『もう、いいじゃない。』  
「(………やめて………。)」  
『そんなつまらないプライドなんて捨てて………悦びに、身を任せればいいんですのよ。』  
「(楓、あんたまで………何が大和撫子よ、何が和をもって良しよ!!この、淫乱女!!)」  
『そんな昔の話、とっくに忘れましたわ。今はもう………あの方の、虜ですもの。』  
『ああ、ン………思い出したら、また熱くなってきちゃう………。』  
「(………やめて………五月蝿い、もう、喋らないで………!)」  
『お前に命令される筋合いなんて、無ぇんだよ。』  
「(どうしてあんた達は、どいつもこいつも………私を『そっち側』へ引き摺り込もうとするの!?)」  
『決まってるじゃん。だって、こっちの方が楽しいんだもん。』  
『1人が足並み乱すと、萎えるんですよ。もっと単純に、全員で楽しめばいいじゃないですか。』  
『そーそー。アンタ、独りで難しく考え過ぎ。』  
「(元はと言えば全員、他の誰でもない私から………木村カエレから生まれた、分身のはずじゃない。)」  
『ソノ通リデスケド?何カ?』  
「(それが、どうして………揃いも揃って、あんな奴に堕とされてんのよ!プライドは、無いの!?)」  
『プライド、だってよ。そんなんクソの役にも立たねぇよ、笑かすなバァーカ。』  
『お前が、自分の本性を勘違いしてるんだ………いや、本当は、気付いているのに認めたくないだけかな?』  
『ただ、強がってるだけでしょう。本当はあなたも、何もかも忘れて、快感を貪りたいはずなのに………。』  
「(違う………違う、違うッ!!私は、そんな女じゃない!!)」  
『違わねぇよ。結局お前も同じだ、メスの本能にゃぁ勝てねぇんだよ。』  
『だいたい、それなら………他の「全員」が一致させた意見を、どう説明する気なの?』  
『ご自分で言ったじゃありませんの、私達はあなたの分身だと。その通り、私達はあなたの代弁者なんですのよ?』  
「(うるさいわよ!!そんなワケないでしょ、いいから、ちょっと黙ってなさいよッ!!)」  
『あーあ………全く、最近ますますヒステリックになっちゃいましたね。』  
『誰が黙ってなんかやるもんか。悔しかったら俺達のこと、こっから追い出してみろよ。』  
『そもそも、お前の主導権など誰が認めた?私達は全員が対等、全員が、お前自身だ。』  
『そして………私達が100人の村だったら、そのうち99人が「楽しまなきゃ損」って思ってんのよ。』  
『あなたが1番、極端なのよ。頑固で、古臭いの。ねぇ、「自称オリジナル」さん?』  
「(やめて………もう、何も言わないで、黙ってて………!!)」  
『黙ってて貰わなきゃ、化けの皮が剥がれそうで怖い………ってことかい?』  
『いっそ、気が狂っちゃった方が楽なんじゃないの?』  
『はは、いいなそれ。そしたらもう、取っ替え引っ替え、誰にも邪魔されずに皆でこの身体使い放題だぜ。』  
「(………ふざけないで………そんなことさせて、堪るもんですか………!!)」  
『はぁ………ホント、救いようがない頑固者ですね。』  
『………まぁ、既にこんな精神状態では………堕ちるのも、時間の問題だと思うがな………。』  
『まぁ、独りでせいぜい頑張れや。たった1%の理性でどこまで耐えられるか、見物だ。』  
 
「(………あんた達、覚えてなさい………絶対………許さないから………ッ!!)」  
『そう………まぁ、ご健闘をお祈りいたしますわ。それでは………御機嫌よう、カエレちゃん。』  
 
