「今回は何のパターンなんですか……」  
「先生、いきなりローテンションですね」  
「>>143-145でも>>166-167でもテンプレートのように集団で襲われていたら  
 底なしにローテンションになるのも当然です!  
 女性に迫られて状況関係なく嬉しいのは高校性までですよ!」  
「誤字なようでいて正解のような誤字ですね」  
「どーせ今回も最終的には2のへの皆さんで逆レイプしに来るんでしょう!  
 絶望した!8行目でオチの分かるSSに絶望した!!」  
「嫌だなぁ、そんな分かりやすいオチなんかあるわけないじゃないですか。  
 先生、ちゃんと周りを見て下さいよ」  
「……そう言えば、今日は風浦さんしかいませんね」  
「そうですよ、分かりやすく言えば、私と先生の二人っきりなんです」  
「ふたりっきり……」  
「エロパロ板で男女が二人っきりでSSに登場したら、しなきゃいけないことは  
 1つしかないじゃないですか」  
 
「ちょちょちょちょ、ちょっと待って下さい!幾ら何でも!」  
「なんですか先生、あれだけ集団逆レイプされておいて  
 今更うろたえる事ないと思いますけど」  
「あれは肝心のシーンはぼかしてますからいいんです……  
 あ、なるほど。そういう事ですね」  
「何がです?」  
「また今回もラストでぼかして有耶無耶にお終いにするんですね。  
 原作でもラストではいくらでも猟奇オチにできますからね、言うなればSSのこれは  
 エロオチとでも言ったところですか」  
「嫌だなぁ、有耶無耶にするわけないじゃないですか」  
「……はい?」  
「エロパロ板なんですよ先生、ちゃんとやるべきことはやらないと、野良主人公に  
 なっちゃいますよ。次スレから『さよなら改蔵先生』になっちゃいますよ」  
「楽しそうに言ったって100パーセントないですよそんな展開!」  
「まぁ、それは冗談ですけど」  
「……こ、この展開も冗談ですよね?」  
「そんなわけないじゃないですか」  
言って、可符香はにっこりと微笑む。一瞬その邪気のない笑顔に  
 見入った望だったが、すぐにはっと気付いて叫び声をあげた。  
「ちょっと待って下さい!地の文があるじゃないですか!」  
「そうですよ、今回は保守代わりの小ネタじゃなくてちゃんとしたSSですから」  
あっさり応えると腰をかがめ、呆然と床に座り込んでいる望の耳元に唇を寄せ、  
「違うんですよ、いつもとは」  
悪戯っぽく囁いたその口調は、少しだけ熱っぽかった。  
 
ほっそりとした可符香の指が自分の着物の襟にかかり、  
望は慌ててその手を押えつけた。  
「ちょ、だから待って下さいよ!いきなりこういった展開はいけません!」  
「どうしてですか?」  
「どうしてって、貴女はまだ高校生で、あまつさえ私は教師でしょう!」  
必死に反論するも、至近距離からきょとんとした瞳で  
見上げられて思わず鼓動が早くなる。  
「嫌だなぁ、学園モノでは至極普通の人物関係と展開ですよ」  
「学園モノの定義を特殊なものにしないで下さい!」  
あやまれ!学園漫画の作者にあやまれ!等と続きかけた制止の言葉は、  
可符香の言葉に遮られた。  
「私は、先生が先生だから好きなんですよ」  
「……は?」  
「先生は」  
望が押えつけたままの可符香の手から、すっと力が抜けた。  
 
「糸色先生は、私のことが、好きですか?」  
 
時に電波と表現されるほど、いつもポジティブな少女から発されたまさかの疑問系。  
 
――嫌だなぁ、先生が私のこと、嫌いなわけがないじゃないですか――  
 
彼女ならきっと、そういう言い方をするだろうと考えるような台詞とは  
まるで正反対の言葉に、思わず望は可符香の顔を覗き込む。  
その視線は望の目を微妙に外していて、その笑顔は微妙に震えていて――  
 
 
気がついたら、抱き締めていた。  
 
 
「……先生?」  
耳元で聞こえた可符香の声に、ふと我にかえる。  
勢いで抱き締めてしまったは良いものの、いや良くない、  
いややってしまったものはこの際仕方ないとして、この後一体どうすればいいのか。  
いやいやどうすればいいかってやっちゃえばいいじゃんとか  
そういう問題ではなくて。嗚呼これでは実の妹になんたるチキン呼ばわりされても  
仕方がない。絶望した!その場の勢いだけで教え子を抱き締める  
後先考えない自分に絶望した!!  
 
