私は夕暮れの光が差し込む自室の中で溜め息をついた。  
撫でさすっていたワオキツネザルの長い尻尾に目を落とす。実に美しいしま模様とコシのある毛並み。私の数多くのコレクションの中でもお気に入りのひとつ。だがしかし。  
違う、今、私の切望する感触はー  
 
私のクラスの担任は随分と変わった男だった。  
新学期早々、首吊り騒ぎを起こした。毎日のように、世間の事象を過剰に恐れ、被害妄想をこじらせて勝手に絶望し、死ぬ死ぬと声高に叫ぶ。まるで馬鹿、いや馬や鹿に失礼だ。いい成年男子が…  
世界中の尻尾を集める夢を追って、険しいマニアの道を進む私には彼があまりに幼く見えた。  
家庭訪問に来た時だって、せっかく尻尾の中から選りすぐって似合いのものをあてがおうとしたのに、真っ青な顔で逃げ出す始末。こんなホモサピエンスはイグアナあたりのハードな尻尾で叩き、しつけるのが妥当だ。くだらない。  
だが一方で妙に保護愛をくすぐられる時もあった。注射を恐れて泣きわめく子犬のような姿。ラインバックのほうが数万倍もかわいいからそんな気持ちは微塵にも出さなかったけれど。  
 
しかしあの夏の日から私は変わった。  
ギラギラと照りつける太陽の下、まるで健康的な男女のように私と先生は波しぶきをあげてじゃれあった。動物たちとのスキンシップ以外で私がはしゃいで笑うなんて、自分でも驚いた。包帯が乱れるほどー  
笑いすぎて息切れしている私に、そっと近づいて先生は耳打ちした。  
「小節さん、好きですよ」  
「!」  
その瞬間、私は沸騰した。思わず彼の顔を見返す。目が合うと先生はにっこりと笑った。私の心臓ははっきりと早鐘を打ち、頬は熱くなった。これは恋だ。人間相手の初めての恋だ。  
 
あの日以来、私は自慢の尻尾コレクションを愛でても、以前のような興奮が湧き上がらなくなってしまった。  
先生のあの笑顔がちらついてしまうから。まったく、マニアの名にふさわしくない事態だ。  
 
「あーもう!」  
もうひとつの気に入らないこと。約束した夏祭り以来先生の様子が何だかおかしい。  
最初は照れているのかなと思った。  
しかし愛用の包帯でスキンシップをはかれば「放生会リリースありがとうございます!」なんて叫んで逃げてしまった。私は呆けてただ後ろ姿を見守るしかなかった。  
次はツンデレかなと思った。警戒心と信頼のあいだで揺れる餌付け段階の野良猫のような。  
だがあの後、学校でも外でも明らかに私を避けて目すら合わそうとしないし、会話も必要最小限の挨拶ぐらい。デレなんていつまでも出してくれない。  
あんまり苛々したのでつい、ストーカー女まといちゃんを校庭の大木に縛り付けてしまった。  
先生は一体どういうつもりなのか…  
 
私は撫でていた尻尾を壁の飾り台に戻す。  
募る苛立ち。不安。いてもたってもいられなくなる。  
誰かに相談する訳にもいかない。先生については、女子は既にみんなライバルになってしまったから。  
もう一度、先生と一対一で話をしたい。そのうえで、人間の女としてするべき躾はさせてもらおうー。  
 
数日後の日直当番の日に私は行動を起こした。学級日誌と一緒に、先生にそっと包帯の切れ端を渡す。それにはマジックでこう書いてある。  
「お聞きしたい事があります。放課後、教室で待っていますー」  
それを見た先生の顔がこわばった。昼ドラのように陳腐な手だが、数多くの敵の目から逃れるには仕様がない。  
 
窓から見る夕暮れが美しい。地平線の近くでは徐々に闇が夜の準備を始めているけれど、  
誰もいない教室を見事に茜色に染め上げている。  
もうそろそろ来る頃だろう。ヘタレとはいえ教師、日が落ちてから、のこのこと女生徒のもとへ来るような夜行性の行動はとらない筈だ。  
はたしてターゲットは教  
室の入り口から顔を出した。  
「こ、小節さん、すみません、遅くなりました」  
振り向いた私と目が合うと、慌てて逸らしおどおどとした挙動を取る。  
「先生…」  
私は彼のほうに足を進めた。  
 
