『ぴろりぱろぴりろら』  
 
「………っ………?」  
ある日の、授業中。教室の片隅で、携帯電話の着信メロディが鳴り響く。  
授業などそっちのけで、芽留は、メロディと共に振動する携帯電話を手に取った。望の視線も気にせず、机の上で  
堂々と2つ折りの携帯電話を開き、受信したメールを確認する。  
「………あのー………音無さん、一応、授業中ですので………。」  
望の控えめな忠告にも、芽留は一切反応しない。  
まぁ、いつものことか、と諦めて、望はさっさと授業の進行に戻った。  
 
メールの差出人は、知らない相手だった。『無題』というタイトルのそのメールの本文には、ただ、ホームページ  
のアドレスが1つ書いてあるだけ。迷惑メールや何かの広告のようでもあるが、それにしては文面が少しシンプル  
過ぎるような気もする。  
「っ?」  
芽留は、それを見て1度首を傾げたが………暇つぶしがてら、何気なく、そのアドレスをクリックする。データが  
受信されている印のアイコンが表示されて、やがて、画面が切り替わる。  
「………。」  
辿り着いた先の、ピンク色を基調としたページを見て………芽留は、は、と小さく息を吐いた。それは、よくある  
携帯電話用の投稿動画サイトだった………ただし、18歳以上の人間向けの、である。主に、自らの痴態を曝す  
ことに快感を覚える女性達が集い、自ら携帯電話で撮影したあられもない姿を投稿して、男達の反応を楽しむ為  
の場所だ。  
やはり、そういう類のくだらないメールだったか、と、芽留はやや呆れ顔で携帯電話を畳もうとする………が。  
「………っ!?」  
その、ページの先頭。最新の記事の、投稿者の名前を見て………その手が、止まった。  
投稿者の名前の欄に、表示されている………『めるめる』という、名前。それを凝視したまま、芽留は絶句する。  
が、普段から全く喋らない彼女の異変に気付く人間は、その場には誰もいなかった。  
 
芽留は、そのまま数秒身体を硬直させた後………おもむろに、椅子から立ち上がる。  
「おや、音無さん、どう………?」  
どうかしましたか、と望が尋ねるよりも先に、芽留は、携帯を胸元に抱いて教室を飛び出していた。呆気に取られ  
て呆然と立ち尽くす望の代わりに、実質的な学級委員長である千里が、廊下側の窓から首を覗かせる。  
やがて、芽留の背中がある場所で曲がり、開いたドアの向こうに消えたのを見て………千里は、望に向き直る。  
「お手洗い、みたいですね。それならそうときっちり言わなきゃ、授業が滞るじゃないの、全く………。」  
「あ、ああ………そういうことでしたか。なら、いいんですけど………。」  
その中断も、さきほどと同じくあっという間に終わって。授業が、再開される。  
 
望が再び黒板に白い文字を綴り始めたその頃………芽留は、教室に程近い女子トイレに駆け込み、個室に飛び込み、  
両手で握り締めていた携帯電話の画面を、恐る恐る覗き込んだ。そこには、さきほどまでと同じページが………  
めるめる、という人間の投稿が表示されているページが、写っていた。  
それ以上先へ進むことを、芽留の心の奥の誰かが、必死で引き止めようとする。しかし………芽留は、その投稿  
をした人間、めるめるというその人間の正体を確かめずには、いられなかった。  
………きっと、偶然だ。自分のあだ名とこの投稿者のハンドルネームが、たまたま同じだっただけだ。そう、自分  
に言い聞かせながら………芽留は、『動画再生』の文字を、クリックする。また、データを受信しているアイコン  
が表示され………やがて、動画が携帯電話にダウンロードされる。  
そして、自動的に再生された、その動画を見た瞬間………芽留の顔から、血の気が引いた。  
 
