『あれは漫画のまやかしだというのに、だまされやすいお馬鹿さん。  
  あの女は、誰を見てもホモのように見える女なんですよ』  
 
 
 「あんたのことなんて、なんとも思っていないんだからね!」  
 制服の上からTシャツを着た男に背を向けて、少女は走り去った。  
   
 「加賀さん。なんて愛しいんだ!」  
 男はぽつりとつぶやいた。  
 
 「あいつ、よくやるよな」  
 
 それを冷ややかに見下ろす美少年が一人。  
彼の名前は久藤准。放課後、この図書室から、友人である  
木野の情けない姿を見つめていた。  
 
 木野は久藤をライバル視していた。それが、いつの間にか、  
あの少女にくびったけである。もう自分と張り合う気はないみたいだ。  
 
 「木野…お前はもう、僕はどうでもいいのか…」  
 今までは、迷惑に思っていたが、ないとそれは、少しばかり寂しいものだ。  
 
 「え?」  
 
 物思いに耽る久藤の肩を、誰かが掴んだ。  
彼が振り返ると、同じクラスの生徒がいた。  
 
 「藤吉さん。どうしたの?」  
 
 メガネをかけた少女。藤吉はにゃまりと笑みを浮かべていた。  
 
 「私は、ちょっとヨーロッパ建築の資料を求めにね。次の新刊が…  
  まあ、そんな話はいいじゃない。それより、さっきの台詞…」  
 
 「さっき?」  
 「やっぱり、思ったとおり、久藤くん…木野君のことが、好きだったんだ!」  
    
 
 何この誤解!!!  
 
 
 「私、応援する!」  
 「え、あのちょっと…」  
 「そうとなれば計画を練らねば!  
  まず、千里に相談しましょう!」  
 「ちょっと、やめてください!」  
   
 久藤が藤吉の腕を掴んで哀願する。  
 
 「やめてほしい?」  
 「やめてください」  
 「どうしようかな?」  
 藤吉は、意地悪そうに微笑む。  
 
 「誰にも言わないでよ。というか別に好きでもないし…。  
  何でもするからさ…」  
 とんだ誤解で、変な噂を流されたらたまったものじゃない。  
それに、木野から変な目で見られるかもしれないのだ。  
 
 「何でもする? …なんて受けっぽい台詞…」  
藤吉は、さらに顔をにやけさせる。  
 
 「じゃあ…」  
 藤吉は久藤に体を密着させた。  
いきなりの行動に、久藤も驚く。  
 「わっ!」  
 「モデルになってよ」  
 藤吉が久藤の耳元で、いやらしく囁いた。  
 
 「モデル?」  
 「そ」  
 藤吉は神業とも言える素早さで、彼のベルトをガシッと掴んだ。  
   
 「ちょっ! ふじ…」  
 藤吉はそのベルトを外し、久藤を押し倒す。  
そして、久藤の両手首を恐るべき怪力で、彼の背中に回す。  
ベルトを使って簡単に縛り上げると、準備完了だ。  
そのまま彼を担ぎあげ、人目のつかない場所に移動した。  
 
「久藤くん。はじめるよ。まず、木野君のことを考えて…」  
 久藤には、意味のわからないことだったが、とりあえず従うことにした。  
 
 「うん」  
 少し時間が経った。それから藤吉は、ゆっくりと彼のズボンのチャックを開けるという暴挙に出た。  
 「何してるんだ!」  
 久藤の性器は露となり、藤吉に観察される。  
彼は恥ずかしさのあまり、顔を背ける。  
両手は後ろで縛られ、足を動かそうにも藤吉に押さえつけられている。  
 「木野君のことを考えたから、大きくなったんだね。やらしい」  
 「違う! これは…」  
 「これは?」  
   
 久藤は言葉を詰まらせた。これの原因が藤吉に抱かれ、誰もいないところに  
運ばれたから、などと言えるものではない。  
そう。藤吉は基本的に美人なのだ。少し興奮してしまうのも  
無理はない。決して、あんな馬鹿のことを考えて大きくなったわけではない。  
 
