額に押し付けられる、硬い感触。  
耳をつんざくような、誰かの叫び声。  
自由にならない、手足。  
そして………。  
 
 
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「………ん、ア?」  
マリアは、狭い空間に大勢の人間がひしめき合うその場所で、眼を覚ました。  
寝ぼけ眼で、むくりと上半身を起こす。辺りを見渡すと、入り口の隙間から挿し込む光に仄かに照らされて、見覚え  
のあるたくさんの顔がすやすやと寝息を立てて眠っていた。  
そこが、いつも通りの寝床であることを、改めて確認して。  
「………っ………?」  
自分が、何故そんなことを確認したのかを、ほんの一瞬だけ考えた後………そんなことはどうでもいいか、と頭を  
切り替えて、立ち上がる。すし詰めになって眠る仲間達の隙間を、八艙飛びのように器用に飛び移って、マリアは  
その出入り口へと辿り着いた。  
ガラリ、と戸が開いて………空き地の片隅に放置された簡易物置の中に、陽の光が差し込む。  
「ンー………今日も、良い天気だナ!!」  
大きく伸びをして、無邪気な笑顔でそう言う。明かりとマリアの元気な声とで眼を覚ました何人かが、もぞもぞと  
寝床から起き上がり、それぞれに身体を伸ばす。  
「オハヨウ、マリア。」  
「オハヨウ。」  
「うん、オハヨウ!じゃ、マリア行って来るヨ!!」  
仲間達との挨拶もそこそこに、マリアは寝起きとは思えない程の手際で簡単な身仕度を整えて、出発の挨拶と共に  
物置を後にした。ひらひらと手を振る仲間達に見送られ、健康的な肢体が軽やかに町へと繰り出していった。  
 
まだ、通勤、通学する人間もまばらな街の中を、褐色の肌を持つ少女が裸足で歩いて行くその様は、どこからどう  
見ても不自然なものであったが………この辺りの住民にとっては、マリアの居るそんな光景はもう日常のものと  
なってしまっていた。  
恵まれた国での、祖国では決して味わえなかった楽しい生活。警察や公安、その他のもっと危険な人間に追われる  
ことも少なくないが、昔の暮らしを思えばそれも苦にならない。  
マリアは鼻歌交じりの上機嫌な様子で、学校へと続く通りを歩き………だが、やがて、そのルートから外れるよう  
にして、1本の路地へと入り込んだ。もう数分も歩けば、左手に学校が見えてくるはずなのだが………そう。今日  
のマリアの目的は、学校でクラスメイト達と授業を受けることでは、ないのだ。  
更に人の気配が希薄になった薄暗い路地を、マリアは裸足のままで歩いて行く。ガラス片や尖った小石を上手に  
避けながらしばらく歩き、何度か角を曲がった、その先には………。  
「………やぁ、マリアちゃん。」  
「オー、おっさん!早いナ!」  
スーツを着た、この辺りでは見かけない顔の男が、マリアを待ち構えていた。  
 
 
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命は、それまで何人もの女性を嬲り、穢し、調教してきたその部屋で………息を潜めるように、ギシギシと軋む  
椅子に腰掛けていた。煙草の煙が、密室となった部屋の上方に充満していく。  
「(関内・マリア・太郎………。)」  
頭の中で、これまで自分が手中に収めてきた『花束』の、最後の1本………望のクラスで、命が眼を付けた獲物達  
のうちの、最後の1人の名を呟く。  
「(流石に………少し、緊張するな。あれほどの相手となると。)」  
いつになく冷静沈着に、命は思考を巡らせる。しかしそれは、決して余裕から来るものではなく………慎重に、万全  
を期して臨まなければ攻略できない相手を眼の前にしたからこその、いわば強いられた冷静さだった。  
「(今までの、『ただの女子高生』の娘達とは、根本が違う。どうにも、掴み所が………付け入る隙が、無い。)」  
それが、ここ最近自分の手駒達を使って得た情報から感じた、命にとってのマリアの印象だった。  
倫から、クラスでのマリアの様子は聞いていた。表向きは留学生、実際は、望のクラスの男子生徒から出席番号を  
買い取りあのクラスに潜り込んだ、本来日本では義務教育すら終了していないはずの歳の、某国の難民少女。幼少  
の頃から戦地に居て、あの歳で密入国などと言う荒業をこなした彼女の精神は………基本的には無邪気で、歳相応  
に子供っぽいのだが、これまでの相手では比較対象にもならない程に強靭で、しかもどこか達観している。  
加えて、ここ数日尾行を任せた人間からの報告によると………それも、何度も煙に撒かれてしまい、情報を集めるの  
に手間取ってしまったのだが………どうもマリアは、これまでの少女と同じ調教で屈服するような、ヤワな少女では  
ないらしい。つまり………性行為に対する耐性が、既に、ほぼ完璧に出来上がっているのだ。  
更に、脅迫する術もほぼ皆無ときている。強制送還のことをちらつかせれば大人しくなるのではないか、と、命も  
1度は考えたが………これまでに、彼女とその仲間達にその危機が訪れていないとは考えられない。命が自分の身  
を護る為にあらゆる手を打っているのと同じように、相手も、強制送還という最悪の事態に対しては、あらゆる  
防護策、逃走経路を用意しているに違いないのである。しかもあの手の集団には、人質というものも効きにくい。  
自分の所為で仲間が犠牲となると知れば、人質の方が自ら自分自身を切り捨てるからだ。  
一見したところ、八方塞がりなその状況。しかし………その困難が、命の欲望を更に燃え上がらせる。  
「(多少乱暴な手を使ってでも、1回で確実に堕とす。さもなくば………こちらが、反撃される。)」  
そこまで知ってもなお、命の中にマリアを諦めると言う選択肢は存在しない。かと言って、たった今命が頭の中で  
呟いたように、もしも手を出してから失敗しマリアに逃げられたならば、今度は彼等に危険因子だと認識された自分  
が何らかの攻撃を受けて、窮地に立たされてしまう可能性だってある。相手はこの国の常識では計れない、集団だ。  
それに、マリアの無邪気な顔に似合わぬ驚くほどのしたたかさも、既に命には十分に理解していた。  
 