冷や汗すらかきながら苦悩する望の頭に、先ほどと同じ問い掛けが聞こえてきた。  
「先生は、私のことが好きですか?」  
「風浦さん……」  
 
ここで『嫌いです』とでも言えば、いやそこまで厳しい言い方ではなくとも  
『好きというわけではありません』とでも言えば、この一連の流れは  
スルーできるのだろうか。そんなことを考える。  
自分から抱き締めておいて酷い話だとは思うが。  
だが。  
 
「好き――かも、知れません」  
 
望の口から出たのは、スルーライフからは程遠い、肯定的な言葉だった。  
 
一瞬の逡巡の中、脳裏に浮かんだのは初めて彼女に会ったときのこと。  
 
――いけません!命を粗末にしてはいけません!!――  
 
首吊りを目の当たりにして、恐怖に逃げ出すことも、  
第三者を呼んでその場を任せることもせず、文字通り体当たりで  
自分を助けようとした少女(最も、そのせいでより死にかけたのだが)。  
 
――嗚呼、何と真っ直ぐな女(ひと)なのでせう――  
 
息苦しさと、多分それ以外の何かで頬を染めながら、望はぼんやりとそう思ったのだ。  
 
そう、それ以外の何かをもし、恋心と呼ぶことができるのならば。  
興味とか、羨望とか、憧れとか、そんなものがもし混ざり合えば  
恋心となるのならば。  
確かに私は、貴女が好きかも知れません。  
 
「……本当ですか?」  
可符香がぽつりと呟く。  
彼女を抱き締めている腕をわずかに緩め、望は照れくささに  
そっぽを向きながらごにょごにょと続けた。  
「え、ええまぁ……ですが、好きかもといった曖昧な程度で……」  
「なーんだ」  
「へ?」  
唐突にトーンの戻った可符香の声に疑問を持つより早く――  
するりと両肩から着物の襟が落とされた。  
「お互いに好きなら、何の問題もないじゃないですかぁ」  
見上げてくるのは、にっこり満面のポジティブ笑顔。  
 
「ひ、ひょっとしてさっきまでの色々な態度は全部、お芝居ですか?」  
さぁっと血の気が引くのを感じながら尋ねれば、  
「そんなことありませんよ、先生が私のこと嫌いだったら  
 さすがの私もしょんぼらします」  
そんなことを言いながら、くすりと笑う可符香。  
 
床に座り込んだ自分。その両足の間に立ち膝の少女。  
その少女はたった今、自分に好きと言って、自分も好きかもと言ったばかりで。  
 
「いろいろな意味で逃げ場のなさに絶望しました……」  
「嫌だなぁ、逃げる必要なんてないじゃないですか」  
「教師と生徒なんですよ?」  
「教師と生徒でも、ですよ」  
何の迷いもなくそう言い切る可符香に、思わず苦笑して。  
もう一度、彼女の華奢な体を抱き締めた。  
 
 
まるで猫のように、望の胸に頬を摺り寄せる可符香。  
その仕草が何とも愛らしくて、本当に小動物を愛でるような気持ちで髪を撫でてやる。  
と、可符香の指がシャツの第一ボタンにかかった。  
「あ、あの、風浦さん」  
「何ですか?」  
一応律儀に手を止めて聞き返してくる。何となく気恥ずかしくて  
目線を合わせられないまま、こほんと咳払いなどしてから切り出した。  
「えーと、ですね……せめて先生、リードくらいはさせてもらいたいなぁ、などと  
 男として思うわけなんですけれども……」  
ああ、とあっけらかんと頷くと、可符香はあっさりと手を下ろした。  
「そうですね、それじゃお任せします。先生男女ともにそこそこ経験豊富でしたもんね」  
「倫の言ったことは信じないで結構です!」  
また1つ恨み節が増えてしまった、そんなことを考えながらも  
気を取り直してそっと胸元のリボンに手を伸ばす。  
しゅる、と微かな衣擦れの音とともに解けたそれを床に落として  
改めて少女のセーラー服に手をかけ――  
 