直後。何かが割り込むように、勝手に画面が切り替わって。  
『ぴろりぱろぴりろら』  
芽留の携帯電話が、新たなメールを受信した。  
 
 
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その日の、放課後。芽留は普段の下校路を逸れて………ある場所へと、やって来ていた。  
『本日休診』のプレートが下がった引き戸を潜った、その先………糸色医院の診察室で、芽留は、あのメールを  
送りつけた張本人と向き合っていた。  
『あんなモンいつの間に撮りやがったこの覗き魔が』  
おどおどした態度に似合わぬ強い言葉の文章が………命の眼の前に、突きつけられる。それを見ても、命は薄ら  
笑いを浮かべた表情を変えずに、質問に答える。  
「ちょっと、知り合いに頼んでね。留守の間に、いろいろ仕掛けさせて貰った。」  
悪びれる様子も無くそう言ってのける命の顔を見つめながら、芽留は、ぎり、と奥歯を噛み締めた。  
 
学校で開いた、あの動画に移っていたもの。それは………昨晩の、芽留の部屋の風景だった。  
動画は、芽留が風呂から上がって部屋に戻ってくつろいでいる所から始まっていた。その後、ベッドの上でしばらく  
携帯電話をいじっている姿が、ごろりと寝返りをうつ姿が、おもむろに、子供っぽいパジャマのズボンを脱ぎ始める  
姿が、そして………携帯電話を片手に自慰に耽る芽留の姿が、そこには映し出されていた。  
横になったまま、もじもじと擦り合わせていた太股の間に手を滑り込ませ、もぞもぞと指を動かして………やがて、  
仰向けになって両脚を開き、下着の中に手を侵入させ、背筋を逸らせながら、自分の細い指が与える会館を貪って  
いく。自分のそんなあられもない姿を克明に記録した動画が、知らぬ間に、不特定多数の人間が出入りする場所に  
公開されていたのだ。  
その動画は不自然な形でズームされていて、顔こそ映っていなかったものの………家具の配置や着ていたパジャマ、  
なによりその行動は、芽留が見れば一目で自分自身だと解かるものだった。  
 
「大丈夫、あの動画は加工済みだ。君以外の人間が、君だと気付けるような手掛かりは無いはずだ。」  
『そういう問題じゃねぇ、とっとと消しやがれ悪趣味なヤブ医者が』  
「随分な口のきき方じゃないか………いや、こういう場合は『口をきく』と言うのか?」  
『知るかボケ』  
「とにかく、言葉には気をつけたまえ。君の顔までしっかり映っているオリジナルは、私の手元にあるんだぞ?」  
命の言葉に、携帯電話の画面で辛辣に言い返していた芽留も………その絶望的な事実を突きつけられ、文章を打つ  
手を止めた。  
「なんなら、見せてやろうか?快楽に喘ぐ恍惚とした表情まで、はっきり撮れてるぞ?」  
「………っ………!」  
「それに、メールじゃ汚い言葉を使うが、声の方はなかなか可愛らしいじゃないか。あの嬌声はなかなか………。」  
『黙れハゲ、それ以上言ったらただじゃおかねぇぞ』  
「私に、そんな陳腐な脅しは通用しないよ。自分の身を護る為に、あらゆる手を打っているからね。」  
命の絶対的優位のまま、会話は進む。もはや自分にこの状況を打開する術が無いということを、芽留の頭は、早く  
も理解し始めてしまう。詰め寄る命の声に溢れる自信と余裕が、その言葉が単なるハッタリではないことを示して  
いた。指の動きが止まり、次の言葉が、続かなくなる。  
「君に、私の言葉に従う以外の道は残されていない。その事実は、覆らない………解かるね?」  
遂に観念した………というよりは、ただ愕然とし茫然自失となった芽留の頭の上から、最後通告の言葉を浴びせ  
ながら。命は、ふるふると震える芽留の手から、携帯電話を取り上げた。唯一の意思疎通ツールを取り上げられ、  
それでも今の芽留には、慌てふためく余裕すら無い。  
「まぁ、私の言葉に従ってくれれば、あれはすぐにでも削除しよう。それは、神に誓って約束する。」  
「………っ………。」  
「と、いうことで………君に1つ、お願いがある。ちょっと、着いてきてくれ。」  
その『お願い』という言葉が、絶対服従の『命令』と同義であることを、ひしひしと感じながら。芽留は言われ  
るがまま、重い足取りで、命の背中に続いた。  
 
