「いやぁー、まさか、こんなこと頼まれるなんて思いもしなかった………。」  
2人以外には誰も居なくなった教室で、楽しそうにそう言いながら、晴海は、その紙袋を差し出した。  
「素質あるんじゃないかとは思ってたんだけどね。小節さんスタイルも良いし、きっと似合うと思う!」  
「あ………有難う………。」  
「リアル包帯ってのも、結構ポイント高いよ………って、ごめん、こんなこと言っちゃ悪いかな………。」  
「………ううん、気にしないで………。」  
それを受け取って………教室に居たもう1人、あびるは、ぎこちなく微笑む。  
その声の、微妙な震えには気付くことなく………晴海は、思わぬところで見つけた、自分と似た趣味を持つ友人に  
興味津々な様子で質問を投げ掛けた。  
「でも、いきなり路上って結構、冒険だよね。初めてなんでしょ、今回?」  
「あ、いや………その………。」  
「イベントとかコスパとか、行ったことないんでしょ?急に、そんなにいろんな人に見られて大丈夫?」  
晴海にそう問われて、あびるはほんの少しだけ狼狽えた。が………その脳裏に、すぐに、事前に聞かされていた  
模範的な返答が浮かぶ。あびるは、それを自分に授けた人間の顔を思い出し、嫌悪感を感じながらも………それを  
表に出すことはせずに、晴海の質問に答える。  
「そ、の………あの………。」  
「ん?」  
「………彼氏が、ね………そういう、人で………。」  
「………………へっ?」  
あびるの言葉の後、たっぷり間を置いて、晴海は素っ頓狂な声を上げた。  
「え、彼氏、って………え?それって、あの、まさか………先生、の、こと………?」  
晴海の、その勘違いに気付き、あびるは慌てて首を横に振る。  
「ち、違うの!先生のことは………あれは、その、ちょっとした、誤解、っていうか………。」  
「え………あ、ああ!ビックリした、私てっきり、もう先生とそういう関係になってるのかと………。」  
どもりながら弁解するあびるの言葉を聞いて、晴海は、心底安堵したような声でそう言った。  
「明日からどんな顔して千里に会えばいいんだろう、とか本気で考えちゃった………いやいやいや………。」  
「そういうのじゃ、なくて、その………別の、人………。」  
「そうだったんだ。私ずっと、小節さんって先生のこと好きなんだとばっかり………へぇ、そうかぁ………。」  
「うん、だから、先生のことは………私、なんとも………。」  
押し潰されたような、搾り出すような声で、あびるは………用意された言葉で、そう、嘘を吐いた。  
その様子に一抹の違和感を感じながらも、それ以上その話に突っ込もうとはせず………晴海はまた、明るい声で  
さきほどまでの話を続け始める。  
「まぁ、とりあえず。経験者が付いててくれるなら、たぶん大丈夫よね。」  
「う、うん………そう、ね………。」  
「とにかく、もう、とびっきり萌えるの選んどいたから!コスプレデビュー、頑張ってね!」  
ビッ、と親指を立てて、新たな仲間の門出を心から応援して。晴海は、どこか上機嫌な様子で、教室を後にした。  
その背中を、見送ってから………あびるは深い溜息を吐き、ゆっくりとした動作で、歩き出す。  
そして、あびるが晴海に続いて、教室から廊下へ踏み出そうとしたそのとき………あびるの携帯が、震え始めた。  
 
 
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「………そうか、ちゃんと調達できたなら良かった。」  
診療所の机に向かいながら、命は手にした携帯に向かってそう言った。その電話は、あびるの持つ携帯に繋がって  
いるが、その声は電話をしている命以外には聞こえていない。  
「じゃぁ早速、次の休みにでも………落ち合う場所は、追って連絡しよう。」  
どこか事務的な声で言いながら、命は手元のカルテにペンを走らせ、院長としての仕事を片付けていく。  
「………皮肉のつもりかな?生憎、私はそういう嗜好には疎くてね。」  
電話越しのあびるに何を言われたのか、命は不意に、乾いた嘲笑を漏らした。  
「とにかく、今後の指示を待って貰おう。逆らうという選択肢が無いことは………そうか。なら、良し。」  
最後にそう言って、あびるが短く返答するのを聞いてから………命は、手にした携帯をぱたりと2つに折り畳んだ。  
ランプが数秒間点滅し、やがて、それは沈黙する。  
命は1度、背もたれに身を預けて天井を仰ぎ………その口元を、怪しく歪ませた。  
 
