日直の仕事を、終える。何事もきっちりとこなさねば気の済まない性分のお陰で、この手の仕事にはいつも人並み
以上の時間が掛かるので、いつも日誌を書き終える頃には教室には誰も居なくなってしまっている。
「近頃、無断欠席が多いわね………休むなら、きっちり理由を説明しなきゃ駄目じゃない、もう………。」
そんな愚痴を漏らしながら………千里は、自分の荷物をまとめて立ち上がる。見渡すと、まるで絵に描いたように
綺麗に整頓された机達が、夕陽に照らされて規則的な影を作っていた。持ち前の測量技術を駆使して寸分の狂いも
なく並べられたその様にしばしうっとりとしてから………千里は、教室を後にしようと歩き出した。カクカクと、
直角に2回曲がって前方の出入り口に辿り着き、一応最後に窓の鍵を指差し確認してから、ドアを開く。
そして。また、廊下を直角に曲がって下駄箱に向かおうとした千里の背中に。
「あの………ちょっと、良い………?」
何者かが、声を掛けた。千里が、芸術的なまでに綺麗にセットされた黒髪を揺らして、振り返る。
//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
………月日は、遡り。舞台は、学校からそれほど遠くない、とある診療所の地下室に移る。
「私も私なりに、君のことを理解しようと、努力はしてみたんだがね………どうにも、理解に苦しむ。」
命は溜息混じりにそう言って、他人に命じて買ってこさせた何冊かの薄い本を、机の上に投げ出した。机を挟んだ
反対側の椅子に座らされて………晴美は、その表紙を興味津々な様子で覗き込む。
「………まだまだ、初級者向けだと思いますけどね………。」
にやまり、と奇妙な笑顔を浮かべて、命の顔を見てから………晴美は、ハッと我に返った。
何も聞かされずに突然呼び出された場所で拉致されて、こんな所に連れて来られて。いくら、目の前の見るからに
好みな攻め顔をした医者がそのテの同人誌を読んでいるからといって、そんなことで悦に入っている場合ではない
のである。
「っていうか、なんなんですか、これ………聞いてませんよこんなの………。」
「それは、まぁ………まだ、何も説明していないからね。」
「だったら、早く説明してください。こんなことして、一体何のつもりなんですか!」
椅子に腰掛け、その腕を手錠で拘束されたまま、晴美は不機嫌さを隠そうともせず命に食って掛かる。命は、この
状況でも脅えた様子を見せない晴美の意外に図太い神経に感心し、はは、と乾いた笑い声を漏らした後………眼の
前に放り出したうちの1冊を手に取って、言う。
「まぁ、簡単に言えば………趣味、なんだがね。」
「え………趣味、って………え………?」
「女性を嬲って、調教して………そういう行為がね、好きなんだよ。私は。」
余りに衝撃的な、そして、それにしては余りに抑揚に欠ける声で呟かれたその言葉に、晴美は眼を丸くした。
「あ、あの………今、何て………?」
「君の読む漫画の中にもあるだろう、そういう………いや、君の場合は、男同士を想像するだろうが………。」
「い、いや、そんな………漫画の中じゃあるまいし、実際にそんな人居るわけが………。」
「………君も、風浦さんと同じようなことを言うんだな。だが残念、これはフィクションでもなんでもないよ。」
「え、風浦さんが………何ですか?」
「ああ………彼女もね、既に私の所有物みたいなものだ。かなり、好き放題にさせて貰ったよ。」
「し、所有物って、そんな………?」
まるで、他愛も無い雑談に興じるような口調でそう語る命の姿に………晴美は徐々に、戦慄し始める。その言葉は、
常識的に考えれば悪い冗談にしか聞こえないはずなのだが………しかし、手錠をはめられたまま地下室の椅子に
拘束されるなんて、そもそも常識的ではない事態に身を置いているのであれば、事情は変わってくる。。
こんな状況で、果たして………命の言葉が本当ではない、などと簡単に言いきれるだろうか?そもそも晴美の知る
糸色命という人間は、そんな残酷な冗談を軽々しく口にするような人間だっただろうか?仮にも、望と血を分けた
兄弟である人間が、そんなことを口走るのか?自分が、ほんの断片的にでも知っていると思っていた命の姿が、
全て仮面だったとしたら………?
