  
 
白うさぎは因幡でうっかりマルチ商法にダマされ大量に買わされた洗剤や食品を売りに壱岐島にまで来ていたのですが、  
島の者が誰も買ってくれず渋々帰る事にしました。  
しかし船は全部出払っており戻ってくるまで待っていると売上報告に間に合いません、  
 
「早く他の場所に売りに行かなくては沢山売ってる人に申し訳がたちません!、  
でも海にはワニザメがいて泳げな・・  
ん?ワニザメかあ・・」  
 
白うさぎに名案が浮かびました、ワニザメ達利用するのです。  
 
 
「ワニザメさんワニザメさん、貴方達は沢山仲間がいるのね、  
でも私が今まで売ったお客の数ほどではないわ。」  
 
すると眼鏡をかけており太っていて硬派そうなワニザメのリーダーが答えました。  
 
 
「僕達は声優のサイン会の帰りで沢山いるんだぞ、そんな事はない。」  
 
 
「じゃあここから因幡まで一列に並んで下さい、どっちが多いか私が上に乗って数えますから。」  
 
上に乗って数えらるという一見屈辱的な要求ですがオタクで童貞ばかりのワニザメ達は  
人妻である白うさぎの色気に惑わされ一列に並ぶ事にしました。  
 
「八、九、十、十一・・」  
 
「どうだ僕達は沢山いるだろう?」  
 
「私が売ったのはこんなモンじゃないです、二十、二十一、二十二、二十三・・・」  
 
ワニザメ達はダマされてるとは知らず素直に並び橋になっている、  
終わり位になると白うさぎは調子に乗って本当の事を言ってしました。  
 
 
「ワニザメさん橋になってくれてありがとう。  
実は私、商法をまだ一つも売れてないんです。」  
 
それを聞いて怒ったワニザメ達は一列に並ぶのを辞めて白うさぎを取り囲み始めました。  
 
「僕等を弄んだな!」  
 
「ワニザメをなめるな!」  
「逸脱するのは三次元だけにしとけ!!」  
 
 
「ひいっ!ダマしてすいません、お詫びに洗剤とか健康食品とか無料で差し上げます!良い物ですから!」  
 
「いやいやそんなのよりもっと良い物持ってるじゃないか。  
おまえの萌えるやわらかい毛皮だよ!!」  
 
 
「ひいぃいいいーーーッ!!!!!!」  
 
 
白うさぎは無残にも毛皮を剥がされ海岸に放置されてしまいました。  
すると向こうから八十神達がやってきたのです、  
 
「全身の皮を剥がされこれはひどい、  
緊急オペをせねば!」  
 
「この秘伝の薬を飲み海水に漬かり潮風に当たりなさい、すぐ癒えるぞ。」  
 
白兎は心身ともに弱り切っているためすんなり信じて怪しげな丸薬を飲み潮につかる事にしました。  
しかし・・・・・  
 
「いぃいいい!!痛い痛い痛い!!!!!」  
 
 
文字通り「傷口に塩」状態なうえに八十神が自己完結して作った丸薬の相乗効果で痛みはさらに増し  
潮風に当たると渇いてヒビ割れ、  
あまりの痛みでとうとう気を失ってしまいました。  
 
「てへっ、俺達ドジっ子だなあ、  
アハハハハハハハハハ。」  
 
八十神達は自分達のうっかりぶりに大笑いしながら白兎を放置してヤガミヒメの元に向かったのです。  
 
「そうだったんですか!?お兄様達がした事は私がした様なもの!  
すいません!すいません!すいません!」  
 
 
オオナムジは自分がした事でないのに再び深い加害妄想に陥り謝り続けました、  
しかし白兎は息も絶え絶えで今にも死にそうです加害妄想を一時中断して正しい治療法を教える事にします。  
 
 
「すいませんまず真水で体を洗いこの蒲の穂を体に巻きつけます、マルチ商法は消費者センターに行って・・・」  
 
するとオオナムジの正しい治療法のかいあって  
白兎の傷は癒え毛が生えて白く美しい姿に戻っていきました。  
 
「治療していただいただけでなくマルチ商法への対処法も教えていただいてありがとうございます、  
ヤガミヒメの心は八十神でなく貴方が射止めるでしょう。」  
 
 
「えぇ!?どうして私の様な迷惑ばかりかける者が!?」  
 
「他の会員から聞いたのですがヤガミヒメは絶世の美女であると同時に絶世のファッションセンスを持っているんです、  
貴方なら彼女の眼鏡にかなうはずですよ。」  
 
 
嬉しい知らせではありますがどうして自分の様な者がヤガミヒメの眼鏡にかなうのだろうと疑問を抱きながら出雲に到着しました、  
すると八十神達がヤガミヒメに猛アプローチをかけてる最中でした。  
 