 
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その数日後、あびるの携帯に、あの日予告された命からの指示が届き。  
更に、その数日後の………とある、週末。  
「………ふむ。実際眼にしてみると、なかなか、悪くないな………。」  
「………ッ………。」  
しがらみ町を遠く離れた街の、いくつかの路線が交わる駅の近く、他では余り見られない格好の人間が行き交う、  
大きな通りに程近いとあるビジネスホテルの一室で。命とあびるは、いつか診療所で出会ったときと………命が、  
倫に命じて密かに撮影させたあびるのあられもない姿の写真を手に脅しを掛けたときと同じように、正面から向き  
合っていた。  
命の平然とした表情、あびるの悔しげな表情も、2人の力関係も、そのまま。あの日と違うのは、舞台と………  
あびるの着ている、衣装だけだろうか。  
「そう、邪険にするなよ………慣れれば、楽しいんじゃないのか?そういう趣味も。」  
そう言って、短く笑った命の眼の前で………あびるは、命の指示のもと、晴海に嘘を吐いて調達したその衣装に、  
身を包んでいた。  
露出度の高い、ほとんどパレオ付きのセパレートの水着と変わらない構造の、黒いエナメルの衣装。膝まである  
長いソックスに、肘まである手袋。その裾はことごとく、白いフリルで綺麗に装飾されている。更にオプションと  
して、ハイヒールと、黒い猫耳を象ったカチューシャと、赤い首輪と………スカートの中から生えた、尻尾。  
完全に、この街のディープな住人にしか見えないような、大胆かつマニアックなコスチュームプレイ。普段から  
巻いている包帯も、貼っている湿布も、今は衣装に付属するオプションの1つにしか見えなかった。  
そして、更に………外部からは、見えない部分。あびる本人と、それを仕掛けた命だけが知るオプションがある。  
命はベッド脇に置かれた椅子に腰掛けながら、しばしまじまじと、どことなく恥ずかしげな様子で佇むあびるの  
姿を鑑賞した後………そのポケットから、2つのリモコンを取り出す。  
「さて、こっちはちゃんと動くかな?」  
「あ………っ………!?」  
あびるがその動作に気付き、身の危険を感じるよりも早く………命の指が、そのスイッチをスライドさせた。瞬間、  
その身体がビクリと震え、表情が歪む。  
見ると………その、それほど短くは無いスカートの中から生えて、針金に支えられ外側にカールしている作り物の  
尻尾が、微妙に、揺れ動き始めていた。  
「ッ………っ、ぅ………っ!」  
必死で声を押し殺しながら、あびるは………その尻尾が取り付けられた先で蠢く機械の刺激に、耐え続ける。  
尻の穴に埋められた、動物の尻尾を模した装飾が施されたバイブは、命の手元にあるリモコンからの信号を受けて、  
ぐねぐねとその身をくねらせ続けた。  
「………っ、ふ、ぅ………ッ、ッッ………!!」  
「………よし。正常に、動いているみたいだね。」  
あびるがよろよろと壁に身を預けた所で、命は手元のリモコンのスイッチを切った。未だその余韻に苛まれながら  
も、あびるは、直腸からの刺激が止んだことに安堵し、震える喉で深い息を吐く。  
その表情を見て、命は唇の端を微妙に吊り上げながら、さきほど取り出した別のリモコンに手をやる。  
「………前の方も、試してみるか?」  
「や………ッ………!?」  
その、尻とは別に秘裂にも沈められたバイブのリモコンを自分の下腹部に向ける命の姿に、あびるは声を詰まらせ  
身体を硬直させた。今そんなことをされたら、耐えられない………その予感が、あびるを戦慄させる。  
 
だが。命は、まるでその様子を見ただけで満足してしまったかのように、薄ら笑いを浮かべながらそのリモコンを  
手放した。あびるの身体を支配する2つのリモコンが、白衣のポケットに収められる。  
「ははは………軽い、冗談だよ。」  
「………っ………!」  
思わず、あびるの腰が砕ける。壁によりかかったまま、ずるずると崩れ落ちるようにその場にへたり込む。  
命は椅子から立ち上がり、それを足元に見下ろす位置まで歩み寄って………その頭に、手を置いた。  
「………本番は、これからだ。あとは………外で、たっぷり楽しませて貰うよ。」  
本当に、まるで飼い猫の頭を撫でるような優しい手つきでその美しい黒髪を撫でながら………その様とは対照的に、  
獰猛そうな笑みを浮かべて。  
「あとは、その上からコートを着て外に出るだけだ。ほら、立て。」  
「………ぁ、ぅ………。」  
呻くあびるの腕を乱暴に引っ張って、立ち上がらせた。  
 
