―きっと永遠に永遠に片想い―
それでも、僕は構わないんだ。
彼女の笑顔を見る事が出来るのなら。
彼女が幸せになるのなら。
彼女の想いが叶うのなら。
…そう自分に言い聞かせて思わず苦笑いした…なんて陳腐な恋愛小説の様な恋なのだろうと。
「ねえ、もしヒマだったら私と遊ばない?」
今日も当てもなく街を歩いていると見知らぬ女に声を掛けられた。
いわゆる逆ナンという奴で。
「いいですよ。」
それを待ち望んでいた僕は同級生からは人あたりが良いと言われる笑顔でOKの返事をした。
喫茶店で軽食を奢ってもらってからOLだと自己紹介した彼女の一人暮らしのマンションに連れ込まれた。
それ以後は容易に想像出来るお決まりのパターン。
「…あぁっ…ひゃぁぁ…んんっ…いっ、いいぃぃ…もっとぉ…」
酷く耳障りな女の嬌声に辟易しながら行為にひたすら没頭していた時。
ふと自分の身体の下でシーツに乱れた髪を広げ激しく喘ぐ女の姿に彼女を重ねてしまった。
“…久藤くん…久藤くぅん…もっと…してぇ…あぁっ…ん…”
彼女が切なそうな声で僕の名を呼びながら濡れた瞳で自分を見上げている。
背中に回された細い腕、トレードマークのヘアピンが外れて乱れた前髪、杏より甘い柔らかな唇、桜色に染まる肌。
今、自分が抱いているのは彼女の様な錯覚に一瞬だけ陥った。
(…気を紛らわせるつもりだったのに代償行為になるなんて…最悪だ。)
正気に戻り内心で忌々しく愚痴ってから行為をこれ以上続けるのも苦痛になり、さっさと女を絶頂に追いやった。
ベッドの中、満ちたりた顔をして眠る女に既に興味がなくなり背を向けて瞼を閉じる。
(木野みたいに鈍感だったら僕はこんなに恋に苦しまずに済んだのだろうか)
(まだ彼女が誰を想っているのか気付かなければ楽だったのか)
(その彼女に想われている相手も彼女を想っている事実を知らなければ救われたのか)
もう全く意味を成さない自問自答を心の中で何度も繰り返す。
いつもポジティブな彼女の笑顔が脳裏に浮かんだ。
僕の心を揺らす太陽の様で時には残酷に見える笑顔を。
「…可符香さん…。」
密かに想いを寄せる同級生の名を小さく呟いた時、知らず知らず涙が頬を伝っていたのに気付いた。
「…僕は神なんて信じない…。」
これからも神様との約束を忠実に守る少女への叶わぬ想いは自分を苦しめ続けるだろう。
―終―