 
そこで、ふと望の手が止まる。  
 
 
「……先生」  
数秒間の沈黙の後、固まったままの望に可符香が首を傾げながら声をかけた。  
「ひょっとして、セーラー服の脱がせ方、知らなかったりします?」  
 
「……ぇ、ぇぇ、実は……」  
「ぷっ」  
思わず噴出す可符香に、軽く絶望しながら顔を真っ赤にして反論する。  
「し、仕方ないじゃないですか!制服脱がせるのなんて初めてなんですから!」  
「あはは、そうなんですかぁ?ちょっと意外ですね」  
「意外って……貴女は私をどういう風に見てるんですか」  
どよんど、と背景に大きく文字を背負った望を見て  
可符香はくすくす笑いながらも自分の横腹を手で示して見せた。  
「あのですね、ここにチャックがついてるんですよ」  
言いながら白い指先がゆっくりとチャックを上げる。思わず興味津々に  
覗き込んでしまった望に向かって、にっこり微笑みながら可符香は両手を差し出した。  
 
「はい、じゃあ先生が脱がせて下さい」  
 
――その愛らしい笑顔と、それにそぐわない台詞に  
ぞくぞくとした感覚が体を通り抜けた。  
 
ゆっくりとセーラー服を脱がせ、次いでスカートもホックを外して床に落とす。  
シンプルな白い下着が可符香の愛らしさと華奢さを  
際立たせているようで、望は思わず息を呑んだ。  
教え子の、それも好意を自覚したばかりの少女の下着姿に  
己の分身に熱が集まっていくのをはっきりと感じさせられる。  
「先生は、もうちょっと大人っぽい体型の方が好きですか?」  
じっと下着姿を凝視されたのが気になったのか、悪戯っぽく尋ねる可符香。  
慌てて手を振って否定する。  
「い、いいえ、別にそんなことは……」  
「いいですよ、別に。胸とかもっと大きい方が好みでも」  
言いながら望の手を取り、下着越しに自分の胸へと触れさせる。  
「先生が、頑張って大きくしてくれればいいんですから」  
「がっ!」  
 
頑張るって何をだ。ナニを。  
いや頑張らなくても別に胸が大きいとか小さいとかで女性を選んだ覚えはないんですが。  
そもそも何時誰が言ったんですか。胸が大きい方が好みだとか。また倫か。  
 
いろいろな思いが一瞬で頭の中を駆け巡るが、目の前の小悪魔的な表情に  
それらの考えはあっさりとかき消された。  
「頑張って下さいね、先生」  
 
「……そうですね」  
ゆっくりと下着の上から包み込むように胸を揉むと  
可符香はくすぐったそうにわずかに身じろぎした。  
「……ん……」  
手にすっぽりと収まってしまうような、慎ましやかな胸。  
撫で擦るようにそっと手を動かす。  
「先生……なんか、くすぐったいですよ」  
「そうですか?」  
くすくすと笑うどこか楽しそうな声に、望は手を一度胸から離すと  
そっと両手を可符香の背に回し、ぷつり、と下着のホックを外してしまった。  
「あ、下着の外し方は分かるんですね」  
「……何だか、随分余裕ですね」  
熱の他に少しだけ挑戦心のようなものが湧き上がってきて  
そのまま可符香の体を押し倒そうとし――  
 
ふと、体を離す。  
 
「先生?」  
「あ、いえ、ちょっと待って下さいね」  
訝しげに声をかけてくるのに応えながら手早く上の着物を脱いでしまうと  
床に広げる。その上に改めて可符香を横たえながら  
「あまり上等なものではありませんが、何もないよりはマシだと思いますので……」  
と言うと、可符香は自分に覆いかぶさる望を真っ直ぐに見上げながら言った。  
「先生、優しいですね」  
 
 
「私は、優しい人間なんかではありませんよ……」  
自嘲のような呟きが、ぽつりと望の口から漏れた。  
 
 
できるだけ人と関わりたくない、人と関わって傷つけられたくない。  
そんな思いから個人的に鎖国し、自分のプライベートな部分に  
他人が踏み込むのを出来る限り避けてきた。  
しかし、それでもどうしても人と関わらなければいけない場面は出来てしまう。  
だから、そんな場面で自分は優しく振る舞うのだ。  
他ならぬ自分を守るために。  
 