 
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街は、人で溢れかえっていた。  
歩行者天国となった道路には、普通の街中では決して見られないような、様々な格好をした人間が行き交っている。  
水着のような衣装を着た人、着物を来て模造刀を腰にぶら下げた人、西洋の騎士のような鎧を着込んだ人、飾りの  
ついた学生服を着た人、男装した女性、女装した男性。そして、そうした趣味に興じる人間を目当てとして集まり、  
手にしたカメラで写真を撮る人の群れ。  
そんな、混沌とした人混みの中、本来は車道であるはずの場所に、あびるは立っていた。  
カチューシャを外し、コートを着ていた時はほとんど見向きもされなかったが………ひとたびそれを脱ぎ捨て、懐  
に忍ばせていた黒い猫耳を頭に乗せると、その周囲はあっという間に、ドーナツ型の黒山の人集りと化した。  
「きゃー、スタイル良いですね!」  
「うわ、滅茶苦茶可愛いじゃん………何?アイドルの販促イベントかなんか?」  
「やべぇ、リアル包帯娘とか超萌える!」  
「見て見て、あの尻尾本物みたいじゃない!?」  
取り囲んだ人々が、口々にあびるの姿を賞賛する声が聞こえる。その中心で、逃げ場の無い状況に追い込まれつつ、  
あびるはその人々に控えめな笑顔を返していた。本当は、こんな格好で、しかも人知れず2本もバイブを咥え込んだ  
まま衆人環視の元に放り出されるなど、恥ずかしくて気が狂いそうな想いだったが………今のあびるに、命の命令  
に逆らうという選択肢は用意されていない。  
幸い、周囲の興奮状態と喧騒、そして本来のあびるを知る者が誰も居ない状況のおかげで、誰もあびるの異変には  
気付いていないらしい。せめて、誰にも気付かれぬよう、少しでも自然にやり過ごさなければ………あびるは心の  
中でそう決意し、必死で、その羞恥心に耐え続けた。  
「これ、手作りですか?衣装も、小物も。」  
「えっと、あの………と、友達に用意して貰って………。」  
「お友達もレイヤーさんなんですね、今日は一緒なんですか?」  
「あ、いえ、今日は、私1人で………はい………。」  
時折投げ掛けられる質問にも、当たり障りの無い答えを返していく。何事も無く過ぎていく時間が、やがて、その  
脳裏に『もしかするとこのまま無事に事を終えられるのではないか?』という一縷の望みを過ぎらせる。  
………だが。命の毒牙に掛かったあびるに………そんな結果が、用意されているはずもない。  
同じ人混みの中、誰にも知られない場所で………誰の耳にも届かない、カチ、というごく小さな音が響く。  
「………は、ッ………!?」  
瞬間、あびるは一瞬で背筋を突き抜けたその衝撃に、背中を逸らせ息を詰まらせた。  
秘裂に埋められ、抜け落ちないようにエナメルの衣装に支えられたバイブが、振動しながら身を捩じらせ始める。  
普通なら眼の届かない、しかし、仮に身を屈めて覗き込めば簡単に視認できてしまう、スカートの中では………脚  
の間から生え、その衣装の底部を歪に盛り上げているバイブの尾部が、厭らしくうねっていた。仮に、ここが静寂  
に包まれた場所だったなら、そのモーター音もしっかりと聞こえているはずだ。  
 
