超展開で世界観は変わる
望 「私、ふと思いました。この絶望があふれる世界が変われば、私の絶望も無くなるのではと……。
というわけで、世界ががらりと変わる出来事が起きた場合を妄想してみることにしました。いわゆる超展開ってやつです」
奈美 「今度は何を始めるのやら……」
望 「皆さんも、どうなれば良い世の中になるか一緒に考えてみてください。これは、皆さんの将来にも関わることですから、とても重要ですよ」
芽留 『妄想で将来が決まるわけねーだろ メンヘラ』メールメール
望 「よく言われるのは、何か大きな不幸が起こると世界が一変して見えるそうです。例えば、瀕死の重傷を負うような事故とか……。
私、妄想でも痛いのは嫌なので、精神的に重症患者になってみることにします。ありがちですが、記憶喪失でいってみましょう」
千里 「何が原因で記憶喪失になったんですか?」
望 「その辺は適当でいいでしょう」
千里 「ダメです。ちゃんと理由を作ってください」
望 「そうですね。――では、くしゃみをした弾みで記憶が飛んだことにします」
千里 「わかりました」
晴美 「千里もこだわったわりにそんな設定でいいのね……」
望 「ではいきますよ。――ハックション!!」
可符香「実際にシミュレートしてみるんですね」
望 「…………」ボケー
あびる「先生?」
望 「あれ? ここは学校ですか? でも、どうして私が教壇に? 私は先生だった? そう言えば、私の名は?」
晴美 「あはは、先生名演技っ」ヤンヤヤンヤ
望 「先生? 私は先生なのですか」
千里 「そうです。先生はこの2のへ組の担任教師ですよ」
望 「そうでしたか。ついでと言ってはなんですが、私の名前も教えてもらえないでしょうか」
千里 「糸色望です。黒板に書いてあげますね」カツカツ
望 「……これって、横に書いたら絶望って読めますね」
千里 「はあ、今さらですけど……」
望 「冗談みたいな名前ですね。もしかして、私をからかってるんですか」
千里 「ち、違います。生徒名簿を見てください。同じ姓のあなたの妹さんの名前がありますから」
望 「本当ですか? どれどれ――糸色倫。こっちは絶倫ですか」
倫 「お兄様、その呼び方はおやめになってとあれほど」
望 「本当に私の妹なのですか? 手の込んだイタズラとかじゃなく……」
倫 「お兄様、いい加減にしないと怒りますよ」
望 「す、すみません。受け持ちのクラスに妹とか、でき過ぎ感が強くて。それに、こんなにかわいい妹がいるとは思わなくて……」
倫 「や、やめてください、お兄様。恥ずかしいですわ」カーッ
カエレ「授業中にいちゃつくの禁止! 訴えるわよ」
望 「べ、べつにいちゃついては……。とにかく、私は自分が何者なのか全然分かりません。他にも色々と教えてくれないでしょうか」
まとい「先生のことなら私が一番詳しい」ウシロカラヒョッコリ
望 「い、いつから背後にっ?」
まとい「最初から」
望 「そうですか。でも、なぜあなたが一番詳しいのですか。この教室には私の妹だっているのに」
まとい「それは――(ムムッ、これってもしかしてチャンス?)」ヒラメイタ!
望 「それは?」
まとい「それは、私が先生の恋人だからです。(言っちゃったー!)」
望 「そうだったんですか?!」
まとい「はい」シレッ
千里 「ちょーっと待ったああああ」ダンッ!