そうなれば、選択肢は1つ。  
マリアを、自分のテリトリーに引き摺り込み………何が何でも、今回限りで勝負を決する。短期決戦だ。  
 
「(たかが娘1人に大袈裟かも知れないが………万が一にも、しくじるわけにはいかない。)」  
目的は必ず決すると心に決めながらも、自分の身の安全だけは確実に護る。その狡猾なまでの慎重さは、ときに、  
それとは正反対の、驚くほど大胆な行動を取らせる。  
「(あの花束を、刈り尽くす為なら………どんな手を使うことも、厭いはしないさ………!)」  
心の中でそう決意し、どこか、いつもよりも硬い、しかしいつも通りに邪悪な笑みを浮かべる命の眼の前には。  
ハトロン紙で厳重に梱包された、見た目よりも重量のある包みが1つ、置かれていた。  
 
 
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マリアは、本格的な援助を受けずにほぼ自力でこの国で暮らし、高校生と言う身分を維持している。独りきりと  
いうわけではないが………あの簡易物置で寝食を共にする同胞達も、それぞれに自分が生きていくことで精一杯、  
という人間がほとんどで、他人を気遣っている余裕のある者など、マリアを含めて数えるほどしかいない。  
この国の法で保護されない難民の少女が、1人で生きていく。それは、想像以上に過酷なことであり………それを  
実現する為に、マリアは今まで何度も、その幼い身体を売って金を稼ぐ、という行為を繰り返してきた。それは、  
ときにはいろいろと後ろ暗い事情のある生命保険への加入、といった形のものもあったが………大半が、おそらく  
は多くの人間が想像する通り、『売春』と呼ばれる類の行為だった。  
この国で、マリアのような、健康的でいて幼い身体を持ち、無邪気で、しかし性に関してはオープンでありその歳  
に似合わぬテクニックを有している少女など、いくら探してもそうそう見つかるものではない。それが、そもそも  
存在しないはずの人間ともなれば、なおさらだ。  
そして。その、天文学的に少ない供給量に対して、需要は腐るほどある。そうなれば、少しでも高い金を払って  
優先的にマリアの身体を我が物としようとする人間が現れる。最近になってようやく、マリアの懐にもある程度  
の余裕が生まれ、同胞を手助けできる立場になってきた。  
「デ、おっさん、今日はドコまで行くんダ?車、乗らナイのカ?」  
「………そうだね、今日は………すぐ、近くだから。」  
路地で待ち合わせた男の後に付いて、マリアは人目を忍ぶように狭い道を辿っていく。もちろん何も考えずに男の  
後を追っているわけではなく、常に、ある程度の警戒は続けている。力ずくでマリアを独占しようと言う輩も、今  
まで何人も相手にしてきた。今のマリアなら、並の警官やチンピラに取り囲まれたくらいではピンチに陥っている  
とすら言えないだろう。  
「ヘェ、この辺にも、そんな趣味の奴居るんだナ。どこのどいつダ?」  
「名前は、まだ言えないが………どこにでも、特殊な性癖を持ってる人間と言うのは居るものさ。」  
「………マァ、誰だって良いカ。お金くれるなら、マリア、ちゃんと一生懸命お相手するヨ。」  
「本当に良い娘だね、マリアちゃんは。」  
マリアを先導しているその男は、いわゆる仲介業者のような立ち位置に居る人間であった。そもそもマリアの身体  
に秘められた、その筋での商品価値を見出し、この仕事に引き摺り込んだのもその男である。それまでは、街の  
路地裏にたむろする男達に二束三文でその身体を明け渡していたマリアも、今やその頃の客では手の届かない場所に  
立っているのである。その出世が、喜ぶべきものであるかどうかは………マリア自身が、決めることだ。  
「………さて、と。」  
やがて、2人がある建物の前で立ち止まる。  
「お、着いたカ?」  
「ここだよ。中に入れば、今日のお客さんが待ってるからね。」  
男はそう言って、古めかしい木のドアを開く。  
「代金は、本人から受け取ることになってる。内容次第で、色もつけてくれるそうだよ。」  
「そうカ。じゃぁマリア、頑張るヨ!」  
これからその身体を売りに行くとは思えない、無邪気な笑顔を浮かべて、マリアは素直にそのドアを潜った。それ  
を、確実に見届けた後………男はドアに背を向けて歩き出しながら、ポケットに手を入れる。本来ならば、商品を  
相手の下まで送り届けるべきなのだろうが、マリアに限ってはあそこまで行って逃げ出すようなことは無い、と  
いうことを、男はよく理解していた。  
男は1度息をついて………カチカチ、と取り出した携帯電話のボタンを操作する。それを耳に当て、しばし抑揚に  
欠ける呼び出し音に耳を傾けた後。  
「………もしもし、私です。」  
今回の『依頼人』に、確認の電話を寄越す。  
「今、送り届けました………はい、そうです。本当に、例の通りでいいんですよね?」  
電話の向こう側に居る相手の声に、何度か頷いて。男はやがて、満足げな笑みを浮かべた。  
「はい、有難うございます。後で、確認させて頂きます………はい。それでは、失礼します。」  
丁寧な応対の後、電話を切り………電話越しにも関わらず無意識のうちに浮かべてしまっていた、営業スマイルと  
いう仮面を外し、息を吐いた。  
「………人の良さそうな面して、大したもんだよ、全く………。」  
男は、どこか呆れたような声でそう言って………すぐさま、その場を離れ、報酬の入金を確認しに行った。  
 
