薄暗く、冷たく、無慈悲、そんな形容詞が似合うコンクリートの箱の中。  
孤独に打ち震えなければならないはずのその部屋で、  
まといと望は寄り添い温もりを共有するというあるまじき暴挙に出ていた。  
 
「一人が良かったんですけどねぇ」  
「何言ってるんですか、先生。  
 やっと二人っきりになれましたのに」  
 
壁にもたれかかりため息を吐く望に、まといはしなだれかかって甘い声で囁く。  
看守が不愉快そうににらみつけてくるが、まといは気付いてもいない様子でここぞとばかりに望に甘えていた。  
知り合ってからほとんど離れた事の無いまといにしても、望と二人きりの状況はそう滅多な事では訪れない。  
このようなチャンスに他の事に構っている余裕は無かった。  
 
「しかし、こういうのもいいもんですねぇ………。  
 鉄格子から入るほのかな月明かり……体温を吸い込む冷たいコンクリートの壁……  
 囁き声すら響く圧迫感のある部屋……時には喧騒を離れこのような空間で物思いに耽るのもいいものです」  
「ふふっ、そうですね。  
 こんな所で二人っきりってなんだかロマンチック……」  
 
望は深いため息を吐くと、しみじみと呟いた。  
生徒達の馬鹿騒ぎに巻き込まれる生活が嫌なわけではないが、時に疲れるのも事実。  
ここに閉じ込められたのも厄介事ではあるが、望にとっては舞い込んできた幸運でしか無かった。  
それに厄介な生徒も一人だけならそう大した事では無い。  
うっとりとした声を出し見上げてくるまといを可愛く思える余裕すら今の望は持ち得ていた。  
 
「……常月さんは寒く無いですか?」  
「私は別に……先生が暖かいですから」  
 
ぼんやりとストライプ柄にされた月を眺めていた望は、まといの答えを聞いて視線を向けた。  
確かにまといは望の上に座っていてコンクリートには触れていないが、それでも寒く無い事は無いだろう。  
にも関わらず嬉しそうに笑うまといの表情に望は柄にもなく感動を覚えていた。  
どこまでもどこまでも慕って付いて来てくれる少女。  
普段は鬱陶しさを感じる事もあるし、常に見られている事に苛立ちを覚えたりもするが、  
慕われる事が嬉しくも思うし、けなげで可愛いと思う事もある。  
今は正面を向いて相対しているからだろうか、  
望は強固な心の防壁を解き始めていた。  
 
「でも、先生に触れてない所が寒いです。  
 きっちり手を回して下さい」  
「きっちりですか?」  
「ええ、ちゃんと抱きしめないと千里ちゃんに怒られますよ」  
 
ふふっ、とまといが微笑むとつられるようにして望も笑みを見せた。  
くすくすと忍ぶようにして笑いあい、また看守に睨まれる。  
 
「それは怖いですね。  
 ――これでいいですか?」  
「……っ!」  
 
望の腕が横向きに座るまといの背中とお腹を掴む。  
身体を包む温もりにまといは驚いたような顔をし、すぐにうっとりと目を閉じた。  
散々アプローチして来たが、望の方から何かしてくれたのは初めての事だった。  
きっと愛しくて抱きしめたのではなく、言葉通りに暖めようとして抱きしめてくれたのだと  
まといは分かっていた。  
なんだかんだ言って生徒に優しいから、自分を寒さから守ってくれただけなのだろうと。  
しかし、それでも良かった。  
その優しさもまといの愛する望の一要素だから。  
 
「…………………」  
「…………………」  
 
それからしばらくの間、二人は静かに暖めあっていた。  
まといは白い息を望の胸板に吸い込ませ、  
望はまといの髪に頬を当てて一言も喋らずに温めあっていた。  
内心ではまといは次なる段階を期待していたし、  
望はまといの柔らかさを意識しないように努めていたのだが  
表面上はとても穏やかに上品さすら漂わせる程だった。  
 