上辺だけでも優しくしておけば、傷つけられたり  
絶望させられたりすることもないだろう――  
『優しい人』と思われていれば、自分のかわいそぶりにも  
素直に同情してくれるだろう――  
 
「そんな優しさは、偽善と言うのです……私は、心の弱い大人ですから……」  
 
 
何の迷いも無く私を助けようとした貴女の、真っ直ぐなそれとは、違うのです――  
 
 
「いいじゃないですか、偽善でも」  
にっこりと可符香が笑った。  
「しない善よりする偽善なんですよ、先生。それに」  
そっと、望の頬に手が触れる。自分の下で真っ直ぐにこちらを見上げる瞳。  
「言ったじゃないですか。私は先生が――そういう先生が、好きなんですよ」  
 
望の目が、僅かに見開かれた。  
 
「いつも絶望してばっかりで、すぐに心が折れて、そのくせ  
 大人気なく色んなことに首を突っ込んで引っ掻き回して大騒ぎして、  
また絶望して――偽善って分かっても、優しくするのをやめられなくて。  
 そんな糸色先生で、いいじゃないですか」  
「……それ、慰めてくれてるんですか?」  
「勿論です。すごく頑張って先生を励ましてみました」  
自信満々に言い切る可符香。望は小さくため息をついて  
頬に置かれたままの小さな手にそっと自分の手を重ねる。  
「……ありがとうございます、だいぶ元気が出ました」  
「どういたしまして」  
お互いにくすくすと笑って――そのまま、ゆっくりと顔を近付ける。  
 
貴女にそこまで好かれるのなら……そうですね、  
こんな私でも、いいのかも知れません。  
そんなことを考えながら、目を閉じる。  
 
そっと、二人の唇が重なった。  
 
柔らかく、温かな口付け。  
その温もりに酔いしれるように、何度も角度を変えて口付ける。  
と、ぺろりと軽く唇を舐められて、背中にぞくりとした感覚が走った。  
思わず目を開くと超至近距離で自分を見つめる、きらきらと悪戯に輝く丸い瞳。  
 
――挑戦されてるんですかね、これは。  
 
ふと気付いてみれば、リードを申し出たものの先程からずっと  
可符香にペースを握られっぱなしのような気もする。  
さすがに最後まで主導権を握られっぱなし、ということはないだろうが  
望にも男としてのプライドというものがあった。  
 
そっと舌先で可符香の唇をノックするように突付くと  
小さく開いた口腔へと舌を差込み、彼女のそれと絡ませる。  
「……ん……」  
小さな、甘えるような鼻にかかった声が耳に届いた。  
ほっそりとした白い腕が  
きゅ、と望の体を抱き締める。  
その仕草の1つ1つに己が昂ぶって行くのを感じながら、望はそっと  
覆うものの無い可符香の胸に手を伸ばした。  
「ふっ……ぅん」  
やわやわと揉みしだくと、自分が塞いだままの唇からくぐもった声があがる。  
背中に回された少女の手がぎゅ、とシャツを握り締めた感覚に気をよくして  
望は最後に強く可符香の舌を吸い上げるとその唇を解放した。  
「はぁっ……先生……っ」  
大きく息をついてこちらを見上げる、愛くるしい少女。  
 
 
――嗚呼、そんな目で見つめないで下さい――  
 
 
全身をざわざわと駆け巡る衝動、己の中でどんどん大きくなっていく欲望。  
それらが支配するままにシャツも袴も脱ぎ捨て、今すぐにこの華奢な体を求めたい。  
既に先程から己の分身は持て余すほどの熱を帯び、望の理性を急かし続けている。  
だが、望は敢えて可符香を――自分自身を――焦らす様にゆっくり体をずらすと  
ほんのり色づいた胸の先端を口に含んだ。  
ふぁ、という声が頭上から聞こえてきて、その甘い響きが一層欲望を大きくする。  
 