 
「君達の情熱はわかるけどこの服を着こなせるかい?」  
 
ヤガミヒメが見せ付けたその服は一見センスが悪く見える程奇抜で八十神達でそれを着こなせる者は皆無でした、  
 
それでもヤガミヒメは八十神中誰か似合わないかと見渡すと一番後ろに大きな荷物を抱えてようやく到着したオオナムジが目に入りました。  
 
 
「そこの袋担いでる君、君ならこの毛ガニTシャツ似合いそうだね」  
 
 
「そっそんな上級者服、  
私には着こなせません!」  
 
自分達が必死にプロポーズしていたのに最後にノコノコやってきてヤガミヒメの心を射止め、  
しかも彼女の要求を拒否したオオナムジに八十神達は殺意がふつふつと湧いてきました。  
そこである一計を案じオオナムジを山麓に連れてきたのです。  
 
 
「オオナムジよ俺達は狩りをしていてまるで焼けた岩の様に熱い大猪を追い込むからおまえが下で捕まえてくれ。」  
 
 
「大猪!?私には無理です!!」  
 
 
「そうか捕まえてくれるかあははははははははは」  
 
八十神は勝手に自己完結すると丘に登っていきました、  
 
 
「あぁ恐いですけど捕まえなくては兄様達にご迷惑をかけてしまう!!」  
 
するとドドドドと低い地響きをたてて山の上から赤く大きな物が迫ってきました、  
 
 
「ひいぃ!本当に焼けた岩の様!捕まえなくてはあああつううううーーーッ!!!!!!!!!!!!」  
 
オオナムジは健気にも大猪に見せかけた焼けた岩を捕まえようとして下敷きになってしまいました。  
 
「絶命した!間違いなく絶命した!」  
 
 
八十神は憎い憎い弟を始末できたと喜びながら去っていくと  
入れ代わる様に末息子の断末魔を聞き付けた母神がやってきました。  
 
 
「大変!オオナムジが!」  
 
普段冷静な母神も驚きを隠せず  
高天原の団地に住み宇宙の真理を知る程文化レベルの高い神産巣日神に頼んでオオナムジを生き返らせてもらいました、  
 
 
「あぁ生き返らせる手間をかけさせてすいません!」  
 
「それよりオオナムジ、貴方はこのままではまた兄達に殺されてしまうわ、スサノオ様の屋敷に匿ってもらいなさい。」  
 
 
その名前を聞いてオオナムジは青ざめました、  
スサノオと言えば世界を滅ぼしかけたり、  
あのヤマタノオロチを倒した恐ろしい神だからです。  
 
「しかも最近は黄泉の国に住んでるというあの!?」  
 
「一度死んだのに死者の国を怖がる必要ないわ、早く匿ってもらいなさい。」  
 
母神の意外と恐い眼に押されオオナムジは黄泉の国にいくことにしました。  
出雲で須賀須賀しい宮を立てた後スサノオは念願のイザナミとの対面を果たし、  
黄泉にも宮を建てていました。  
 
そのためイザナギが来た頃とうってかわり  
照明もありアンテナも立ってる快適な国になっていたのです。  
 
 
「でも恐いです!スサノオ様のご迷惑になってしまうだなんて!」  
 
 
しかし加害妄想に陥る彼を眼を輝かせながら見ている女神がいました、  
スサノオの娘スセリ姫です。  
 
「髪を尻尾の様に束ねてるだなんて素敵な人!」  
 
「ひぃ!すいません  
貴女はスセリビメですか?」  
 
突然聞こる嬉々とした声その主は女神の中では大柄な体に包帯が痛々しく巻きつけられていました、  
もしや父にDVを受けているのでしょうか?  
数々の逸話を聞くかぎり有り得ます。  
やはり恐ろしい方だとオオナムジは震えていると突然眼の前に携帯の液晶画面が突き付けられました  
 
『おまえだなヘタレのオオナムジは』  
 
 
「あら父さん」  
 
 
「えっ!?この方が!?」  
 
オオナムジは驚愕しました数々の凄まじい伝説を持つスサノオ、きっとゴツい大男に違いないて思っていたのに  
まさかこんな娘や自分よりずっと小さくあどけない姿だったなんて!  
 