未だに自分の中で、白か黒かの答えを出せずに困惑する晴美を無視するように、命は続ける。
「話を戻そう。それで………君を知り、君を調教する下準備として、私はこういう物を取り寄せてみたわけだ。」
命の手の中の同人誌、その表紙で抱き合っている2人の美男子の絵が、揺れる。
「だが………正直、こういう趣味の娘の精神なんてものは、理解出来ない。恋愛なんて、したことあるのか?」
「なッ………何言い出すんですか、いきなり!余計なお世話ですよ!!」
「そんな娘に、果たして男女の性行為なんてものが馴染むのかどうか………流石の私も、自身が無くてね。」
「ん、な………せ、性………っ!?」
命の口から、さらり、と言ってのけられたその言葉に、まるで純情な乙女のように頬を染めながら、晴美はその
視線を逸らす。結局、命が何を言わんとしているのかは解からないが………何か、よからぬ事を考えているらしい
ことは、晴美にも薄々感じられた。
「………少女らしい部分も、あるにはあるようだが。それでも………少し、不安でね。」
「………っ………。」
「そこで、だ。女性のことは、やはり女性の方が良く解かると思って………彼女に相手をして貰うことにした。」
「え………彼女、って………?」
晴美が首を傾げたそのとき、命の言葉を合図にしたように、地下室の壁に据えられた唯一の出入り口が、軋んだ
音を立てて開く。その向こうから現れたのは………白いナースの制服に身を包んだ、美しくスタイルも良い看護婦
だった。その綺麗な顔で微笑まれ、晴美は思わず胸をドギマギさせた。
「さて。君は、どうも………男性の同性愛というものに、興味が深いようだが。」
「まぁ………2次元限定ですけど………。」
「その、逆には興味は無いのかい?つまり………女性同士の、同性愛だ。」
またしても発せられた、放送コードに引っ掛かりそうな過激な発言。もはやそんな言葉の1つ1つに驚いている
余裕もない程立て続けに命の口から出てくる言葉に、晴美の中で、常識の感覚が麻痺し始めたかに見えたが………
しかし、命の一連の言葉とその看護婦が現れたこととを照らし合わせ、ある結論に到ったとき。晴美は思わず、
その身をガチガチに緊張させた。
調教。
彼女に相手をして貰う。
そして………女性同士の、同性愛。
それらの言葉が示す、晴美の未来は………1つしか、考えられない。
「………よろしくね、晴美ちゃん?」
そう言って微笑みながらも、看護婦は、獲物を狙う野獣のような視線を晴美に向けていた。その指が、するり、と
晴美の輪郭線をなぞるように頬に添えられる。
晴美が、命の意図を、自分の行く末を確信して………その身を、震わせた。
//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
時間は再び現在に戻って、場所は、振り返ればそこに学校が見える路上に移る。
「珍しいじゃない、帰りに晴美が私のこと誘うなんて。」
「だって千里って、予定に無い行動って嫌がるじゃない。正直、付いてきて貰えると思ってなかったし。」
「じゃぁなんで声掛けたのよ………一応、こういう『自由時間』も、きっちりスケジュールに組んであるのよ。」
晴美と千里は、普段なら通らないはずのその道を並んで歩いていた。2人で一緒に家路に付くことは、ここ最近は
諸々の騒ぎに巻き込まれるようになって頻度こそ減ったものの、幼馴染の2人にはそう珍しいことではなかったが、
こうして………晴美の提案で放課後に寄り道をするのは、久々のことだった。その原因は、主に晴美の寄り道の先
が、千里を連れて行けないようなディープな場所ばかりだという点にあるのだが………。
「で、こっちって何かあったかしら?本屋も文房具屋も画材屋も、違う通りでしょ?」
「ん、ちょっとね、今回はそういうのじゃなくて………。」
千里の質問に晴美は何気ない調子でそう答えて、それきり言葉を途切れさせた。千里が、少しだけ顔をしかめる。
「………あんた、誘うなら誘うで、きっちり目的地を説明してから………。」
が………晴美が言葉で答えるまでもなく。千里は既に、晴美が誘ったその目的地の眼の前に、差し掛かっていた。
「あ、着いた着いた。」
「え?」
不意に晴美にそう言われて、千里がきょろきょろと辺りを見渡す。そして、そこにあった古びた建物の、外壁に
取り付けられた看板を見上げて………。
「え、ちょっと、あんたこんな所………。」
こんな所に何の用があるのか、と問い掛けようとした、瞬間。
「………ごめんね、千里。」
「え………ッ………!?」
その首に、背後から腕が回される。
気がついたときには、千里の首は………いつの間にか背後に回っていた晴美の腕に、完全に固められてしまって
いた。突然の出来事に心の底から動揺し、千里は眼を白黒させながら、漠然とした危機感に身体を強張らせる。
とにかく、抜け出さなくては危ない気がする………そうは思っても、無駄に運動神経が良く力も強い晴美の腕から、
しかも恐らく本気で自分を捕まえに掛かっているそれから抜け出すのは、晴美の本領をよく知っているはずの千里
にとっても至難の業だった。
「ちょっ………晴、美………ッ!?」
「ごめん、ちょっとだけ………我慢して。」
何も理解できずにもがき続ける千里と、それ全力でを抑え付ける晴美。しかし、寂れた通りには見渡す限り人の
姿など無く、外にその事態に気付いているものは誰も居ない。
………たった独り、2人のその異変に気付いていたのは。
「あら………この娘ね、晴美ちゃん?」
「っ………!?」
眼の前の建物、糸色医院から突然現れた………その、看護婦だけだった。
「たっ………助けっ………!」
千里は本格的な身の危険を感じ、必死の形相で、見ず知らずの看護婦に助けを求めようとする。
………が、しかし。
「まぁ、そう怖がらないで………ちょっと、我慢して頂戴。」
看護婦は、晴美と同じようなことを言ったかと思うと………背後に隠し持っていた布を、千里の口元に押し当てた。