自分の欲求だけを満たそうとするのは嫌だった。  
自分を好きだと言ってくれた、他の誰でもない、風浦可符香という少女と  
『二人で』感じあいたいと思った。  
 
それも、偽善だろうが。教え子を傷つけた、そんな声から自分を守りたいだけだろうが。  
自分の中で冷ややかな声がする。  
 
だが。  
(偽善でも、いい)  
愛撫を止めないまま、望は己に答える。  
 
 
そんな糸色先生で、いいじゃないですか。  
そういう先生が、好きなんですよ。  
 
 
――他でもない、この少女がそう言ってくれたのだ。  
 
 
「あ、あっ……うぁあん」  
口内で硬さを増した突起を強く吸い上げ、舌先で突付き、押し潰すように舐めまわす。  
その度にほっそりとした体が悶え、甘い鳴き声が上がる。  
理性をじりじりと侵食されるような妄想を抱きながら  
望はそっと片手を下半身へと伸ばした。  
「あっ……先生っ……」  
下着越しに軽く撫で上げると、可符香の体が跳ね上がった。  
そこは布越しでも分かるほど潤っていて、望の腰から背中にかけてを  
ぞくぞくと期待が這い上がる。  
 
早く、早く、ここに挿れたい――。  
 
一瞬陥落しそうになった理性を必死に励ましながら、ことさらゆっくり下着を脱がせると  
一糸まとわぬ姿になった可符香にそっと口付ける。  
 
「……綺麗ですね」  
「……何だか、その言葉も月並じゃないですか?」  
息を荒げながらもこちらをからかってくる少女の鎖骨近くに唇を落とし、吸い上げると  
心地よさそうなくすぐったそうな声。うっすら赤く残った痕を指でなぞりながら  
ふと、花びらのようだと思った。  
 
 
ひらひらと踊るように舞い散っていた、桃色ガブリエルの花びら。  
自分と彼女を巡りあわせたと言っても過言ではない桜。  
 
その花びらが、今は彼女の体に散っている。  
 
 
「風浦さん」  
「はい?」  
唐突に名前を呼ばれて、きょとんと返事をする可符香。  
その下肢へ再び望の手が伸びる。  
「風浦さん」  
「ふあぁっ、あ、あぁっ」  
ゆっくりと入り口をなぞるように指を動かし  
快楽に仰け反る白い首筋に噛み付くように口付ける。  
「風浦、さん」  
「あああ――っ」  
一枚増えた真っ赤な花びらをちろりと舌で舐めながら  
指を可符香の中へと潜り込ませると、艶やかな悲鳴が上がった。  
歓喜の蜜を零して望の指を受け入れるそこをかき回すようにしながら  
無我夢中といった様子ですがりついてくる体をきつく抱き締める。  
「はぁっ、先生っ、もう、おかしくなっちゃ――あああぁっ」  
 
 
――おかしくなっているのは、私の方です。  
 
 
「――風浦、さん」  
「ぅあ、あ、あああぁぁ――っ!」  
一際甘く甲高い鳴き声と共に可符香の体が一瞬電流でも流れたように  
大きく震え、ぐったりと脱力した。  
 
目を閉じて荒い呼吸を繰り返す少女の顔に張り付いた髪を  
優しく手で払ってやると、望は可符香から体を離し  
普段ならありえない乱雑さで自分の衣服を脱ぎ捨てていく。  
シャツのボタンを一つ一つ外すのももどかしく  
そこまで焦っている自分に我ながら呆れてしまう。  
だが、もう待てなかった。  
待ちたくなかった。  
「せん、せい」  
全ての衣服を脱いだ望に、可符香が未だ絶頂の余韻が残った  
潤んだ目を微かに開いて呼びかけてくる。  
「……何です?」  
再びその体に覆いかぶさりながら尋ねると、可符香はにっこりと微笑みながら言った。  
「大好きです」  
 
 
 
『好き――かも、知れません』  
 
 
 
「ええ……私も、貴女が好きですよ、風浦さん」  
その想いに応えるように、深く深く口付ける。  
今まで必死に熱を押さえ込んでいた理性が、ぷつりと切れる音を聞いたような気がした。  
 
 
 
