「んー…」
「…?」
放課後の廊下に二つの人影。
一つは高校教師、糸色望。もう一つは彼が担任を務めるクラスの女生徒、藤吉晴美だ。
望は晴美にじろじろと何かを確認するように全身を観察されている。
「うーん…これは…」
「えっと…何でしょうか?」
つい先ほど二人が廊下で出くわしたときに、晴美はふと何かに気づいたような様子で望に近づいてきた。
現在晴美はくるくると望の周りを回りながらその姿を眺め、ときどき足を止めては何か考えているようだ。
「あの…何か付いてますか?」
「あーいえ、そういうんじゃなくて…うん、いける…」
「いける?」
「あのですね。先生、週末お暇ですか?」
週末、望が晴美に連れられて来た場所は以前と同じく同人誌即売会だった。
その会場内をカラカラとカートを引く晴美と望が並んで歩いている。
「付き合い良いですねぇ、先生。私ダメモトで言ったんですよ。」
「まあ実際暇でしたし、これでも教師の端くれ。出来るだけ生徒の望みには応えたいと思ってますから。」
などと言っているが、結局は単なる構って欲しがりだ。
本日望が頼まれたのは、晴美の同人誌の販売を手伝う事だった。
予定では晴美ともう一人、その友人とで売るつもりだったのだが来れなくなってしまったらしい。
曰く、「一人だと自分のスペースから離れられなくて買いに行けないんです。」
というわけでその穴埋めを望は頼まれたのだ。
「ハイ、これ着て来てください。」
そう言って晴美が袋を差し出した。その中にはコスプレ用の衣装が入っている。
「…着なきゃダメなんですか。私、キャラとかわかりませんよ?」
「先生なら素材だけでなんとかなります、それに比較的普通の服ですから安心してください。」
「んー…わかりました。まあ着てみますよ。」
しばらくして、ピンクのカーディガンに着替えて望が戻ってきた。
その姿を見て晴美が目をキラキラと輝かせる。
「…やりますねぇ。でも髪はもうちょっと…こう?」
「いいんですかこんな感じで?」
「なぜか声も似てる…すごい。」
「もしかしてこの間言ってた、いける、ってこの事なんですか?」
「そうですよ…よし。じゃ先生、今日はお願いしますね。」
「んんー…やったー、完売♪」
「ははっ、良かったですねぇ。」
にこにこと満面の笑みで喜びを表す晴美に望の顔もほころぶ。
「先生のおかげですよお。」
「私には何が何だか…たぶん今日は人生で一番写真を取られた日ですね…」
「へとへとですね先生…お疲れ様です。じゃ、帰りましょうか。」
来たときと同じく、カラカラとカートを引く晴美と望が並んで歩く。
ただそのときと違い、今はカートには晴美の戦利品が大量に積みこまれていた。
さらにそれでも載りきらなかった分が、紙袋に入れられて晴美の右手に下げられていた。
「ずいぶん買ったんですねえ…ああ、重いでしょう?そっち持ちますよ。」
望がひょいと晴美の手から紙袋を奪った。
「あっ…」
「どうしました?」
「いえ…なんでも…」
右手が空いた。
「…」
晴美が空になった自分の右手を見ながら、わきわきと動かしている。
しばらくそうした後、視線を望の左手に移した。
胸がドキドキしているのを感じる。
そっと手を伸ばして晴美は望と手をつないだ。
「どうかしました?」
突然手を握られたことに反応して、望が晴美の方を見た。
晴美は少しだけ照れた顔をしていた。
「……なんとなく、です。」
「そですか。」
そんな晴美の様子に思わず望の顔が緩んだ。
なんだか照れくさくなって、お互い無言になってしまう。
そのまま二人はてくてくと黙ったまま歩く。
しばらく進んだ所で晴美がちらりと望の方へ半分だけ顔を向けて話しかけた。