晴美 「おおっと、ちょっと待ったコールが出たああ!!」
芽留 『古くせーな。知ってるオレもアレだが』メールメール
千里 「常月さん、この状況でそれは卑怯じゃないの」
まとい「卑怯? 何がですか? 私と先生が恋仲なのは純然たる事実ですけど」
千里 「嘘おっしゃい! そんな所、見たこともないわ」
まとい「それはそうでしょう。私と先生はみんなから見えない所で愛を育んでいたんだもの」
千里 「くっ……、涼しい顔でぬけぬけと」
まとい「だってホントなんだもーん。(勝った!)」
可符香「じゃあ、私も」
望 「え?」
可符香「私も先生の恋人だね! 先生とはやんごとなき関係ですから」
奈美 「やんごとなきって……、どんな関係よ」
可符香「そんな口に出して言えないこと聞かないでくださいよぉ」
奈美 「マジ!?」
望 「それは本当なんですか!? 二人と交際……、それも教え子と……」
千里 「それなら、私と先生だってただならぬ関係よ。同じベッドで一緒に寝るほどなんだから」
望 「また増えた!」
マリア「マリアもだヨ! 先生といろんなことシテ遊んダ!」
晴美 「それなら私もー。先生といるとおもしろいよね」
あびる「私、先生にならどんな痛いことされてもいいよ」
望 「その包帯、もしかして私が……」ヒヤアセ
カエレ「私も責任とってもらうから!」
芽留 『オレも参加しとくぜ』メールメール
麻菜実「私も、先生が援助してくれるなら、何でもしてあげますよ」
奈美 「私も普通に付き合ってました」
愛 「私なんかで恐縮ですが、私も先生の恋人に加えてもらってたことにしてください」
真夜 「月の無い夜は気をつけろ。後ろからズブリだ」
臼井 「三珠さん、その時は手伝いますよ」
霧 「死ぬ時は一緒だよって言ってくれた」
倫 「お兄様は私のものです!」
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望 「一体、私はどんな生き方をしてきたのでしょうか。だんだん、自分が怖くなってきました」
千里 「いつも死にたがってましたから」
望 「そうですか……。今日は私、早退させていただきます。ところで、私の自宅はどこなんでしょう」
霧 「私が送ってあげる」
望 「すみません」
奈美 「先生、真っ青な顔で帰っちゃったけど大丈夫かしら」
晴美 「いやー、迫真の演技だったね」
後日、朝の教室で
命 「望はしばらく学校を休みますので。それを伝えに来ました」
千里 「それって本気で不登校になるってことですか?」
命 「サボリじゃないんだ。ちょっと入院することになってね」
千里 「どうかしたんですか!?」
命 「その……、命に係わるとかじゃないからそんなに驚かないで。どうやらひどい健忘症のようでね」
奈美 「けんぼうしょうって?」
命 「まあ、記憶喪失ってことかな」
晴美 「それなら先生の演技だよ」
命 「そうだったらよかったんだけど、高度な医療機器を使って検査したから間違いないんだ。それじゃ、また望の様子を報せに来るよ」
命が去った後も、しばらく静まり返ったままの2年へ組だった。
望の入院を聞かされてざわめく教室
奈美 「ちょっと! あれ本当に記憶喪失だったじゃないの。どうするのよ」
晴美 「どうするって言われても……。先生に悪いことしたかな……」
愛 「わ、私のせいです。調子に乗ってあんなこと言ったから」
千里 「とにかく、先生が早く学校へ戻ってこられるように、みんなでお見舞いに行きましょう」
ガラガラとドアが開き、教室に入ってきたのは――
望 「皆さん、おはようございます」
千里 「先生!? 入院なさったのでは――」
望 「ああ、あれは命兄さんに頼んで一芝居打ってもらったんですよ。ね? 兄さん」
命 「みんな、ごめんね」ヒョッコリ
望 「どうでしたか? 私が記憶喪失で入院したと知った途端、世界が変わって見えませんでしたか?
どう変わったかはあえて聞きませんが……。私がいなくなってスッキリした人もいるでしょうから」
千里 「そんな人、いるわけないじゃないですか!」ワナワナ
愛 「そうですっ。先生が戻ってこなかったら私、私――」
望 「加賀さん、何も泣かなくても」
倫 「私も本気で怒ってますわ」
芽留 『いっぺん死んでこい』メールメール
望 「ど、どうしてそんなに怒ってるんですか」
命 「望、お前が悪い。謝っておけ。(こいつはみんなに好かれてるんだなぁ)」
望 「わかりました。――ご、ごめんなさい」ペコリ
千里 「わかればいいんです」
可符香「みんな、先生の大切さが再確認できてよかったじゃないですか。先生も、みんなの信頼を再確認できてよかったじゃないですか」
奈美 「また強引なまとめだね」
おまけ
まとい「私は先生の嘘を知ってたんだけどね」
霧 「私も」
まとい「本当に?」
霧 「うん」
まとい「ホントに?」
霧 「うん、交君が教えてくれた」
まとい「なーんだ」
霧 「何よ」
まとい「べつにぃ」
終