 
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そして、今。芽留は、大通りを1本逸れた、今にも朽ち果てそうなビルの敷地に立っている。  
街の喧騒と隣接した、静寂に包まれた空間。不況の煽りを受けて、今では誰にも使われなくなった背の高いビルの  
敷地へと入る唯一の入り口は錆びた鎖で封鎖されていて、本来なら袋小路のようになっている。あまり厳重とは  
言えないその封鎖を潜り抜けて、芽留は、立ち入ることが許されていない、だが立ち入っても誰に咎められるわけ  
でもないその場所に居た。  
制服姿のままの芽留は、ポケットから携帯電話を取り出す。それは、普段持ち歩いているものではなく、それを  
取り上げられた代わりに命から手渡された、旧い型のものだった。  
自分のものと同じように二つ折りになったそれを、開く。着信していたメールを、読んで………芽留はまた、ぎり、  
と奥歯を噛み締めた。  
『指令』というタイトルのメールの本文には………ここに来るまでに、そして今から芽留が従わなければいけない  
指令の、耐え難い内容が事細かに記されていた。  
最初に書かれているのは、糸色医院を出て、そのビルまで辿り着くルート。ここまでは、まだいい。  
問題は………その、後。これから取らねばならない、行動だ。  
 
芽留は改めて、その余りに酷なメールの内容を確認し………その指示通りに、動き始める。  
まず鞄から、これも命から手渡された、デジタルカメラを取り出す。説明通りにスイッチを入れて、まず、自分が  
その場所に居るのだということを証明する為に、周囲の風景を撮影する。次いで、折り畳み式の三脚を取り出して、  
適当な場所で、壁に向けてカメラをセットする。  
そこまでの指令をクリアし、次に、そのカメラが撮影している壁の前に歩み出る。芽留はしばし、頬を真っ赤に  
しながら、足元の地面とカメラとを交互に見比べて………そして。  
「………ん………。」  
おもむろに………クロスさせた手を制服の裾に手を掛け、それを、脱ぎ去った。  
ぱさ、とカメラのマイクでは拾えない微かな音と共に、制服が埃っぽい地面に落とされる。芽留の白く細い身体と  
今は必要かどうか判断に悩むブラジャーが、曝される。  
普段から全く人気が無いとはいえ、どこから誰に見られているとも限らない、こんな野外で下着姿を曝すことなど、  
芽留にしてみれば………いや、おそらくはほとんどの女性にとって耐え難いことだろうが。今の芽留に、選択権は  
無い。それどころか………この後、これとは比べ物にならない程の恥辱を、要求されているのだ。  
白かった肌をみるみるうちに上気させ、泣きそうな顔で震えながらも………1枚脱ぎ捨ててしまったことで精神的  
にも後戻りが出来なくなったのだろうか。芽留は、指示通りに次々と衣服を脱ぎ捨てていく。スカートが脱ぎ捨て  
られて上下とも薄い下着だけになり、それも、ほんの少しの躊躇の後、取り払われてしまう。  
「っ………〜〜〜ッ………!」  
まるで、一刻も早く事を終わらせようとしているかのように、芽留は、白昼のストリップ撮影を終えた。今はもう、  
身に着けているのは靴と靴下、それと髪留めくらいのものだ。少し離れた大通りには、今も多くの人が行き交って  
いるであろう、ということを考えると、心臓が張り裂けんばかりに大きく脈打った。  
だが………いくら、羞恥心に全身を掻き毟られ、このまま消えて無くなってしまいたいような気分になっても。  
未だ、命から課せられた指令は、達成されてはいない。  
「………ッ………。」  
芽留は、次の指令に従う為に背中を冷たいコンクリートの壁に預け、そのままずるずるとずり落ちるように、その  
場にしゃがみ込んだ。その体勢になると、立っているときにはその膨らみがわずかに見て取れるだけだった………  
その、高校生にしては幼過ぎる秘裂が、正面からでも丸見えになる。もちろん眼の前のカメラも、誰にも許した  
ことの無い秘裂を外気に晒し、全身をガタガタと震わせる芽留の痴態を、克明に記録し続けている。  
そして。録画を続けるカメラの前で………芽留は、その細い指を、恐る恐る自らの下腹部へ近づけていく。  
 
