桜は散り、太陽が高く昇る時期。  
夏休み直前だ。  
絶望教室は期末テストを終えた解放感に満ちていた。  
学校に所属する以上避けて通れない壁を乗り越えたのである。  
それは、引き篭りの霧も例外ではない。  
普段と同じく教室には来ない為、宿直室にての受験だったのだ。  
そして、その答案を見て頭を悩ませる望。  
本当に基本的な問題しか解けていない。  
そう、授業の中で解説される問題には手も足も出てない状況だ。  
 
(ふむ…、どうしましょうか)  
 
決して勉強が出来ない訳ではないのに。  
つまり、勿体無いのだ。  
数日後からは夏休みだというのに。  
通知表を塗り潰しながら、望はある一つの決意をする。  
 
終業式の後のLHRを簡単に済まし、望は愛しい彼女の元へ歩を進める。  
宿直室からは美味しそうな昼食の香りが漂う。  
部屋を出るときに、昼までには帰ることを伝えていた。  
甲斐甲斐しく自分の面倒を見てくれる少女はきちんと準備をしている。  
そう確信すると、つい顔が綻んでしまう望。  
にやけ面を隠せないまま帰宅する。  
開けるべからずの貼り紙に書かれた名前が一つ増えていた。  
『きり』の文字の横に、『絶望』。  
普段なら失踪してしまう呼び名も、彼女なら許せる。  
どうやら随分と贔屓癖が付いてしまった。  
そんな事を思いながら一言。  
 
「ただいま」  
「おかえりなさい、先生」  
 
可愛らしい毛布を身に纏い、霧が姿を見せた。  
季節に合わせて薄い物を羽織っているようで、その顔は涼しげだ。  
それに、エアコンが効いているのか、遠くで作動音が聞こえる。  
汗を吸った身には少々冷たい室内だが、すぐに慣れる。  
荷を下ろし食卓に付けば、間を置かず料理が目の前に。  
 
「今日はパスタですか」  
「うん、食欲無くても食べれるかと思って…」  
「気が利きますね、小森さん」  
 
育ちが良く、あまり体が強いわけでも無い望は初夏に在りながら、夏バテ気味だったのだ。  
それを考慮しての選択は、本当の親切と呼べるだろう。  
望は時間を掛けて皿を空白にしてゆく。  
麺と一緒に少女の気遣いも咀嚼しているかのように。  
やがて皿は完璧に空となり、それを台所へ移動させる霧。  
一息付いて休憩する望。  
夫婦の生活と何も代わり映えしない二人の日常だが、今日は少し重大な話がある。  
 
「ところで、小森さん」  
「何?先生」  
 
水の流れる音が響く宿直室。  
皿を洗いながら、振り向かずに霧が問い返す。  
後ろ姿はいつもと変わらない。  
 
「一昨日、通知表を付けました…」  
「…!?」  
 
その後ろ姿がびくっと震え、固まった。  
望が何を言わんとしているかは分かっているようだ。  
話すのも辛い。  
聞くのも辛い。  
気まずい空気が漂うが、意図的に無視する。  
 
「先生、基本的に非通知なのですが…、今回は通知しなければなりません」  
「そ、それって…」  
「はい、…追試です」  
 
目に見えて落ち込む霧。  
流石に可哀想に思えた望は、音も無く忍び寄り優しく抱き締める。  
 
「せんせぇ…、補習って教室で受けるのかな」  
「えぇ、私のクラスの人は大体補習を受けますから…」  
「そっか…」  
 
更に悲願の顔に変化するのを見てとる。  
エアコンに奪われた体温を補うように、より霧の体を引き付ける。  
頬を寄せて直接、鼓膜に語り掛ける。  
 
「小森さんには私が個人授業しますから、…心配しなくても大丈夫ですよ」  
「………うん、ありがとう、先生」  
 
そして、夏休み初日の夕方。  
食事も入浴も早々に終えた二人。  
何時になく真剣に机へ向かう霧、正面には望の姿が。  
教室よりも教師らしい姿が其処には在った。  
 
「さて、小森さん」  
「はい」  
「本来なら試験の内容は全て復習しなければなりませんが…」  
「…」  
「時間も有りませんし、幸いなことに小森さんは基本をしっかり理解されています」  
「えへへっ」  
「…よって、発展問題と苦手であると思われる箇所を復習します」  
「分かりました」  
 
筆を取ろうとする霧。  
その手に上から優しく手を重ねる望。  
不思議そうに見上げてくる少女に身を寄せて囁き掛け、淫らに微笑む。  
秘密の約束を契る為に。  
 
「問題を正確に解ければ、ご褒美がありますからね…」  
 
クチュ、ピチャ…闇の宿直室で乱れた水音が響く。  
補習を始めてから約3時間が経過している。  
しかし、両人に疲れは無い。  
始まりと同じように身を寄せて、重ねている。  
違うのは部屋の温度の高ぶりと、頬に落とされた朱色。  
そして、とろけた瞳。  
今までに解いた問題数は既に72問。  
その内正解は64問。  
二人は述べ64回、口付けを交している。  
 
