夜さりつ方。  
紅鏡はとうに沈み、空には金鏡が立ち上る。  
簡単に言い換えれば、陽が暮れて月が上がったという事。  
今は四月も中旬となっており、桜が咲き乱れる世間。  
鈴木商店高校も例外ではなく、校庭に申し訳程度に咲いている。  
静まり帰った闇の放課後の中で、二人の影が宿直室に。  
かたや、法律で禁止されている酒を片手に持ち、一升瓶をラッパ飲みしている少  
女。  
かたや、法律で禁止されていない酒なのに付き合い酒でおこちょを空かす男。  
 
「たまには、こういうのも風情がありますね…」  
「あはははは。ヒック…、そうらねぇ、せんせぇ…」  
 
窓から遠くに見える桜は、強い風が吹くわけでもなく静かに止まっている。  
二人は同じ毛布にくるまり、窓の外を眺めている。  
少しずつ傾いていく月だけが、時の移りを示している。  
 
「こうして後何回、桜を見る事が出来るんでしょうかね…?」  
「…?」  
「…何でもありませんよ」  
「なぁに、せんせぇ。ちゃんと話してぇ」  
「小森さんとずっと一緒に居たい、と言ったのです…」  
「わたしもぉ、せんせぇとずっと一緒に居たいよ」  
 
そう言って朱色を落とした頬を望へ近付ける。  
スリスリと頬擦りをし、そのまま望の体に寄りかかる。  
胸元にピッタリと収まりその状態で落ち着く霧。  
普段の少女からは想像出来ない積極性だが、これも酒の力か。  
再び外へ目を向ける二人。  
相も変わらず桜は寂れた高校の校庭に佇んでいる。  
 
「小森さん…」  
「…?」  
 
胸元から見上げる霧。  
上目使いと呼べる状態に。  
 
「桜が何故紅の花を咲かすか、知っていますか?」  
 
長い髪がはためくのに気遣う事もなく、頭を横に振る。  
それに言葉を続ける望。  
 
「本当は桜の花は白色だったのですが、昔、二人の男女が桜の木の下で永遠の別  
れを余儀なくされたのです」  
 
彼の声はとても真剣で。  
それは酔った頭でも、醒めて聞こえた。  
 
「二人は嘆き哀しみ、日が変わるまで抱き合い、涙を落としたそうです…。そし  
て、別れの際に枯れた涙の代わりに紅の雫を落とした」  
「…」  
「そうして、その雫を根から吸い桜は紅の花を咲かすようになったそうです」  
 
望の声は普段の話し方と何ら変わりないようにも聞こえ、とても哀しくも聞こえ  
た。  
 
「悲しい、お話だね…」  
 
窓から視線を落とし、少女の双眸を見つめる。  
前髪の奥に煌めく瞳は、漆黒に渦巻いている。  
 
「貴方も、そう思いますか…」  
「うん…」  
「永遠の別れ、というのはどんな気分なのでしょうね…」  
 
数日前を思い出す。  
何も告げず姿を消した少女を想う気持ち。  
二度と味わいたくない。  
一生忘れていたい。  
そう考えるとまた、胸が痛む。  
少女が愛しくて、儚くて。  
人は一瞬で消えてしまう。  
 
(今なら、分かる気がしますね…)  
 
きっと、あの時のような気持ちになる。  
また、胸が痛む。  
何か、とても必要な物が足りてない痛み。  
自分が正常でないような欠落感。  
この隙間を、責めるのか。  
 
(痛い…)  
 
はっきりそう意識すると、望は少女を掻き抱いた。  
自らの何かを埋める為に。  
霧の体は、産まれた時からくっついていたのだろうか。  
思考が底に行き着くと、そう思えた。  
望にしては珍しく、苦しみを感じる程に強く抱き締めた。  
だが、そんな変化にも理解が至るのか。  
霧は甘んじて受け入れている。  
 