「(………〜〜〜ッッッ!!!)」  
数多の視線を一身に受けながら、自分は………淫具に秘所を蹂躙され、身体を反応させている。  
誰にも気付かれずとも、あびる自身が1番よく、激しく体感しているその事実が、あびるの顔を火照らせていく。  
あびるは必死で顔を上げ、自分を取り巻く人混みの中に命の姿を探した。リモコンの電波が届く以上、近い場所に  
潜んでいるはずなのだが、身を屈めて隠れているのか、その姿は見当たらない。  
「いつも、イベントとかでコスプレしてらっしゃるんですか………?」  
「っ、え………あ、その、いえ………普段はあんまり………っ、くぅ!?」  
それでも、事情を知らない人間から容赦なく投げ掛けられる質問に答えている最中に、バイブがその振動を強める。  
腰から背筋に掛けてが震え上がるような感覚に、思わず声を上げてしまう。質問をしていた女性がとうとう、おや、  
とその異変に気付いたような表情を見せた。  
「あれ………どうか、しました?」  
「あ、その………だ、大丈夫です。ちょっと………立ち眩みが………。」  
秘裂の中で暴れるその刺激に必死で耐えながら、あびるはなんとか平静を保ちそう弁解した。引き攣った笑みを  
浮かべるあびるの様子に、女性は首を傾げながらも………それ以上追求することは、なかった。  
思わず股間を抑えそうになった手を必死で押し留めて、あびるは、少しだけ前かがみになった身体を、無理矢理に  
しゃんと伸ばす。力を入れればバイブが締め上げられて刺激が強まるし、力を抜けば中が無防備になる………その  
ジレンマに苛まれつつ、しばし必死で笑顔を作っていると………不意に、バイブの動きが止んだ。  
「あのー………すいません、ポーズとかって、取って貰ってもいいですか?」  
そして。ひとまずほっと胸を撫で下ろしている所に、カメラを持った男性の1人から声が掛かる。  
「あ………は、はい、いいですよ………。」  
あびるは………こうした要求を事前に予想した命から言われていた通りに、その言葉に応じた。  
「じゃぁ、こう………膝に手を付いて、前屈みで、腰を突き出す感じで………。」  
「あ、じゃぁ、次オレ良いですか?」  
「僕、敷く物持ってきたんですけど、四つん這いのポーズとか撮らせてくれませんか!?」  
最初の1人を皮切りに、次々とポーズの要求が寄せられる。その勢いに気圧されつつも、あびるはまず最初の要求  
に応えるため、その言葉通り膝に手を付き、前屈みになって腰を突き出す。上目遣いにカメラを見上げると、その  
方向に居た取り巻きの中から、おお、と歓声が沸き起こった。  
立て続けに、フラッシュが焚かれる。思えば自分は、バイブに責められ続けた直後の表情を、こんなに大勢の人間  
に撮影されているのか………その事実に気付き、あびるは頭の中が焼けてしまいそうな程の羞恥心に襲われた。  
余りに非日常的な状況に、やがて、ぼう、とぼやけ始めた意識の中。あびるは、もはや物事を深く考えることの  
できない頭で、数々の要求を機械的にこなしていく。  
そして………カメラを持っていた男性の1人が差し出した、怖ろしく嵩張ったであろう畳1枚程の大きさのマット  
の上で、求められた通り、脚を開いて四つん這いになったポーズを披露していた、そのとき。  
「………あ、ふッ………!?」  
その口から、微かな声が漏れた。人々が、再びその声に気付いて首を傾げる中で、あびるは瞬時に我に返り、咳払い  
でなんとかその声を誤魔化そうとする。  
スカートの中では………さきほどとは別の、尻に沈められたバイブが、振動を開始していた。  
「(………ど、どうしよう………気付かれたり、しない………?)」  
あびるが、心の中で誰へとも無く問い掛ける。実際、そのスカートは身体のラインが出やすい少しタイトなもの  
だったが………それなりの長さもあるので、姿勢を低くしているこの状況では、かなり無理をして覗き込まない  
限りその中が見えてしまうことは無い。その点は、あびるの杞憂であった。  
だが………今回は、それとは別に、もう1つの問題点が存在する。  
「あれ………あの尻尾、動いてる………?」  
「ぇ………ッ!?」  
背後でぽつりと呟かれたその言葉に、あびるはぎょっとした。そう、今あびるの尻の穴で蠢いているバイブには、  
外に飛び出した尻尾が直接取り付けられている。つまり………バイブがその身をぐねぐねと動かす度に、その尻尾  
も微妙に揺れ動いてしまうのだ。  
「く………ふ、ぅッ………!?」  
あびるは咄嗟に、四つん這いのまま脚を前後に開き、腰を微妙にくねらせ始めた。周囲の人間が、どよめく。  
 