もご、と千里の篭った呻き声が響く。だが、それも………ぷん、と辺りに微かな薬品の臭いが立ち込め始めた頃に
は、すっかり収まってしまっていた。
「はい、一丁上がり。」
看護婦はそう言って微笑み、手にした布を仕舞う。晴美は、意識を睡魔に持っていかれ力無く弛緩した千里の身体
を無言で抱えながら………やがて建物の中へと帰っていった看護婦の背中に、続いた。
診療所の前には、まるで何事も無かったかのような静けさと、いつも通りの寂れた風景だけが残されていた。
//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
そして、次に千里が眼を覚ましたときには。
「ちょっと………何よ、これ………!?」
その身体は、既に………地下室の壁に手錠で繋がれたまま、冷たい床にへたり込んでいた。
覚醒し、ほんの少しの間を置いて、自分の置かれた状況に気付いた千里は、気付いたときには眼の前の椅子に座り
自分を見下ろしていた命の顔を見上げるようにして睨みつける。
「そう、怖い顔をしないでくれよ。」
「そんなことはどうでもいいんです!何がどうなってこんなことになってるのか、きっちり説明して下さい!」
緊張感など欠片も無い声でそう言った命に、千里が噛み付く。どうしてあのクラスの面子には、こういう気の強い
娘が多いのか………と、心の中で呟きながら、命はぽりぽりと頭を掻いた。
「きっちり説明されても、よもや後悔はしないんだろうね?」
「するもんですか、こんな中途半端な気分で居たら、そのうち気が変になりそうです。早く説明して下さい!」
「………普通なら恐怖でパニックになってもいいところを、『中途半端な気持ち』で済ませるか。」
半ば呆れたようにそう言ってへらへらと笑い、命は椅子から立ち上がって千里に歩み寄る。膝を折ってしゃがみ込む
と、2人の視線がほとんど同じ高さになる。
「じゃぁお望み通り………きっちり、ハッキリと、今の状況、そして君の今後の運命を説明してやろう。」
「御託はいいから、早くしてください。」
「まず………君は今、私に捕らえられている。逃がすつもりは、毛頭無い。」
「それくらいは予想できます。目的はなんですか。」
「なら、これも予想通りかも知れないが………私は今から、君の身体を、好き勝手に弄ぼうと思っている。」
「………っ………!!」
余りにストレートなその言葉に、今までキッと命の顔を睨みつけたまま身じろぎ一つしていなかったように見える
千里の表情に、動揺の色が現れた。だが………その目的自体は心のどこかで予想していたのだろう。それ以上心を
乱すことなく、千里は黙って命の言葉の続きを待つ。
「そんなことをして許されるのか、と思っているなら………多分、心配は無い。」
「………っ………?」
「私も警察沙汰だけは御免だからね、そうならないよう、あらゆる手を打つつもりだ。君に対しても、ね。」
「………脅迫、ですか?」
「君の場合、それは最後の手段だな。基本的には………自主的に従って貰えれば、と思っている。」
「そんなことが、本当に出来るとでも?」
「可能性は大きいと踏んでるよ。ウチには、君を調教してくれる予定の優秀な部下が居るからね。」
優秀な部下、と聞いて、千里は自分に妙な薬を嗅がせた看護婦の姿を思い出した。おそらく、診療所ぐるみの犯罪
に自分は巻き込まれているのだろう、ということを、漠然と察する。実際は、診療所ぐるみと言っても、中心的な
メンバーは2人しか居ないのだが。
と………そこで。千里があることに気付き………そして、それとは別のあることを思い出す。
「………ちょっと待って。『君の場合』って、あなた………他にも………?」
「ああ。これまでも、数え切れないくらいの女性を自分のものにして来たからね………君の、友人達も含めて。」
にやり、と凍りつくような笑みが張り付いた顔でそう言って、命は千里の眼を正面から見据える。その言葉を聞き、
千里の中で甦ったあの記憶が、ある予感を呼び起こさせる。
「友人達って、まさか………あなた………!?」
今の今まで、記憶から飛んでいたあの出来事が、思い起こされる。記憶が途切れる直前………この診療所の前で
起きた、予想だにしなかった、あの出来事が。
その可能性に思い至ったことを褒めるように、命は千里の頭にその掌を置いた。
「君のクラスの娘達も、あらかた攻略済みだ。君の親友………藤吉晴美も、私にとっては例外ではない。」
そこで、初めて………口調は怒りながらも、どこまでも冷徹だった千里の表情に、『熱』の気配が現れる。
「………なんて、ことを………!!」
かけがえの無い幼馴染を手に掛けた、と、そんなとんでもないことをあっさりと言ってのけた命に………千里は、
その瞳の中に心の底から湧き上がるような怒りの炎を燃やす。野獣でも思わず尻込みするのではないか、という
程の迫力に満ちたその視線を一身に受けながらも、全く動じる気配は見せず、命は続ける。
「安心したまえ、さっきの話だと、彼女は後者だ。今は、自ら進んで私に協力してくれている。」
「『今は』ってことは、前は酷いことして言うこと聞かせたってことでしょう………!?」
「人聞きが悪いな。ただ、ちょっとした悦びを教えてあげただけだよ。」
軽い声で笑いながらそう言ってのけた命に………千里が、とうとう激昂する。
「ふざけるんじゃないわよ、!!これ以上晴美に変なことしたら、骨までミンチにして山に埋めるわよ!?」
「………女子高生の吐く台詞じゃないな、全く。」
「五月蝿いわね!!いいから離しなさい、晴美に会わせて、もう晴美に手を出さないで、近づかないで!!」
「せめて、お願いは1つずつにしてくれないか………まぁどっちみち、聞き入れるつもりも………。」
と。そこまで言って………命の声が途切れる。しばしの間の後、命は千里の眼の前で、唇の端を吊り上げて笑った。
「………そうだな。1つくらいは、聞いてやってもいいか。」
「………っ………!?」