 
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………時は、少しだけ遡る。  
 
「さっき、ちょっとした薬を使って、『君達』と話をしてみた。」  
質素な机越しに、後ろ手に椅子に縛り付けられたカエレと向き合った状態で、命は手元の資料に視線を落とす。  
「な………薬って、あなた、毒でも盛ったんじゃないでしょうね!?」  
「安心しなさい、私も君を簡単に手放す気は無いんだ。命の安全は保証するよ、主に、私の楽しみの為にね。」  
「………そういえば、なんだか喉の調子もおかしいんだけど。身体もだるいし。どういうこと?」  
「それは………まぁ、後で説明しよう。」  
視線だけで相手を殺そうかというほどの剣幕で、涼しい顔をした命を睨みつけながら、カエレはギリギリと奥歯  
を噛み締めた。  
「………本当に、とんだ外道だったみたいね………後で、覚えてなさい。」  
「ほう。後で、とは?」  
「法廷に立ったとき、ってことよ。どんな手を使っても、絶対に刑務所にブチ込んでやるわ。覚悟しときなさい。」  
「それは、怖ろしいことだな。万が一にもそうならないよう、尽力させて貰おう。」  
皮肉たっぷりにそう言って、1度小さく息を吐き、命は手にしたメモ用紙の束を机の上に置いた。  
「いや、驚いた………これだけの人格が共存して、よく精神が破綻しないな。」  
「………っ………。」  
「ざっと見て、100人って所か………まぁ、会話も出来ずに引っ込んでしまった者も含めた、のべ人数だが。」  
「それが、何なのよ。」  
「いや、まぁ、ね。確認するだけで、一苦労だったよ。」  
命の手が、その束のうちの1枚を無造作に投げて寄越す。そこには、今はカエレの精神の内部に身を潜めている、  
大勢の人格の名前が列挙され、そこに走り書きで様々なことがメモされていた。  
「それに、あれだけバリエーションがあるのも興味深い。好戦的な野蛮人から、淑やかなお嬢様まで、様々だ。」  
「………………。」  
「まぁ、精神医学は専門外だがね。薬のことはともかく。」  
「だから、何なのよ。言いたいことがあるならさっさと言いなさよ、全くこれだから日本人は………。」  
立場上は絶対的に不利な状況にあるにも関わらず、カエレは普段通りの高飛車な態度で命に食って掛かる。命は、  
それに対して特に気分を害した様子は見せず、その様子を面白がっている風にすら見える。  
「随分と、結論を急ぐんだな。それも、君のお国柄かな?」  
「五月蝿いわよ。何度も同じこと言わせないで。」  
「………まぁ、君がそう言うなら、私は別に構わないがね。どうせ………。」  
威圧を続けるカエレの険しい眼を見つめながら………命は、ニヤリ、と唇を歪ませた。  
「どうせ、後悔するのは君だからな。」  
「………っ………?」  
意味深なその言葉と、寒気がするような笑顔に、流石のカエレも少しだけ勢いを失う。  
「実のところ、もう準備も出来ているんだ。………おい、頼む。」  
命が突然、カエレ以外の誰かに呼びかけるような声でそう言う。その姿は、傍目にはまるで冷たい壁に向かって  
話し掛けているようにも見えたが………その直後に部屋に現れた変化が、その呼び掛けがこの部屋の外に居る誰か  
に届いていたことを示していた。  
部屋の照明が落ち、陽の光の届かない地下室が、闇に包まれる。そんな中で………ただ1箇所、薄い灰色の壁の  
1面にだけは、四角く切り取られたような光が、当たっていた。  
「君が………『木村カエレ』が眠っている間に、ちょっとした映像を録画させて貰った。」  
「録画、って………一体何を?人のことを勝手に撮影するなんて、当然、告訴されても文句は………。」  
「いいから、少し黙って見ていろ。………いいぞ。上映開始だ。」  
再び部屋の外の誰かに命が呼びかけて、それを合図に………プロジェクターが照らす四角い光の中に、映像が映し  
出され始めた。  
それは、ほんの数時間前の、この部屋の様子だった。今と同じように、机を挟んで命とカエレが向き合っている  
様子が、高い位置から撮影されている。カエレは、そのアングルからそれを撮影したカメラが仕掛けられている  
であろう天井の隅に眼をやったが、暗がりの中でごく小さなその姿を確認することはできなかった。  
 