「ん、ふぁ…くちゅ」  
 
今も、その最中だ。  
そうでなくても身長差のある二人。  
椅子に腰掛ける霧が上を向くのは必然だ。  
重力に逆らわず唾液を落とす望。  
まるで、それが命の水であるかのように飲み干す霧。  
時に濃厚に、時に精密に。  
深く唇を落とすと、舌だけを残して徐々に離れて行く。  
終りの合図は64回の間、変わらない。  
銀の糸が二人を強く結ぶ。  
 
「ぷぁ…、せんせぇ…」  
「ふふっ、小森さん、次が最後の問題ですからね…」  
 
息も絶々に精一杯な霧だが、対称的に大人の余裕を見せる望。  
返事も出来ぬ程骨抜きにされた霧を置いてけぼりに、補習を再開する。  
そして、此れが致命傷になったのだ。  
説明を終え練習問題を解かせる望。  
暫くは茫然と考えていた霧だが、思い出したように計算に取り組み出す。  
延々と続く計算式を幾度となく繰り出し、必死に問題を解く。  
今までよりも難易度の高い問題は、解答を導くのに10分を必要とした。  
少女の目の前で式を見直す望。沈黙と緊張が部屋を制覇する。  
その静寂を破壊したのは当然、望。  
 
「小森さん…!」  
「…?」  
「残念ながら…、符号が逆です」  
 
机に身を落とすペン。  
戦慄が体に響き渡る。  
まさかの失態だ。  
 
「そ、そんなぁ…」  
「考え方は全て適格なのですが、最後の符号の変化がありませんね」  
「それじゃあ…」  
「えぇ、誠に残念ながら約束は果たせません」  
 
二人が交した秘密の契り。  
一つは先程記した通り。  
もう一つは、夜の営みだ。  
露骨に言えば性交。  
つまり、そういうこと。  
 
「せんせぇ…」  
「約束は約束ですから」  
 
やけに頑固な望。  
どうにも強い芯を携えているようで、その意思は折れなかった。  
故に熱る身体と心を持て余す霧。  
並んで横たわる二人だが、望は一足先に夢へと旅立っているようで、安らかな寝顔が目の前に。  
それを意識すると、余計に疼いてくるのを感じる少女。  
知らず知らずに手は、快楽を求め出した。  
最初は恐る恐るに触れるだけだったのだが、少しずつ淫らに変貌を遂げる。  
 
「ふっ…く、ん」  
 
瞳は閉じたまま息を殺し、時折耐え切れなかったように鼻から呼吸を漏らす。  
少女の艶やかな呼吸は全てが霞がかったようにぼんやりとしている。  
そのくぐもった吐息は部屋の寸法を突如として曖昧にさせ、広くなったり狭くなったりを繰り返している。  
そのくせ、少女の呼吸ひとつ、身じろぎひとつさえ明確に感じ取ることが出来るのだ。  
そう、望の意識は覚醒していた。  
はじめは、ほんのささやかな愛撫だった。  
可愛らしいチェックの寝巻きの第二ボタンをそっと開け、おずおずと指先を忍び込ませる。  
豊かな膨らみを撫で回し、快楽を見つけ出す。  
その手つきはとても手馴れているとは思えない程拙く、そのたどたどしさは未成熟な身体を自ら開拓してゆく少女の禁断の遊びであった。  
それは、神聖さと同時に背徳に塗れたいやらしさを誇示していた。  
丹念な愛撫に身体も慣れてきたのか。  
指先のグラインドも次第に大胆さをましてゆく。  
時々、思い出したかのように白き指は膨らみの中心にある小さな突起へと目をつける。  
そこに向かう手つきは、恐る恐ると指先をその隆起へと近づけるもので、そっと突くように人先指で触れた。  
想像以下の刺激に物足りなさを感じる霧。  
この不感は下着のせいだと考え、ブラをたくし上げ、何の恐れもなく自らの乳房をまさぐる。  
火照っているはずの手のひらが熱を感じるほど、局所は熱くなっていた。  
触れている手のひらが心地よいのか、手を動かすこともなく静止する。  
思い出したように触れた乳首は通常のそれと比べれば二倍といってよい程に堅く隆起していた。  
くりくりとこね回す感触が面白く膨れ上がった突起を弄ぶ。  
しかし、胸に溜まるのは人事を越えた切なさばかりである。  
彼女の右腕は下腹部へと伸びていった。  
先ほどの手淫により身体の熱が高まっていたのだろう、指先の触れたショーツは僅かな湿り気を帯びている。  
慣れない手つきでショーツ越しに、その小さな割れ目に沿って指を這わせる。  
クチャクチャと粘液質な水音が鼓膜を叩く。  
本来なら聞こえるはずもないそのささやかな音すら、幻聴を望は明確に感じ取っていた。  
 
