棚ぼた的なそんな都合のいい展開など、あるわけないと思われた。
案の定、望が出ていった教室内は、なまぬるいテンションである。
ネコ耳をつけてしかも微妙にエロいコスプレをしている奈美は確かに萌えるのだが、担任が入ってきたせいで教室の空気はすっかり冷えてしまった。
ところが……。
「糸色先生は?」
智恵先生が顔を出した。
「先生なら、たった2分と30秒前に失踪しました。」
「そう……ちょっと面倒なことになったわね……」
「何があったんですか。」
「糸色先生のお兄さんの弁護士という方から、学校に連絡があって……交君の件で話がしたいとか」
「訴訟沙汰っぽくなってきたじゃない」
「カエレ、鼻息荒イヨ」
「でも、先生、いなくなっちゃいましたし。」
「先生のことだから、しばらくしたら戻ってくるだろうけど、その間、交君の面倒をお願いね。私これから、ちょっと研修で出なきゃいけないから」
なんの研修かはわからないが、きっとカウンセラーの研修に違いない、多分、と思いたい。
「先生が帰ってこなかったら、交君を家まで送ってもらえる? きっと妹さんはいるでしょうから」
「絶倫先生なら昨日から華道のレッスンで九州出張だから、帰ってきませんよぉ」
「なんで風浦さんはそういう情報に詳しいのよ。」
「そう。でも、他にもお兄さんいたよね」
「絶命先生もセミナーで東北行ってますし、絶景先生は個展で北陸に行きました」
「困ったわねえ」
「先生、小森さんに預かってもらって、学校に泊めるというのはどうでしょう」
「そうねえ。名前もうってつけだし……それより日塔さん、どうしてそんな格好してるの?」
目立つまいと思っていたのが、発言して目立ってしまった。
はっとしたがもう遅い。
「オレの当番なんだよ」
交みずから説明してしまった。
「日塔さん、当番の仕事を他人に押し付けようとしたのね」
「あ……そ、そんなつもりじゃ……」
「……じゃあ、日塔さんと交君で学校に泊まりなさい」
「え……」
奈美の頭を、不下校の体験がよぎった。
「そんなことでき……」
「わかった?」
「は、はい……」
(智恵先生、目が恐いよぉ……)
放課後。小森の住む教室。
「日塔さん……どうしたのその格好?」
「それは言わないでっ!!」
罰としてこの格好でいることが義務づけられ、制服は預かられてしまった。なぜか可符香に。なんて仕打ちだ。
「今日、隣の教室に泊まることになったんだけど……」
「そうなんだ。……あ、お布団が要るのね」
「それも、そうなんだけど……恐いから、小森さんのところに、遊びにいくかもしれないけど、いいかなあ」
「私は……いいよ………」
むき出しになった奈美の脚の後ろに、交が隠れている。
「交君も、いるんだ……」
「うん」
交が奈美のスカートの中を覗き込んだりしているのを見て……男の子って素直だなあ、などと霧は思った。
「奈美お姉ちゃん」
昼間の毒舌モードとはうって変わって甘えだした交。
「どうしたの?」
「トイレ行きたいんだけど」
「そこを出て、廊下を左側にまっすぐ行って、突き当たりの曲がり角にあるから」
「一緒に来てよ」
「恐いの?」
「こ、恐くなんかないけどさ」
「だったらいいじゃない」
「……オレが、トイレ行ったら、お姉ちゃん、ひとりになっちゃうから……」
交に言われて奈美は不安になった。隣室に霧がいるとは言え、この部屋にひとりぼっち。
でも、その不安とは正反対の感情が芽生え始めていた。
交はお子様だ。自分よりも怖がりに違いない。
「恐いんなら恐いって正直に言わないと」
「……だってさ、夜の学校って、いろいろ出るって言うんだもん」
「やっぱり恐いんだ」
交は仕方なくうなずいた。
「じゃあ、連れてってあげる」
メイド服を着ている奈美が主導権を握っているのは主客転倒めいているが、交にはそれをどうこう言う余裕がなかった。
次第に尿意が高まってきていたからだ。
面倒を見てもらうためなら、恐いと正直に言った方が得なのだ。
奈美と交は手をつないで教室を出た。
「廊下の電気つけるね」
「お姉ちゃん」
「え?」
「早く」
電気のスイッチはトイレと逆の方向だ。
ぐいぐい引っ張るので、月明かりだけを頼りに、暗い廊下を早足で歩く羽目になった。
(ダメだ……我慢しないと……)
足早だった交の速度が急に落ちた。
「え?」
廊下の先にトイレの入口が見える。10メートルくらいはある。
しかし、交はもう限界に達しつつあった。