『………オリジナルの彼女とは、大違いだな。私は、もう少し恥じらいがある方が好みだがね。』  
「余所見をするな。ほら、始まるぞ。」  
映像の中の命の声がどこからともなく再生されるのと、眼の前の命が口を開いたのは、ほぼ同時だった。  
『まぁしかし………君がそう言ってくれるなら、お願いしようかな。』  
『………の………久し………ます………。』  
壁に映し出された命のその言葉に、同じく映像の中に居るカエレが答える。だが、その声は完全には録音されて  
いないらしく、途切れ途切れの言葉と共に、口元がぱくぱくと動き、微笑む様が映し出されているだけだ。  
身に覚えの無いその状況に、カエレはすぐ、それが自分の中の別の人格が表に出ているときの出来事であるという  
ことを察した。  
「………こんな状況で笑えるなんて、どこの能天気かしら………。」  
「『カエロ』と言っていたかな、確か。能天気というか………いや、まぁ彼女の性格は追々解かるだろう。」  
「知らない奴ね。あんたみたいな悪党相手に談笑できるんじゃ、ロクなもんじゃないわね。」  
「自分の別人格相手に、随分だね。というか………やはり、他の人格のことは完全には把握していないんだな?」  
「………ふん。」  
カエレは命の質問には答えず、不機嫌そうに鼻を鳴らした。命が、肩をすくめて映像に向き直る。  
「………さて。さっそく、ハイライトだ。」  
命の言葉と同時に、映像の中の命が椅子から立ち上がる。その命は、ゆっくりとした足取りで、カエレ………では  
ない、カエロに歩み寄る。そして何を思ったか、後ろ手に縛られた腕を解放し、カエロを自由の身にした。  
「………っ………?」  
その直後、カエレは眉をひそめた。映像の中、自由の身になったはずのカエロが………まるでその身体に寄り添う  
ように1歩、命に歩み寄ったのである。本来ならば、扉に駆け寄って逃げ出そうとする所だろうに………。  
「………何やってるの、早く逃げなさいよ………?」  
と、カエレがその様子を訝しんでいる、眼の前で。カエロは………驚くべき行動に出た。  
命が、にやにやと薄ら笑いを浮かべながら、壁に映し出される出来事とカエレの表情とを見比べる。  
「………っ………〜〜〜ッ!?」  
言葉を失い、眼を見開くカエレの視線の先では………映像の中の2人が、熱い、口付けを交わしている所だった。  
カエロがほんの少しだけ背伸びをして、命の首に腕を回す。命の手がカエロの腰に伸びて、その体を支える。  
「んな………何よ、これ………ッ!?」  
自分と同じ顔をした………いや、他でもない自分のこの身体が、眼の前で椅子に座っている忌むべき相手と、熱く  
濃厚な口付けを交わしている。その状況を目の当たりにして、カエレの頭は危うくショートしそうになった。  
そこで、映像がズームインする。身を寄せ合う2人の表情が、より鮮明に映し出される。  
『………ん、はぁ………ン………。』  
やがて、再生される音声の中に、当然カエレと全く同じものであるカエロの声が聴こえ始める。どうやら、マイク  
は命が身に着けていた為に、今まではカエロの声が聴こえず、2人が近づいた今は、カエロの荒い息遣いまでもが  
聴こえるようになった、とうことらしい。  
「ちょっと、止めなさい!!これは、肖像権の侵害よ!!?」  
カエレが、部屋の外でプロジェクターを操作しているであろう誰かに向かって怒鳴り声を上げる。もちろん、その  
言葉が聞き届けられることはなく、より鮮明になった映像は壁面に映し出され続ける。  
『………どう、ですかぁ………上手いでしょう?』  
カエロの、甘ったるい声が響く。いつの間にかその音量が上がっている。  
自分と同じ声の、その囁きを聞いて………カエレは、その頬をほんのりと上気させた。  
『ふむ、確かに驚いたよ………その歳でそんな舌遣い、どこで覚えたんだ?』  
『んふ………ヒ・ミ・ツ、ですよ、先生………。』  
蕩けるような表情で、カエロが言う。その脚が、命の身体に絡みつくように摺り寄せられる。誘うような熱い視線  
を向けながら、カエロはその身体を、胸が押し潰されるほどに更に強く密着させていく。  
「ははは………まるで、男を誘う娼婦だな。」  
「いい加減にして!!盗撮は立派な犯罪よ!?」  
「まぁ、この程度でそんなに怒らないでくれ………本番は、これからなんだから。」  
「ッ………あんた、これ以上何を………!?」  
「見ていれば解かる。」  
命はそう言ってカエレの言葉を遮った。心の底からの嫌悪を隠そうともせず、命の涼しげな顔を睨みつけながらも  
………カエレには、もはやこの状況をどうすることもできなかった。映像の中の、自分と同じ姿形をした彼女を、  
同じような眼で睨みつける。  
 