「………あ、ふ………ッ………!」  
その指先が、秘裂の上方の末端………その小さな肉芽に、ほんの少し、掠めるように触れた瞬間。普段、滅多な  
ことでは声を出さない芽留の口から、小さな、しかし甲高く響く声が発せられた。  
「………ぁ………。」  
触れるか触れないかの所で指先を停滞させたまま、芽留は、ぼんやりと遠くを見つめるような眼で、今居る敷地  
のすぐ隣にそびえるビルの外壁を見上げている。いや………それは形だけのことで、今の芽留の瞳の焦点は、どこ  
とも知れない空中を彷徨っているのかも知れない。  
しばし、そうして沈黙した後………芽留の指が、再び動き出す。さきほどと同じようにそろそろと肌の上を下り、  
最も敏感な部分に自ら接触する。それでも、今度はその指を止めることはせずに………まだ毛も生えていない秘裂  
の上を、何度も、往復させ始める。  
 
それは、おそらく誰が見ても紛うことなく………自慰行為、そのものだった。  
命が、あの映像を盾に芽留に突きつけた要求………それは、こうして独りで、野外で自らの自慰行為を撮影させる、  
というものだった。もちろん、一糸纏わぬ………いや、正確には靴下と靴だけは残されているが、それに順ずる  
あられもないその姿で、である。  
 
もちろん、あの携帯電話を渡され、初めてその内容を知ったとき、芽留は命に精一杯の抗議をしてみせた。だが、  
それも命があっさりと『ならば、明日から表を出歩けない身になるだけだ。』と言ってのけたことで、あっけなく  
収束してしまった。そう、もしも命の課した指令を達することを拒めば、あるいは、それを達することが出来な  
ければ………自らの痴態が、大勢の人間の眼に晒されることになるのだ。  
救いの光などどこにも見当たらない、この状況。一刻も早くこの理不尽な状況から逃げ出したい、その一心で、  
芽留は襲い来る凄まじいほどの羞恥心に耐えているのだった。  
命の指令は、カメラの前で、1度絶頂に導かれる様子を撮影し、それを命の元に持ち帰るというものだ。とにかく、  
早く果ててしまえばそれで全てが終わる。この状況を、抜け出せる。  
極力、それ以外のことを考えるのを止めて、芽留は指を動かし続ける。身じろぎ一つせずに自分を見つめ続ける  
カメラの前で、肉芽を摘み、捏ね回し、秘裂を押し開いて、内壁を指先で抉るように愛撫する。不本意ながらも、  
少しでも快楽に敏感な場所を求めて、自らの身体を貪っていく。  
 
身体がビクビクと震え、声が抑えられなくなる。やがて頭が、ぼぅ、と熱くなってくる。それが、耐え難いほどの  
羞恥心の所為なのか、あるいはその身体が快楽に溺れ始めた所為なのか………それは、芽留にも解からなかった。  
やがて芽留は、自分の身体の奥底から………何か、大きな波のようなものが湧き上がってくるのを、感じ始める。  
それは、今まで何度も………人知れず自慰に耽る度、そのクライマックスで感じてきた、馴染みのある感覚だ。  
「あ、ぁ、ア………ッ、ぅ………!?」  
繰り返し繰り返し、短い嬌声を上げながら………芽留はいよいよ、絶頂へと近づき始める。手足の筋肉が痙攣する  
ように収縮を繰り返し、2本もの指を呑み込んだ秘所も、急激にその圧力を増し始める。  
「あ………〜〜〜ッッッ!!?」  
そして………今まさに、芽留の身体が絶頂を迎えようとした、そのとき。  
 
