放課後の職員室。望は自分の机で本を読んでいた。
「先生」
背後からの声に気付き、望は顔を上げ、声がする方へ振り向いた。
「おや?大草さんじゃないですか。私に何かご用ですか?」
大草麻菜実――。望が受け持つ生徒の一人だ。
何だか元気がない様子である。というか、少しやつれて見えるのは気のせいだろうか…。
「実は…、ちょっと相談したいことがあるんです」
「相談…?」
望は訝しげに少女を見上げた。
大草さんが自分に相談すること――。
進路だとか恋だとか、普通の学生がするような軽い悩みであるはずがない。
嫌な予感を募らせるも、とりあえず聞くだけ聞いてみることにする。
「それで、私に相談とは…?」
「実は…」
「そ、それは大変ですね…」
(重い…、重すぎる…っ!こんな重い相談、私には荷が重すぎる!)
「絶望した!学生にあるまじき相談に絶望したぁ!」
望は頭を抱えてそう叫び、机に顔を伏せてしまった。
「…あの、まだ何も話してませんけど」
麻菜実は呆れた様子で、そんな望を見下ろす。
「話さなくても分かります!どうせあなたは私に荷が重すぎる相談を押し付ける気でしょう!
私を悩ませて、睡眠時間を奪う気でしょう!」
「いや、そんなつもりじゃ…」
「とにかく今の世の中、荷が重すぎることが多いのです!
押し付けられる方の身にもなってください!本当にあの人で良かったんですか!?」
「先生、また話が脱線してます…」
「…はっ、この漫画が週刊連載には荷が重すぎるとか言うなぁ!」
「言ってませんし。それに、何のことだか分からないです」
「…うーん。やっぱり二人だけだといまいち盛り上がらないですね…」
「盛り上がってどうするんですか!相談くらいちゃんと聞いてください!」
「そ、それもそうですね…。それで、相談とは?」
「実は…」
「それは大変ですね」
「…もういいです。なんかアホらしくなってきました」