 
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言われた通りに、案内されたその建物の中の階段を下って………マリアは、そこで待っていた人物の顔を見て、  
お、と声を上げた。見知った顔の男が、微笑みながら手を振っている。  
「ようこそ、関内・マリア・太郎さん。」  
「オー、久しぶりだナ、絶命センセー!!」  
ぺたぺたと裸足で石の床を歩き、マリアが命に歩み寄る。その顔は、相変わらず無邪気な様子だったが………その  
瞳はどこか普段の彼女とは違っていて、何か、幼い見かけに似合わぬ妖艶な光を宿しているように見える。  
それを知ってか知らずか、命は早速その手を引いて、マリアをとある1室へと招き入れた。  
「けど、センセーもそういう人だったんだナ。」  
「はは………担任の兄弟がこんな変態で、幻滅したかい?」  
「そんなこと無いヨ。お金くれたら一生懸命お相手するの、マリアの仕事!!」  
「………仕事………仕事、か。大変だな、君も。」  
「こうでもしなきゃ、生きてけないんだカラ、しょうがないヨ。」  
マリアは屈託の無い笑顔で、そんなことを言ってのける。  
「それニ………ときどきは、マリアも楽しませて貰えるしナ。センセーは、上手なのカ?」  
「さぁ、ねぇ………自信は無くはないが、君に満足して貰えるかどうか。」  
「楽しみにしてるヨ。それじゃ………お金の話、解かってるカ?」  
「追加料金のことは、直接聞けと言われたが………まぁ、君に相手をして貰えるなら、金に糸目はつけないよ。」  
「最初は、お触りとキスまでだヨ。マリアのごホウシも、エッチも、他のオプションも、ぜーんぶ追加料金ナ。」  
「………いい商売をしているな。解かった、それで文句は無いよ。」  
命の返答に満足し、マリアが微笑む。その顔から………それまでの、無邪気な子供のような表情が、消える。  
妖艶な光を宿す瞳はそのままに、マリアは普段はぱっちりと開いている眼を細めて、上目遣いに命の顔を見上げる。  
唇には、何かを企んでいそうな怪しげな笑みを浮かべ………その細い腕を目一杯に伸ばして、命の顔に添える。それ  
に誘われるようにして、命は腰を屈め………マリアの口付けを、受け入れた。  
長い長い、熱く絡みつくような接吻。その舌遣いも、幼い見た目とのギャップを差し引いてもかなり上等なものだ。  
ぷは、と息を吐きながら、命の口内から舌を脱出させて。マリアが、命に怪しく微笑み掛ける。  
「それジャ………『お客さん』、まずは何して欲しイ?」  
「おや………もう、『センセー』とは呼んでくれないのかい?」  
「それも、追加料金だヨ。」  
そう言って、マリアはまるで挑発するように、唇から赤く小さな舌を覗かせた。  
余りに男を惑わせ手玉に取ることに慣れたその様子に、命は1度小さく肩をすくめてから。  
「そうだな、せっかくだ………2つ程、オプションを追加しようか。1つは………呼び方を、元に戻してくれ。」  
「解かったヨ、センセー。あと1つ、マリア、何すれば良イ?」  
「それじゃぁ………1つ、使いたい物があるんだが、良いかい?」  
「オモチャもOKだヨ。ソッチが用意してても、追加料金は貰うけどナ。」  
マリアの返答を聞き、苦笑しながら………命は、部屋の隅に置かれた棚へと、歩み寄った。そこに並んぶ薬の瓶に  
気付き、マリアがニヤリと笑う。  
「媚薬だったら、マリアも好きだヨ。一緒に気持ち良くなるの、好きだカラ。」  
「はは、そりゃ凄い………けど、悪いね、今回は薬じゃないんだ。ちょっとした、玩具だよ。」  
興味津々な様子で、マリアは命の手元を窺う。命は、棚を開け、そこに並んでいた瓶を無造作に横に退かし………  
その奥にこっそりと隠してあった、小包を取り出す。あの、ハトロン紙の小包だ。  
命は、それを厳重に封じているテープを、次々と取り払っていく。過剰装飾と言える程のテープが床に散らばった  
頃、ようやく入り口の開いた小包の中に、命の手が滑り込み………そして。  
 
