「これは……いったい」
望宅のこじんまりとしたコタツに、明らかに身の丈以上の料理がずらりと並んでいた。
「あら、おかえりなさいませお兄様」
立ち上る匂いの元、台所には着物に割烹着姿の妹・倫。
予期しない登場に望は慌てるも、よくよく考えればいつものこと。この見返り姿もなんだか随分見慣れた気がする。
「これは何事ですか? 倫」
「何事って、おせち料理以外の何物でもありませんけど?」
「いや、そんなことはわかってます。なぜ」
なぜ私の家でやるんですか。望がそう言おうとするよりも早く、倫はくすりと笑みを見せて。
「だって、お兄様はしっかりしていませんから」
◇
別に正月なんていいじゃないですか。どうせまた絶望の一年が始まるだけです。
だから明けたところで何もめでたくないんですって。今年もロクな年じゃありませんでしたし。
「お兄様、表情が硬いですよ。美味しくないですか?」
「あぁいや、そんなことはないですが」
思うことが顔に出ていたようで、望は慌てて取り繕う。どこか癪であるけれど、倫の手料理は美味しいと言わざるを得ない。
「おせち料理は腕を揮いましたから、明日を楽しみになさってください」
「……おせち、ねぇ」
めでたくもないのに色とりどりの華やかな料理の数々。
「何もそこまでして祝わなくてもいいじゃないですか。明けても何もめでたくないというのに」
やれやれといった顔つきの望に、倫は目を丸くしていた。が、それもすぐに笑みへと変わり。
「お兄様、おせち料理は祝いの意味だけではありませんよ?」
「え?」
「年明けの三が日に女が料理をしなくてもすむように、という意図もあるんです」
今度は望が目を丸くする。言われてみれば成程、道理であると。
「だから、お兄様」
それは変わらぬままの笑みのはず。しかし、望の背中には何かがぞくりと粟立った。
「――年明けは、私のお相手をしてくださいね?」