「うわ………エロいな、あれ………。」  
「清純そうな顔して、結構ノリノリだぜ………?」  
その刺激に腰をひくつかせながら、あびるは、自分を見下ろすように取り囲んだ人々の様子を窺った。その大半は、  
それがあびるの単なるパフォーマンスだと思い、見入ったり、夢中でシャッターを切ったりしているだけだったが  
………その中には、あびるの尻尾を指差しながら隣の人間に耳打ちをしている人間も、数人見受けられた。  
「………っ………ッッ!!」  
それは、そうだろう。スカートの中から生えた尻尾が、少女の微かな呻き声と共に勝手に動き始めたとなれば………  
想像力豊かな人間ならば、その事実に感付いてしまってもおかしくはない。  
蠢き続けるバイブに、尻を犯されながら………あびるは思わず、ポーズを取ることを止めて立ち上がった。  
「(む、無理………もう駄目、これ以上………絶対、バレちゃう………!!)」  
………だが。あびるの、その勝手な振る舞いは………人混みに身を潜め、その身体を支配していた命に、一瞬で、  
最後の決断を下させた。  
「………チッ。」  
誰にも聞かれることのない小さな声で、舌打ちをして………ドーナツ型の中程で、髪型や服装を変えて潜んでいた  
命は、ポケットに忍ばせたリモコンに手を伸ばした。その、スイッチが………共に、最も強い振動を示す値へと、  
何の躊躇も無く切り替えられる。  
その瞬間、あびるの身体を襲った強烈な衝撃は………それを取り巻く全ての人間に異変を感付かせるほど激しく、  
あびるの全身を震わせた。  
「か………は、あぁッ………ッッッ!!?」  
それまで恥ずかしげに顔を伏せて佇んでいたあびるが………何かに弾かれたかのように突然、ビクリと腰を引き、  
顎を逸らせ、歯を食い縛って眼を見開く。その手が、意識に静止されるよりも先に、その股間を抑え付ける。  
あびるの中で、2本のバイブが悪魔の様に激しく蠢き、その秘所と尻を容赦なく蹂躙していく。肉壁1枚を隔てて  
硬いバイブが擦れ合い、その余りの衝撃に、全てを忘れて絶叫してしまいそうになる。  
「あ、あ………ひ、ぃ、うぁ………あ、ッ!?」  
思わず股間を抑えてしまった手が、今度はその口を塞ぐ。だがそれでも、腹の底から湧き上がる甲高い悲鳴は、  
断片となってその隙間から漏れ出してしまう。  
やがて、あびるは………内腿を伝う生温い粘液の感触を察し、その震える脚を閉じる。だが、必死でその流れを  
塞き止めようとしても、溢れる愛液は留まることを知らず、やがて、ソックスを飾るシルクを濡らし始めた。  
「ね、ねぇ………大丈夫なの、あれ?」  
「つーか、あれ………まさか、何か入ってんじゃないか………?」  
「は、はは………いやいやいや、お前それ、エロゲーやり過ぎだって。」  
「おい、見ろよあれ………絶対、太股のトコ濡れてるって。」  
「うわ………マジかよ。これ、どっかでAVの撮影でもやってんじゃねぇの………?」  
その状況で、誰もその事実に気付かない、などということがあるはずがない。数人が、十数人が、そして数十人が、  
あびるが身体にそれらしき物を仕込んでいることに気付き始める。どよめきが、大きくなる。  
そして。あびるの身体が遂に、衆人環視の中で、ぺたり、と崩れ落ちて………。  
「ひ、ぅ………だ、駄目………あ、あ、あぁぁ………〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!?」  
前後の穴から容赦なく送り込まれる、刺激が………その身体を、果てさせてしまった。  
内股でマットの上にへたり込み、両手で口を塞いだまま俯いて、あびるはその細い肩をビクビクと震わせる。目尻  
に涙が浮き、下腹部から際限なく湧き上がる熱が、耳の先までを真っ赤に火照らせていく。  
「(う、うそ………わ、わたっ………私、こんな………!?)」  
白い光が明滅するような錯覚の中。数秒前に果てたばかりの身体を、なおもしつこく蠢くバイブに責められながら。  
「(こ、こんな、所で………皆の、眼の前で、い………イっちゃった………!!?)」  
あびるは、自分が置かれたその状況に………心の底から、絶望していた。  
ざわざわという雑音が、あびるを包み込む。もはや、その言葉の1つ1つを聞き分けるほどの余裕など、あびるに  
は残されていない。  
 
