えー、それでは『絶望的白雪姫』、今回は新年特別版として、
オンエアとオフエアの同時放送でお届けします。
はじまりはじまり〜。
あるところに、それは美しい姫がお生まれになりました。
その姫は雪のように色白だったため、白雪姫と名づけられました。
「ちょっと待ってください、久藤君!!」
「いきなり何ですか、先生。」
「何で私が白雪姫の役なんですか!!
絶望先生は女キャラの方が多いというのに!!!」
「…仕方ないじゃないですか、先生が一番色白だったんだから。」
「絶望した!色が白いだけで性別を無視した配役に絶望した!!」
「はいはい、お約束の絶望も言ったし、話を進めますよ、いいですか。
先生のせいで行数使っちゃったから場面飛ばしますからね。」
「…。」
新しいお妃は、見た目は美しかったのですが、その実は魔女でした。
「さあ、鏡よ鏡、きっちり答えてもらうわよ。世界で一番美しいのは…。」
「ちょ、ちょっと待ってください!!!」
「今度は何なんですか、先生!!」
「そうですよ、先生、人のセリフに割り込まないで下さい。
最後まできっちり言えなくてイライラします!!」
「だって、木津さんが魔女の役って、危険すぎるじゃないですか!
私がきっちり殺される猟奇オチになるのが目に見えてます!!」
「んー、それも面白そうですけどね…ま、話を進めてみましょうよ。」
「ちょっと久藤君、面白そうって、他人事だと思って…」
「はい、それでは、また場面飛ばしますよ〜。」
白雪姫を殺すようお妃の命を受けた猟師は、白雪姫を森に連れ出しました。
「うなー!私の出番は!!」
「木津さんには、後で見せ場があるから。先生、セリフお願いします。」
(後で見せ場って、ど、どんな見せ場なんですかー!?)
「恋愛道とは、死ぬことと見つけたり!
猟師さん、私を殺そうとするなんて、ディープラブですね!」
白雪姫の言葉を聞いて、猟師は、自分が白雪姫を愛していることに気が付きました。
「私、好きになるとダメなんです…!」
猟師は猟銃を投げ捨てると、白雪姫の背後にぴったりと寄り添いました。
「こ、これはこれで、なかなか重いものですね…。」
白雪姫は猟師を背後にはりつけたまま、森をさ迷い歩いていましたが、
やがて、目の前に小さな気持ちの良さそうな小屋が現れました。
「これは助かりました…!」
白雪姫は小屋に不法侵入した上に無銭飲食を果たすと、
さらに人のベッドに勝手に横になって寝息を立て始めました。
「なんですか、その悪意に満ちたナレーションは!?」
「…よく考えると、白雪姫ってけっこういいタマよね…。」
「小節さん、あなたまで!!絶望し…。」
「はい、次、小人さんたち出番ですよ〜。」
「…。」
小屋に帰ってきた小人達は、食い散らかされたテーブルに驚きました。
と、奥の部屋に引き篭もっていた小人が顔を覗かせました。
「あのね、お客さんが来て、今、ベッドで寝てるよ?」
「何やってるのよ、そんなの、訴えてやりなさいよ!!」
「だって…。」
小人達はベッドを覗き込みました。
すると、そこに眠っていたのは雪のように白いお姫様。
「わーイ、お姫様、キレイダネ。」
「うっわー、女体化だ♪」
「ちょ、藤吉さん、不穏当な発言はやめてください!!!
このスレではそういった趣旨の発言は絶対に厳禁ですよ!!」
「でもぉ、先生、一人称が『俺は』→『僕は』→『私は』って
変わるのって、そういうフラグじゃないんですかー?」
「それ、違うでしょう!先生、武力介入とかしてませんから!!」
…えー、まあ、なんだかんだで、
白雪姫は7人の小人達と楽しく暮らすことになりました。
さて、ここはお城の中。
お妃は鏡に向かって尋ねます。
「鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだあれ?」
「すいません、すいません!」
「何でいきなり謝るのよ!きっちり答えなさい!」
「ああ、こんな答えしかできなくてすいません!