その空気を破ったのは、この状況を至福と感じていたまといの方だった。  
現状に言い知れぬ幸福を覚えながら同時に不満も感じていた彼女は、  
わずかに身じろぎして望に自身の存在を意識させると、回された腕を解きおもむろに立ち上がった。  
そして、不審がる望ににっこりと笑いかけた。  
 
「トイレです」  
 
少女が一緒に入る事など想定していなかった為、この部屋には金属製の粗末な便器が一つしか無い。  
遮蔽物などあるはずも無い為、望はにわかに慌て、看守をしている中年の男性は素早く背を向けた。  
それを視認したまといの次の行動は非常に素早かった。  
無防備に背中を見せた看守に音も無く近づき、その首筋を手刀で打ち抜いたのだ。  
 
「ぐふっ!」  
「つ、常月さんっ!? 何をしてるんですか!?」  
 
ドサリ、と鈍く重い音を立てて看守が崩れ落ちる。  
望の悲鳴のような声に振り向いたまといは、返事をする代わりに微笑み  
優雅に、そして艶やかににじり寄り望の太ももの上に腰を降ろした。  
 
「つ、常月さんっ……」  
 
驚いた表情のままの望の首筋にまといの腕がスルスルと回されていく。  
やがて望の頭を抱え込むような体勢になると、まといは白い息を望の唇に吐きかけた。  
                    
「先生……唇が寒いです……」  
「なっ、そんな……」  
「暖めてくれますよね?」  
 
望は別に聖人君子でも無ければ枯れ果てても、女に絶望もしていない。  
魅力的な女生徒達のアプローチに心揺さぶられた事も一度や二度では無い。  
だが、普段は女生徒同士で牽制しあってくれるおかげで、それがブレーキとなって踏みとどまらせてくれる。  
しかし、今は誰にも見られていない。  
胸に押し付けられる温もりが、柔らかさが、漂ってくる甘い香りが  
望の中の教師としてのモラルを破壊しようとしていた。  
 
「だ、駄目ですよ、常月さん。  
 もっと御自分を大切にしないと…」  
「先生、一緒に死んでくれるって言いましたよね」  
「そ、それはですね、ええと…」  
 
どうにか逃れる言い訳を編み出そうとする望の頭を、まといの潤んだ瞳が掻き乱す。  
キラキラ輝く大きな瞳も、控え目に通った可愛らしい鼻も、桜色に艶めく唇も、  
吸い付くように滑らかな白い肌も、濡れた烏の色に流れる髪も、何もかもが望に食べて欲しいと囁きかけてくる。  
そう強くも無い望の自制心は既に大きく揺さぶられ、崩壊しかかっていた。  
このままでは不味い、と自覚した望は最後の抵抗に言葉を吐いた。  
 
「せ、先生、そういう事がバレると不味い事になるんですよ。  
 社会的地位が大事なもので……」  
 
要するにバレなければいい、黙ってるのなら手を出してやると言っているのである。  
実に最低の発言だ。  
こんなに最低な事を言う男に年頃の少女が幻滅しないはずがない。  
そう計算しての言葉だったが、望はまといを見誤っていた。  
まといは年頃の少女であったが、それ以上に恋する乙女であったのだ。  
 
「私、言いふらしたりしません。  
 先生の事、愛してますから」  
「常月さん……」  
「でも、抱いてくれないと、抱かれたって言い触らすかもしれません」  
「な、なんですか、それは?」  
「言い触らしたくなんて無いですけどね。  
 そんな事したって先生の命が危うくなるだけで、あの邪魔女達には牽制にもならないでしょうし」  
 
戸惑う望を見てまといはくすくすと笑い、花のような香りを口から蒔いた。  
 
「――お慕い申しております、先生」  
 
そして、おもむろに瞼を閉じた。  
 
それは引き金であり、トドメだった。  
望はゆっくりと顔を近づけると、唇を尖らせて待っている少女に口付けをした。  
初めは触れるだけ。次に唇を押し付けて、今度は啄ばむ。  
そうしてまといが逃げ出さない事を確認すると、  
望は少女の唇にしゃぶりつき、華奢な身体を抱きしめた。  
引き寄せて身体をこすりつけさせ柔らかさを愉しみ、唾液をすすって舌を追い掛け回した。  
まといの喉から出るくぐもった音が、湿った音にかき混ぜられて冷たい部屋の中に響き渡る。  
望の強引かつ練磨された手管は、恋愛経験が豊富だと自負していた少女にそれが自惚れであった事を思い知らせていた。  
 
