それはとある日の情事の後でのことだった。  
 加賀愛にも心休まるときはある。  
 すうすうとかわいげに寝息を立てて、望はとなりで眠っていた。  
 その寝顔を見ていると、ほんのちょっとだけ愛は、自分にも他人を幸せにできるのかな、と思った。  
 愛と望は、いわゆるセフレの関係に過ぎない。  
 恋人となると、迷惑を掛ける気がしてならなくて、こうして秘密の関係を結んでいる。  
 いずれは、そのうち望と結婚するであろう本妻に迷惑を掛けぬよう、慎ましく妾さんであろうと思っている。  
 それでもいいので、今の愛は彼のそばに居たかった。  
   
 雨の音に目覚めて、愛は、隣りに先生のいないことに気づいた。  
 もう行っちゃったんだ、とつぶやくと、愛はセーラー服の上に黄色いレインコートを着た。  
 さらに傘を差して、登校をしようとする。  
 服が濡れると、お母さんに申し訳ないから、いつもこんな格好になる。  
 ふと通学路で、可符香とばったり出会う。  
 しとしと雨の中、彼女はどこか湿っぽく微笑んでいた。傘も差さず、待っていた。  
 本当に、それでいいの。そう可符香は尋ねる。  
 わたしは構いません、これで。愛は伏目がちに答えた。  
 ふふ、と可符香は笑うと、愛のそばに寄り添い、その手を握った。  
 素直じゃないとこ、お揃いだね。  
 すみません、わたしなんかと一緒で……。  
 相々傘の下、二人は静々と自分たちのことを笑い合った。  
 

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