その、刺すような視線の先で。  
『それじゃぁ………こちらも、お相手しますね………。』  
カエロは、不意にその場に屈み込み………眼の高さになった命のズボンのジッパーに、おもむろに指を掛けた。  
突然の行動に、カエレが唖然とする。そして、次の瞬間、引き降ろされたジッパーから飛び出した、それを眼に  
して………完全に、言葉を失った。  
『あ、は………っ………。』  
映像の中、熱っぽく、うっとりとした表情を浮かべるカエロの眼の前に曝け出されたのは………命の、モノだった。  
「ぁ………あ、あぁ………!?」  
カエレの顔が、見る見るうちに赤く染まっていく。まともな言葉を発する術を忘れたその口が、まるで、陸に打ち  
上げられ死にかけている魚のように、ぱくぱくと開閉を繰り返す。  
『じゃぁ、頼むよ。』  
『はい、ちょっと待ってくださいね………すぐに、元気にしてあげますから………。』  
映像が更にズームされる中、上目遣いで微笑みながら………カエロが、眼の前のモノの先端に、口付ける。  
その瞬間………カエレの中で、何かが炸裂した。  
「あ、あんた、何やってんのよ!!そ、そんなッ、そんな汚らわしいこと、すぐに止めなさいッッ!!」  
その言葉は、命でも部屋の外の誰かにでもなく………そんな声など決して届くはずも無い、映像の中のカエロに  
向けられたものだった。そんな、小さな子供でも一瞬で無駄なことだと解かるようなことに気付く余裕すら失い、  
カエレは我を忘れて叫び続ける。  
「あんた、それでも私なの!?いい加減にしなさい!!聞こえないの!?」  
所々意味の解からない、だが、これ以上無い程必死で悲痛な声が、狭い地下室に響き渡る。  
だが当然、過去の映像がそんな言葉に応じるはずもなく。カエロは、カエレの眼の前でその行為を続行する。  
細い指がモノを包み込み、ゆっくりと、上下にしごくように刺激を与えていく。  
『ふふ………こんなに大きな子、久しぶりです………。』  
『それは、どうも。』  
「止めッ………そんな汚いモノ、触らないで………!!」  
眼の前で展開されていく光景に、カエレは、寒気を覚えていた。さきほどまで爆発していた言葉も、すっかりその  
勢いを失ってしまっている。声も、心なしか震え始めているように聞こえる。  
『ぴくぴくしてますよ………気持ち良いんですね?』  
『ああ………凄いテクニックだな。恐れ入った。』  
『だんだん、先走ってきましたね………ん、ちゅっ………。』  
とことんカエレの意図に逆らおうとしているかのように、カエロは、手でしごいていた命のモノの先端を、はむ、  
と口に含んだ。頬がもごもごと動き、その中で舌が蠢いている様子が伺える。  
「いや、あれは良かったよ………舌先で先端を這うように舐めまわして、先走りを吸い取って………。」  
「ッ………!!」  
映像に映っていない部分を言葉で説明され、カエレの顔が更に熱くなった。  
そのまま、指と舌による濃厚な奉仕の映像が、しばらく続き。やがて、カエロがモノから口を離す。カエレが、  
先のことはともかく、ひとまず目先のその状況にほっとした………次の、瞬間。  
『それじゃぁ………最後は、これで………。』  
カエロはそう言いながら………自ら、制服の上着を、脱ぎ始めた。カエレが、瞬時にその先の行動を察する。  
『あんまり汚すと、「彼女」に先に感付かれてしまうからね。』  
『それじゃ、いけないんですか?』  
『少し勿体ぶらせてから、と思ってね。個人的な、嗜好の問題だが。』  
『あらあら、意地悪な先生ですね………ふふ、いいですよ。1滴も零さず、飲んであげますから。』  
そう言って微笑みながら、カエロはあっというまに上半身に身に着けていたものを全て脱ぎ去ってしまった。その  
大きな胸が剥き出しになり、それが、カエロの手に持ち上げられて形を変えて………。  
『じゃぁ………失礼しますね。』  
「………〜〜〜ッッッ!!!」  
その柔らかな塊が、命のモノを、包み込んだ。むにゅ、とカエロの掌に押さえつけられて形を変えた胸の谷間から、  
色の違う命のモノが頭を覗かせる。  
自分と同じ顔、同じ声をした人間が、本当に、まるで娼婦としか思えないような淫らな行為に及んでいる。その様  
を眼の前に突きつけられて………カエレの中のプライドが、ぐらり、と傾ぐ。そんなカエレの心中など知る由も  
なく、カエロは今度はその胸の谷間で、命のモノをしごき始めた。  
 