「先生…結構平気なんですね。」
「平気?」
「その…BL。」
「平気って訳じゃあ……んー、まぁ私も色々読んでますからねえ…そういう人が出る話も…いや違うかな…?」
「はあ。」
「やっぱり根本的な部分で違う気が…でも、まあそういう事ですよ。」
「うーん。つまりは下見の成果って訳ですか?その適応力。」
「ですかねえ…あ、言っときますけどけどそれは趣味じゃありませんからね!」
「わかってますって。」
「あと、絵があるってのはやっぱりキツいです…」
「はいはい。」
ふふ、と小さく笑う晴美に釣られて望の口元にも笑みが浮かんだ。
「先生、週末お暇ですか?」
あれから何度か、望は晴美に同様の誘いを受ける事があった。
あの日のことがよほど楽しかったのか、期待に満ちた目で望を誘いに来る晴美を断る事はできなかった。
ただ、望もその事に悪い気はしていない。
むしろ最近では、自分に懐いてくれている晴美を可愛いと感じていた。
というわけで今回も望は快諾し、また晴美を手伝う事になった。
「ゲットー!」
「……あれ?」
「あれ?ってどうしました先生?」
「何か違和感が…私、売り子の手伝いを頼まれたんですよね?」
「そうですよ。」
「えーと、売らないんですか?」
「売りますよ、明日。今日は買いに来ただけです、言ってませんでした?」
そういえば今回は入場の時点でいつもと違っていたことを望は思い出した。
しかしそれなら、2日目だけ呼べばよかったのではないか。
もしかして単純に自分と長く過ごしたかったのか、などと考えてしまって望は自嘲した。
「さて、と…そろそろ行きましょうか先生。」
「ええ、帰りますか。」
「帰りませんよ。」
「ん?どこか行く予定でもあるんですか?」
「売るのは明日って言ったじゃないですか、近くのホテル予約してあるんですよ。」
「…………ホテル?」
「さ、行きましょ。」
ぎゅっと晴美に手を握られて、望は引っ張られていった。
望の頭の中では、先ほどの晴美の発言が何度も繰り返されている。
(ホテルホテル…これは藤吉さんからのお誘い?…いやいやまずい、まずいですって!)
それは駄目だと思いながらもつい期待してしまう。
望を引っ張る晴美がくるりと振り向いて困惑する望に柔らかく微笑んだ。
その表情にどくんと心臓が大きく高鳴って、望は自身を引っ張る晴美にその身を任せてしまった。
「まったく…何を期待してんですか私は…」
望が連れてこられたのは簡素なビジネスホテルだった。
テレビ、ベッド、机、トイレ、それだけの小さなワンルーム。
晴美とは隣ではあるが当然別の部屋だ。
辿り着くまでについ考えてしまった朝チュンやら一緒にお風呂やら、どうやらどれもただの妄想に終わりそうだった。
その後、晴美と夕食をとり、浴場で今日の疲れを洗い流した。
今は備品の浴衣に着替えて、望はベッドに寝転んで本を読んでいる。
(今頃、藤吉さんも隣で同じことしてるんですかね。)
と考えていたところにコンコンとドアをノックする音が響いた。
「はいはい、今開けますよ。」
扉を開けると晴美がいた。
彼女も風呂上りのようで、望のように浴衣ではないが、昼間とは違うシャツとハーフパンツに着替えていた。
「ちょっと、お話したいことがありまして。」
「まあ、とりあえず中へどうぞ。」
望がベッドに腰かけ、そのすぐ横に晴美も並んだ。
「で、話って?明日の事ですか?」
「明日…なんというかこれからの事なんですけど。」
そう言いながら晴美はぽりぽりと頭を掻いている。
「えーっと……」
しばらく沈黙が続いた後、晴美がぽふっと体を傾けて望に預けた。
