交る。混じる。まじる。
舌と舌を絡ませて、粘膜と粘膜を擦り合わせて。
お互いの唇を結合させて、理性を、思考を麻痺させて。
少女の喉の奥から、小さな呻きが漏れる。それに答えるように、無心で唇を貪った。
なんて、温かいのだろう。なんて、狂おしいのだろう
なんて。
――なんて、愛おしいのだろう。
「……むぁ」
いい加減望も息苦しくなって、名残惜しそうに可符香の唇を解放した。
唾液の橋が、お互いの伸ばした舌先を繋ぎ、すぐにプツリと途切れる。
自らの膝の上に座る彼女の顔を見上げる。
頬を上気させ、肩で息をしているその様子に、望は少し申し訳ない気持ちになった。
「す、すみません。苦しかったですか?」
「ちょっとだけ。でも、気持ち良かったから、平気です」
ペロリと唇を舐めながら微笑む可符香。その表情が普段の彼女から想像も出来ないほど色っぽくて、
思わず鼓動が高鳴る。それを誤魔化すように、そっと額にキスをした。
「ん」
すると、可符香はお返しと言わんばかりに望の首筋にキスをしてくる。
小さく音を立てて吸い付いてくる唇の感触がくすぐったくて、望は喉の奥から擦れた吐息を吐いた。
気が付けば、可符香の手は望のシャツを脱がしにかかっている。あっと思った時にはもう遅く、
肌蹴られた胸元に、可符香はわざと跡を残すように吸い付いた。
鎖骨を舐められ、普段は意識することもない胸の突起に、軽く歯を立てられた。
「……っ、は……」
思わず漏れる声。堪えるような呼吸の震えに、可符香はふっと顔を上げて、満足そうに望を見上げた。
彼女の触れ方は、愛撫というより猫のグルーミングを思わせる。
「私も、触っていいですよね」
返事も待たずに可符香の身体を引き寄せて、彼女の耳朶をチロリと舐め上げた。
「ひぁ…っ。く、くすぐったいです、先生」
ち、と音を立てて吸い付くと、可符香は小さく身体を震わせて、望にしがみ付いた。
その反応が愛おしくて、もっと困らせてみたくなる。
背中に回した手で彼女のセーターを捲り上げると、
「んんっ」
撫でられる感触に、可符香は僅かに身体を強張らせた。
「くすぐったがりですね、風浦さん」
「えへへ。先生がお上手なんですよ」
可符香は望がセーターを脱がしやすいように、自ら両手を挙げて見せた。
スルリと露になる、白い肌。まだ彼女の体温の残るセーターが、ベッドの下に落ちる。
薄い桃色の、シンプルながら愛らしいデザインの下着に興奮を煽られ、望はゴクリと唾を飲んだ。
ささやかに存在を主張する膨らみは、未発達ながらも確かに女として彼女を魅せている。
「お気に召しましたか? あんまりおっきくないですけど」
自らの胸を見下ろして、悪戯っぽく呟く可符香。
望は答える代わりに、再度彼女の身体を抱き寄せて、柔らかな胸に鼻先を押し付けた。
柔らかい鼓動の音と体温が、望の心を落ち着かせていく。
「んふふ…」
吐息がくすぐったいのか、可符香は身じろきながらも抵抗する素振りはない。
僅かに顔を離して、もどかしい思いでそっと、可符香のブラジャーのホックを外す。
パサリと落ちる下着。露になった乳房を目の当たりにして、落ち着いたはずの心が再びざわつき始める。
望の熱い吐息を胸に感じて、ほぅ…と吐息を漏らす可符香。
「――どう、しましょうか」
「はい?」
望は困ったように眉根を寄せて、小首を傾げる彼女の胸にそっと触れながら、口の中でゴニョゴニョと呟く。
「いえ。その…何といいますか。月並みな台詞しか出てこなくて」
初めて目に触れる可符香の肌。その感動を、何か言葉にして彼女に伝えたい。
けれども出てくる言葉は、綺麗だとか、可愛いだとか、そんなあえて言葉にするのも馬鹿らしいほどありきたりな台詞ばかりだった。
ああもう、ボキャブラリーの貧困な自分に絶望した!――などと胸中で毒づいていると、
「安心して下さい。気の利いた台詞なんて、期待してませんから」
そんな望の内心を察したかのように、可符香は可笑しそうにクスリと笑った。
「それはそれで悲しいんですけど」
恨みがましい目で見上げてくる望に、可符香は笑みを崩さない。
「私は、そうやって困ってる先生が大好きですから」
その一言で、半眼だった望の瞳は真ん丸に見開かれた。
見る見る朱に染まるその頬を、可符香は愛おしそうに撫で上げる。
――絶望した!