***********************************  
 
 
「糸色先生」  
背後からかかったご機嫌な声に、職員室の机で事務仕事をしていた望は  
ぎくりと一瞬体を硬直させた。  
「あ、は、はい、何でしょう」  
おたおたしながら椅子ごと振り向けば、そこには相変わらずの  
ポジティブ少女がにこにこしながら立っている。  
「これ、昨日提出し忘れたノートです。一日遅れましたけど大丈夫ですよね」  
そう言いながらノートを差し出す可符香。慌てて手を伸ばしてそれを受け取る。  
「え、ええそうですね。課題がきちんとできていて  
 普段の授業内容もそれなりに書かれていれば、まぁ……」  
答えながらも望は思いっきり視線を外して可符香と目を合わせようとしない。  
 
理由は1つ。  
可符香の首筋にぺたりとこれ見よがしに貼られた絆創膏である。  
 
 
事が終わり、冷静さを取り戻してから考えてみれば  
どう制服を着こなそうと表からばっちり見える場所に  
桜の、なんて可愛いものではないほど鮮やかに紅く色づいた花びら。  
翌日、絆創膏が気になったらしい2のへの友人たちに「虫に刺されちゃった」と  
笑顔で説明している可符香を見て、衝動的にその場で首を吊ろうとして  
騒ぎを起こしてしまったものの、望と絆創膏を結びつけて考える者は  
いなかったらしく、今のところ平和である。望の心情以外は。  
 
 
鎖骨の方はともかく、首筋の方は結構きつく吸ってたと思うんですよね……多分。  
当分消えませんよねぇ……かなりくっきり残ったはずですし。  
何をやってるんですか我ながら。途中から完全に暴走してましたよね、多分って  
つくぐらいですからもうその辺から既にうろ覚えですもんね。  
いくら興奮したとは言え、もうちょっとこう、やりようってもんが……。  
 
「先生、何やってるんですか」  
「い、いえいえいえいえいえ!何でもございません!」  
いつの間にか抱えていた頭から手を離し、慌てて顔を上げれば――  
 
にっこり笑顔の可符香とばっちり目が合う。  
 
「あ――」  
思わず赤くなってしまう頬を隠すように顔を背ければ  
くすくすと笑い声が聞こえてくる。  
「ひょっとして先生、激しくし過ぎたとか反省してるんですか?」  
「ぶっ!」  
小声で悪戯っぽく囁かれた言葉に噴出して慌てて周囲を見回すが  
幸い自分達の近くには誰もいないし、少し離れたところにいる教師達も  
こちらの会話に気を配っている様子は無い。  
「ふ、風浦さん、こういうところでその話題は……」  
「嫌だなぁ」  
望の声を遮るようにして、身軽に距離を詰めてくる少女。  
 
「風浦さん、だなんて、他人行儀じゃないですかぁ」  
後ずさろうにも、こちらは椅子に座ったままの身。何もできないまま可符香が近付いて、  
 
 
「可符香、って呼んでくれていいんですよ、先生」  
耳元で小悪魔の囁きが聞こえる。  
 
 
真っ赤になったまま固まってしまった望から素早く離れると、可符香はいつも通りの調子で  
「それじゃ、ノートの採点よろしくお願いします、失礼しました」  
と言ってぱたぱたと軽い足音を響かせながら職員室から出て行ってしまった。  
為すすべも無くそれを見送って、はあぁ〜と深い深いため息をついて、  
机の上にごん、と音を立てて頭を乗せる。  
 
 
――可符香、だなんて、  
 
 
「呼べるわけ、ないでしょうが……」  
 
仮にも自分は教師で、彼女は高校生で、しかも自分の教え子なのに。  
木村さん、藤吉さん、木津さん、久藤君、常月さん、音無さん、加賀さん、可符香。  
うん、浮く。どう頑張っても浮く。浮きすぎる。無理に決まっている。  
 
 
嗚呼、それだというのに。  
可符香、可符香、可符香、可符香、可符香。  
頭の中から貴女の名前が離れなくて、今すぐ声に出して  
貴女の名前を呼びたいと思うのは、どうしたものでしょう?  
 
「絶望した……どう頑張っても私に勝ち目のない勝負に絶望した……」  
お決まりの台詞を呟きながら、何故か幸せそうな笑顔が  
浮かんでいることに望が気付くのは、まだまだ当分先の話。  
 
 

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