我慢しながら歩くうちに、歩幅がどんどん狭くなっていく。
「大丈夫?」
立ち止まってしまった。
奈美はこれはマズいのではないか、と思って、咄嗟に交を抱きかかえた。
「うわっ」
「こうした方が速いから」
急いでトイレまで搬送する予定だったが、これが裏目に出た。
奈美の胸が背中に当たって、交はどきっとした。この感覚……。
しかも、抱きかかえられて、なんだかくすぐったい。
その上、交のうなじに奈美の息がかかってくる。
ゾクっ……ゾクっ………
背中がびくびくと小刻みに震える。
(……もう……駄目だ……出る………)
トイレの入口のところで、シューっという音がしはじめた。夜の静寂の中ではよく響く。
「降ろして!!」
音が出るのをごまかそうと大声を上げた交だが、遅かった。
下着から、水滴がポタポタと垂れ、それがやがて雫とは言えない流れになったからだ。
もちろん、奈美が気づかないわけがない。
「あー」
数分後。
「すぐトイレに連れていってくれないのが悪いんだからな……」
文句を言いつつも、どこかべそをかいている様子の交。
トイレにあったモップでびしょびしょになった廊下を拭く。
そして、モップを流しで掃除した後、今度は濡れ残っている分を雑巾で拭いた。
ひざをついて拭いている奈美。下着が丸見えで美味しいカットだが、今そんなことを言っている場合ではない。
「まあ、これでとりあえずは大丈夫かな」
奈美は雑巾を洗ってくると、交を見て、あ、と言った。
「下着もびしょびしょじゃない。洗わないと」
「え」
「ほら、脱いで」
ちょっとためらっている交の下着を脱がす。
そろそろ恥ずかしがる頃の交と、普通に恥ずかしがる奈美のことだ。
(見、見られた……)
(見、見ちゃった……)
当然、気まずい雰囲気になる。
「じゃ、じゃあ、洗うから……」
「あ、うん……」
奈美はトイレの洗面所で下着を洗いながら、交のモノをもうちょっと明るいところで見てみたいという妄想にかられた。
水道の音にはっとして、洗っている手が止まっていることに気づく。
(いけないっ、こんなこと考えたりしたら)
首を振って懸命に洗うが、あまりに慌てているので、同じ場所ばっかり洗っている。
「くしゅん」
トイレの外で交がくしゃみをした。
下半身に何も身につけていなければ、当然くしゃみもするだろう。
しなくちゃならないことが多いのに気づいて、奈美はさらに慌ててしまった。
「着替え、ないよね」
「ないよ」
教室に戻ってきた。窓の外に交の下着が吊るされてある。
「風邪ひいちゃうからなぁ……どうしよっか」
そんなことをいう奈美も下半身はスースーする衣装なのだが。
「あのさあ……」
「何?」
「内緒にして、くれるよな?」
(そっか。お漏らししたなんて、さすがに恥ずかしいもんね)
「いいよ。その代わり……」
「そ、その代わり?」
ゴクっと交がのどを鳴らす。
「私のことを普通だとか言わないこと。約束できる?」
交にとってはなんでもない交換条件だ。
「わかった」
「それじゃ、普通じゃないこと、してあげるね」
その夜、何があったかは、我々に知ることは許されない。
霧にその夜のことを思い出してもらった。
「日塔さんは、遊びに来なかったよ。隣の部屋? ……ちょっといつもより騒がしかったかなぁ……だから、私、お布団かぶって寝ちゃったから、よく覚えてないよ……」
翌日、クラス一同は、交がやけに奈美になついているのをいぶかしんだ。
「奈美ちゃん、はい、服返すね」
「あ、うん」
可符香から制服を返してもらって、着替えてこようとした時だ。
「奈美ちゃん、着替える前に、これ持ってきたから、付けてよ」
振り向くと、あびるが、長いネコのしっぽを持ってきていた。
「嫌あぁっ!!」
完全に余談だが、望は何事もなかったかのように現れた。
◆◆◆仮ブログ 失禁◆◆◆
失禁。信じて下さい。私は断じてこんな趣味じゃないんです。
もっと違う展開のものを描くつもりだったんです。
出来上がってみたら、攻めも受けも曖昧なこんな作品になってしまったんです。
禁じられていることを見失ってしまうのが失禁なら、私がエロパロを書くのはきっと禁じられたことだったんです。
やってはいけないことをやってしまいました。
今から自首してこようと思いますが、多分ポリスには相手にしてもらえそうもありません。
だから皆さんもこの作品と私を相手にしてはいけません。
失笑すら許されるものではありません。