「彼女に会わせろ、というやつだ。と言っても、こっちはもとよりそのつもりだったんだがね。」
「だったら今すぐ会わせて!今すぐ連れて帰って、警察に連れて行くわ!!」
「………人の話はよく聞くものだよ。聞き入れる願いは、1つだけだ………おい、入って来なさい。」
命はそう言って立ち上がり、冷たい鉄のドアに向かって呼びかける。すると、それは軋んだ音を立てて、内側へと
開かれ………外に控えていた2人を、命と千里の待つ地下室へと招き入れた。
1人は、千里に薬品を嗅がせて昏倒させた看護婦。そして、その後ろに続いたのが………晴美だった。
「晴美っ!!大丈夫、何か変なことされなかった!?」
その姿を確認するや否や、千里はそれまでとは打って変わった、心の底から不安がっているような声で、叫ぶ様に
晴美に呼びかけた。が………まるでそんな声など届かない見えない壁の向こうに居るかのように、晴美は眉一つ
動かさずに部屋に踏み込み、後ろ手に重い扉を閉めた。ガコン、という金属音と共に、また部屋が閉塞する。
「あら、あらあら………よく見たらホント、可愛い娘じゃない………。」
晴美を引き連れた看護婦は、千里の顔をまじまじと観察した後、開口一番そう言って微笑んだ。普通なら、喜ぶか
照れるかするところだろうが………眼の前の相手が、自分を薬で眠らせて、ここに閉じ込めることに加担した人間
だということを認識している千里の心に、そんな感情が浮かぶはずもない。
「けど………見た目は、ちょっとキツい感じね。ちょっと、子猫ちゃんってガラじゃないかしら。」
「五月蝿いわね、あなた、よくもあんな薬を!!」
悪口にだけは敏感に反応し、千里が看護婦に噛み付く。
「晴美!逃げましょう、こんな所に居ちゃ駄目よ、ねぇ!?晴美ったら!!」
「眼の前で逃げ出す算段とは、舐められたものだな、私達も。」
「いいんじゃないですか?どうせ………この娘も、そんなつもりなんて無いでしょうから。」
千里が必死で呼びかける様に、命は呆れたように笑い………看護婦は、まるで他人事のような台詞を呟いて、背後
に控えた晴美の頬に指を添えた。つう、とその指先が晴美の輪郭をなぞり、その首筋がぴくりと震える。
「ほぉら、晴美ちゃん………大好きなこの娘に、ちゃんと、自分の気持ちをぶつけて御覧なさい?」
「………は、い………。」
「は………晴美?ねぇ、ちょっと、聞こえてるの!?ねぇ!!」
「大丈夫、ちゃんと………お姉様が、見ててあげる。さぁ、あなたの子猫ちゃんに、ちゃんと、伝えてあげなさい。」
看護婦の言葉が魔法の呪文となって、晴美の体を意のままに操ってでもいるかのように、晴美は看護婦の声に反応
し、1歩前に歩み出た。どことも知れない眼の前の空間をぼんやりと見つめていた晴美の瞳が、ふらふらと動き、
そして………やがて、眼の前の壁に繋がれた千里を見下ろす位置で、止まる。ようやく、2人の視線が交わる。
だが………千里にはすぐに、気付いた。その瞳が、普段の晴美のそれとは別物のような光を宿していることに。
「………ごめんね、千里………。」
晴美は再び、その言葉を呟く。
「晴美………どうしちゃったの、しっかりしてよ!早く………早く、こんな所………!!」
千里の言葉を聞いているのかいないのか、反応らしい反応は1つも見せずに。晴美は千里の前に膝をつき、そして。
「………千里………っ………。」
「………っ………!?」
晴美は………その腕で、眼の前にある千里の身体を、抱き締めた。
自由にならない身体が、突然、優しく抱き寄せられる。突然の出来事に、千里が言葉を失う。
………だが。その優しい感覚も………ほんの、数秒のことで。
「………千里………ぃ………っ!」
「え………ん、ふぅ………ッ!!?」
千里が不意を突かれた、その隙を見計らったかのように、晴美は突然………身動きの取れない千里の唇を、奪った。
今度は、さきほどとは別の驚きで千里の身体が凍りつく。
「ん、ふ………んん、う………ちゅ………。」
「ん、ち、ちょっと、晴美っ………ん、く、や、止めッ………ぷ、ぁっ!?」
首から上だけで必死に抵抗する千里の唇に、数秒掛けて貪るように自分の唇を重ねて。晴美はやがて、うっとりと
した表情で、千里を解放した。
「ッ、はぁ………けほっ………!!」
無理矢理に塞がれていた口をようやく解放されて、千里が思わずむせ返る。
「ち、ちょっと、晴美!?あ、あ、あんた、何を………ッ!?」
千里がどもりながらそう問い掛けるが、どうやら、その声は今の晴美には届いていないらしかった。まだうっとり
とした表情で眼の前の千里を見つめ続ける、晴美に代わって………いつの間にかその背後に控えていた看護婦が、
その質問に答える。
「何って、あなた………愛情表現に、決まってるでしょう?」
「あ、愛情………表現………!?」
「そうよ。あなたのことを愛してる、っていう、晴美ちゃんの気持ちの表れよ。」
「で、デタラメ言わないで!!どうせ、あなた達が妙なことしたんでしょう!?」
「あら、失礼しちゃう。私達はただ………晴美ちゃんの中にあった気持ちを、解放してあげただけよ。」
「解放、って………それじゃぁまるで、晴美が、私のこと………!?」
「その通りよ、その娘は、ずっとあなたが好きだったのよ?気付いていなかったでしょうけどね。」
その言葉に愕然とし、千里は改めて、眼の前で惚けたような表情を浮かべている晴美の顔を見つめた。
その瞳が、やがて千里の視線を感じて、ゆっくりと動く。また、2人の視線が重なり………その直後。
「………本当だよ、千里………私ずっと、千里のこと、大好きだった。」
ようやく、晴美が千里の言葉への返答と取れる言葉を口にする。
「友達としても、もちろんだけど………それだけじゃ、無かった。凄く………可愛いな、って思ってた。」
「ち、ちょっと………あんた、何言ってるのよ!?」
「けど私、やっぱり………それって、リアルじゃ表に出しちゃいけないことなんだって、我慢してたんだよ?」
「やめて、晴美………逃げなきゃ駄目よ、早く、眼を覚まして………!!」
