【木津 千里の場合】
「ロミオ、ロミオ、どうして貴方はロミオなの?
お父様と縁を切り、モンタギューの名前をお捨てになって。」
「貴女のお言葉どおりに致しましょう。これからはただ恋人とお呼びください。
これからは決してロミオではありません」
「本当に?」
「は?」
「私、こういうのきっちりしてもらわないと嫌なんです。
姓氏改名の手続きとか、相続放棄とか、全部ちゃんと手続きしてください!」
「ええと……この時代にはさすがにそういう手続きは存在しないと思うんですけど……」
「じゃあどうやって縁を切ったって証明するんですか!ああもう、いらいらする!うなー!!」
「ちょ、落ち着いてくださいどこから持ち出したんですかそのスコップいやあああぁぁぁ!!」
【常月 まといの場合】
「ロミオ……貴方はどうしてロミオなのでしょう?」
「いえあの、このシーンで既に背中に張り付かれていると私、どうやって登場すればいいのか……。
ここって確かジュリエットがテラスで、私が庭にいるシーンでしょう?」
「先生との距離がそんなに開くだなんて、私、耐えられませんから」
【小森 霧の場合】
「……………」
「……あのー、小森さーん、とりあえずテラスに出てきて下さいませんか。シーンが進みませーん」
「……私が部屋を出て行くと、キャピュレット家が滅んじゃうって、可符香ちゃんが」
「……滅んだ方が、ある意味平和に物語が進みそうなんですけどね」
【小節 あびるの場合】
「あれはひばりよ!朝の訪れを告げ、貴方を私の元から飛び立たせようとするにっくきひばり――」
「ちょちょちょちょ、ちょっと!何で貴女だけ別のシーンになってるんですか!
これってロミオとジュリエットの……その……事後のシーンじゃないですか!!」
「だってテラスのシーンって、しっぽのある生き物が登場しないじゃないですか。
ひばりのしっぽも本当はもう持ってるから興味ないんですけど」
「だからって既成事実は勘弁してください!ひばりも私もリリースする方向でお願いします!!」
【藤吉 晴美の場合】
「おのれ、仇敵モンタギュー、悪党め!ジュリエットにこれ以上近付くな!!」
「待てコラ!」
「先生、口調が」
「何で貴女ティボルト役になってるんですか!それジュリエットの従兄弟でしょう!
ロミオに殺される役でしょう!」
「何言ってるんですか!キャピュレット家の一員として、従姉妹を守ろうとしてロミオと決闘するティボルト。
しかしその心には憎しみ以外の感情があることに剣を交えるうちに気がついて――」
「気がつきません!ロミオとジュリエットっていう大前提まで覆さないで下さい!」
「えー、先生ひょっとしてティ×ロミじゃなくてロミ×ティなんですか?」
「そうじゃねえって言ってんだろ!」
「先生、口調口調」
【風浦 可符香の場合】
「大丈夫!貴方がモンタギュー家の人間でも、私がキャピュレット家の人間でも
人 は 皆 神 の 子 だ か ら !」
「……何だかもう、突っ込むのにも疲れてきたので貴女の解釈でいいような気もしてきました」
【日塔 奈美の場合】
「ああロミオ、貴方はどうしてロミオなの?
お父様と縁を切り、モンタギューの名前などお捨てになって、代わりに私を受け取ってください!」
「受け取りましょう、貴女のお言葉どおりに。これから私の名は貴女の恋人、決してロミオではありません」
「まあ!一体どうやってこの屋敷に忍び込んだのです?家の者が貴方を見つければ
憎いモンタギュー家の一員である貴方には20の刃が襲い掛かるでしょうに」
「何 で す っ て !
それはさすがに困りますね……それでは今夜はお宅の家人に見つからないうちに、これで失礼します」
「……え?ちょ、ちょっと先生!何で帰ろうとするんですか!
『貴女の愛を得られないまま生きるのならば、ここで彼らに殺されたほうがよっぽどましだ』ですよ!」
「何を言ってるんですか!死んだらどーする!」
「死んだらって、ロミオなんですから最後には死んじゃいますよぉ!」
「いやまあ、最後までやればの話でしょう……最後までやるんですか?こんな普通のロミオとジュリエット」
「普通って言うなぁ!!」