「………これ、なんだがね。」  
命が、その中身を取り出し、それがマリアの眼に触れた瞬間。  
「………エ………っ………?」  
それまで、全く動じることの無かったマリアが………一瞬、硬直する。  
 
そして、まるで一瞬の隙を逃すまいとするかのように。命は………その銃口をマリアに向けて、引き金を引いた。  
パン、と乾いた音が響く。マリアの頬の横を、高速の弾丸が通過し、後方の壁にぶつかって火花とコンクリート片  
を散らす。  
硝煙の立ち上る銃口に、西部のガンマンの様に息を吹きかけて、命は………マリアに、微笑んだ。  
「どうだい、上手いもんだろう。私なりに、練習してみたんだ。」  
「ェ………ぁ、ッ………?」  
眼の前で突然発砲をされたとなれば、流石のマリアも動揺したようで。命の言葉に答える余裕など無く、まるで、  
未だに眼の前で起こった出来事が理解できていないような顔で、マリアは命を見上げた。その顔にはさきほどまで  
の男を誘うような表情は残っておらず、ただ、驚きの色だけが浮かんでいる。  
絶対的に安定しているかに見えたマリアの精神が、衝撃を受けている。その事実を確認して、命は言葉を続ける。  
「君をモノにしようと思ったら、これくらいは必要かと思ってね。とあるルートで、手に入れた。」  
「………っ………?」  
「残念ながら、今日の契約は破棄だ。君には今から………無条件で、私の命令に従って貰う。」  
「………ぁ………あ、ぁ………ッッ?」  
「君の身体を私の色に染め上げるのは、少々骨が折れそうだが。まぁ、たっぷり時間を掛けて………。」  
………だが。そこまで、マリアに状況を説明したところで………命は、マリアの異変に気付いた。  
普段以上に見開かれたその眼は、確かに命の方を向いているが………その瞳の焦点が、合っていない。  
「………あ………う、ぁ………!?」  
「………おい、ちゃんと話を聞いて………。」  
やがてマリアは………命の声に耐えかねたかのように、がば、と両腕で頭を抱えてしまう。命の話を聞いていない  
どころか、まるで………命には見えない何かに脅えているようなその様子に、流石の命も訝り始める。  
 
そして。  
「う、ッ………!?」  
程無くして、マリアは、崩れ落ちるようにして膝をつき………。  
「ああああああァァァァァァァァァッッッ!!」  
銃声よりも激しく響き渡るような、叫び声を上げた。  
 
 
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マリアは心の奥に、あるトラウマを封じ込めた重い扉を抱えている。  
それは、下手をすれば発狂してしまうのではないかという程の、強烈で残酷な記憶であり。数年前、マリアが母国  
でその体験をした直後………マリアの精神は己を護る為に、自身の中に別の人格を構築した。  
2度と思い出したくない、思い出してはならないトラウマを厳重に封印し。更に、それをこじ開けようとする外界  
からの刺激、衝撃をことごとく受け流し、ダメージを無効化するだけのキャパシティを持った、ともすれば最強とも  
言える、無敵の人格。それが………今日この国にある、関内・マリア・太郎。彼女の、人格なのである。  
 
本来ならば、この平和ボケしきった国において、その人格の壁が侵されることなど、有り得ないはずだった。警官  
や裏社会の人間を相手にしても、一向に揺らぐことは無い人格は、この先もう2度とその扉が開かれることは無い  
であろうことを、約束してくれるはずだった。  
難民として食うや食わずの生活を送っていた頃のことをあっけらかんとして話すのも、そして………こうして身体  
を売ることに、全くと言っていいほど抵抗が無いのも。本来ならば耐え難いはずの、難民時代の記憶、そして性行為  
をわざと『なんでもないことだ』と認識することによって、トラウマの扉が受るダメージを無効とし、それがこじ  
開けられてしまうことを防ぐ為。  
それは言わば………マリア自身が無意識のうちに取った、自己防衛のための精神の働きだった。  
 