彼の口癖。望みも希望もこの世に無いのだと泣き喚く、彼の癖。
まぁそれが、もはや彼のかわいそぶりである事は周知の事実なわけだが。
そのくせ色んな事に首を突っ込まずに居られなくて、その度に痛い目を見て泣きを見る。
こんな落ち着きのない、見ていて楽しい大人が他に居るだろうか。
初めはそんな好奇心。そして次に生まれたのは――確かな信頼と、安心感。
あぁ、この人は本当に傷つきやすくて……、けれど、絶対に壊れない。
悲しい事も苦しい事も、その身に全て受け止めて、嘆き苦しみ、受け流す事も出来ない。
きっと彼は、諦めが悪い大人なのだ。
どのような物事にも、最後の希望を捨てきれないでいる。まぁ本人は否定するだろうが。
年を重ねれば重ねるほど、人は色々な物事を諦めて生きるようになっていく。
それは罪ではない。そうする事で心の平穏が保たれるならば、それにこしたことはない。
けれど彼はこの歳になっても、何一つ諦めきれなくて、
色んなことに体当たりでぶつかりながら、傷つきながら、ふらつきながらも生きている。
その姿に憧れた。
自分とは対極に位置する人だって、わかったから。
それが恋と呼べるかわからない。
けれど、こんなにも一人の人間を求めた事が他にない。
自分に欠けた何かを、この人が埋めてくれたなら――それはきっと、とても幸せな事なのだろう。
「大好きです」
もう一度、彼の耳元に唇を寄せて囁いた。
「――可符香、さん」
震える声で名前を呼ばれると、胸の奥が甘く痺れた。きっとこの感覚を、愛おしいと呼ぶのだろう。
「……可符香…、さん……ッ」
望は気が付くと、乱暴に可符香の身体をかき抱いていた。
そのまま、二人して音を立ててベッドに沈み込む。二人分の質量に、スプリングが悲鳴を上げた。
呼吸が乱れる。さっきまで、ただただ優しくしたいと思っていたというのに、
今はもうこの少女の心が、身体が、全てが欲しくて堪らない。
――大好きです。
そんなたった一言に、なんて切実な想いを込めるのだろう、この娘は。
いつもあんなに飄々と、一人で何だって出来ると言わんばかりに自信たっぷりの少女が、
こんなに切に自分を求めてくれることが、嬉しくて堪らない。
「はぁっ、は――は、ぁ……――ッ」
荒い呼吸を抑えもせずに、桃色に色づいた乳頭に吸い付いた。
「ッ、んぅ…っ」
音を立てて吸い上げると、可符香の身体はビクリと反応を見せる。
それに気を良くして、舌先で硬度を増す突起を舐りながら、内股を撫で上げた。
反射的に足を閉じようとした可符香だが、すぐに自ら身体の力を抜いて見せる。
まるで望が、ソコに触れることを待ちわびるように。
顔を上げて可符香の顔を覗き込むと、彼女は慣れない快感への戸惑いを隠すように、挑発的な瞳で望を見返した。
「えへへ……。もっと、良くしてみてください」
熱い吐息に乗せて、そんな、こっちの理性が弾け飛びそうな事を平然と言ってのける可符香。
――その顔を、どうにかして恥じらいで染めてみたい。
望は僅かに口の端を上げて、意地悪っぽく微笑んで見せた。
「良すぎて泣いたって知りませんよ?」
「出来るものなら」
生意気な唇を、軽く触れる程度のキスで塞いで。
「では、お言葉に甘えて」
望の顔が、すっと可符香の視界から消えた。
見下ろすと、望は上目遣いにニヤリと微笑み、軽く可符香のお腹にキスをした。
「ふぇッ」
不意打ちに、思わず身体がはねる。
その隙をつくように、気が付けば望の頭がスカートの中に潜り込んでいた。
「うわ、わああっ」
望が何をしようとしているのか察して、可符香は珍しい事に本気で慌ててしまう。
咄嗟に足を閉じようとするも、足の間に望の頭があるので完全に閉じる事が出来ない。
「だ、駄目ですってばソレはっ。き、汚いから……っ」
「月並みですね」
スカートの中から、くぐもった声が答える。勝ち誇ったような、得意げな声音だ。
自分の顔が真っ赤になっているのを自覚しながら、何か反論しようと口を開くも、
「――ッぅああぁ……っ!」
出てきたのは言葉ではなく、声高な歓声だった。
生暖かい舌先が、彼女の一番敏感な部分を刺激している。
いつの間にか下着はずらされていて、望の舌は容赦なく、僅かに膨らんだ肉の芽を弄ぶ。
そっと周囲を舌先でなぞったかと思えば、強く押し潰すように圧迫してきたり。