「…海に行った日のこと、覚えてますか」  
ぎくりと彼は身を震わせる。  
「…はい」  
記憶を無くした訳ではないようだ。  
「私、あの時本当に…嬉しかったんです」  
「…」  
先生の顔を見上げる。もっとも私は左目に眼帯をしているので、顔の右側を彼に近づけてじっと見つめる。彼は目をそらしたままだ。  
「先生は、私のこと、どう思っているんですか」  
重苦しい沈黙。  
「先生…!」  
促すと、ぽつりと彼は呟いた。  
「あれは、影武者が…したことでして…」  
「はあ?」  
思わず声に出してしまった。  
「小節さん、すみませんでしたっ!」  
私がぽかんとしたその隙をついて、彼は今来た入り口に向けて走り出そうとする。  
「待ってください!先生!」  
口に出すより早く、私は両手の袖に隠し持っていた包帯を繰り出した。優雅に伸びるそれで先生の両足首を捕捉する。  
「わああ」  
彼は音を立てて無様に転んだ。影武者?何、それ?言い訳としても成立していないだろう。  
結局、あの告白は気の迷いという事か。私は意識しないようにしていた心の傷が開いた気がした。  
こうなったら意地を見せてやる。  
「私を、本気にさせた罪は重いです」  
「いや、だから、わあ」  
先生の間抜けな声が挙がる。包帯を手繰りながら、教室の隅へ先生をずるずる引っ張っていく。彼は身を起こして抵抗するが、私の鍛え上げたスキルにかなう訳  
がない。  
「な、何をするんですかあ」  
「聞こえません」  
まったく仕様のない男だ。包帯で全身を締め上げてしまえ。私と同じ様な姿にしてしまえ。そのうえで躾をするしかない。  
 
やがて包帯を手繰り寄せると、無様に尻餅をついた先生の体に、私はぴたりと身を寄せた。暖かい、人間の、男の身体。本当はこんな包帯なんか使わないで触れ  
たかったけど。  
「先生」  
見上げると、先生とやっと目があった。夕日の映る綺麗な瞳に、意識が吸い込まれるかと思った。  
困惑して、でも頬を赤く染めた端正な顔。あの日感じた興奮が蘇ってきて私の心を揺らした。躾の前に、欲望が湧き上がった。  
私は先生の顔を見据えながらそっと、口づけした。彼の体がこわばる。気づかないふりをして先生の唇を自分の唇でなぶる。歯を舐めあげて徐々に舌を侵入させ  
る。先生の舌を捉えて、絡ませてみる。  
「…んっ、ふう」  
苦しくなって、一旦唇を離して息を吸う。と、先生が急に荒々しく口づけてきた。え、ちょっと…!彼の舌が私の口内を乱暴に掻き回して、くちゅくちゅと音を  
立てる。私は不意をつかれてされるがままになってしまった。体の芯が急激に熱くなる。  
「はあ、はあ」  
「す、すみません、つい…」  
悔しい。こんな男にリードされるなんて。しかし、私が熱望していたのはこの感触だった。  
私は先生をきっと睨むと、彼の下半身の辺りにゆっくりと手を伸ばして探りあてた。…熱くて、固くなりつつある尻尾。  
「せんせい…このしっぽ…」  
ゆっくりとその尻尾を両手で包み込むと、先生は急に慌てふためいて、  
「いや、ち違います!ちょっと、あの、女人の刺激でですね…絶望した!こんな己の欲棒に絶望した!」  
一通りまくしたてるのを待って。  
「せんせい、勃ってる…」  
 
