『認容の家』  
 
 気が重い。  
いつもより早い最後の授業が終わった。  
これから、問題のある生徒とその親御さんと、  
話し合いが始まる。  
そう…今日から三者懇談。  
 
 2−への担任教師。糸色望は、今一度  
手元のプリントに目を通した。  
 生徒の成績のこと、学校での性格、その他諸々…。  
一通り、何を話すかは考えているが、  
生徒やその親に、何を言われるかわからない。  
そのときに、どう対処していけばいいのだろうか。  
ともかく、平然とこなしていかなければならない。  
 
 その1『風浦可符香』  
 
 「はい。カフカさん。入ってください」  
 「はーい! 先生」  
 
 元気よく少女が、続いて彼女の母親が教室に入る。  
 
 「えーと…ですね。カフカさんは、友達は多いです。ええ。  
  でも…ちょっと、なんといいますか…。夢見がちというか、  
  電…他人と変わった発言をねえ」  
 「私、変わった発言なんて!」  
 「してますよ。たとえば、ポロロッカ星人が、どうとか…」  
 「ポロロッカ星人を悪く言わないでください! 先生」  
 「こら! カフカ」  
 母親がカフカを窘める。というより、何で親までペンネームで?  
 
 「いつも、発言には気をつけなさいって、言っているでしょ」  
 「でも母さん…」  
 「そんなこと言って、クラスの中の闇の暗殺者が、  
  ポロロッカ星の王子様の命を狙ったら、どうするの!」  
   
 「…はい?」  
 望は目を丸くした。この子にしてこの親ありだ。   
 「うちのクラスに、そんな悪い人はいないよ…」  
 「とにかく、私がポロロッカ星までテレパシーで、お詫びしておくから。  
  ごめんなさいねぇ。先生」  
 
 「いえ。お気になさらず…」  
とっとと帰ってくれ! 二人とも。  
 
 
 『常月まとい』  
 
 「入ってください」  
 「もう、いますよ」  
 望の左後ろから、彼女の気配。  
 
 「いたんですか…」  
 「ええ、ずっと」  
 「お母さんは?」  
 「どうも、娘がお世話になってます」  
 右後ろから、母親の声。   
 
 「いたんですか?」  
 「ええ、ずっと」  
 
 
 
 初日だというのに、疲労困憊だ。  
臼井君は来なくて、結局二者懇談になったし、  
倫の場合は、家族会議になってしまった。  
 しかし、今日の所、残すはあと、一人。  
望はプリントを眺めた。  
 
   
 17:00〜17:20  
   
 『小森 霧』  
 
小森霧。彼女との最初の出会いは、彼女の家だった。  
あのときのことは、今も覚えている。  
何故なら…久しぶりの一目ぼれだったから…。  
 
 「先生…」  
 二人が椅子に腰掛けて、最初に言葉を発したのは、  
霧の母親だった。  
 「この子を…霧を返してください!」  
母親の痩せた頬。霧が去ったことによる被害。  
全座連の力を恐ろしく認識させられる。  
 「まあ、落ち着いて、落ちついて…」  
 「霧が帰ってから、悪いことが立て続けに起こったのです」  
 「あの、私が…彼女を閉じ込めているわけではなく、  
  彼女の意思で、宿…いや学校にいるのです。ですから…」  
望は、必死で弁解した。異性の教師と生徒が同居するというのは、  
本来ありえないことだ。ただ、それ以上に問題のある生徒たちに  
よって、些細なことに感じるだけで。  
   
 「確かに、霧をこのような性格にしたのは、親の責任です。  
  でも、先生…。あなたが正しき方向に導いて、普通の生徒と  
  同じように、登下校させてください」  
 「おかあさん…」  
 霧が申し訳なさそうに、母親を見上げる。  
 「私、先生の傍にいたい」  
 「いけませんよ。小森さん。そんな理由で、下校しないなんて…。  
  お母さんの言うとおりです。あなたは…」  
 望は、ここで口を噤んだ。次にくるべき言葉は決まっている。  
『学校に残ってはいけない』『下校しなければならない』  
 しかし、望はそれを言う事を戸惑ってしまった。  
彼女のいない『我が家』を、想像してしまったからだ。  
 
 「あなたは、学校に…残っては…いけません」  
搾り出すように出した声。教師という足枷。ここにきて重く感じる。  
 「先生…」  
 「これからのことは、みんなで詳しく話し合いましょう」  
 何を言っているんだ。私は…。  
 望の本心は違った。  
 
 
 教師だとか、そんなものは知ったことか。  
私は彼女を愛している。他の生徒とは違う。  
恋愛の対象として。  
 ご飯を作ってくれる。掃除をしてくれる。  
だから、いなくなると困る、などという邪な考えは、  
一切持っていない。  
一緒にいたい想いは、望も同じ…いやそれ以上だった。  
 
面談が終わったあと、望と霧は宿直室に戻った。  
その間、一切口を開くことはなく。  
 
 ガタン。戸を閉める。望は、一息いれると霧の両手首を握り締める。  
 「…先生」  
 「離すものか!」  
 望は、いきなり、小さな彼女の体を押し倒す。  
 「違うんです! あんな言葉は!   
  絶対に手放したくないんです!」  
 
 「ああっ…せんせい」  
 「…好きなんです」  
 望は、あえかな彼女の白い首筋に唇を寄せた。  
べろりと、舌を這わせたあと、強く吸い付く。  
彼の両手は、霧の顔を優しくつかみ、長いキスをする。  
 「はあっ」  
 彼女の顔が紅く染まる。  
彼女と慇懃を通じるのは、今までに何回もあった。  
しかし、望がこれほど霧を求めたことはなかった。  
 今までは、稚い彼女の欲求に答えるように、優しくしていた。  
今は違う。望は、彼女と別れたくないという一心で、  
その体を求めていた。  
 