だが。今、マリアの眼の前では………この国では有り得ないはずのことが、起きている。  
眼の前には、拳銃を構えて自分を脅迫する男。警官やその筋の人間に追われていた際、拳銃を相手にしたことも無い  
わけではないが………今回ばかりは、右を見ても左を見ても、逃げ道は無い。  
そして、唯一残された、背後の道は………そのまま、心の奥底、トラウマを封じた扉へと、繋がっている。  
 
暗い部屋。性行為。拳銃。脅迫。命令。背の高い男。決して逃げられない、絶望的な状況。  
1つ1つでは、決して大きな威力を持たないその様々な要素が………重なり合い、絡み合って、マリアの心の奥底  
にある扉に、叩き付けられる。永い間、マリアの為にその扉を封じていた鍵が壊れ、鎖が千切れ飛び、ドア自体が  
無残にひしゃげていき………そして。  
とうとう………マリアの心が、あの日の出来事を、思い出してしまう。  
 
 
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記憶の奥底に、パンドラの箱のように厳重に封印されていた、あの日の記憶が甦る。  
 
その日、マリアが生まれ育った集落は………某国の軍隊の、襲撃を受けた。人々が次々と殺され、家々が容赦なく  
焼き払われていく。その、まるで津波のように集落と人々を呑み込んでいった無慈悲な破壊は、マリアの住んで  
いた家にも、例外なく襲い掛かった。  
何の前触れも無く踏み込んできた兵士は、マリアの家族を一瞥するや否や………手にした銃で、マリアの家族を  
次々に、問答無用に撃ち殺していった。わけも解からず、叫び声を上げるよりも先に次々と頭や心臓を貫かれて  
命を奪われていく、家族の姿に………マリアはまるで、自分が悪い夢の中に居るかのような錯覚を覚えた。  
そして、やがて。マリア以外の家族が、端から順に殺され………その銃口が、マリアを捕らえたとき。兵士は1度、  
おや、というような顔をして………すぐに、悪魔のような笑みを浮かべ、マリアに歩み寄った。  
恐怖と絶望に全身を引き攣らせながらへたり込んでいたマリアの身体を、乱暴に立ち上がらせて。兵士は、値踏み  
するようにその身体を上から下まで鑑賞した後………突然、マリアが着ていた衣服を両手で引き裂いた。  
普段から布の服1枚で過ごしていたマリアは、その行為に呆気にとられている間に、ほんの数秒で生まれたままの  
姿に剥かれ………死体が転がる部屋の真ん中に、乱暴に押し倒された。  
 
下卑た笑いを浮かべながら、兵士はいきなりマリアの足首を掴んで強引に太股の間に割り込み、その舌をほとんど  
発達していないマリアの秘裂に這わせた。背筋を這い回るような怖気に、マリアがか細い悲鳴を上げて、抵抗する。  
がむしゃらに振り回した腕が、マリアには理解できない言葉を発しながら執拗に秘裂を舐め回し、その中に侵入  
しようとしていた兵士の頭を、殴りつけてしまう。その瞬間………兵士は人が変わったかのように、やはりマリア  
には理解できない言葉で、耳を塞ぎたくなるような声で怒鳴りながら、マリアの腹を殴りつけた。  
立ち上がり、土足でマリアの腹を踏みつけながら、兵士は腰のホルスターから拳銃を引き抜き………それを、床に  
向けて発砲した。放たれた数発の弾丸は、マリアの頭の隣に着弾し、床を破壊して木屑をばら撒いた。マリアは  
余りの恐怖に、悲鳴を上げることすらままならず………その場で、思わず全身の力を失い、失禁してしまった。  
広がっていく水溜りを見下ろしながら、兵士は嘲るような笑みを浮かべて、マリアに吐き捨てるように何かを言い  
放った。そして、構えた銃をマリアの額に押し付け、マリアが恐怖によって抵抗する気力を完全に削ぎ落とされた  
頃………携えていたロープで、マリアの両手首を縛りつけ、片脚を壁の柱に括りつけた。  
兵士は手袋を外し、その指を唾液で濡れたマリアの秘裂に挿し込んだ。内部はほとんど濡れておらず、初めて侵入  
する異物に、マリアは意識が飛ぶような激痛を覚えた。唾液だけを潤滑液として、兵士は情け容赦なくマリアの  
内部を蹂躙する。少しでも深く侵入すれば、たちまち処女幕を突き破ってしまうところだが………おそらく、ろく  
でもないことを考えているのだろう、決してそれを傷つけようとはせず、兵士は激しい愛撫だけを続けた。  
やがて、マリアの意思に反し、無理矢理に快感の扉をこじ開けられた身体が、兵士の行為に反応し始める。にい、  
と厭らしい笑みを浮かべながら、兵士はマリアの中に挿し込んでいた指を引き抜き、そこに微かに絡みついた粘液  
をマリアに見せ付けるようにして弄んだ。マリアには、それが一体何なのか理解することが出来なかったが………  
ただ、自分の身体の奥から、じんわりと痛みを麻痺させていくような熱が沸き上がってくるのを感じていた。  
しかし………その麻酔も、長く続くことは無かった。兵士は散々マリアの身体を好き勝手に弄んだ後………遂に、  
自らのズボンに手を掛け、自分のモノをマリアの眼の前に曝け出した。既に最大限に膨らんだそれが、既に愛液  
と男の唾液とでドロドロになったマリアの秘裂に、宛がわれる。そして、マリアが兵士の意図を察するよりも先に  
………兵士は、マリアの身体に対して余りに大きなそれを、幼い秘裂に突き入れた。  
一瞬で、マリアの純潔の証が引き裂かれる。その痛みがマリアの脳に達し、それが叫び声としてマリアの外に発散  
されたときには………兵士の先端は、マリアの最も深い部分にまで、届いていた。  
それまで考えていたが、爆風に消し飛ばされるように掻き消えて。壮絶な、それこそ気が狂う程の痛みと、自分の  
口から発せられる絶叫だけが、マリアの意識を支配する。自由を奪われた身体を懸命に捩らせ、マリアはその地獄  
のような痛みから逃げ出そうとするが………両手と片脚を捕らえたロープが、そして兵士の腕が、それを許しは  
しなかった。  
自分のモノが血に塗れるのも構わず、兵士は野獣のように腰を振り、マリアの中を蹂躙し続けた。モノが往復する  
度に傷口が広がり、鋭い痛みが脊髄を突き抜け、悲痛な叫び声を呼ぶ。マリアの秘所が、兵士のいきり立ったモノ  
を根元まで受け入れることすら出来ない程、2人の体格には差があり………兵士が深くモノを突き立てる度に、  
マリアの下腹部は内側から押し上げられて、ぼこ、ぼことその形を変えていた。  
そして………眼の前で、本当に気が触れてしまったかのようなトーンで何事かを喚き続ける兵士に、快楽など微塵  
も無い、苦痛だけを伴う陵辱の獲物にされて。マリアの意識が、気の遠くなるような数分間の果てで、考えること  
を放棄しそうになった頃。兵士は一瞬、呻くような声を上げて………その動きを、加速させ始めた。  
 