他人の舌が触れることすら初体験だというのに、巧みとも言える愛撫は些か刺激が強すぎた。
「あ、ぁ、ぁ――それ、も……ッ、もう、ぃ……ッ!」
何かを堪えるように、強くシーツを握り締める可符香。
足の指もいつの間にか力強く丸められて、両足は絶え間なく揺れ動いている。
そんな彼女の乱れる様子を楽しむように、あえて水音を立てながら、彼女の秘部を攻め立てる。
――そろそろ頃合かと、望は槍のように尖らせた舌先を、しとどに蜜を流す入り口へ挿し入れた。
っひ、と息を呑む気配。さっきまでとは違う緊張で強張る彼女の身体。
少しずつ少しずつ、解きほぐすように丹念に舌をくねらせる。
時には指先で、ぷっくりと膨れた陰核を刺激してやりながら、彼女の快感を高めていく。
「うあ、ぁ、やだ――これ、やだ…ッ、ぁぁあ……っ!」
耳に心地よい歓声が、切羽詰ったものになってきた。彼女の反応から、絶頂がすぐソコまで近づいているのを感じる。
トドメとばかりに、ワザと大きく音を立てながら、赤く充血した陰核に吸い付いた。
「――っひッ、あ、ぅぁあぁあぁああッ!」
腰がはねる。シーツを握り締めた手が、力を込めすぎて細かく震えていた。
仰け反った細い喉が、空気を求めてヒュウヒュウと鳴る。きつく瞑った目の端から、一筋涙が零れた。
――スルリとスカートの中から顔を出して、彼女の顔を覗き込む。
彼女の瞳にもはや挑発的な色はなく、ぼんやりと望の目を見返してきている。
朱に染まる頬を流れるのは汗だけでなく、潤んだ瞳から流れた涙が、一筋の跡を作っていた。
まだ呼吸が落ち着かないのか、ハァハァと肩で荒い息をつく可符香。
「……言ったじゃないですか。泣いたって知らないですよって」
その様子に、内心ちょっと心配になったりしたのだが、ここで謝ったら格好が付かない気がして、
必死に口元に笑みを張り付かせてみたりする。
「――え、へへ……。ビックリ、しました……」
だが可符香は気丈にも、すぐに瞳に力を宿して微笑んで見せた。
あぁ、かなわないな――と、そんな事を思いながら、汗で張り付いた彼女の前髪をそっと撫でる。
熱く火照る少女の身体に、冷たい髪留めの感触だけが異質に思えた。
「糸色せんせ……」
「ん?」
髪を撫でる掌に、小さな彼女の掌が重なる。
「しんどくないですか?」
「何が、です?」
「我慢するの」
可符香の目が細められる。
「挿れたくて仕方ないでしょう?
私、いっぱい気持ちよくしてもらったから……好きにしていいですよ」
言葉だけ取れば挑発的とも取れる。
だがその声音からは、ひしひしと望に対する思いやりだけが感じられた。
ぐっ、と、喉の奥で息が詰まる。
――正直、今すぐにでも乱雑に突き入れて、めちゃめちゃにかき回してしまえたら、とも思う。
けれどそんな風に言われたら……いや、言われるまでも無く、自分の欲望を優先なんて出来る筈もない。
「――み、見損なわないで下さい。ちゃんと、優しくしますよ」
「そこでどもっちゃ駄目じゃないですか。私、不安になっちゃいますよ」
その言葉とは裏腹に、可符香は本当に嬉しそうに笑いながら、望の首に手を回した。
顔を引き寄せて、額と額をつき合わせ、至近距離で見つめあう。
「……一応、聞いておきますが」
「はじめてですよ」
望の問いに先回りで答える可符香。その返事に、より一層責任感を感じる。
「――それではもう一つ。
今更こんな事を聞くのも、失礼かもしれませんが」
「先生が良いんです。先生じゃなきゃ、嫌です」
またも先回りで答えられてしまった。それも、これ以上ないって程に、真っ直ぐな眼差しで。
これはもう逃げられない。そもそも逃げる気も――逃がす気も、もうないのだが。
ふっと苦笑して、両手で包み込むように、彼女の頬を撫でた。
「それじゃあ、覚悟して下さいね」
「先生こそ」
お互いに、クスクスと笑い合う。
どちらともなく軽い口づけを交わして、強く強く両手を握り合った。
掌に伝わる汗の感触。態度とは裏腹に、彼女が緊張しているのがわかる。
その緊張が解くのに役立つかはわからなかったが、
「可符香さん」
「はい」
「――大好きです」
最初は声が震えて、ろくに伝えられなかった言葉を、改めて口にした。
柔らかく微笑む可符香。
組み敷いた身体から、ほんの少し力が抜けたのが、わかった。