私は袴の紐を無理やりほどいて、下着から先生の尻尾を露出させてしまった。  
「こ小節さん!」  
夢にまで見た先生の尻尾。動物たちの生殖器とは全く違う、皮膚に保護された逞しい肉棒−うっとりと半分ほど勃ったそれを見つめてから、私は優しく口づけし  
、くわえてみた。雄の臭いが広がる。熱い。脈動を感じる。  
「あっあ…」  
先生の尻尾は大きくて、私の口に全ては収まりきらない。それでもできる限り奥までくわえると、全体を舌でねぶり回し、時には吸い上げた。念入りに先端部  
を舌でなぞる。尻尾は刺激を受けて固さを増しさらに大きくなる。  
「うぅ…はあっ」  
いやらしい愛撫の水音と頭上の先生の喘ぎに胸が高鳴る。見上げると彼は真っ赤な顔で目をそらした。私は悔しくなって、さらに力を入れて舐めあげる。わざと音を立てる。  
「せんせえの…おおきひ…」  
「うはあっ!し、喋らないでください!」  
先生は慌てて私の頭を持ち上げた。  
潤んだ、しかし熱のこもった目を間近に見て、嬉しくなった。先生は、発情している…。  
透明な液体が尻尾の先から溢れてきて、私は名残惜しくて舌ですくいあげた。  
「こ、このままでは出てしまいます…」  
「だして、ください」  
そうしたら躾をしてあげるから…  
しかし先生は私の顔を抱えると、再度唇を合わせてきた。侵入してくる熱い舌。動物たち相手とは全く違うキス。口内を隅々まで犯されている感覚に下腹部が燃え上がる。気が遠くなりそうだ。  
「はあ、はあ…ひゃうっ!?」  
先生が私の唇を解放した次の瞬間、首すじに熱い感覚が走る。包帯をしていない部分に強く唇が吸いついて、鈍い痛みに体がびくっと震えた。  
あざになっちゃう…言葉にする暇もなく唇はすうっと鎖骨をたどり胸元をついばむ。先生の手がお腹から入ってきて私の胸を包帯ごしに優しく掴んだ。抵抗できない。  
「痛くないですか…」  
「ん、は、はい」  
つい素直に答えてしまう。先生は胸を揉みしだきながら、包帯をずらして私の乳首を探している。何だか生まれたての仔猫みたいで、私は快感のなか少し可笑しくなった。しかし次の瞬間、探  
し当てられた乳首が露わになって、思いきり吸い付かれた。  
「ひああっ」  
思わず声が出てしまった。かあっと全身が熱くなって苦しい。先生は両の乳首を指と舌先で転がし、甘く噛む。  
「ああっ…やっ…いたっ…あふ」  
「乳首立っちゃいましたね…」  
「それ、は、せんせえが…やああ」  
何度もきつく吸い上げられると、私はあまりの刺激に先生の頭を掴んでのけぞってしまった。異常なほど股間のうずきが高まっている。先生は私の胸を蹂躙しながら右手で私の体のラインをなぞる。包帯が乱れると私  
の理性が崩されていくような気がした。彼が内ももを撫でる度に、この前作った打ち身に指が触れて、痛みが走る。でも今はそれすら興奮している自分に驚く。  
スカートの中に手が入ってくる。下着はつけていたけど、自分でも分かるぐらい…濡れてしまっている。私も発情している…  
 