『どう、ですかぁ………私の胸………?』  
『最高だよ………本当に、手馴れている、みたいじゃないか………?』  
『ええ………前にしてあげたときは、マシュマロみたいだ、って言って貰いました。』  
『前に、か。そのこと………「彼女」は、知っているのかな?』  
『カエレちゃんも、他の皆も知りませんよ………私達、お互いを全て知ってるわけじゃありませんから。』  
『ほう、それは………知ったら、さぞかし驚くだろうな。』  
『でしょうね………あ、ンっ、先生のおち○ちん、熱くて火傷しそうです………んく、ぅ………。』  
カエレの声でいやらしい台詞を吐いて、カエロは再び、胸の谷間から生えた命のモノの先端を口に含んだ。胸と  
口とで際限なく刺激を与え、命のモノを、無我夢中で高めていく。  
「ほら、もうすぐフィニッシュだぞ。自分がどんなことをしたのか、よく見ておけ。」  
「………や、め………私、こんなんじゃ………ッ!!」  
今やカエレは、眼の端に涙を浮かべながら、信じられないものを見るような顔でその映像を見つめていた。何故、  
こんな直視することすら躊躇われるような痴態から眼を離すことができないのかは、自分でも理解が出来なかった。  
『く、っ………そろそろ、出るぞ………。』  
『ん、ちゅる、はぅっ………だ、出してください、残さず受け止めますから………ん、むぅッ………!!』  
2人の声が、行為の終点が近づきつつあることを知らせる。カエロは、我を忘れて目の前のモノにしゃぶり付き、  
そこから全てを搾り取ろうと全ての動きを加速させていく。  
そして。その、数秒の後。  
『う、ぐぁ………っ!?』  
呻くような、命の声が再生された後………映像の中の命の腰が、ビクリ、と震えた。  
『ん、んうぅ………んぶ、っ………!!?』  
直後、カエロが口の動きを止めて、眼を丸くする。そのカエロも命と同じように、その身を震わせながら………  
口内にぶち撒けられた精を、必死で、受け止めていた。  
『ん、ぅ………。』  
しばし間が空いて、カエロが、ゆるゆると首を動かし始める。すぼめた口の先から命のモノがずるりと抜け落ちて、  
カエロの唇との間を、白く濁った色の糸が一瞬だけ繋ぐ。さきほどまでの硬さを失い垂れ下がった命のモノの前で、  
カエロは顎を持ち上げて………何度か喉を鳴らし、口の中に注ぎ込まれたものを、宣言通り残さず飲み込んだ。  
『ん………は、あぁぁぁ………。』  
カエレと同じように、目尻に涙を浮かべながら。しかし、こちらは恍惚とした表情を浮かべながら、カエロが深く  
息を吐いた。その肩が、ふるふると微かに震えている。  
『こんなに、たくさん………熱くて、濃くて、素敵でしたよ、先生………。』  
そう言いながらカエロは、残された先走りで濡れる胸に片手を沿え、その先端を刺激し始めた。もう一方の手が、  
下腹部へと伸びていく。カメラが引くと、カエロが膝立ちになったまま、一連の行為で熱く火照った自分の身体  
を慰めている様が映し出された。  
『せんせぇ………先生のしゃぶってたら、私も、なんだか熱くなってきちゃいました………。』  
『そうか………なら、今度はお礼に、私がしてあげようか。』  
『はい、是非………先生の手で、私のこと、天国に連れて行ってください………。』  
そう言いながら、カエロはスカートの裾を持ち上げ、中に滑り込ませた手で下着を脱ぎ去る。立ち上がったカエロ  
は、もたれ掛るように命の体に擦り寄り、その手を取って自分の下腹部へと導いていく。  
『ひゃ、ン………ほら、私のアソコ、もうびしょ濡れでしょう?先生の逞しいおち○ちんで、慰めて………?』  
『………本当に、男を惑わす術をよく心得ているな。感服するよ。』  
映像の中で苦笑した命は、導かれた手でカエロの秘裂を何度か愛撫した後、モノを剥き出しにしたまま、椅子に  
腰掛けた。今さっき果てたばかりのはずのモノが、早くもその硬さを取り戻し始める。  
『それじゃぁ、先生………行きますよ………?』  
そう呟き、カエロは浅く椅子に腰掛けたままの命と向き合う。その脚が大きく開かれ、命の腰をまたぎ、その両腕  
が再びゆっくりと命の首に回されて………。  
 