「………おいおい、マジでやってがる。」  
「………ッッッ!!?」  
 
突然………男の声が、聞こえた。  
絶頂に導かれる寸前の状態で、ビクリ、と身体を硬直させて。芽留が、恐る恐る、声のした方向を見やる。  
「真昼間からこんなトコで、素っ裸でオナニーか。ガキみてぇなナリして、とんでもねぇ痴女だな。」  
さきほどまで誰も居なかったはずのそこに立っている、顔には見覚えが無い、しかし制服には見覚えのあるその  
男子生徒の姿を見て………芽留の表情が、固まった。時が止まり、音が消え去ったような錯覚に陥る。自分自身の  
心臓の音だけが、まるで頭の内側から聞こえているかのように、やかましく鳴り響いている。  
「お前、ホントに同級かよ?中坊にしたってチビ過ぎんだろ。」  
手の中にあった携帯電話をパチン、と畳んで。やや背が高く、髪は金色の短髪、黒い制服の下にTシャツという、  
見るからにガラの悪いその男は、まさに『痴女』としか言い様の無い、言い逃れの出来ないような格好で呆然と  
している芽留に歩み寄る。その顔に浮かぶ、明らかに何か良からぬことを考えている笑みを眼にして………芽留は  
ようやく、眼の前で起きていることの意味を悟った。  
 
全身から、血の気が引く。今度は、心臓が縮み上がって消滅してしまうような錯覚を覚える。  
「………ホントは、毛も生えてねぇガキは趣味じゃねぇんだけどな。」  
麻痺したように動きを鈍らせた芽留の脳が、何かの指令を送るよりも先に。歩み寄った男がほとんど全裸に近い  
格好でへたり込む芽留の眼の前に、しゃがみ込む。その視線は、1度値踏みするように芽留の顔に注がれた後  
………さきほどの体勢のまま固まっていた芽留の、しとどに濡れた秘裂に、容赦なく注がれた。視線に気付き、  
引いたはずの血の気と熱が数倍になって跳ね返ってきたときには………男の手が、その秘裂に伸ばされた後だった。  
くちゃ、とその指先が僅かに芽留の内側へ沈み込む。  
「ふ、ひぁッ!?」  
「おー、チビのくせして、こっちは一丁前に感じてんのか。どうしようもねぇな、この変態が。」  
芽留はそこで、ようやく我に返って、抵抗を試みる。眼の前に迫った男の身体目掛けて力一杯腕を突き出すと、  
しゃがみ込んでいた男の身体がぐらりと傾き、その場で無様に尻餅をついた。抵抗は無いものと思って油断して  
いたのか、あっさりと芽留に突き飛ばされた男子の眼の前から、芽留は一目散に逃げ出す………が。  
「………あ、ぅ………!?」  
芽留は走り出してから、自分が今どんな格好をしているのかに、気付いた。まさかこんな格好で、人が居る場所  
まで助けを呼びに行くわけにはいかない………その一瞬の迷いが、ただでさえ快楽の余韻でおぼつかなくなって  
いた芽留の脚を、もつれさせる。  
「ひ、あ!?」  
駆け出して間もなく、芽留はもつれた自分の足に躓いて転んでしまった。護る物の無い身体に、砂や小石が容赦  
なく傷をつけていく。  
「ンの、野郎………おとなしくしてろってんだよ!」  
「う、あ、ぁ………ッ!?」  
すぐさま追いついた男が、倒れこんだ芽留の髪を無造作に掴んで、容赦なく引っ張り上げる。そのまま髪で引き  
摺られるようにして、芽留は、あっという間にさきほどのカメラの前に引きずり出されてしまった。  
「そう、嫌がるなよ………こっちは、センセーからの『指令』に協力してやろうってんだ………!」  
「………ッ………!!?」  
男のその言葉を聞き、芽留は、その円らな眼を大きく見開いた。その男が、どうやら命の差し金であるらしいこと  
を知り………それまでの怯えきった表情とは一転して、心底悔しそうな顔で、奥歯を噛み締める。  
芽留は引き摺られながら、制服と共に地面に置かれていた携帯電話をなんとか拾い上げて、そこに眼にも止まらぬ  
指さばきで打ち込んだ文章を、男の眼の前に突きつけた。  
『てめぇ、あの腐れメガネの使いっパシりか』  
そんな、芽留の毒舌が発揮された言葉を受けても、男は気分を害したような様子は見せなかった。それどころか、  
なにやらニヤニヤといやらしい笑みを浮かべているようにも見える。  
「………ああ、そうだよ。お前の撮影を手伝ってやれってな………そろそろ、次のメールが来る頃じゃないか?」  
そして、男がそう言った瞬間。  
『ヴヴヴヴヴヴ………』  
「ッ!?」  
その言葉通り、携帯電話が振動を始めた。見慣れぬアイコンと共に、メールの着信が知らされる。  
芽留は、にやつきながら、しかし髪を掴んでいる以外は特に手を出さずに、自分の様子を窺っている男の顔色を  
窺ってから、恐る恐る、そのメールを開く。そして『指令:追加項目』という題名のそのメールの内容を読んで  
………また、その双眸を見開いた。  
「………そういうことだ。まぁ、まずは………先に来てた指令が、優先だけどな。」  
「ぁ………ッ!?」  
芽留が、たった数行のその指令を読み終えた直後。男は、芽留の体を後ろから抱きかかえた。そのままカメラの  
正面に座り込み、開いた膝で芽留の脚を無理矢理押し開く。さきほどまでと同じように、カメラの前に曝け出され  
た芽留の秘裂に………男は、躊躇い無くその指を侵入させた。  
 