そして………これが悪い夢なら、今すぐに覚めて欲しい、と願うあびるの背中に。それが現実であることを痛感  
させるように、顔も知らない誰かの声が、掛けられる。  
「あ、あの………大丈夫、ですか………?」  
その言葉にも、振り返ることが出来ず………あびるはただ、震えながら、この先の自らの破滅を思い描いて、背筋  
を凍らせていた。  
 
………だが。  
「はい、退いて退いて退いて!危ないよ!!」  
永遠に続くかと思われた、その地獄のような状況を………怒号のように響くその声が、打ち破った。  
頭の上で聞こえたその声に、あびるが泣き濡れた顔を上げる。すると………周囲を取り囲む人込みを、文字通り  
掻き分けるようにしながら、数人の男達が猛然と自分に迫って来るのが見えた。  
「ぇ、ぁ………っ………?」  
そして。突如現れたその男達の中の1人が、何の説明も前触れも無く、突然、崩れ落ちたまま震えていたあびるの  
身体を抱きかかえた。そのまま、さきほど割って入った際に出来た人混みの隙間を縫うようにして、あっという間  
にあびるをその人集りから連れ出し、すぐ近くの路地へと逃げ込むように走っていく。  
人々が唖然として見守る中………嵐のようにやって来たその男達とあびるは、ものの10秒ほどで、人々の前から  
その姿を消してしまっていた。  
「な………何だぁ、今の………?」  
「救護の人?それとも、アイドルの事務所の人とか?」  
「あれ、さっきの娘どこ?っていうか………今、何があったの?」  
どよめきが、より一層その大きさを増した。  
 
人々が、余りに突然やって来た、答えの解からぬその疑問に首を傾げる中。  
その場には、混乱する大勢の人間と………真新しいシミの付いたマットだけが、残された。  
 
 
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がくがくと、首がぐらつくのに合わせて揺れる視界の中。映る景色が、目まぐるしく移り変わっていき。  
やがて、その視界が急に暗くなった所で………あびるはようやく、我に返った。  
未だ身体を去らない余韻が、全身をピクピクと痙攣させる。そんな中、あびるはゆっくりと、スローモーションの  
ように首を巡らせる。そこはどうやら、後部座席を全て平らに倒されたワゴン車の中らしく………傍らでは、あびる  
を抱きかかえてここまで走ってきた男が、その顔を見下ろしていた。  
「やぁ、初めましてあびるちゃん。」  
見知らぬその男は、そう挨拶をしてあびるに微笑んだ。ぼんやりと霞掛かったような意識の中で、あびるは曖昧な  
記憶を手繰り………全てが終わった、と想い絶望していた自分が、その男の手によってあの人混みの中から連れ  
出されたのだ、ということを思い出す。  
「………ぁ………ぅ、ぁ………ッ?」  
「はは………かなり、参ってるみたいだね。」  
あびるは、眼の前の男に何かを問い掛けようとするが………喉から、上手く声が出てこない。  
 
が、しかし。  
あびるが、尋ねるまでもなく………その男はすぐに、自ら、その正体を明かした。  
「大変だっただろう………あの先生に、眼をつけられたんじゃ。」  
「え………っ………!?」  
先生、というフレーズに、あびるが半開きになっていた眼を見開く。  
 
そう言って、人当たりの良さそうな笑みを浮かべながらも………男はその瞳を、命と同じように獰猛に輝かせた。  
その瞬間、あびるは、眼の前の男が命の息が掛かった人間であることを察する。あの状況から救い出されたとき  
に、痺れるような意識の中で感じた微かな安堵が、更なる絶望に上書きされていく。  
 