 「小森さん。…どうしますか? ここか…実家か…」  
 この状態で、実家と発言することはできないだろう。  
卑怯者でも臆病者でも構わない。望はそう思った。  
 
 「せ、先生といるよ。いつも…一緒に…」  
 「ですよね。私だって、手放す気はありません」  
 
 「えへっ」  
 霧は艶やかに微笑み、愛しき人に秋波を送る。  
これに望の理性は、いとも容易く崩壊した。  
望は彼女の服と下着を脱がせ、豊満な乳房を揉む。  
 
 「ふああ」  
 「いいですよ。小森さん。もっと、感じてください」  
 彼女の乳房を蹂躙するのは、望の両手だけであったが、  
それに望の舌が加勢された。  
 左側の紅い突起に強く吸い付き、感触を楽しむ。  
 「柔らかい…」  
望は執拗に胸を苛める。人差し指と親指で擦り合わせたり、  
ぎゅっと握ったまま、10秒以上手放さなかったり、  
その感触と乱れる教え子を存分に楽しんだ。  
 
 「ああ、もっとぉ! 先生!」  
 「わかってますよ」  
 望は、自分の服も脱ぎ捨て、さらに激しい行為に及んだのだった。  
 
 あれから、まともに頭は働いていなかったように思える。  
ただ、本能に従う野獣のように、二人は求め合った。  
望にとって、畳の汚れなど、どうでもよかったし、  
一度、箪笥の影に隠れているまといと目があったが、何事もなかったかのように、  
体を重ねていった。  
 
二人は、長い眠りについていた。  
それを打ち破ったのは、交の声だった。  
 「何寝てんだよ…おっさん」  
 半ば呆れたように、交は言葉を吐きかけた。  
 望と霧は何一つ身に纏わないで、抱き合って眠っていたのだった。  
 「そういうのは、子供に悪影響だろ! 俺が知らないところでやれよ!」  
 交は、恥ずかしそうに顔を背けた。裸の霧を直視できないのであろう。  
 「すみません。交…」  
 霧はまだ、眠りについている。  
望は彼女の汗を拭き、服を着せてあげた。  
そして、彼女を優しく持ち上げると、布団まで運んだ。  
 
 次の日 三者懇談二日目  
 
 「…大変な目にあった」  
   
 始業の礼が行えない芽留に、日直を任せることができない。  
そういっただけで、芽瑠は泣き出してしまった。  
母親が宥める前に、『メルメルを泣かせたな!』と父親が乱入。  
4者懇談となってしまった。   
 
   
 とぼとぼと、宿直室に足を運ぶ望を呼び止めたのはカフカだった。  
   
 「せんせーい」  
 「おや、どうしました? カフカさん」  
 「職員室に行ってください。お客様ですよ」  
 
 いったい誰からだろう。また問題がひとつ増えるのか?  
 
 「どちらさまで?」  
 「小森ちゃんのお母さん!」  
 「すぐに行きます!」  
 
 望は目の色を変え、走り出した。  
 
 
 「霧をお願いします」  
 「はい?」  
 「ですから…霧をお願いします」  
 
 彼女の母親の、昨日とは掌を返した発言。  
うれしいと感じる前に疑問に思う。  
 
 「どうしてですか? 昨日はあれだけ…」  
 「ここの生徒さんが、これをくれたのです」  
 彼女は、ポケットからお守りのようなものを取り出した。  
『全座連』と書かれている。  
 
 「これを持っていると、座敷童子が家にいると、  
  同じ効果があるというのです」  
 
 望は言葉もでなかった。母親は続ける。  
 「でも、条件があるのです。その条件は…あの子が、  
  幸せを感じているということ。それで…  
  聞いたのです。『一番幸せなことって何?』って…」  
 母親は、ここで話すのをやめた。止めざるを得なかった。  
涙で、声がでなかったのだから。  
 
 「おかあさん」  
 望は、彼女の手を握る。   
 「認めていただけるのでしたら…誓います。  
  彼女の居場所が、私の傍であるというのなら…」  
   
 決断を迫られていたのは、望だけではなかった。  
この人も、わが子の離別と幸福とのダブルバインドに悩んでいたのだった。  
そして、決断を下したのだった。  
 
 「絶対に、幸せにします」  
 
 
   
 そういえば、あのお守りは誰が?  
 
 望は不思議に思った。こうもタイミングよく、  
誰が、あんな法螺を吹いたのだろうか。  
 小森さんの母親に聞こうと思ったが、止めといた。  
全座連など存在するわけがなく、そんな電波なことを言っているのは、  
たった一人しかいないのだから。  
 
 
次の日 三者懇談三日目  
 
 「…ではお母さんも、お忙しいところ  
  ありがとうございました」  
 「先生! あと、2分30秒残ってます。  
  きっちり20分やってください!」  
 「まあまあ、もう、終わりでいいじゃないですか」  
 「いけません! 先生! そんな早く終わりたいみたいな…」  
 
 「そのとおりです。あ、いえいえ、そんなことしてる間に終わりの時間ですね」  
望は、にっこりと笑った。  
 
 
 「ただいま!」  
 「お帰りー!」  
 
 これが私の家です。  
 
   
 「小森さん。今日は何にします?」  
 「うーん。押入れ」  
 「押入れプレイですか、いいですよ」  
 
 望は、霧に軽く口付けを落とすと、彼女を抱きかかえ、  
押入れへと向かった。  
   
 
           END  
 

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