「………ひとまず、ここまでかな。」  
「っ!」  
 
カエロが命の上に腰を落とすかに見えた瞬間、突然、映像が途切れた。  
壁に映し出されていた場面が消え、そこには、元通りになったただの四角い光だけが残される。そしてそれも、  
部屋が明るさを取り戻していくに連れて、薄まっていく。  
「さて、一部始終を見て貰ったわけだが。如何だったかな?」  
「あん、た、よくも………よくも、あんなことさせて………ッ!!!」  
「おっと、勘違いしないでくれたまえよ。あれは別に、私が強制してやらせてるわけじゃぁないんだから。」  
ギリギリと歯軋りをしながら睨みつけるカエレの視線にも、全く動じる素振りすら見せず。命は、相変わらずの  
涼しげな口調でそう言った。  
「君は知らないらしいが………結構、多かったぞ。性に関してオープンな人格は。」  
「なッ………そ、そんなわけないでしょう!?デタラメ言ってんじゃないわよ!!」  
「なんなら、証拠を見せようか?他にも、何人も居たぞ………いや、本当に、私の身体がもたない所だったよ。」  
「………嘘………嘘よ、そんなの………だって、私………!!」  
「まぁ、見た限りでは………『木村カエレ』、君が1番、高いプライドと硬い頭を持っているんじゃないか?」  
「………ッ………!!」  
命のその言葉に………カエレは一瞬だけ、納得しかけてしまう。  
 
自分の中の人格の全てを把握しているわけではないが………それが生まれるきっかけとなった出来事については、  
カエレ自身もある程度は覚えている。  
そもそも、カエレの中にあれだけ多くの人格が生まれたことは………最初の人格『木村カエレ』の、高いプライド  
に起因していることがほとんどなのである。  
異国の文化に合わせなければやっていけない、しかし、自分自身を捨てたくはない。その葛藤の中で、様々な人格  
が生まれ出てきたのだとすれば………生まれた人格が、その葛藤の原因となった高いプライドを欠いている、と  
いうことは十分に考えられた。  
 
カエレの一瞬の迷いを見逃さずに、命が切り返す。  
「………どうやら、その点に関しては君も心当たりがあるようだね。」  
この事態を心底面白がっているようなその声に、カエレがまた猛り狂う………が。  
「ち、違っ………だ、だから、そんなわけがないでしょう!!」  
「どうだか、ね。まぁ………その映像は、また後日改めて紹介してあげよう。」  
「後日なんて、無いわよ!!今すぐ解放しなさい、そのまま警察に突き出してやるから!!」  
「まぁ、解放はするつもりだが………あの映像が私の手の内にあることを、忘れていないか?」  
「あ………ッ………!!」  
命のその言葉は、カエレの勢いを殺すのに十分な威力を持っていた。  
「今見せたのは、まだまだマシな方だ。他の映像を見られたら………本当に、死にたくなるかも知れないな。」  
「………この、外道………ッ………!!」  
「口は慎みたまえよ。あの映像が、今すぐ世界中にバラ撒かれるか否かは、私の腹1つなんだ。」  
わざと声を張り上げて、まるで、部屋の外の誰かに何かをにおわせるようにそう言って、命は笑った。  
カエレは言葉を次ぐことが出来なくなり、腸の煮えくり返るような想いを抱いたまま、押し黙る。  
 