「濡れていますよ…」  
先生は微笑むと下着も一気に引き下ろした。私のももを両手で持ち上げると、大事なところを眼鏡をかけ直してくまなく凝視した。恥ずかしさに足を閉じようと  
すると強い力で押し戻されてしまう。  
「や、いや…は、はず…みないで…」  
「恥ずかしいですか?見られるのはいやですか?」  
そう呟くと先生は私の濡れそぼった大事なところに勢いよく口づけて何度も何度も舐めあげた。蕾も、ひだも、入り口も、その中も。先生の舌に犯されていく−  
じゅぶっ、じゅる…  
「ひゃっ…ああっ!んん!」  
駄目、駄目。私おかしくなっている。こんなに、ぞくぞくと体中が熱くなって蜜が溢れ出すなんて、今までにない快感がびりびりと走る。口が締まらない。  
もっと、してください、もっとー!言葉にならなくて私はただ赤子のように声をあげる。  
「あああん!あっ…やああ…!」  
先生は私の足の間から笑みを浮かべて私を見た。獲物を前にした猛獣のように眼が光っている。  
「小節さん…」  
そして先生の唾と私の蜜でべたべたになったあそこにゆっくりと指を入れてきた。  
「はあっ…」  
侵入した先生の細い中指が段々激しさを増して私の中をかき回す。ぐちゅぐちゅっという卑猥な音に私は益々恥ずかしくなって、同時に湧き上がってくる興奮で心臓が全身が震えてしまう。完全降伏。  
「あっ、ふ、やあっ、せんせ…え」  
頭の奥がしびれ出して腰が動いてしまう。もう何も考えられない。  
「ひあああっ…!」  
先生が蕾ををぎゅっと押すと同時に私の中を指の腹で強くすりあげた。と意識が飛んだ。花火のような煌めきが見えた気がした。  
がくがくと大きな痙攣。  
「はああ…」  
一人で慰める時とは比べものにならない陶酔感で私はぐったりと惚けていた。  
「…あびるさん、入れますよ…」  
先生の声が遠くから聞こえる。私はぼうとなった意識のなかーせんせい、今私のこと名前で呼んだ…  
力の入らない私の腰を抱えあげてあそこに入ってくる大きくて熱い熱い感触。先生の尻尾。  
「あひっ!」  
固くて熱い鉄のようなそれが、めりめりと私の肉壁を押し広げた。痛い!  
「きつい…あびるさん、大丈夫ですか?」  
「へ、へいきです」  
私は歯を食いしばって耐えた。徐々に、侵入してきた尻尾は私の膣にすっぽり収まった。  
「…は、入った…」  
私は今先生を包みこんでいる。何だか涙が出てきて私は息も絶え絶えに言葉を口にした。  
「あはあっ、せんせい、せんせい」  
先生は優しく笑うと私の上に覆いかぶさって、ぎゅっと抱き締めた。そしてゆっくりと腰を動かしはじめた。  
「あふんっ、あん、あっ!ああっ」  
あまりに強い刺激。先生の熱い尻尾が私の奥に当たる度に矯声が出てしまう。ただマシーンのようにがくがく揺れる体。必死で目を開けると先生の顔が間近にあって、じっと私の顔を見ている。こんなに乱れた私を見られているなんて。  
「あっ、ふっ、みな、いで、あん!んん」  
先生はふっと笑うとまた私の胸に唇を当てて歯を立てた。  
「やん!ああ、はあっ」  
昇り詰める意識のなかで私は必死に先生の頭に手を伸ばした。  
先生は腰を一層激しく動かしながら、私のだらしなく開いた口に唇を押し付けた。上も下も先生でいっぱいで、もう−私は半分泣きながら先生の口の中で叫んだ。  
「あふっ、もう、だめえ、いき、あああん」  
「ああっ、先生も…もう…あびるさん!」  
「あ、だめえ!あう、いっちゃううっ」  
「!」  
先生が驚いた顔をしたすぐ後、絶棒が蠢き熱い液体が私の中に注がれるのがわかった。息も荒く先生が私の上に倒れこんできた。私は放心状態で抱きしめる。  
二人の荒い息が教室に響く。  
そこで意識が途絶えた。  
 
日はすっかり落ちて、夕闇は教室中を満たしていた。  
気が付くと、私は先生の腕の中でまどろんでいた。辺りにほどけた包帯が散らばっていた。  
発情した雄と雌が交尾した、それだけのことの筈なのに。こんなに満たされた幸福な気持ちは。  
「せんせい…」  
呟くと、彼が目を開けた。  
「小節さん…」  
薄暗いなか、お互いを確認しあうように視線を絡め合わせた。  
「…私たちも、動物だったんですね」  
先生は困ったような笑みを浮かべた。その顔が可愛くて愛おしくて、私は両手を伸ばして先生を抱きしめた。  
「本当は躾をするつもりだったのに…」  
「…?躾?」  
「はい。大人のオスになるための」  
私は半身を起こすと教室の隅に置いた物体を指差した。  
「あれは…?」  
「尻尾ですよ。コモドオオトカゲの」  
「…」  
「叩かれると、しゃきっとしますよ」  
先生は泣きそうな顔で答えた。  
「勘弁して下さい…」  
「今日はしませんよ。でも、また変なことを言ったら…お尻とか…」  
「…」  
青ざめている先生にまた抱きついて、私はそんなおしおきも楽しみにしている自分に気がついた。  
 
終  
 

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