「ねぇ、せんせぇ」  
 
望の耳に唇を寄せて、鼓膜に直接囁く。  
 
「…私は、ずっと側に要るよ」  
 
それは、引き金。  
ただ、抱き締めていたはずの望が荒々しく霧の唇を奪う。  
理性は、意識の果てに消えて。  
本能は、霧を求めた。  
 
「んっ、はぁ…」  
 
接吻もそこそこに、望は霧を押し倒す。  
無理矢理の行為には慣れていない霧に、抵抗の手段など在りはしない。  
ましてや、抵抗する気など在りはしない。  
獣の如く男の本能さえも、少女は受け止めるのだ。  
 
「あっ!!!…せんせぇ」  
 
豊かな膨らみには眼もくれず、望は秘部を目指した。  
先に到着させておいた右手で秘部をジャージごとこねる。  
すぐに顔も目的地へ。  
自由な両手を器用に動かし、少女の服をはぎとる。  
もはや下着を脱がす時間も惜しいのか、望は霧に吸い付く。  
 
「あああっ…!!!」  
 
前戯が足りてない為に、少女の其処は軽く湿っているだけ。  
補うように唾液を塗りたくる望。  
 
「んっ、んっ、んっ、…あはっ、せんせぇ…」  
 
望が舌を寄せる度に可愛らしい声を上げる。  
両の手を頭に添えて、自らへと強く押し付け、太股をギューと締め付ける。  
霧も隙間を埋めるように望を求めた。  
互いが求める、求め合うのだ。  
魂の半身とはこの事か。  
 
「あっ…、んっ、んっ」  
 
濡れそぼったそれは、既に下着として役目を果たせない。  
意味を無くした物体を取り去り、少女の花園があらわに。  
 
「はぁ、小森さん…」  
「…んっ。きてぇ、せんせぇ」  
 
痛い程にそそり立つ絶棒を取りだし、あてがう。  
其処は十分に女として出来上がっており、望は躊躇なく腰を進めた。  
 
「あっ…、はあぁぁん!!」  
 
霧はこの瞬間が好きだった。  
愛しき者と結ばれる感覚は何度繰り返しても飽きない。  
最初はゆっくりと時間を掛けて奥まで入れ込む。  
互いの存在を確認すれば後は流れるままに。  
快楽だけを追い求める。  
頭が狂ったのか、歯止めが効かない。  
慈しみ、優しさ、気遣い。  
全て桜に奪われた。  
繁殖より、快楽。  
そう考えている猛獣の如く。  
望は既に獣でしかなかった。  
体の全神経を腰に集中させ振り続ける。  
 
「あっ!、あっ!、あっ!…凄っ……、凄いよぉ、せんせぇ…!」  
「小森さん、小森さん…」  
 
いつもの霧ならば三回は達しているであろうという程に激しい行為なのだが、酒  
で鈍くなった感覚は何とか望についていっていた。  
単調な動きだけでなく、大きくグラインドしてみたり、奥まで入れた後に掻き混  
ぜたりと、望は尽きることのない欲望を解放した。  
そして、先が見え始める。  
 
「小森さん、もう…」  
「はぁ…、あん!あっ、良いよ、せんせぇ…んっ!きてぇ…!」  
 
望が、眼を見つめ口を重ねる。  
霧が、舌を絡ませ誘発する。  
最後に一撃、深々と奥に突き入れた。  
と、同時に回された腕を思い切り引き寄せる。  
二人の体は触れていない所が無いように密着し。  
その体温を感じながら望は爆ぜた。  
 
荒い呼吸を整える二人。  
桜の紅に勝るとも劣らず。  
霧の全身は、朱色に染まり熱を持つ。  
開いた唇は塞がれる事を求め。  
再び交わる事に期待する。  
そう感じた望は遠慮無く…。  
 
「ひゃ!?…あんっ!はぁ…、んっ」  
 
腰を動かした。  
硬度を取り戻した絶棒を少女の中で暴れさせる。  
淫らな音が響く宿直室の窓に映る月。  
夜の終りを告げるかのように桜と重なった。  
 

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