 
『おまえのヘタレっぷりは聞いてるぜ、匿ってやるよ。』  
 
 
「えっこの素敵な尻尾の方が家に泊まってくれるの!うれしいわ♪」  
 
 
スセリビメはこの神に一目惚れした様です、  
しかし周りに容赦なく毒舌を浴びせるスサノオにとって周りに迷惑をかけない様に怯えてばかりいるこのオオナムジを認めたくなんかありません。そこで加虐してやろうとある部屋に招待しました  
 
『この部屋に泊まれよ、ちょっと蛇が出るがな。』  
 
「蛇ですかあ・・恐いですけどせっかく匿ってもらったのにわがまま言う訳にはいかないし・・・」  
 
おそるおそる部屋の戸を開けるとそこには・・・  
 
「ひいやああああーーーッ!!!!!!」  
 
 
「ちょっと出る」なんてレベルではありませんでした、  
部屋の床一面足の踏み場がない程びっしり蛇がうごめいていたのです。  
あまりの光景に腰を抜かし涙を浮かべているとスセリビメがクスクスと笑いながら優しく話し掛けました、  
 
 
「実はこの蛇はみんな私のペットなの、頭以外全部尻尾のかわいい子達よ♪」  
 
するとスセリビメは包帯をといてオオナムジに手渡したのです  
 
 
「この子達は皆調教していてこの布を振ったらよってこないわよ、」  
 
 
「わざわざすいません  
ありがとうございます!」  
 
こうしてオオナムジは蛇を布で避け安心してこの部屋で一泊する事が出来ました。  
次の日は蜂が沢山いる部屋を案内されましたが尻尾のある蜂もやはり調教されていて布で払って安眠する事が出来たのです、  
 
『スセリビメめあんな奴を助けやがって  
こうなったら手助け出来ない事をしてやるぜ。』  
 
スサノオはオオナムジとスセリビメを野原に連れてくるとかぶら矢をピュウっと茂みの中に射り言いました。  
 
 
『おいヘタレ、かぶら矢を早く取ってこい!』  
 
 
「は、はい!ただいま取ってまいります!」  
 
 
スセリビメは草を掻き分け矢を探しに行ったオオナムジの尻尾の様な後髪に見とれていると何やらコゲ臭い匂いがしてきました、  
ふと下を見るとなんと!放火属性がないはずの父がまるでカグツチの様に草に着火してるではありませんか!  
枯れ草ばかりもあって火は一気に燃え広がりました。  
 
「いやぁあああ!!父さんなんて事を!!!!!!」  
 
『テラ燃エス!  
まるでくま○りになった気分だぜ(`∀´)』  
 
 
一方辺りを炎に包まれたオオナムジは慌てふためきながら再び加害妄想に陥ってしまったのです  
 
 
「あぁ!ここで焼け死んだらせっかく生き返らせてくれた母様とかぶら矢を取って来る様に言ったスサノオ様にご迷惑がかかってしまう!」  
 
 
自分の命に関わる自体でも迷惑をかけないよう気にし頭を抱えうつ向くと突然足元にねずみが現れこう言いました。  
 
 
「内は広がっていて避難出来る、  
外は狭くて火を防げる、さあ早くここを踏み抜くんだ。」  
 
オオナムジはねずみの言う通りの場所を踏み抜くと大きな穴に落ち、  
火に焼かれるのを防ぐ事が出来ました、  
 
 
そうして上の熱が引いてきたのでふと見上げると先ほどのねずみがスサノオのかぶら矢を口にくわえて持って来てくれたではありませんか。  
 
 
「君が探していたのはコレかい?」  
 
 
「はいそれです!私ごときの命を助けてくれたばかりかかぶら矢まで持って来てくれるなんて、  
何故憂いばかりの私にそこまでしてくれるんですか!?」  
 
 
「憂いか、でも人の横に憂いと書いて優しいとも優れてると読める、  
君は憂いがある故の可能性を秘めているからね。」  
 
 
そう言うと不思議なねずみは去っていきました、自分は変わった動物に関わる事が多いなと思いながらオオナムジはかぶら矢を手にスサノオ宅に戻りました、  
すると黄泉は死者の国なのに葬式を開いてるではありませんか。  
オオナムジは泣いているスセリビメに聞いてみました  
 