マリアの身体が、糸の切れた操り人形のように、兵士がモノを突き入れる衝撃に合わせて揺さぶられる。そのまま、  
容赦の無い挿入が繰り返され………遂に、兵士の淀んだ精が、マリアの中に吐き出された。  
内側から身体を焼き尽くすような熱が、最深部に叩き付けられる。腰を押し付け、モノを1番置くまで挿し込み  
ながら、長い射精を終えて………兵士は、ふぅ、と息を吐きながら、マリアの中に埋まっていたモノを抜いた。  
マリアの身体が、ビクビクと痙攣しながら床に横たわる。その秘裂から、白濁液と血の混ざった液体が、どろり、  
と流れ出す。傷口に、精液が沁みる。  
兵士は、欲望を満たした後の倦怠感の中、まるで汚いものでも見るような眼でマリアを見下ろし………やはり、  
マリアには理解の出来ない言葉で、しかしどうやら悪態を吐いているらしいと解かるトーンで何事かを吐き捨て  
て、どこかへ去っていった。  
床に横たわる数人の人間の中で、唯一まだ機能している1対の瞳が、ぼんやりとその様子を見つめていた。  
 
 
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そして。  
『死んじゃ、駄目だヨ。』  
かつてのマリアが、放たれた炎と深い絶望の中で、ゆるやかにその命を終えようとしていた、そのとき。  
『逃げなキャ。逃げて、逃げて………どこまで逃げても、生き延びるんだヨ。』  
マリアの中に………それまでとは別の人格が、芽吹く。  
『大丈夫。辛いことモ、悲しいことモ、苦しいことモ………「マリア」が、ゼーンブ忘れさせてあげル。』  
まさに、どん底と言う言葉が相応しいそんな状況にしては、やけに明るい………新たな「マリア」の、その声は。  
『さァ、立っテ。お前なら出来るヨ、「マリア」、お前のこと信じてル!!』  
その腕のロープが、事の最中にいつの間にか緩んでいたことを、マリアに気付かせた。  
『そうだヨ。立って、逃げて………そしたら、あとハ「マリア」の仕事!!』  
その声に従うように、マリアは弛緩しきっていた身を起こし………腕のロープを、振りほどく。  
『あとハ、「マリア」に任せテ。お前のコト、絶対護ってやる、絶対、逃がしてやるヨ。だから………。』  
きつく結ばれた脚のロープを、驚く程の手際で外し………。  
『お前ハ………ゆっくり、眠ってていいヨ。』  
マリアは、その意識を………「マリア」へと、明け渡した。  
 