「ぅ……んんっ…」  
 
荒々しく貪るような接吻から解放されると、まといは口を半開きにし恍惚とした表情で目を開いた。  
はーはーと乱れた息を整えながら、蕩けた目は物欲しそうに望を見やる。  
望はまといの上気した頬に軽く触れると、褒美を与えるように頭をそっと撫でた。  
大人が子供を褒めるような、教師と生徒のあるべき関係のような撫で方。  
まといが「んっ」と小さく鳴いて目を閉じた。  
望はしばらくそうやってまといを甘やかし、労わってから、もう一度唇を舐めた。  
 
「ぁ…ん」  
 
まといの桜色の唇を望の舌が行き来する。  
もどかしくなってまといが口を開くと、望の舌は少女の歯茎を舐め差し出された舌をねぶった。  
じゅるじゅると音を立てて唾液をすすられ、まといの耳が赤く灯る。  
望の唇はまといの口腔を蹂躙するだけでは満足せず、おでこや鼻、頬と顔の至る所を印付けをし  
果ては顎から首筋まで犯していった。  
時折まといが身をくねらせて抗ったが、望の腕に拘束されて柔らかさを擦り付けるだけだった。  
 
「立ってもらっていいですか?」  
「はぅ……はぃ…」  
 
望にそう言われ、まといは唇を合せてからのろのろと立ち上がった。  
熱くて働かない頭のまま立ち上がったまといは、そこでようやく帯が解かれている事に気がついた。  
望の手が袴をするりと下げる。  
まといの口から短い悲鳴が漏れたが、望は気にする事なく露になった白い太ももに口付けをした。  
 
「きゃッ……」  
 
細い腰を掴み、まといが逃げられないようにしてから望は脚を舐めた。  
膝のすぐ上から少しづつ登って行き、付け根まで辿り着くと腰を掴んでいた手でずり下ろした。  
 
「やっ……せんせい、見ないでっ…!」  
 
手に持っただけでくちゃりと湿った音のする下着を剥ぎ取られると、  
まといはいやいやするように顔を横に振った。  
 
「何を言っているんですか。  
 常月さんはいつも先生を見てるんだから、先生も見ます。おあいこです」  
「…そんな……やぅっ!」  
 
熱い吐息にビクッとまといが身を震わせると、望はわざと音を立てて鼻から息を吸った。  
 
「いい匂いがしますね、まといさんは」  
 
ぷるぷると震えて恥辱に耐えるまといを見上げると、望は少女らしい肉付きの尻たぶを掴みやわやわと揉み始めた。  
 
「それに毛が薄くてばっちり見えるのが凄く素敵ですよ。可愛いです」  
 
望は下腹部に語りかけるように言葉を連ね、桃色の秘肉にキスをした。  
まといの口から声にならない音が漏れる。  
とろとろと溢れる汁を舐めとって、望は執拗にまといの中に舌を這わせた。  
まといの脚がガクガクと震え、堪えきれずに泣き出し、全身が痙攣しはじめるまでそれは続いた。  
 
「じゃあ、まといさん、先生の上に座ってください」  
 
恥ずかしさで顔を手で覆ったまま、まといは小さく頷いた。  
お尻を掴んだままの望の手が、まといをゆっくりと誘導する。  
望とまといの目線がほぼ同じになると、漲った肉の棒がまといに触れた。  
 
「手をどけて下さい」  
 
望がそう言うとまといは少しだけ顔を横に振った。  
 
「まといさん……顔を見せてください」  
 
望の声は優しかった。まるで、普段つきまとっている時のように。  
まといは少しだけ時間を置いて、顔を抑えていた手をゆっくりと離した。  
 
「泣かせてしまいましたね、すみません」  
 
まといは涙の跡を残した顔で、また顔を横に振った。  
 
「先生は悪くありません。  
 ……ああいうの初めてで…怖かっただけなんです」  
 
まといは望の鎖骨辺りを掴むと恥ずかしそうに顔を伏せた。  
初めて絶頂を迎える時、自分の変化に戸惑い恐れをなして泣いてしまう少女はそう珍しく無い。  
しかし、この少女が泣くとは思っておらず、望は少なからず驚いていた。  
それから薄く微笑むと、涙の跡に口付けをして鼻を擦り合わせた。  
 