 それを弁明したところで、この腐女子になにか効果を齎すとは思えないが。  
 
 赤面する久藤を眺めると、藤吉の欲求は高まってしまう。  
 「もっとやりたい」  
 そう呟くと、藤吉は、携帯電話を取り出し…  
 
 カシャ  
 
 カメラのシャッターの機械音。久藤のソレを撮ってしまった。  
 「これは…いい資料になる」  
 恍惚とした表情を浮かべる彼女は、画面を凝視する。  
 
「データ…消してほしかったら…」  
   
 藤吉は、さらなる要求を求める。  
 
 「これから、私が言う言葉…繰り返して」  
   
 久藤は、いつもの冷静さを失って、黙って頷く。  
   
 藤吉は言った。  
 「まずは…『僕は、男の子が好きです』」  
   
 何を言わすんだ! この変態!!  
 
 「ぼ…ぼくは…」  
 
 「言えないの?」  
 藤吉は、指先で久藤の完全に立ち上がったそれを指で突く。  
 「っ! 僕は男の子が…好きです」  
 「満足! 次…『木野、オレで遊んで』」  
 
 屈辱だ!  
 
 「木野…おれで遊んで」  
 
 このやり取りは、十回ほど繰り返された。  
久藤は、心にもないこと台詞を言わされ、藤吉に性器を嬲られ、  
精神的に疲れてしまっていた。  
 もう藤吉にされるがままだ。  
 
   
 
 「はい。言って! 可愛らしく…」  
 「…おにいちゃん。僕を犯してください」  
 
 「いいよ! いいよ!」  
 藤吉のほうはといえば、逆に涎を垂らし、なんとも間抜けな顔で、  
彼に魅入っていた。それでいても、女性としての可愛さは  
失われていないのは、彼女の魅力のせいだろう。  
 
 藤吉は、また携帯電話をいじりだした。  
さきほどの画像を消してくれるのだろうと、久藤は安心したのだが、  
その希望は、はかなくも消え去った。  
 
 『ぼ…ぼくは…言えないの? っつ! 僕は男の子が…好きです』  
 
 先ほどのやりとりが、録音されていた。  
そして、それが再生されている。  
 
 藤吉は、携帯電話を彼の耳元に当てる。  
大きく聞こえる恥ずかしい言葉。しかも自分の声である。  
久藤は、とうとう絶望してしまった。  
   
 「たす…けて…」  
 久藤は上目遣いで、藤吉を見つめる。  
 「お願いだ」  
 
 この行為に、藤吉もただではすまなかった。  
全てのイケメンはホモであってほしい。  
藤吉はそう思うものも、その反面、自分はいい男と  
結ばれたい(いろんな意味で)と思っている。  
藤吉の鼓動が高まる。いいBL小説を書きたいという  
目的でおこなったこの行為だが、藤吉が今、求める内容は、  
変わっていた。  
 