「あ、ひぃッ!?」  
「まだ、イクとこ撮ってねぇだろうが。ほら、手伝ってやるからさっさとイッちまえ!!」  
男の指は情け容赦なく、芽留の秘裂の内側を蹂躙する。さきほどまで自分の指に慰められ、臨界点ギリギリにまで  
高められていた芽留の身体が、無遠慮なその攻撃に耐え切れるはずもなく………芽留は、喘ぎ声を上げることすら  
ままならず、あっという間に絶頂を迎えてしまった。  
「ひッ………ァ………〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!」  
「おー、イッたイッた………ガクガク震えちまって、見た目は可愛いモンだな。」  
男の腕に支えられながら、芽留は、まさかこんな形で与えられるとは思ってもみなかった、生まれて初めて異性の  
手で導かれた絶頂に身を震わせる。すっかり緩み、ひくひくと痙攣を続ける秘裂から、ちゅぽ、と粘度を感じさせる  
水音と共に男の指が引き抜かれる。  
「ドロッドロだぜ。ほら、見てみろよ、なぁ?」  
あまりに急激な刺激に、半開きになった口に自らの秘裂から零れた粘液を押し込まれても………今の芽留には、  
それを拒絶する余裕すらありはしなかった。その手から、たった1度だけ男に反論した痕跡の残った携帯電話が、  
滑り落ちる。  
そして………その余韻に、溺れている暇も無く。  
「休んでる暇なんてやらねぇぞ………早速、次の指令だ………。」  
男は、命が芽留に課した次の指令を達成する為に『協力』しようと………自らのズボンに、手を掛ける。  
芽留が平静を取り戻すよりも先に、男は制服のチャックを降ろし、既に大きく膨れ上がったその怒張を晒け出した。  
その気配に気付き、芽留がようやく、ぼんやりと空中を彷徨っていた視線を自分の身体の下に向ける。  
「ひ、ぃ………っ!?」  
「んじゃ、行こうか?」  
芽留が一瞬で我に返り、恐怖に顔を引き攣らせたのも束の間。その体が、ぐん、と高く持ち上げられ………そして、  
天を衝く男の怒張の真上に、落とされる。芽留の身体と比較するとかなりのサイズに見えるそれは、一瞬で芽留の  
秘裂に飲み込まれ………その奥にあった、純潔の証を貫いた。  
「い”………あ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!???」  
身体が真ん中から引き裂かれるような、信じられない程の激痛に………芽留は、生まれてから1度も発したことの  
ないような大声で、甲高い悲鳴を上げた。すぐさま、男の手がその小さな口を覆う。  
「っと………いくら人が居ねぇからって、そこまで叫ばれちゃマズいんだよ………!!」  
「ん”うッ、んぐうぅぅぅぅッッッ!!」  
「にしても、イイ声で鳴くな………ガキは趣味じゃねぇと思ってたが、ちっとテンション上がってくるぜ………。」  
そう言いながら男は、腰を揺すり、芽留を抱えた腕も上下に動かしながら、その怒張を容赦なく芽留の奥底へと  
打ちつけ始める。人より身体の小さい芽留の秘所は、破瓜の鮮血を垂れ流しながらも、簡単に最深部にまで達し  
そこに衝突する男の怒張を、痛いほどの力で締め上げる。  
「前戯なんてしてやんねぇからな………さっき、突き飛ばしてくれた礼だ………!」  
「い、ぁ………あ、ぷぁッ、ん、むぅぅ!?」  
男は何度も何度も、執拗に芽留の幼い身体を突き上げ続けた。血と愛液が混ざり、埃っぽい地面に垂れ落ちる。  
恥ずかしい部分を余すことなくそのレンズの前に晒しながら、口を塞がれ、苦悶の表情を浮かべてその身を蹂躙  
される………これ以上無い程屈辱的なその姿を、意思も情けも持たないカメラは、いつまでも撮影し続ける。  
やがて………芽留を抱えたままの男が、それに近づく。  
「よし、せっかくだ………もっと、楽しい画も撮っとこうぜ………!!」  
「ん、ひ………ぁ………!?」  
突然体位を変えられて悶絶する芽留のことなどお構いなしに、男は、三脚の上に固定してあったデジタルカメラ  
に手を伸ばす。男は、それを手にすると………更に無理矢理な格好で体位を変え、芽留を地面に押し倒す形で、  
その小さな体の上に覆いかぶさった。  
ぼろぼろと涙を零す芽留を見下ろすように、男は手にしたカメラを回し続ける。  
「オラ、これが『ハメ撮り』ってやつだ!なかなか経験できるもんじゃねぇぞ、良かったなぁ!?」  
「ん、ぎ………あ”、あァァッ!!?」  
なんとか口の自由だけは取り戻した芽留がまた、苦痛に耐えかねて、快楽からは程遠い悲鳴を上げる。それでも  
男は構わず狂ったように腰を振り続け、芽留が苦しむ様を堪能し続けた。上下に揺すられるたびに、剥き出しの  
背中が地面に擦れ、傷ついていく。が………今、芽留の心は、そんな痛みなど感じている余裕すら無い、絶望の  
どん底に叩き落されていた。  
 