「眼なら覚めてるよ………だからもう、私、自分の気持ちに嘘は吐かない。隠すことなんて、何も無いもの。」
そう言いながら、晴美は更に千里の体に迫る。再び、千里の唇を塞いで………その手を、制服の中に侵入させる。
腹を這い上がってくる指の感触に、千里は背筋を震わせ………晴美が何をしようとしているのかを察し、微かな
悲鳴を上げた。
「ふふ………千里、かーわいい………。」
「や、ちょっ、止めてっ!晴、美っ………!?」
晴美の手が、決して大きくは無い千里の膨らみと、その先端の突起を弄ぶ。両腕を封じられた千里は、なす術も
無く無抵抗にその愛撫に身を委ねることしかできない。
「小っちゃいと、感度良いって言うけどね………ホントなんだ、あれって。」
千里の耳元で、熱い吐息と共にそう呟いた晴美の言葉通り………刺激を受け始めて程無く、千里の胸の先端は、
赤く充血しぷっくりと隆起し始めていた。晴美の指先がそれを摘み、転がす度に、千里はその背中を仰け反らせ
ながら甲高い喘ぎ声を上げる。
そして、晴美のその指はやがて、胸だけに留まらず………千里の秘所をも侵そうと、動き始める。
「ひ、ッ………!?」
際限なく与えられる、感度を高められた胸への刺激に、半ば溺れかけていた千里は………つ、と太股を撫でた晴美
の掌の感触に、一瞬で我に返った。今、そこに触れられるわけには、いかない。千里の中の、そこを愛する望以外
の人間に許すわけにはいかないという信念と、もう1つ………自分の身体だからこそ解かる1つの確信が、その
焦燥を掻き立てる。
「………ぁ………や、止めッ………!」
だが。晴美の手は、そんな想いなどお構い無しに千里の太股をなぞり………やがて、その下着に到達した。
「………ふふ………千里ったら。」
「………〜〜〜ッッッ!!!」
眼を細め、艶っぽい笑みを浮かべ千里の顔を覗き込みながらそう言った、晴美の指先は………その下着を濡らす、
千里の内側から湧き上がるじっとりとした湿気を、感じ取っていた。
「こんなに、胸弱かったんだね………初めて知ったよ。」
「ひ、やぁ………さ、触っちゃ、駄目………っ………!!」
秘裂を覆う薄い布を、くい、くいと微妙に圧迫しながら。晴美は、眼の前で真っ赤になって俯く千里の顔を、心の
底から愛おしい物を見る眼で見つめた。自分の最も恥ずかしい部分の状態を知られ、千里はもはやさきほどまでの
強いさを失い、羞恥に震えることしか出来なくなっていた。
晴美の指が、千里の下着を絡め取り、それを膝の下まで引き摺り下ろす。吸い込まれる先を奪われた愛液が、つ、
と一筋の雫となって冷たい床に流れ落ちる。
そして。胸への愛撫だけで既にしとどに濡れた、その場所に………晴美の指が、忍び込んだ。
「千里の中、熱いね………ん、ふっ………。」
「ん、やあぁ………う、くぅっ………!」
細い指で千里の内部を掻き分け、探るように内側を愛撫しながら、晴美はまた千里の唇を塞いだ。秘裂と唇とから
同時に侵入してくる晴美に抵抗することも出来ず、千里はただ、背筋が痺れるような刺激に耐え続ける。
「ん、う………あ、はッ、ひゃうぅッ!?」
やがて、晴美の指がある1点に差し掛かったとき、千里がそれまでになく乱れきった嬌声を上げた。その様子に
全てを悟り、晴美が、にやりと笑う。
「へぇー、そうなんだ………千里、この辺が弱いんだぁ………?」
「い、ひぃッ、うあぁッ!?だ、駄目、そこ擦っちゃ駄目ぇッ!!」
もはや、命と看護婦が自分達を観察していることなど意識の外なのだろう。千里は周囲の眼など気にも掛けず、
抑えられない甲高い悲鳴を上げながら、その身体をビクビクと震わせる。その声がまるで麻薬のように晴美の脳髄
を刺激し、麻痺させ、その行為を加速させていく。
………と、そのとき。
「………さて、その娘ももう、随分切なそうだ。」
それまでじっと事態を静観していた命が………不意にそう言って、立ち上がる。
「ここは1つ………ちゃんと、最後まで慰めてあげるのが、親友としての君の務めじゃないか?」
命のその言葉に、千里を責めることに没頭していた晴美が、ぴくりと反応する。
「………最後まで?」
「そう、最後まで。」
しばし考えて、その言葉の意味を理解して。晴美は………どこか寂しそうに、その視線を伏せる。
「………でも、それは………私じゃぁ………。」
最後までとは、つまり………男女の交わりによって、千里の身体を鎮めることを言っているのであろう。しかし、
いくら千里を心から愛おしいと思っているとはいえ………自分は、女の身体しか持っていない。そればかりは、
どうしようもないことなのだ。
その現実を突きつけられ、肩を落としかけた晴美に………命は、にこやかに語り掛ける。
「大丈夫。確かに君は女の子だ、それはどうしようもない………だが。」
そして、次の瞬間………その手から晴美目掛けて、何かが投げて寄越された。
片手で華麗にキャッチしたそれを、眼の前にして………晴美の眼の色が、変わる。
「それを使えば………少なくとも彼女は、その身体の最奥で、君を感じることができるだろう。」
「………っ………!」
「さぁ、やるんだ。君のありったけの想いを………彼女の、中に。」
命は、心の中で邪悪に微笑みながらそう言って………受け取ったバイブを手に硬直した晴美の姿を、見下ろした。
「これが………千里の、中に………。」
「そう。それは言わば………君の、分身だ。さぁ、今すぐに、それを沈めてあげなさい。」
「う、ぁ………っ………!?」
眼の前の晴美が手にしたそれを見て、千里が戦慄する。しかし、既に足腰も立たない程に体を高められた千里は、
もはやそれを拒否する言葉を紡ぐことすらままならず………ただ、懇願するような眼で晴美を見つめるだけだった。
晴美が、振り返る。その瞳は………彼女が完全に、命の言葉に洗脳されてしまったことを、物語っていた。
「………千里………私………。」
「や、止めっ………晴、美ぃ………!?」
「ごめん、私もう………我慢、できない………!!」