「…んっ」  
 
意図せず漏れたと息に彼女の瞳が見開かれる。  
口元を押さえ、頬をこれ以上ない程高潮させ横目でそろりとこちらに視線を送った。  
当然、僕は動かない。  
高まり切った互いの心音が打ち消しあっていた。  
ほう、と安堵の溜息をつき彼女は右手の動きを再開した。  
先ほどの緊張は、少女の性感を促したのか。  
ショーツの染みは目に見えて広がり、指先で押さえればそこからジワリと愛液が漏れ、腿を伝った。  
それを契機に彼女の指の動きは加速度的に大胆さを強めていく。  
グラインドはより激しく、情熱的に。  
放たれる淫水の音も水気を増しピチャピチャと淫靡な音を醸し出している。  
 
「は…あっ、くぅん…」  
 
唇をかみ締めるように閉じてはいるが、口の端から漏れてくる艶声はひときわ甲高く、またその頻度を高めてきている。  
望が隣にいることが霧の性感を高ぶらせる一因を担っていることは間違いない。  
その証拠に霧は頻繁に望の横顔を覗き込んでは、また自慰にふける。  
 
「せ、せんせぇ……はぁん、糸色先生…」  
 
うわ言のように名前を呟く。  
今すぐに、愛おしい少女を掻き抱きたい衝動に駆られるが奥歯をかみ締め耐えることにする。  
そんな感情など知り得ない少女は、しどけなく表情を崩し口元には涎の流れた跡さえ残している。  
彼女の自慰は間も無く終わりを告げようとしているのか。  
高ぶった性への欲求は、より大きな快感へ全力で駆け抜ける。  
 
ショーツを横へずらすと、未成熟で可憐な姿が露に。  
霧は完全に閉じきった秘肉を無造作に押し開く。  
そこに見えたのはピンク色で桜貝のようなまっさらな孔だった。  
ひだはまったくと言っていいほど発達しておらず、左右の均整のとれた美しい形をしている。  
肉芽は未発達の性器にふさわしく、未だ包皮に包まれたままだった。  
霧の細い指先がその穴へと侵入する。  
十分に粘液を帯びていた指先は第一関節まですっぽりと軽々飲み込まれてしまった。  
 
「ひゃ…!」  
突如として襲い来る快感の本流に少女の全身が強張る。  
自分の上げた声の高さにも気付かず、欲望のままに快感を貪った。  
左手は弄っていた胸元を離れ、こちらもまた秘部へと向かった。  
行く先は膣口ではなく、その上にある蕾。  
たわんだ皮の部分を目いっぱい剥き上げると、小さな男性器の様に起立した真っ赤な肉芽が  
。  
「あっ、はぁぁ…」  
 
躊躇もなく突起に指を這わせるも、外気に晒されたばかりの肉芽は敏感すぎて迂闊に触れると痛みにも似た性感が走る。  
はじめは指先で包むように、次第に左右へクリクリと捻る。  
執拗にして、丁寧な攻めに身体は陰核の快感になじみ始める。  
男と同じ自慰の方法。  
しごく動作と同様に指先で陰核を上下に擦りあげる。  
霧は自らが行っているはずに行為に、目を限界まで閉じて震えていた。  
口の端からはだらしなく舌先が覗き、我を忘れて自慰に没頭する。  
胸と秘部から押し寄せる強烈な波は絶えることがない。  
 
(…胸!?)  
 
少女の伸ばされた両腕は花弁を満開にさせるの忙しい。  
胸から刺激は来ないはずだが、その性感帯は確かに働いていた。  
 
「小森さん…、私に気付かないほど気持ち良かったですか?」  
「…あぁ、せんせぇ…んっ、はぁぁ…」  
 
後ろから回された手は、せわしなく胸を揉み抱く。  
その動きを止め、上下に腕を分ける。  
 
「…続きはどうしたのですか?」  
 
片手を巧みに動かし少女の両手を誘導する。  
再び流れ出す快楽の渦。  
望に聞かれていて、見られていて、感じられていたと思うと羞恥心が込み上げてきた。  
そして、嬉しさも。  
それは少女をより高みへと昇らせる。  
たとえ、無理矢理でも。  
絶頂が近いのか。  
クーラーの効いた部屋の温度も布団の中とは無関係。  
熱く、濃厚な香りが漂っている。  
限界が近いことを悟った望は、残った手を口元へ。  
何も言わずに、それを咥える霧。  
当たり前の事だといわんばかりに舐め回す。  
ふやけた手先で霧の舌を掴む。  
そして、免許皆伝のフィンガーテクニックを惜しみなく披露。  
達する直前に舌を引いてやる。  
それを引き金に少女は大きく体を震わせる。  
 
「ひゃ…、ああぁぁぁぁん!!!」  
 
全身を弓なりに反らし、快楽を受け止める。  
今までに味わった事のない自慰の感覚。  
それは、少女の世界観を変えるほどだ。  
 
「ふふっ…、まだまだ夜は長いですからね」  
 
長い指が再動し、長い夜着の前がはだけた。  
霧に快感が戻り、望もそれを獲ようとしている。  
夏の夜は儚い。  
その一瞬に生きるのか。  
二人の一瞬は、まだ始まったばかりだ。  
 

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