「オラ、もっと鳴いてみろよ!ハハハハハハハハハ!!!」  
やがて………カメラを片手に狂ったように笑う男の声が、どこか、遠くから聞こえるようになる。破瓜の痛みが  
薄れ、背中の痛みが薄れ………全ての感覚が、緩やかに、芽留の身体を離れていく。  
………それは、芽留の意識が、耐え難い惨状に置かれた我が身に留まることを拒絶し始めた故に起きた、ある種の  
自己防衛反応であったが………その瞬間、その事実に気付けた人間は、芽留を含め、ただの1人も居なかった。  
「ぁ………ぁ、あ、ぁ………ぅ………?」  
絶え間なく上がっていた絶叫が、急激に収束し始める。自らの意識を手放した芽留の身体は、やがて、雌の本能  
に従って男の蹂躙を受け入れ始めた。  
「お、やっと濡れてきやがった………ホラ、そろそろイクぞ!全部叩き込んでやるから、覚悟しろよ!?」  
遠くで、男がそんなことを言っている。その声を、意識の片隅でぼんやりと聞きながら………やがて、身体を  
離れどことも知れない所に漂っていた芽留の意識は、緩やかに、収束していった。  
 
「出るぞ、オラ!残さず受け止めろよッ!?」  
男が、もはや物言わぬ人形のように、ただ自分の腰の動きに合わせて揺れることしかできなくなった芽留の身体に  
己が精を注ぎ込んだとき………カメラが写すその身体の中には、既に、芽留の意識は存在していなかった。  
 
 
//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////  
 
 
意識を取り戻したとき………芽留は、既に乾き固まり始めた白濁液にまみれて、ビルの敷地に無造作に打ち捨て  
られたような形で横たわっていた。それだけ見れば、変死体のようにしか見えない格好の芽留は、ぼんやりと  
霞が掛かったような意識の中、ゆるゆるとその瞳を動かした。  
やがて身体の感覚が戻り、そのゆっくりとその上体を起こす。身体のあちこちが痛むので様子を見てみると、  
疼く秘裂から、そして身体中についた小さな傷から、血が流れ出して固まったような痕があった。  
ゆっくりと、10秒ほどの時間を掛けて、芽留は記憶を手繰っていく。  
 