晴美が、それこそ欲望に駆られた雄のように、千里に襲い掛かる。その脚を強引に押し開くと、愛液に濡れた秘裂
が外気に晒される。恐怖と、気が狂いそうな程の羞恥心とで、戦利の表情が引き攣る。
晴美は、何かに魅入られたように、手にしたバイブの先端を千里の入り口に宛がった。ひ、とか細い悲鳴が上がる
のも構わず………それをゆっくりと、内側へ押し込んでいく。比較的小さな千里の秘裂が、侵入する異物に合わせ
その形を変えていく。
「い、ぁッ………や、止めて、晴海、い、痛ッ………!?」
「大丈夫よ………大丈夫。先生とだって、もう、1回やってるんでしょう………!?」
ぼそり、とそう呟いて………晴美は、まるで自分のその言葉がスイッチになっていたかのように、突如として溢れ
出した感情を、口にしていく。
「先生の………先生のが、千里の中に………!」
「あ、はぁッ………ぐっ………!!」
「私ね、悔しかったんだよ………千里が、私の大好きな千里が、先生に汚されたって知ったとき………!?」
「い”、やッ………痛い、痛いよぉ………!!」
「けど、千里とっても幸せそうで………それがまた、憎らしかった。」
「………ひっく………えぐっ………!!」
「なんで、ずっと千里のこと見てきた私より、あんな………あんな、男なんかに………ッ!!!」
「あ、あ、いッ………痛い、痛い痛い痛い痛ッ………ぁ!?」
そして。カタツムリのような速度で、ゆっくりと千里の中を進んでいったそれが………遂に。
ブチッ。
「い、ぎッ………〜〜〜ッッッ!!!???」
「………………………………え?」
何かが裂けるような、感触。そして………一拍後に千里を襲う、壮絶なまでの激痛。
「あ”あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!???」
千里の腹の底から湧き上がった、思わず耳を塞ぎたくなるような痛々しい悲鳴が、狭い地下室にエコーする。
「い、痛い、痛いッッッ!?ぬ、抜いでッ、も、もう、止めてぇッ!!嫌あああぁぁぁ!!!」
そして。眼の前で、狂ったように絶叫する千里とは、対照的に。
晴美は、千里の中に埋まり、愛液と破瓜の血の混ぜ物で濡れたそれを掴んだまま………まるで放心してしまった
かのように、ただ、ぽかんとした顔で口を開けていた。
「ぇ………ぇ、ちょっと、嘘………え?」
「うぇ、い、だいッ………痛い、痛いよぉ………ひっく………ッ!!」
「嘘、待って………なんで、だって千里………もう、先生と………あれ?」
まるで耳からの情報を全てシャットアウトされているかのように、晴美は眼の前で泣き濡れる千里の声などどこ吹く
風で、ただ、自分の視界にあるその光景に唖然としていた。
思考速度落ちた頭は、驚くほど冷静に、状況のひとつひとつを確認し、推理していく。
千里は、少なくとも最初は、望と事に及んでしまったからきっちりとその責任を取ってもらう、ということで望に
言い寄っていたはずだ。それは、千里がそんな理由など関係無く、心の底から望のことを想うようになった今でも
変わらぬ事実だったはずだ。
けれど………それなら、どうして?それが本当なら、千里はとっくの昔に望に純潔を捧げたことになるのに………
どうして、こんなことになっているのか?痛みに泣き叫んで、血を流して。これではまるで………未だに守られて
いた貞操を、自分が、今手にしているこのバイブで、奪ってしまったような………?
「………いやはや………そうか、そうか。」
そうして硬直する、晴美の背後で………命が、呟く。その声は、微妙に震えていて………まるで、湧き上がって
くる笑いを必死で堪えようとしているかのようだ。
「やっぱりな………あいつから話を聞いたとき、そんなことが有り得るものか、と思ったんだ………。」
その言葉に………晴美が、ゆっくりと首を巡らせる。
「君は、彼女から2人の間に何があったかを聞いてるんだろう?どんな話だった?」
「え………だから、先生と、千里が………保健室で………?」
「そうだ………『気がついたら、保健室の同じベッドで眠っていた』と、私もあいつからそう聞いている。」
「………ぇ………気がついたら、って………?」
「言葉の通りだよ。保健室に行って、気がついたら、望の腕の中で彼女が眠っていた………ただ、それだけだ。」
それだけ、という部分を強調しながら、命は心底楽しそうに、晴美にその話を語って聞かせた。
晴美は………千里から、先生と行為に及んでしまったらしい、という確かな言葉を聞かされていた晴美は、その
事実に、唖然とする。晴美の心の中で………絶望的な予感が、膨らんでいく。
「しかしね………私は正直、そんなことは有り得ないと思っていたんだよ。」
「………あり、え、ない………?」
「そう。あいつが、自分の教え子に手を出すなんて………それこそ、どんなに酩酊していても有り得ないよ。」
「ぇ………え?あ、あの………あれ………?」
「あいつもあれで結構、頭が古風でね。男女の交際に関してはことさらだ。」
「だ、だって………男女のべつまくなし、って………?」
「ああ………それは、倫のちょっとした冗談だよ。あいつ、いつもそんな事を言って望をからかっていたから。」
「………ぇ………ち、ちょっと………。」
「望は、良くも悪くも、根っこはお堅い奴なんだよ。そして………それはおそらく、彼女もそうなんじゃないか?」
「………ちょっと………待って………?」
「実際は、大方………隣り合ったベッドで寝ていた2人が、寝返りでも打って偶然一緒になってしまったんだろう。」
「………ゃ………っ。」
「だが………『男女が床を共にしてしまった』ことは、ただそれだけで、2人にとっては重大な事件だった。」
「………や、止めっ………。」
「だから、それに気付いたとき………半ばパニックに陥って………。」
「………や………嫌、そ、んな………っ?」
「自分達が行為に及んでしまった『可能性』を、『事実』だと誤解した。要は………全て、勘違いだったんだよ。」