「どれ………まだ、入ってるんだろ?見せてくれよ。」  
「ひ、ぁ………や、嫌ぁっ………!?」  
全てを理解し、恐怖によって薄れ掛けた意識を覚醒させられたあびるが拒絶するのも、無視して。男は、その脚  
の間に割り込み、あびるの膝を掴んで強引に押し開く。未だに振動を続けるバイブを咥え込んだ下半身が、その  
眼の前に晒される。  
「うわ、ホントにこんなの入ってるんだ………これで、よく人前になんか出られたね?」  
今の今まで、それを感じる余裕も無く、存在すら忘れかけていたが………それがまだ自分の身体に刺さっている  
ことを意識すると、途端に、下腹部を襲う振動の気配が大きくなるような錯覚に陥る。  
再び自分の身を襲い始めた感覚の波に、あびるはまた、その火照った身体を震わせた。  
「や、止めっ………見ない、でぇ………!!」  
「そんなこと言って、ホントは、あびるちゃんも感じてるんだろう?こんなに、ドロドロにしちゃってさ。」  
「ひ、ああッ!?だ、駄目っ、う、動かしちゃ駄目ぇ!!」  
バイブの尾部を摘んでランダムに角度を付けながら、男は、振動に犯され続けこれ以上無いほど高まった秘所を  
抉られるあびるの反応を楽しんだ。些細な動きにも従順に反応し、あびるはまた、2度、3度と絶頂を迎える。  
脚の筋肉が引き攣り、背中が反り返る。  
男が強引に、胸を隠すその衣装を捲り上げると………その下に隠された白い乳房の先端は、赤く隆起して微かに  
わなないていた。男はなんの躊躇いも無く、その先端を口に含み、ころころと転がす。  
「は、ひぃッ!?だ、駄目っ、あッ、やぁッ、止めて………く、ふぅっ!?」  
「本当に、キレーな身体してるなぁ………顔も声も可愛いし、おまけにやらしいし。言うことナシだね。」  
「や、ち、違っ………私、や、やらしく、なんか………あ、あうッ!!」  
「あんな大勢の前でバイブ咥えて悦んでる娘が、やらしくないハズ無いだろう?」  
せせら笑うような男の言葉に………あびるは、それ以上反論することが出来なかった。あんな状況でも、その身体  
が確かに快楽を感じてしまっていた、という事実は、あびる自身が1番良く解かっていた。  
「………ぁ、ぅ………ひぐ………。」  
そして。振動と男の手と言葉によって、身も心も容赦なく蹂躙されたあびるが、嗚咽を漏らし始めたそのとき。  
「………おい、センセーから、朗報だぜ。」  
眼の前の男とは別の声が、あびるの耳に届く。男とあびるが同時に、声のした方に視線を向ける。運転席に座って  
いた、ニット帽を被った別の男は………手にした携帯電話をパタリと畳んで、振り返った。  
「………そいつ、センセーに言われたルール破ったんだとよ。」  
「え………マジで?」  
「ああ。カメラ小僧共には従えって言われてたのに………勝手に、ポーズ取るの止めたらしいぜ。」  
あびるを無視するように、あびるを弄んでいる男だけに向けて、半笑いでそう言ってから………ニット帽の男は、  
その鋭い視線をあびるに注ぐ。あびるが、まるで射竦められたように、か細い声を上げて身体を強張らせる。  
「つまり………こっからは、俺達の仕事だ。」  
「いやぁ………そうか。そりゃぁ、良かった………。」  
自分の脚の間で、男が心底嬉しそうにそう言ったその声を聞き………あびるは本能的に、ぞわ、と身の毛のよだつ  
ような気配を感じ取っていた。男が、相変わらず見た目だけは人当たりの良さそうな笑みを浮かべる。  
「まぁ、もう解かってると思うけど………ボク達は、糸色命先生に言われて、ここにやって来たんだ。」  
そして、男が状況を説明し始める。  
「君が限界になったら、あそこから助け出すように、って言われて来た。」  
「………は、ぅ………っ………?」  
「もし警察沙汰にでもなったら、マズい。だから、事が大きくなる前に、全部うやむやにする為に、ね。」  
あびるはそこまで聞いて、命の意図を理解した。つまり、こうして助け出したのも、やはりあびるの為などでは  
なく………全ては、自分の為の計画だった、ということか。  
「そして………もう1つ。ボク達には、命先生から任せられてる仕事があるんだ。」  
あびるの眼の前に人差し指を突きつけながら、男は続ける。  
「それはね………君が、今回みたいに、先生の言いつけを守らなかった場合に………。」  
「………ぅ、ぇ………?」  
「君に………厳しい、お仕置きをする、っていう仕事なんだ。」  
「………え………っ………!?」  
お仕置き、という言葉に、あびるはまたその身体を強張らせた。  
 