「次の上映会には、私の下僕を通じて直接ご招待しよう。もし、断ったりしたら………解かっているね?」  
「………くっ………こ、の………ッ!!」  
そうして、その日………カエレは、心に重い枷をはめられたまま、糸色医院の地下室から解放された。  
     
 
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初めて、同じクラスの倫から命の伝言を聞かされたとき、カエレは心底驚いた。そして………実の妹までも毒牙に  
掛ける命に対する嫌悪は、より濃く、深いものとなった。  
そのようにして、その後もカエレは度々この糸色医院に呼び出され………あの映像を見ることを、強要された。  
 
初めて見せられた映像の先で、命の体にまたがり、腰を振りながら喘ぐ姿。  
四つん這いにされ、後ろから犯されながら恍惚とした表情を浮かべる姿。  
机の上で大股を開き、命に命令されるがまま自分の秘裂を掻き回し自慰に耽る姿。  
そして………命を拒みながらも、壁の手枷に捕らわれ、恐怖に声を上げることすらままならず弄ばれ続ける姿。  
映像はどれもが、カエレにとっては見るに耐えないものばかりだったが………命は、カエレが眼を閉じることすら  
禁じて、その映像を見せつけ続けた。  
 
自分と同じ姿形、同じ声をした少女が無残に蹂躙されていく様を、眼の前で晒し続け。  
その回数を重ねるに連れて、自分の中の人格達が、次々に命の虜となっていくことを、実感させながら。  
しかし………カエレの人格が表に出ているときに、命がその体に危害を加えることはなかった。  
命はただ、カエレが自分の中に居る数多の人格の中で孤立し、プライドをガタガタに傷つけられながらも、震え  
ながら必死で耐えているその姿を、観察するばかりだった。  
 
………そして。  
「………さて、待たせたね。」  
「ッ!!」  
今日も、カエレにとっては拷問以外の何物でもない上映会が、開始される。  
「自分の中の友人達と、お話中だったかな?席を外そうか?」  
「五月蝿い………五月蝿い、五月蝿い!!どいつもこいつも、もう、黙ってて!!」  
頭を抱え、ヒステリックに叫ぶカエレの様子を見下ろしながら………命が、ニヤリ、と笑みを浮かべる。  
「………さて。今日は『木村カエルベシ』の様子を観察してみようか。」  
「いや………もう止めて、もう、見たくない………止めて………!!」  
「五月蝿い。拒否権は無いと、何度も言ったはずだぞ?」  
命の威圧的な声に、ビクリと身を震わせて。カエレは、涙に濡れた顔を上げた。  
「せっかく、記録してあげているんだ。どうせなら、楽しんで見てみたらどうだ?」  
「………こ、の………このっ………!!」  
カエレの中で燻り続ける憎悪は、結局、まともな言葉となる前にカエレの内側へと帰っていく。  
「(………この様子なら、折れるのも時間の問題かな………。)」  
葛藤の最中にあるカエレの、弱りきった姿を見つめつつ。  
「(自分の意思で、一言『許してください』と言えたら………楽にしてやろうじゃないか。)」  
命は、心の中で呟く。  
 
「(1度、その身をもって快感を覚えてしまえば………つまらないプライドなんて、すぐに脱ぎ捨てられるだろう。)」  
プライドの高い彼女を、じわじわと、少しずつ砂の山を崩すように征服していくその行為に、身と心を震わせながら  
………命は、隣の部屋で待機する看護婦に、マイク越しの命令を送った。  
地下室が、暗転する。  
 
 
(続)  
 

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