間髪いれずに放たれる、命の、衝撃的な発言。
それを、全て聞き入れ、受け止めて………晴美は、1つの結論に達する。
つまり。千里は、今の今まで、純潔を護る処女だった。
そして、自分が………それを、かけがえの無い親友の純潔を、無理矢理に、奪い取ってしまった。
その現実を、ようやく、頭の芯で理解して。
………晴美の精神が、ミシ、と軋んだ音を立てる。
「………や………う、嘘よ、そんなの………?」
「嘘なものかね。ほら、眼の前で血を流して泣いている彼女の姿が、何よりの証拠だ。」
「………ち………違う、違うッ、私………私、こんな………!?」
「どうだい?他の男に奪われたと思っていた、愛する者の純潔を、その手で奪い取った気分は!?」
命の語気が、だんだんと強まっていく。
「君の親友が、愛する男に捧げたと思い込んでいた純潔を!その玩具で奪い取った気分はどうだと、聞いてるんだ!」
そして。その、無慈悲にとどめを刺すような言葉に。
「い………っ………!」
遂に………晴美の心が、音を立てて崩れ落ちる。
「いやあああぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」
絶叫すると共に、それまでなんとか意識の外に締め出していた黒い感情が、晴美の心に流れ込んで渦を巻く。
後悔、罪悪感、懺悔、そして………もう決して取り返しはつかない、という絶望的な確信。それらが、崩れ落ちた
晴美の心の残骸を、更に容赦なく蝕んでいく。
「………ぃ………たい、痛、いっ………ひ、ぐっ………。」
「や、ぁッ………ッ………!?」
頭が割れるような錯覚。一刻も早く耐え難い現実から逃げ出そうと、今にも強制終了されてしまいそうになる意識
を、眼の前で呻く親友の姿がその場に引き止める。まるで、死体か幽霊でも見るような蒼白な顔でガチガチと奥歯
を鳴らす晴美の背後に………命が、ゆっくりと歩み寄る。
「………そんなに、動揺している割には………。」
「ひ、っ………!?」
命は、床にへたり込んでいた晴美の身体を背後から羽交い絞めにするように抱え上げ、ぐらつく脚でどうにか地に
立たせた後………その手を、晴美のスカートの中に滑り込ませた。ビク、と晴美の身体が震える。
「ここは、しっかり濡れているんだな。」
「え、やッ………そ、そんな………!?」
「友人をボロボロに穢して、それで悦んでいるのか。大したものだ。」
命の言葉の通り………晴美の秘裂は、布越しにもハッキリと解かるほどに濡れそぼっていた。それは、もちろん
晴美が全てに気付く前、何も知らずに千里に迫っていたときの興奮の名残りだったが………動揺しきった晴美が
それに気付くのを妨げるようにして、命は容赦のない言葉を並べていく。
「親友の破瓜の血で興奮するなんて、真性のサディストだな。私も、ここまでの逸材は見たことが無い。」
「ち、違います………私………私ッ………!」
「何が違うんだ?悲痛に泣き叫び、君の手で身も心もズタズタにされた彼女の前で、こんなに濡らしておいて。」
「や………い、やぁ………何で、私、そんなの………ち、がッ………!?」
「ほら、彼女にも見てもらえ。自分が彼女にあんな真似をして、何を感じているのか。」
命はそう言いながら、手錠に繋がれたまま、痛みに疼く秘裂にバイブを挿し込まれたまま虚空を見つめている千里
の眼の前で、晴美のスカートを捲くり上げて下着を引き摺り下ろす。もはや千里の瞳にそんな光景は映っていない
が、それでも、晴美は頬を真っ赤に紅潮させながら唇をわなわなと震わせた。
そして。その背後で………命が何かを思いつき、ニヤリ、と歪んだ笑みを浮かべる。
「………そんなに、罪の意識に苛まれているなら………少しでも、贖罪の手助けをしてやろうじゃないか。」
「………ぇ………っ?」
命はそう言って、晴美の身体を解放し、その正面、茫然自失のまま震え続ける千里の眼の前にしゃがみ込み………
突然、千里の秘裂に捻じ込まれていたバイブを、引き抜いた。
「い、ぎッ………ッッ………!!?」
何の前触れも無くそれを奪われ、千里が新たな痛みに悶絶する。
「………『目には目を、歯には歯を』だ。君も………コレで、同じ痛みを味わってみればいい。」
「え………やッ、嫌………!?」
晴美が、思わず後ずさろうとする………が、それよりも先に、命は晴美の身に襲い掛かり、その身体を部屋の端に
寄せられていた机の上に乱暴に押さえ込んだ。すかさず、じっと部屋の隅に控えていた看護婦が加勢する。
「君も………彼女と、同じだろう?なら、愛する彼女と同じこの玩具で………その純潔を、散らせばいい。」
両腕の高速を看護婦に任せて、命は強引に、その身体を晴美の脚の間に割り込ませる。下着を脱がされ、しとどに
濡れて、既にそれを受け入れる準備の整っていた秘裂に、命は何の躊躇いもなく、バイブの先端の狙いを定めた。
「い………嫌ぁッ!!や、やめッ………止め、て、お願い………許して………ッ!!」
「君が彼女にしたのと、同じことをするだけだ………おい、君もよく見ておけよ!?」
命は振り返り、おそらくは何も聞こえていないであろう千里の耳にそう呼びかけた。案の定反応は無かったが、
それでも構わず、命は手にしたバイブを晴美の中へと沈めていく。自分で自分を慰めようと、似たような物を受け
入れたことはあったが………それほど本格的な物を受け入れたことの無い秘所が、悲鳴を上げる。
「い、あッ………ぐ、ぅ………!?」
そして。眼を白黒させながら、晴美が、その異物感に呻き声を上げそうになった、瞬間。
「………さぁ、これで………晴れて、彼女とお揃いだ………ッ。」
命が手にしたそれが………晴美の純潔の証を、引き裂いた。
晴美が、痛みに眼を剥く。呼吸が止まる。千里を襲ったのと同じ、気が狂うような痛みが、全身を突き抜ける。
「い”ッ………や、ああああああぁぁぁぁぁぁッッッ!!!?」
噛み殺したような呻き声に、甲高い悲鳴が続く。その音に酔いしれるように、命はしばし眼を閉じ、何度か頷いた