そうして。  
今日、2年へ組に居る、関内・マリア・太郎の人格は、誕生した。  
 
 
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こじ開けられた扉から、記憶が、濁流のようにマリアの意識に流れ込んでくる。  
今、その身体に呼び戻された………かつて、母国で生まれ育ち、そして見知らぬ兵士に耐え難い苦痛と恥辱を与え  
られた、元々のマリアの人格。その眼の前で、銃を構える命の姿は………今のマリアの瞳には、あの日の兵士と  
同じ姿にしか、映らなかった。  
「や………や、あ、ァ………ッ!?」  
冷たい床にへたり込んだまま、マリアはずるずると後退りをする。それまでとは別人のような、まるで見えるもの  
全てに恐れおののいているかのようなマリアの様子に………命は、漠然とながら、何が起きているのかを察する。  
「………ははぁ、なるほど。今の銃声で………戦場でのトラウマでも、甦ったか。」  
それに気付くや否や………命は再びその手で拳銃を構え、躊躇無く引き金を引いた。弾丸は再びマリアの顔の隣を  
飛びぬけて、壁に着弾する。その音に、マリアは今度はまるでバネ仕掛けの人形のように、ビクリと解かりやすく  
全身を跳ね上げさせた。  
「や、止め、テ………怖いッ、怖い、ヨォ………!!?」  
突如として復活し、自分の内側から止め処なく湧き上がって来るその恐怖に、困惑しながらも………マリアはただ、  
身をすくませ恐る恐る命の様子を窺っていることしか出来ない。  
「これは、完全に予想外だが………嬉しい誤算だな。」  
「ひ、ィ………ッ………!!」  
「これが、さっきまで私を誘っていた娼婦と、同じ人間の顔か………堪らないな、全く。」  
さきほどまでの、男を手玉に取るような態度からは一変して、少女らしく歳相応に、あるいはそれ以上に激しく  
脅えた反応を示すマリアに………命は、己の中の嗜虐心がめらめらと燃え立ち始めるのを感じていた。  
 
「………さきほどの話は、無しだ。約束通り………契約を、全うして貰おうか。」  
ここまで来れば既に不要だと判断した拳銃を、手放す。丸腰の命が歩み寄るだけで、マリアは面白いようにガタガタ  
とその身を震わせ、ぽろぽろと涙を零しながら、小さく横に首を振った。口が、死に掛けた魚のようにぱくぱくと  
動くが、そこから声が発せられることは無い。  
「一応こっちは、正式に金を払って契約しているんだ。君に、拒否権は無い………と言っても、もう解からんか。」  
「い、嫌、ァ………止めッ、止めてヨ………マリア、い、痛いの、嫌ダ、ァ………!!」  
「痛いってことは無いだろう?今まで、その身体で何人もの男を食い物にしてきたんだぞ、君は?」  
そう言いながら命はマリアの眼の前にしゃがみ込む。既に壁際まで追い詰められたマリアの脚の間に割り込み、  
太股を左右へ押し開くと………下着に覆われず剥き出しになった、マリアの幼い秘裂が、姿を現す。  
「止め、ッ………は、放し、テッ………!!」  
「止めるも何も、君が誘ったんだろう?」  
既に、今のマリアがさきほどまでのマリアとは別人であることを、十分に理解しながら………命は敢えて、マリア  
にそう言って詰め寄った。脚の間に身体を入れられ、至近距離で秘裂を観察される………あの日、兵士から受けた  
のとよく似たその行為に、マリアの身体がざわざわと総毛立つ。  
涙を零しながら見つめるその先で。命は、徐々にその顔をマリアの脚の間に深く埋めてゆき………そして。  
「ひ、あァッ!?」  
その舌先が、マリアの秘裂に、届いた。  
甦る、あの恐怖の時間と………それに相反する、今のマリアが持つ開発され尽くした身体だからこそ感じることの  
できる、快感。その2つが混ざり合った感覚に、マリアは一瞬だけ戸惑うが………それでも、マリアの中に長い間  
封印されてきた凶悪なトラウマは、そんな些細な快楽など簡単に塗り潰してしまう。  
「う、ぇ………ッ………嫌、ァ、アッ………!!」  
恐怖が、再び頭の中に流れ込んでくる。記憶が、否応無しに掘り起こされる。  
舌を秘裂に這わせ、その中に押し入れて………柔らかい舌が蠢く度に身体が見せる反射的な反応と、それに気付く  
余裕すらなく恐怖に震え続けるマリアの様子とを、十分に楽しんで。  
「………さて、下準備はこれくらいにして………そろそろ、本番に移らせて貰おう。」  
命は………自らのズボンに手を掛け、降ろしたチャックから既にガチガチに固まったモノを取り出して、マリアの  
小さな身体に、覆いかぶさるようにして襲い掛かった。2人の距離が、ゼロに等しくなるほど縮まって………その  
接近がまた、マリアの中の封印を揺さぶり、記憶を呼び覚ます。  
マリアの視界の中で、命の顔に、あの日の兵士の狂ったような表情が張り付く。自分を囲む景色が、かつて平和に  
暮らしていた、そして、あの日無残にも焼き払われた生まれ故郷の家に、差し替えられる。完全に、意識をあの  
瞬間にタイムスリップさせてしまったマリアは………次の瞬間、何の宣告も無しに自分の中に侵入してきた命の  
モノの気配に………本来、今の身体ならば感じないはずの痛みを、感じた。  
「あ”、アアアァァァァァァッッッ!!?」  
マリアの耳に、あの日と同じ、自分自身の叫び声が響く。断末魔のような声が、地下室に木霊する。  
耳をつんざくような悲鳴を上げるマリアの声に、少々顔をしかめながらも………命は、自分の些細な行為に対して  
面白いように反応するマリアの身体を、まるで出来の良い玩具か何かのように感じ始めていた。  
「い、だッ………や、止め………痛ァッ!?やッ………止めて、ヨォ………!!」  
「冗談だろう?こんなに中を蠢かせて、まるで、搾り取るみたいに締め付けておいて………なぁ?」  
「あ、あアァッ!!?やッ、だ、駄目ェ………ひぐ、う、ァ………!?」  
眼を剥き、細い腕で必死に命を拒もうとするマリアの奥底に、命は2度、3度とモノの先端を叩き付ける。子宮の  
入り口まで達するモノの衝撃は、性行為に馴染んだマリアの身体を少しずつ絶頂へと誘い始めていたが………その  
刺激も、マリアの脳の中では、ありもしない破瓜の痛みへと変換されてしまう。  
「い、だァ………痛い、ヨォ………も、もう、許しッ………う、ェ、ア、あぐゥッ!!?」  
「ほら、どうした?この程度で満足できる身体じゃ、ないだろう!?」  
「あ、ひァっ………や”めッ………ま、マリア、壊れ、ちゃうヨッ………し、死んじゃ………ぅ、アアァッ!!?」  
その言葉通り、マリアの瞳は徐々に焦点を失い始め、その意識が壊れかけていることを示し始める。  
 