「すいません。ちょっと上手い台詞が思いつかなくて…」
「…」
何を言えばいいかわからないのは望も同じだ。
今の状況は、ちょっと前に妄想してしまった状況ととてもよく似ていた。
まさかまさか、と期待と不安がぐるぐる回る。
「なんだか…これって先生騙して逃げ場をなくさせたみたいで…ちょっとずるいかなって自分でも思うんですけど…」
そう言いながら晴美は腕を望の腰に回し、望の胸に抱きついた。
「先生、ダメ…ですか…?」
望の浴衣をきゅっと掴みながら搾り出されたその言葉が、見上げる潤んだ瞳が、望の心を大きく揺さぶった。
「藤吉さん………いいんですね?後悔しませんね?…手伝ったお礼とかのつもり…じゃないですよね…?」
「…うん。」
「ふぅ…じゃあ私も正直に言います。」
望は晴美に軽くキスをして、続ける。
「あなたにホテルを予約してるって言われたときにね…ちょっと期待しちゃってました…こういうの。」
「…っふふ…ほんとですかぁ?」
「ええ、恥ずかしながら。」
「せんせいのえっちー。」
「からかわないでくださいよ…っと。」
望が晴美を引っ張り自分の前に座らせた。
後ろから晴美を抱いて、うなじにちゅっちゅっとキスをする。
「っん…くすぐったいぃ…」
ゆっくりと晴美のシャツに手を入れ、彼女の肌の感触を楽しみながらシャツを捲り上げていく。
「ハイ、手あげてー。」
「…ん。」
「いい子ですね。」
シャツに続き、晴美のブラも望に外されてその胸が露になった。
反動でぷるっと揺れるそれに望の目は釘付けになってしまう。
その白さ、大きさ、柔らかさ、なかなか贅沢な一品だ。
「見事…ですね。もらっちゃっていいんですか?」
「先生、なんか言い方がいやらしい。」
「…いやらしいのはあなたの胸です。えい。」
「っひゃん…んぅぅ……はぁ…そう…かも…」
くりくりと両乳首をいじるたび晴美が甘い声を上げる。
望は自分の指の中で晴美の突起が少しずつ硬くなっていくのを感じていた。
しばらく晴美の胸を揉みしだいて楽しんだ望は、その手を晴美のハーフパンツへと移していった。
カチャカチャとボタンが外され、ファスナーが下ろされて、隙間から晴美の純白の下着が覗いた。
これから望にされる事を考えてしまい晴美は硬直してしまう。
望が晴美の首筋にくちづけをしながら下着の中に手を侵入させる。
胸への愛撫で少し濡れているそこに指を這わせ、晴美のクレバスを探り当てた望が指をその中へ挿しいれた。
少しずつ指を奥まで進ませて、晴美の様子を確かめながら刺激を与えていく。
「はぁ…ん…せんせぇぇ…」
大丈夫そうですね、と望は晴美への攻めを少し強くした。
それに促され、晴美も快感にその身を震わせた。
「や…なにこれぇ……すごい…すごい…ひもちいぃ……っんぅ…!」
カリっと膣壁を望の指にひっかかれ、晴美の体が大きく跳ねた。
ぐったりと脱力して、晴美は望にもたれかかりながら絶頂の余韻に浸っている。
「はぁぁぁ…せんせぇ…」
「そんなに良かったんですか?」
「うん…一人でするときよりずっと………うあ!?い、今の聞かなかった事にしてください!」
「はいはい…でも、そんなに悦んでくれたら私もやりがいありますねえ。」
望が晴美をベッドに寝転ばせて、残った衣服を剥ぎ取った。
とろとろと愛液を垂らす秘部を間近で見られて、晴美の顔が真っ赤になった。
そんな晴美の様子に望は満足そうに微笑み、晴美の股へと顔を近づける。
指に代わり、今度は舌を晴美の中へと侵入させ、にゅるにゅると膣壁を嘗め回す。
指とはまた違う感覚に晴美は身を震わせて、さらに蜜を溢れさせる。
一度口を離し、晴美の硬くなった陰核にキスをすると、晴美の体がぴくんと反応した。