「可愛い生徒を泣かせるなんて私は教師失格です。  
 まあ、それ以上にこんな事をしているのですから今更でしょうが……」  
「先生……」  
「でも、止めてはあげませんよ」  
 
そう言い切ると望はまといのお尻を更に下ろさせた。  
 
「あぅっ……!」  
 
十分に蕩けさせられていたが、それでも身体はまだ少女であり  
わずかに押し入られただけでまといは苦しそうに顔を歪める。  
だが、望はゆっくりとではあったが、確実にまといの身体を自らに近づけていった。  
 
「はぅぅぅ………」  
 
みっちりと押し広げて、奥の奥まで突き立てると  
望は搾り出すように息を吐くまといをきつく抱きしめた。  
 
「きついですか?」  
 
望の声は優しげであったが、ほんの少しだけ違う上ずっていた。  
だから少女は望の肩に顔を預けたまま、幸せに顔を歪めた。  
 
「幸せです……先生は私で気持ち良くなってくれて」  
 
嘘偽りなく幸福に彩られた声。  
それは長い間一緒にいた望でさえ初めて聞くまといの声だった。  
そして、その声に望が聞き惚れていると、まといはぎこちなくではあったが腰を前後に動かし始めた。  
 
「あっ……くっ……す、好きに…先生の好きにして……ください…」  
 
そうまといに耳元で囁かれた後の望は、獣であった。  
人目という鎖を外された望は男の欲望を煮詰めたような存在と化していて  
少女の腰を掴むと、前後に、上下に、円を描くように激しく揺さぶった。  
まといが苦悶の声を上げようが嬌声をあげようがお構いなしに貫き、犯した。  
鉄格子を掴ませて後ろから膣壁を抉り、固く冷たいベッドに寝かせては腰を叩き付けた。  
 
 
薄暗く冷たく無慈悲なはずの部屋の中で、二人は静かに抱き合っていた。  
獣と化していた望も今は優しくまといを抱き寄せて、ベッドの上で寝転んでいた。  
気だるさすら漂わせながら余韻に浸る。  
望は抱き寄せた肢体の柔らかさを愉しみながら、まといに謝罪の言葉を投げかけていた。  
 
「……謝らないで下さい、先生」  
「しかし、中に出してしまって――  
「出来てても先生に迷惑かけませんから」  
 
望の心配している事が何なのか分かっているという風に、まといは微笑んだ。  
それが望の罪悪感を湧き起こす。  
生徒に手を出し、避妊もせず、責任を取らない。  
これでは完全に駄目人間ではないか、と。  
ところが、まといは望の上に馬乗りになると本当に幸せそうに微笑んだ。  
 
「いいんですよ、先生。  
 先生とした事も、父親が先生な事も言い触らしたりしません」  
「そ、そうですか」  
「でも、一つだけ約束してください」  
「な、なんでしょう。  
 出来るだけの事はしますが、その……」  
「うふふ、そういうんじゃないです。  
 約束は一つだけ。  
 これ、最後にしないで下さい」  
 
へっ、と望の口がぽかんと開く。  
しかし、まといは真剣な顔でもう一度繰り返した。  
 
「これが最後は嫌です。  
 私はいつでもおっけーですし」  
「まといさん……」  
 
まといの輝くような笑顔が望には眩しく、不可解だった。  
こんな最低の男に、やるだけやって責任逃れをしようとする男に、何故。  
 
「……何故です? 私なんかにそこまで………  
 あなたなら私よりいくらでも素敵な人が見つかるでしょうに」  
 
望が本当に不思議そうに聞くと、まといはにっこりと笑いかけた。  
 
「私、愛が深いんです」  
 

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