そして。  
「………ぁ………ッッッ………。」  
程無くして………自分が意識を失う前に、どんな目に遭わされていたのかを、思い出した。  
 
担任の身内に、耐え難い恥辱を強要され。  
その手先の、見知らぬ男に………純潔を奪われ、こうして、ボロボロになるまで犯された。  
その現実を認識し、芽留の心は、まるで金槌で頭を思い切り殴りつけられたような衝撃に襲われた。  
 
周囲の様子を、確認する。そこに自分を犯していた男の姿は見当たらず、ただ、やって来たときと同じ景色が  
広がっているだけだ。脱ぎ捨てられた制服も手付かず、デジタルカメラも、三脚に戻してある。  
「………ッ………ぅ、ぅ………!!」  
違うのは、これ以上無い程ドロドロに汚された、自分の身体くらいだろうか………無意識のうちに、そんなことを  
考えて………芽留は、大粒の涙を零しながら、泣いた。肌を伝う涙が、微かに、本当に微かに、身体の汚れを洗い  
流していく。  
 
そして、その傷だらけの背中に。  
「いや、ご苦労様。」  
「………ッ!!?」  
聞き覚えのある声が、掛けられる。  
芽留が、泣き濡れた顔で振り返ったその先で………いつの間にかやってきていた命は、三脚にセットされたまま  
だったカメラを手にし、早速その中身を確認していた。  
「よく撮れてるね………はは、意外と大胆な指使いだな。顔に似合わず。」  
「………う、ぅッ………!!」  
「お、あの男子生徒も上手くやってくれたみたいだな。」  
「………っ………!!」  
「………おお、頼みもしないのに、ハメ撮りまでしてくれるとは。なかなか、見込みがありそうだ。」  
芽留は、涙の跡が残る顔で、射殺すかのように命を睨みつけてから、辺りを見渡して、命から渡されたはずの携帯  
電話を探す。眼の前の男にどんな辛辣な言葉をぶつけても、その気持ちが晴れることは有り得ないだろうが………  
それでも、その煮えくりかえるような想いをぶつけずには、いられなかった。  
が。その様子を察して………命は振り向き、にやり、と笑う。  
「自慰行為と、絶頂に達する様子の撮影………そして、男子生徒との性行為の、撮影。」  
「ッ………っ………?」  
「おめでとう、指令は達成された。もう………コレは、必要無いな。」  
「っ!」  
そう言って、命は白衣のポケットからあの携帯電話を取り出した。芽留がまた、奥歯を噛み締める。  
だが………耐え難い苦痛を、受けはしたが………命の言葉通り、これで指令は達せられたはずだ。芽留はよろよろ  
と、脱ぎ捨てられた制服のもとへ歩み寄りながら………ようやく悪夢が終わる、という微かな安堵にすがり、どう  
にかその精神を、狂う寸前で保っていた。  
「約束だ、あの映像は削除する。バックアップなんてつまらん真似はしないから、安心してくれ。」  
「………っ………。」  
「とりあえず服を着て、診療所に戻ろうか。傷の手当もしなきゃいけないだろう?」  
芽留にあんな命令を下したとは思えないような台詞を吐きながら、命は、デジタルカメラを白衣のポケットに  
仕舞いこんだ。やがて、制服を着終えた芽留が、命に歩み寄る。少し血で汚れるかも知れないが、今の芽留に、  
そんな些細なことを気にしている余裕は無かった。  
「では、お疲れ様。着いて来たまえ。」  
「………………。」  
事が終わったことに安堵し、まるで抜け殻のようになった芽留は、命の言葉に従い、ふらふらとその背中を追って  
歩き出す。背丈の大きく違う2人の人影が、人気の無いビルの敷地から、去っていった。  
 
「(約束通り………指令を達成したご褒美に、盗撮した『あの映像』は、消してやろう。)」  
その、帰路の途中。ポケットの中のカメラを、弄びながら。  
「(次は………今日撮った『この映像』を消す為の、別の指令を考えなくてはな。)」  
命が心の中で呟いた声は、誰にも聞かれること無く、命の心の内側へと帰っていった。  
 
 
 
(続)  
 
 

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