「あの・・誰の葬式なんですか?」  
 
 
「うっうっオオナムジ様のです・・父さんが火をつけたせいで焼かれてしまって・・・・」  
 
 
「私焼け死んだんですか・・・・・いえ死んでませんよ、  
私は生きてかぶら矢を取ってきましたよ。」  
 
「えっオオナムジ様!?」  
 
先ほどまでの哀しみが一変し愛しい神が生きて戻って来た奇跡に大喜びしスセリビメは頬を赤らめ喜びました、  
すると再びオオナムジの眼の前に携帯ディスプレイが突き付けられました。  
『しぶとい奴だな!今日はダルイ疲れた、  
寝る前に俺の髪をとけ』  
 
「気がきかなくてすいません!」  
 
 
スサノオの髪を櫛でといでいくと余程疲れたのか彼はそのまま寝てしまいました。  
 
 
「調度良いわ、父さんが寝てる間に一緒に駆け落ちしましょう起きたらまた酷い事されるわよ。」  
 
「えぇ!?そんなご迷惑かけてしまいます!」  
 
 
「一緒なら平気よ、剣や弓や携帯も奪い  
追って来れない様に髪を柱に結んどきましょう。」  
 
この前の母神と同じ様な口調と目付きで話すスセリビメに押され  
オオナムジはおそるおそるスサノオの髪を柱に結び付けました。  
 
「これでどうですか?」  
 
「アリアリアリ♪」  
 
 
二人は剣や弓や携帯等スサノオの武器を持つとすぐさま外に出ました、  
しばらくすると頭の妙な感触に違和感を感じたのかスサノオは起きてしまったのです。  
 
 
髪を柱に縛られ剣や弓どころか携帯さえ取られている事に気付くと怒りがこみあげてきました。  
 
しかし以前電池の残量がなくなった時の経験を生かし服の裏地に電池ではなく携帯を大量に仕込んでいたため文字化けは免れました、  
 
 
それでも怒り沸騰です  
早速オオナムジが持っているであろう自分の携帯にメールする事にしました  
 
めるめるめるめる  
『コ ロ ス』  
しかし送信ボタンを押そうとした時、  
指が止まりました。  
 
奴には姉の様な繁栄を維持する不思議な力も自分の様な行動力もない、  
常に周りに迷惑がかからない様にイライラするほど怯えるだけなのに何故娘は惚れたのだろう?  
 
もしやあのヘタレには自分達とは別の可能性があるのか。  
そう思ったスサノオは憎しみの文を消し、  
全く別の文を送信しました。  
 
『おまえが俺から奪った武器でおまえを殺した兄達をブチのめし  
娘を妃にし王になれ  
 
誰よりも加害妄想を抱くおまえなら誰よりも周囲に迷惑をかけない様に気にするこの日本の人間どもを心から理解し守れるはずだ、  
 
これからは大いなる国の主と名乗れ、  
バカヤロウ。』  
 
あの恐ろしいスサノオが自分をここまで認めてくれるだなんて!  
逃避行中突然来たそのメールにオオナムジは驚きを隠せませんでした。  
 
その後オオナムジはオオクニヌシと名を変え  
新たな国津神の王となった事は広く知れ渡りました、  
八十神達はもはや自分達の手出し出来なくなった末弟に逆らうまでもなく屈服し、  
祝いにヤガミヒメがやってきました。  
 
 
「オオクニヌシになった今ならこのデリシャスTシャツが似合うと思うよ。」  
 
「あら残念ね、オオクニヌシ様のファッションは私が決めてるのよ。」  
 
 
「!?」  
 
 
スセリビメを見たヤガミヒメは驚きました、  
彼女は傷を癒すためだけの包帯を新たなスタイルとして着こなし  
動物の尻尾をアクセントに用いて鮮烈な印象を与えていました。  
そのセンスにヤガミヒメは自信を失い去ってしまいました、  
 
 
一方オオクニヌシは新たな悩みを抱えていたのです、  
 
「あぁ王になったら今度は恩着せがましくなってしまった!!」  
 
 
「オオクニヌシ様はまさに大地の最高神でいらっしゃいますよ!  
どうか私達を、  
日本を末永くお守り下さい。」  
 
人間達の熱烈な崇拝にオオクニヌシは戸惑いのあまり言いました、  
 
 
「あ、あ、あなた達のために守ってるんじゃないんだからね!」  
 
 
――こうして日本人にとって神様は身近な存在になりましたとさ。  
 
 
絶望日本書紀 完  
 

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