後………たった今姦通させられたばかりの晴美の中に、2度、3度と、バイブを突き入れた。晴美の脳内で、肉が
裂けるような音が響く。水音を響かせる秘裂から、赤い液体が流れ出す。
「い、いだッ………あ”、あああッッッ!!?」
「どうだい?君は、彼女がそんな地獄のような思いをしている眼の前で、淫らに股を濡らしていたんだぞ?」
「ぬ、抜いでッ………もッ、や、む、無理………やだ、あ、ぁッ………ん、ぎぃッ!?」
「………まぁ、気持ちは解からないでもないがね。私も、人のことは言えないな。」
そんな残酷な行為に及んでいるとは思えない口調で、そう呟き………命は、笑った。そして。
「いだッ………あ、あっ、かはッ………!?」
「どれ、せめてもの救いに………今回は、早めに解放してやろう。」
その指が………バイブの柄に取り付けられたスイッチに、伸びる。
そんなことは露知らず、ただ、強烈な痛みに歯を食い縛る晴美の姿を見下ろして………。
「大丈夫………1度果ててしまえば、すぐに痛みなど忘れるさ。」
命は、カチ、とそのスイッチを切り替えた。
振動が、未だに血を流し続ける晴美の膣内で、振動し始める。それは一瞬、傷口を滅茶苦茶に掻き回し、晴美の
精神を狂わすのではないかという痛みを生み出すが………すぐに、更に強い感覚でそれを塗り潰していく。
「いッ………や、あ、あああぁぁぁッッッ!!?」
「どうだ、少しは楽に………いや、それどころではないか。」
「や、やあああぁぁぁッッッ!!こ、これ駄目っ、と、止めッ………壊れッ………!!?」
「初めてにしては、刺激が強すぎるかな?まぁ………大丈夫、死にはしないだろう。」
「駄目ぇッ、こ、これッ………し、死んじゃう………ッ!!やめッ、も、もう、許して………ッッッ!!?」
「………死なないと言っているじゃないか。本当に、もう何も聞こえていないんだな………ははは。」
震えるそれを、更に抜き差ししながら、命は乾いた声で笑う。
「あ、ッ、ぐ………あ、あああぁぁぁッッッ!!?」
侵入と後退を繰り返しつつ、強烈な振動で晴美の内壁を抉る異物に………晴美の身体は、ものの数秒で、あっさり
とで絶頂へと導かれてしまった。
「あ、ひぁ………ッ、うぁ………っ!?」
壮絶な痛みと、それを覆い尽くすような強烈な快感。許容量を越える感覚の波に溺れながら、晴美は、自由になら
ないその身をガクガクと痙攣させた。背筋が反り返り、四肢が引き攣り………やがて、ぐったりと全身が脱力する。
だらりと机の上に投げ出された肢体は、それでもまだ、執拗に振動を続けるバイブの刺激にピクピクと小さな痙攣
を繰り返していた。
「は、あッ、はっ………ひっ、う、ぅぇっ………ぁ………ッ………!!」
「………なんだ、あっけなかったな。」
ふん、と鼻を鳴らす命に、抵抗する気配を失った晴美の腕を解放した看護婦が、呼びかける。
「もう、先生ったら………酷いですよ。」
「はは………酷いのは、お互い様だと思うがね。」
「でも私、せっかく晴美ちゃんがネコじゃなくタチもやってみたいって言うから、協力したんですよ?」
言葉では、機嫌を損ねたような台詞を吐きながらも………看護婦の顔には、命には及ばないが、それでも一目で
邪悪さが感じ取れるような笑みが、張り付いていた。
「一緒に楽しみたい娘が居るって言うから、こうして連れて来て貰ったのに………結局、先生ばっかり。」
「いいじゃないか、その娘だって楽しんでいただろう………あのことを知るまでは、だが。」
「あらあら………先生ったら、意地悪なんですから………。」
「何を今更。君だって、楽しそうに見物していただろう?」
「それも、そうですけどね………ふふ………。」
打ちひしがれた2人の少女の眼の前で、平然とした様子で、看護婦と談笑した後。
机の上に仰向けになったまま、肩を上下させ、浅く短い呼吸を繰り返す晴美の姿を一瞥して………命は、その瞬間
に晴美に対する興味を失ってしまったかのように、秘裂に沈めたバイブのスイッチを切ることすらせず、そのまま
千里に向き直った。
流石に、親友の断末魔のような叫び声は、その耳にも届いたらしく。千里はずっと伏せていた顔を上げて、たった
今、眼の前で純潔を散らされ絶叫していた晴美の脚が机の端からぶら下がっている様を、恐れおののくような眼で
見つめていた。さきほどまでは、何も映らない濁った闇が湛えられていたその瞳にも、今ははっきりと、恐怖と
いう感情の気配が見て取れる。
「おお………そういえば君は、まだ最後まで達していなかったね。」
「………ひ、っ………!?」
命が、ゆっくりとした足取りで千里に歩み寄る。1歩ごとに、千里の中の恐怖が肥大化していく。
「ふむ、そうだな………初めての思い出が、地獄の苦しみばかりでは、流石に少し可哀想だな。」
千里を見下ろしながら、とぼけたような口調でそう言って………命はおもむろに、自分のズボンに手を掛ける。
やがて眼の前に曝け出された、膨張した命のモノを目の前にして、千里はまた蚊の鳴くような悲鳴を上げた。
「せっかくの機会だ。私が………その身体に、女の悦びを、刻み込んであげよう。」
「い………嫌っ、ぁ………こ、こなっ、来ない、でッ………!?」
「そう怖がらずに。そんな痛み、すぐにどうでも良くなるくらい………徹底的に、トばしてあげよう。」
壁際に追い詰められた状況でも、なお命から逃れようとする千里の身体に………命が、襲い掛かる。
全力で命の接触を拒否しようとする千里の身体を、難なく抑え込んで………その脚の間に身体を割り込ませた命は、
愛液と鮮血に濡れ、未だに鋭い痛みの余韻が残る千里の秘裂に、腫れ上がったモノを容赦なく突き入れた。
恐怖の叫び声が上がり、数秒の後、再来した激痛による叫び声が響き渡る。
そのエコーの中に、命の落ち着き払った声と、徐々に大きさと頻度を増す淫靡な水音が混ざり合う。
初めてその身を穢された少女達の地獄のような時間には、未だ、終焉の気配は感じられない。
(続)