世界で一番美しいのは、森で7人の小人と暮らす白雪姫です!!」
「うなー!?白雪姫は猟師が殺したはずなのに!?」
泣きボクロのある鏡に、お妃の魚目が映り込みました。
「ひいいいいぃぃぃ!!ああ、私がこんな答えを言ったばかりに、
白雪姫が大変な目に…すいません!」
お妃は決心しました。
猟師が当てにならないのなら、自分できっちり殺るしかありません。
お妃は、物売りの格好に着替えると、ある果物を持って城を出ました。
「へ?ある果物…?林檎じゃないの?」
『林檎じゃ普通過ぎるだろ、常考!』
「普通っていうなぁ…って、何!?このニラの腐ったみたいな臭い!!」
その頃、白雪姫は小人の1人と一緒に造花作りに励んでいました。
「すみません、お姫様にこんなこと…なにぶん大所帯なので生活が苦しくて…。」
「そんな、私こそお世話になっているのですから、これくらい当然です。
どうぞ、あなたは、ご自分の用事をしてきてください。」
白雪姫に促され、ポニーテールの小人が小屋から出て行くと、
それまで木の影に隠れていたお妃が、姿を現しました。
小屋の中で造花作りに熱中していた白雪姫ですが、
ふと不穏な気配に顔を上げました。
「…なんか嫌な予感がしますよ…なんですかこの臭いは。
私の中の人が、この臭いは危険だと叫んでいます!!!」
立ち上がった白雪姫の前に、お妃が立ちはだかりました。
白雪姫は、お妃の手の中の物を見て息を飲みました。
お妃は、その手に、何と、ドリアンを捧げ持っていたのでした。
お妃が、低い声で叫びました。
「ドリアンフィールド、解・除!!」
「わーーー!!逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ…
だめです、我慢できませーーーん!!」
「……このネタ、分かる人いるんですか?」
「…まあ、中の人つながりってことで…。」
白雪姫は、その強烈な臭いに、とうとう息が絶えてしまいました。
7人の小人は、小屋に帰って倒れている白雪姫を見て嘆き悲しみました。
そして、せめて盛大なお葬式をいとなむことに決めたのでした。
その頃、お城では。
念願の白雪姫抹殺を果たして大喜びのはずのお妃でしたが
何故だか、元気がありません。
鏡が、お妃の具合を案じて声をかけました。
「あ、あの、お妃様、何だかお顔の色がすぐれないような…。」
お妃様は、鏡に向かって寂しげに微笑みました。
「…本当はね、誰が一番きれいかなんて、どうでも良かったの…。
私は、白雪姫のことが大好きだった…なのに、
あの子は魔女の私を怖がって、いつも逃げてばかり。
避けられているうちに…愛情は憎しみに変わっていったのよ。」
「そ、そんな背景があったなんて…原作通りから随分逸れてるようですが。」
鏡は、意外なお妃の告白にオロオロとするばかり。
お妃はそんな鏡に力なく首を振った。
「でも、あの子がいなくなったと思ったら…何だか気が抜けちゃった。」
「お妃様…。」
一方、こちらは森の小人たち。
白雪姫の亡骸をガラスの棺に入れて運びます。
そこに、隣国の王子様が通りかかりました。
「やだなぁ、みんなそんな顔をして、どうしたんですかぁ?」
「…って、王子様役はあなたですか!何か嫌な予感がしますよ!!」
「先生、まだ生き返るのは早いですよ!!」
7人の小人たちは口々に王子様に事情を説明しました。
すると、王子様は朗らかに笑いました。
「何言ってるんですか。白雪姫はまだ死んだばかりじゃないですか。
どうせ、クーリングオフされて戻ってきますよぉ。」
と同時に、白雪姫がむくりと起き上がりました。
「絶望した!!神様にさえクーリングオフされる自分に絶望した!!」
「ほら、ね?」
「…あ、あれ?てことは、キスシーンは無しなんですね。」
「あれぇ、先生、私とキスしたいならそう言ってくださいよ。」
「今、キ ス し た い と か 申 し た か?」
「言ってません!先生、そんなこと言ってませんから!!