先ほどまでは、この世のどんな男でも食い物にしていたであろう、少女が………今は、自分のモノにその中を蹂躙  
されながら、止めてくれ、許してくれと涙ながらに懇願している。  
その状況は、遂に………命の本能を、最高速度にまで加速させた。  
命の腕が、マリアの細い腰を、爪が肉に食い込むほどの力で鷲掴みにする。マリアの身体は、壁に背を預けたまま  
持ち上げられ………その下に潜り込んだ命の身体の上に、結合したまま、叩き落される。  
「い”、ッ………〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!???」  
体重と落下の衝撃は、結合部の1番奥底に、強烈な衝撃となって襲い掛かる。ゴズン、とマリアの脳内で鈍い音が  
響いて………その止めの一撃で、マリアの身体は、とうとう絶頂を迎えてしまった。  
「あ”、ア、アアアァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!!!!」  
そして。それと同時に、急激に収縮したマリアの膣が………命のモノも、同時に絶頂へと誘う。  
「ぐ、ぁ………っ………!!?」  
ただでさえ狭いマリアの内部に、締め上げられて………命のモノが、決壊する。吐き出された精は、マリアの奥底  
に容赦なく注ぎ込まれ、受け止め切れなかった分が結合部から溢れ出していく。  
「あ、ひぁ………ひっ、は、ア、あづ、イィッ………!!?」  
焼けるような熱は、マリアの中で、やはりあの日の兵士が吐き出したものと重なっていた。  
 
 
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同じ地獄を、2度も体験させられて………既にマリアの精神は、正常とは程遠い物と成り果てていた。  
その瞳は、まるで切れてしまった電球のように、光を失ってどろりと濁り。さきほどまで恐怖に震えていた身体も、  
完全に力を失い、弛緩しきっている。緩んだ秘裂から溢れた小水が命のズボンを汚し、瞳の端から零れる涙、口の  
端から零れる唾液が、ぽたぽたと雫になって床に落ちている。  
それは完全に、命も今まで何度か眼にしたことがある………心が壊れた人間の、姿だった。  
結合も解かずに、命は眼の前でぐったりとうなだれるマリアの顔を覗きこみ………その唇に、キスをする。  
「………素晴らしい。ほんの数分で、ここまで急激に堕ちた人間は、初めて見た。」  
「ァ………ッ………ぅ、っ………………。」  
「しかし………こうなってしまうと、商品価値は無いか。彼には、申し訳ないことをした。」  
眼の前で呟かれる言葉にも、マリアはもう反応しない。その口からは、声や言葉ではない。風の鳴るような微かな  
音が発せられるばかりだった。  
 
物言わぬ人形と化したマリアを、その輪郭を、命の指がなぞる。  
「ここまで来ると………いっそ、美しくすらあるな………。」  
命の中の、特異な嗜好が………新たな段階へと、変貌を遂げる。  
 
………かに、見えた。その、瞬間。  
 
 
 
『バタン!!』  
「………な、っ………?」  
 
 
 
決して開かれるはずのない、地下室の扉が………外側から、勢い良く開かれた。  
 
 
 
(続)  
 

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