「んぅ……あっ…やだ……きもちっ……よすぎるよぉ…」
敏感な芽を舌で転がされ、軽く甘噛みされ、その刺激に声を漏らしながら再び晴美は絶頂へと導かれていった。
「大丈夫…ですかね?」
ぽーっとした表情で夢を見ている晴美に望が尋ねた。
彼も既に衣服を脱いでいる。つまり大丈夫か、とはそういうことだ。
「ん…いいよ、先生…」
期待と不安のこもった声で晴美が答えた。
晴美の承諾を得た望が、晴美の足に手をかけてぐっと開かせる。
自分でも見たこともないような奥の方まで望に見られてしまっている、と晴美は羞恥心から顔を手で覆った。
暗闇の中で、晴美は自分の秘部に何か硬いものが触れたのを感じた。
「入れますよ?」
望の声が聞こえた。晴美は、こくりと小さく頷く。
ずぶずぶと望が中に入ってくる。
なんだか変な感覚だ。自身に含まれるはずのない異物であるというのに、むしろその存在に安心する。
「痛くないですか?」
「ちょっとだけ…でも大丈夫です…続けて、先生。」
さらに奥を目指して望が進む。
次第にその感覚に慣れてきたのか晴美も小さな快感を感じている。
艶の混じった声を漏らしながら望を受け入れていく。
「っん…入りましたよ…」
「え…あぅ……」
晴美が顔を覆っていた手を外して、望の方を見ると絶棒がずっぽりと自身の中に入り込んでるのが見えた。
恥ずかしくてまた顔が真っ赤になったが、その光景から目が離せない。
「動きますよ。」
「うん…」
晴美の中を望の絶棒が前後に動く。
少しだけ痛みを感じるが、望がたっぷりほぐしてくれたおかげか、それ以上に気持ちいい。
望の絶棒が引かれるたびに切なさを感じ、そしてまた入ってくるたびに愛しさを感じる。
「あぁ…あ……あっ…ひもちい…せん…せいは…?私の中…きもちいいですか…?」
「んっ…とっても…良いですよ…」
「ほんと?…っはあ…そうなんだ……うれしいなぁ…」
そう言った晴美の艶のある笑顔に望の興奮がさらに高まった。
そのため晴美のために少し抑え目にしていた動きをつい激しくしてしまった。
「ひあっ!?せ、せんせっ…や…はげし……あんっ…」
「藤吉さんっ!はっ………うっ…ん…!」
望が晴美の中で果て、どくどくと精液が流し込まれた。
同時に晴美もまた望の激しい攻めに陥落し、収縮した膣が望を締め付けた。
望が晴美の中から絶棒を引き抜くと、二人の愛しあった証がこぼれてシーツを汚した。
はぁはぁと息を荒げる晴美にキスをして望が謝る。
「すいません…最後ちょっとやりすぎちゃって…痛くなかったですか?」
晴美は望の発言に首を振り、にっこり笑って答えた。
「気持ち良かったです…それに嬉しかったし。」
晴美が両手を伸ばした。抱いて、という催促だろう。
それに応じて望が晴美を抱きしめ、二人はキスを交わした。
「んっ…先生、もっかいしましょ。」
「タフですね、あなた…そう言ってくれるのは嬉しいんですけど、明日引きずりますよ。」
「う、それは困ります…」
「まぁ今日はこのへんで…今日だけじゃないんですしね。」
「……はい。」
今日だけじゃない、という望の発言に晴美はとても嬉しそうだ。
「さすがにちょっと狭い、ですか?」
晴美はそのまま望の部屋で一緒に寝る事にした。
2部屋予約したとはいえ、今日は別の部屋で寝る気になんてなれなかった。
「本当は…2人用の部屋取ろうかなって思ってたんですけど…それはちょっと恥ずかしくて…」
「なるほど。でも、ちょうどいいと思いますよ、私は。」
望が晴美をぎゅっと抱き寄せた。
「…うん、そうかも。」
ついついにやけてしまう顔を隠すように晴美は望の胸に顔を埋め、眠りについた。