お願いですからスコップしまってください!猟奇落ちはいやぁぁあ!!」
「木津さーん、まだ、お話は終わってないよ。配置について。」
生き返った白雪姫と、それを囲んで喜ぶ小人たちに、王子が声をかけました。
「さて、それじゃ、お妃様に会いにお城に行きましょうか!」
お城では、お妃が、塔の上からぞろぞろを城門をくぐる一行を見下ろしていました。
その表情には、何故か薄笑いが浮かんでいます。
「お、お妃様、差し出がましくてすいません、でも、逃げなくていいんですか?」
お妃は、相変わらずオロオロしている鏡に手を振りました。
「いいわ…何だかもう疲れちゃった。
これできっちり全てを終わりにできるなら、構わないわ。」
「…そんな。」
一行は、塔を登り、とうとうお妃に相対しました。
王子の後ろには、目つきの悪い小人が、鉄の靴を持って従っています。
王子が指を鳴らすと、小人は、鉄の靴を床に置いて着火マンで炙りはじめました。
「さーて、お妃様、この靴にぴったり足があうかな?」
王子は楽しそうに、真っ赤に焼けた靴を指差しました。
「ん?微妙にシンデレラと交じってないかぁ?」
『どうせ原作崩壊なんだから、それくらい些細なことだろ。』
白雪姫は焦りました。
「あの、王子、それはいくらなんでも残酷すぎるのでは。」
王子は白雪姫を振り返ると、極上の笑みを浮かべました。
「本来、すべからく童話のオチというのは残酷なものなんですよ。
赤い靴なんか両足切り落とされちゃうんですから。」
そう言うと、王子は王妃に向かって両手を広げました。
「さあ、お妃様!これを履いて、死ぬまで踊り狂うのですよ!!」
お妃は、そんな王子の言葉に抵抗するそぶりも見せず、前に進み出ると、
その足を、ジュウジュウいっている靴の上に差し出しました。
一部始終を見ていた鏡は焦りました。
お妃様の本当の心を誰も知らずに、こんなことになってしまうなんて。
「ま、待って…。」
「待ってください!」
しかし、鏡の遠慮がちな制止の声にかぶせるように、白雪姫の大声が響きました。
お妃が、ビクリと足を宙に浮かせたまま静止しました。
小人達も、鏡も、目を丸くして白雪姫を見つめています。
ただ1人、王子だけが、ニコニコと白雪姫とお妃を見比べていました。
白雪姫は、ずいっと前に進み出ると、お妃の目を真っ直ぐに見つめました。
お妃は、その迫力に気圧されたように一歩後ろに下がります。
「王妃様…私は、ずっと、考えていたのです。
本当に私を殺そうと思ったら、あの時に、ドリアンを私に食べさせていたはず…。
そうしたら、私はきっとあの世から戻って来れなかったでしょう。」
お妃は、白雪姫から目をそらしました。
そこに、白雪姫の静かな問いが投げかけられました。
「どうして、私に止めを刺さなかったんですか?」
お妃は、相変わらず白雪姫から顔をそらせていましたが、
その瞳には涙が溜まっていました。
「…王妃様…。」
白雪姫が、そっとお妃の手を取りました。
お妃が、驚いたように顔を上げました。
「…私は、あなたを誤解していたようですね。
あなたが、本当は心優しい方だということが分かりました。
今まで、魔女だということだけで逃げていてすいません。
…これからは、私達、仲良く一緒に暮らせないでしょうか?」
「…!」
お妃は目を見張ると、次の瞬間、顔をくしゃりと歪めました。
「ごめんなさい…白雪姫。今まで意地悪ばかりして。」
お妃の頬を、涙が転がり落ちていきました。
白雪姫は、にっこり笑うと白い指先でその涙を拭ってあげました。
王子様は、そんな2人に歩み寄ると、2人の手をとりました。
「これからは、親子仲良く暮らしていけますね?」
「…あなたは、そのために、わざと…ありがとう、王子様。」
「あれぇ?こんな話だったっけ?
白雪姫は、王子様と幸せになるんじゃなかったっけ?」
『…普通はな。』
「だーかーらー、普通っていうなあああああ!」
「やだなぁ、もちろん、これから幸せになるんですよ?」
「へ?それってどういう…。」
「だって、国から追放されて小汚い小人達しか味方のいない小娘より、
強力な魔女のバックアップのある一国の王女の方が、
結婚相手としては理想的じゃないですかぁ。」
「・・・・・。」
え、えーと、というわけで、
その後、白雪姫と王子は、めでたく結婚し、お妃と共に3人、
いつまでも仲むつまじく幸せに暮らした、ということです。
「さっすが久藤君、いい話でしたねぇ、ね、先生?」
「そーですかぁあああ!?」
以上、『絶望的白雪姫』をお届けいたしました。
おしまい。