あんな鬼畜な命令を、平然と申し渡せるような外道の手先………そんな人間達の手による仕置きなら、それは絶対  
に生半可なものではないだろう。それまでの体験に基づく、あびるのその直感は………残酷なことに、すぐに的中  
してしまうこととなる。  
「いやいや………本当に、先生の命令に背いてくれて有難う。」  
男はそう言って、ニット帽子の男に目配せする。ニット帽の男は何も言わずに、隣の助手席に腕を伸ばし………  
そこに乗せられていたダンボール箱を、椅子越しに後ろに寄越す。  
男は、怯えきったあびるの顔を見下ろしながら、その箱の淵に手を掛けて………。  
「君が、ルール違反をしてくれたお陰で、ボク達はこうして………。」  
蓋の無いその箱を、引き倒した。ガチャリ、と金属音がして、その中身が平らにならされた座席の上に散乱する。  
「ひ、ッ………ッッッ!!?」  
そこから転げ出した、数々の道具を見て………あびるの顔から、血の気が引く。  
「君みたいに可愛い、コスプレ少女に………好き放題に、お仕置きできるんだからね。」  
そこに収められていたのは………突起だらけの凶悪な造形のバイブや、手錠や目隠し、電気コードが繋がった金属の  
洗濯ばさみに、正体不明の薬品が入った瓶など。その半分以上が、あびるにとっては使用法すら解からない正体不明  
の器具だったが………その中に混じった、見覚えのある形状の道具を見れば、それらが全て自分の身体を蹂躙する  
為の道具だということは、容易に想像ができた。  
「端から、全部試してあげるよ。たっぷり、時間を掛けてね。」  
男はそう言いながらあびるの秘裂を覆う衣装を脱がせ、そこに埋まっている2本のバイブを抜き取る。箱に入って  
いたものと比べれば可愛い形をしたそれを無造作に放り投げた男の手が………大きさも形状もそれとは比べ物に  
ならない程に凶悪な別のバイブを、手にする。  
「い、いや、あ、ぁ………そ、そんなっ………そんなの、絶対、無理………ッッッ!!」  
「………思いっきり、鳴いていいよ。このワゴン、防音仕様に改造してあるからね。」  
男はそう言って、微笑んで………次の瞬間、手にしたそれを、強引にあびるの秘裂に捻じ込んだ。  
それまでとは比べ物にならない衝撃が、あびるの身体を突き抜ける。その喉から、生まれて初めて発するような、  
断末魔にも似た悲鳴が上がる。  
 
狂気の宴の、第二幕が………人々が行き交う街の片隅で、ひっそりと、幕を開ける。  
 
 
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時間は、ほんの数分巻き戻って。  
「………撮影した映像の方も、後で持ってきてくれ………いや、私は、今日の所は帰るとするよ。」  
ワゴン者の運転席に居た男との通話を終えて。完璧な変装に身を包んだ命は、もうあの場所を後にしていた。  
「今後の交渉の為にも、きっちり鮮明に頼むよ………うむ。あとは任せた、それじゃぁ………。」  
会話を終え、通話を切って、携帯電話を畳んでポケットに仕舞う。そのまま、何食わぬ顔で、あのビジネスホテル  
へと向かう。その男が、自分が見込んだ残虐な性格を持つ2人の手駒によって、弟の教え子がどんな悲惨な陵辱を  
受けるのかを想像し、心の中でほくそ笑みながら歩いていることなど………街行く人間達には、知る由も無い。  
「(ほんの少しでも逆らったら、何十倍ものしっぺ返しが来る。それを、身体で覚えこませてやらなければな。)」  
やがて、ホテルに辿り着く。応対するフロントの人間も、命の本性には全く気付かない。  
 
「(まぁ………愛する糸色先生の顔でも思い浮かべて、せいぜい必死で耐えるがいいさ………。)」  
誰にも知られず、気付かれず、怪しまれず………命の残虐な娯楽は、安全に、続いていく。  
 
 
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パソコンの前で、コーヒーを飲みながら………晴海は、そのスレッドのタイトルを眺めていた。  
「へぇ………そういえば、小節さんも確か今日行ってたはずだけど………。」  
とある大きな掲示板で話題となった、秘部に淫具を忍ばせたまま路上撮影会を決行したという、正体に関する一切の  
上方が不明のコスプレ少女。晴海は、その詳細に少しだけ興味をそそられつつも………。  
「………って、それどころじゃないや。原稿、原稿っと………。」  
すぐにその画面を閉じて、自分のすべき作業へと戻っていった。  
その少女は結局、正体不明のまま………程無くして、その存在を多くの人間から忘れ去られていった。  
 
 
(続)  
 

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