 久藤君とやりたい。  
 
 今まで、久藤の性器であそんでいたが、自分を男(攻)に  
見立てていた。  
 次は、藤吉自身がこれの利用者となるときだった。  
 
藤吉は、久藤の顔に、己の顔を近づける。  
まずは軽い口付け。そして深い口付け。  
 
 「藤吉さん・・・」  
 半分涙目で赤面。少し息切れしている彼は、拘束されている。  
このイケメンの艶姿は、性的欲求を解消するのに、  
最高の逸材であった。  
 
 「我慢できないよ。久藤くん!」  
 藤吉は、久藤の学ラン。シャツを脱がしていく。  
露になった体に抱きつき、鎖骨、乳首に吸い付く。  
   
 久藤の喘ぎ声が、さらなる欲求を生み、藤吉を暴走させる。  
 
 藤吉は、自分の制服も脱ぎ捨てた。  
そこには輝く実が二つ。  
久藤は恥ずかしさのあまり、目を瞑る。  
 
 「見てよ…」  
 藤吉はブラジャーの紐を彼のソレにひっかける。  
そして、こま結びにして力いっぱいに縛り付けた。  
 
 「痛い!」  
 「ごめんね。久藤くん。それじゃあイケないよね」  
 
 久藤は訴えようとするが、それは遮られた。  
藤吉が、己の大きな乳房を持ち上げ、自分の顔に押し付けたからだ。  
 
 「やっ」  
 「吸ってよ」  
 本当は揉んで欲しかったのだが、両手を縛っているため仕方がない。  
久藤は嫌々、舌を出して、先端の赤い突起を舐めだした。  
   
 「あっ、いい」  
 「んんん」  
 「もっと! できるでしょ!」  
    
 胸は十分に満足した。さて、次は…  
 
藤吉は、大きく屹立したソレを掴む。  
 
 「いただきまーす」  
 そしてソレを口に含んだ。  
藤吉の口内では舌が大暴れし、獲物を味わいつくす。  
 
 「あっ! もう駄目!!」  
久藤はもう我慢ができずに、射精してしまった。  
しかしながら、性器に強く縛りつけられたブラの紐によって、  
精子は、彼の中に溜まったままとなった。  
 
 「駄目! とって! 早く!! 嫌だ!嫌だ!」  
 
 久藤の願いは、何の意味も持たなかった。  
それどころが、藤吉をさらに興奮させた。  
 
 「イケなかった? 苦しそうだね」  
 
 藤吉は、なんとか先端から零れ出たそれを吸い取ると、  
自分の胸の谷間に久藤のソレを挟み込む。  
   
 「動かすよ」  
   
 久藤の悪夢は続いた。  
 
あれから、一時間ほど経った。  
さすがにやりすぎたと思った藤吉は、  
久藤についたその呪縛の紐を解いてあげた。  
トロトロと流れ出る精液。  
 長い間溜まっていたため、まだ全て出し切ることが  
できなかった。  
 それによって、久藤の中に不満が残る。  
 
 手を開放された久藤は、放心状態のまま  
さっさと服を着る藤吉を見つめた。  
自分は、まだもやもやが残っている。  
気持ち悪い。自分で処理するべきだろうか。  
いや、そんなことできない。  
 
 久藤は立ち上がり、いきなり後ろから藤吉の乳房を鷲づかみにした。  
いきなりの出来事だったため、これには藤吉は驚いた。  
大きなそれを揉み、擦りつける。  
 
 「わあ。やっぱりすっきりしてないか」  
 藤吉は、すぐに冷静になり、快楽を味わう。  
久藤は自分自身を彼女の中に  
挿入しようと試みた。藤吉はそれを受け入れた。  
 
 「まだ。やりたいの?」  
 
行為が終わったあと、二人はぐったりしていた。  
藤吉は、己の欲求も創作意欲も沸き、最高の状態であったが、  
逆に久藤は原始的欲求に負けてしまったことを恥じていた。  
奢る気はないが、文化人としての誇りを持っていた彼に  
とって、大きな打撃だった。  
 
 こんなときには、読書に限る。  
 「そうだ。本を読もう」  
   
 文学の頂点に位置するといってもよい最高の戯曲。  
ゲーテの『ファウスト』。  
生の意義を渇望し、高尚なる欲求を求めたる人間を  
主人公とした作品。  
今日は、これをまた熟読しておこう。  
たしか、カバンの中に入っていたはず。  
 
 
 久藤はカバンを手に取ると、すぐさま家に帰った。  
 
   
 
今日は、おそかったわね」  
 家に帰った久藤は、何事もなかったかのように、  
母親に『まあね』と答えて、自分の部屋に入った。  
そして、カバンを開けた。  
 
 中に入っていたのは、BL同人誌だった。  
 
   
 「カバン…間違えた」  
 
 
 
 一方、家に帰った藤吉は…  
 
 「メフィファウ萌え! ファウワグもいいかも…」  
 
 文学の最高傑作を用いて、妄想していたのだった。  
 
 
               END  
 

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