「普通って言うなぁ!!」
いつも先生に言われ慣れている奈美も、今日こそは本当に屈辱を味わった。
(先生に言われるならまだしも、交みたいなガキに言われるなんて……)
「だって普通だからな。今までオレの当番で退屈しなかった人いなかったもん」
(ズガビーン)
普通ならまだしも、退屈とまで言われてしまおうとは。
そうなのだ。交の当番として今まで他の生徒が担当してきたが、誰一人として彼を退屈させたりはしなかった。
久藤が創作童話を聞かせてくれたり。
藤吉が漫画を描いてくれたり。
マリアとは精神年齢が近いせいか遊びやすいし。
あびるが動物の生態について講義してくれたり。
カエレは大人の因縁のつけ方や訴状の書式を教えてくれたり(楽しいのか?)。
まといの時には、おぶってもらって伯父の尾行ごっこを楽しんだし。
霧とお部屋でお昼寝タイムなどという、至福のひとときもあったし。
可符香もなんだかんだいって面倒見がよい(と交は感じているが……)。
ちなみに千里はあの髪の件で怖がってなつかないので当番表には入っていない。
しかし、交にとってはこのねーちゃんは確かに退屈なのだ。
「昨日みたいに当番がいない方がまだいいよ」
(グサッ)
子供だからズケズケという。
というか、当番だった芽留が教えた毒舌の実践……?
「あの、昨日ちゃんと面倒みたんだけど……」という臼井の声はあっさり黙殺された。
「じゃあ、どうだったらいいわけ」
子供相手にムキになる奈美。
「大体さ、今時の子供がしりとりなんかで盛り上がるはずないだろ。なんか芸ないの?」
「芸?」
「そうだよ」
「芸っていうと、思いつくのは……」
・縦じまのハンカチを横じまにしてみたり
・ピンポン玉を口から出してみたり
・風船でペンギンを作ったり
「で、私は最初のならできるけど……」
「最初のはネタがわかってるから見たくない」
「うぅ。じゃあ、一発芸やる」
ロッカーから箒を取り出す。
「宅急便……?」
図星だった。しかもそれ以外考えつかなかった。
「芸は身を助けるって言うしね」
可符香がいきなり割り込んできたので、奈美はドキっとした。
「じゃあ、芸がない私はどうしたらいいの? このままじゃ言われ放題だよぉ」
「決まってるじゃないですか。芸で身を助けられなければ、身で芸を助ければいいんですよ」
「身で、芸を助ける?」
「仮にも私たち女子高生ですよ。かわいければ何でも許されちゃいますよ」
「……そうゆう、ものかなぁ」
「箒を持ったシンデレラさん、私が華麗に変身させてあげますよ」
「魔女?」
「やだなあ、奈美ちゃん。魔女なんていませんよ。大丈夫、かわいく変身させてあげるから。絶交君、ちょっと待っててね」
教室から連れ出される奈美。
しばらくして、奈美はげんなりとした表情で戻ってきた。
着ている衣装はメイド服っぽい……ファミレスのウエイトレスの服か……。
いや、はたまたどこかの風俗店で使っている衣装かと思うくらい過激だ。
ギリギリなまではだけている胸元、そして着けていること自体が恥ずかしいくらいのミニスカート。
本人は微妙にいやがっているが、コスチュームに身を包んだ奈美の魅力は倍増。
クラス男子の視線が痛いくらいに突き刺さる。
「恥ずかしいよぉ」
「大丈夫、男の子はお色気に弱いものなんです」
可符香に背中を押されて奈美は交に歩み寄っていく。
交もここまで普通少女が化けるとは思っていなかったのか、どことなくもじもじしている。
そして、交の前に立ったその瞬間。
「奈美ちゃんさあ、だったらこれも着けてみたら?」
後ろから目をキラキラさせた藤吉さんが声をかけた。
常時携帯しているのか、ネコ耳を奈美に装着する。
「これでよしっ」
じっと見ている交の方が、かなり恥ずかしがっている感じだ。
お互い顔を真っ赤にしているが、藤吉は冷静なものだ。
「ちゃんと語尾に『にゃん』を付けてね」
「『にゃん』って!!」
そんな語尾つけられるわけない!、と顔を真っ赤にして叫んだ瞬間に、最高視聴率達成。
確かにギャラリーが多い。隣のクラスの万世橋までが扉の外から覗いている。
そして、同時に前の方のドアが開いた。これが視聴率崩落のはじまりだった。
「はい、席に着いて下さい」
「えー」
「折角いいところだったのにぃ」
生徒達から非難の嵐。
望は自分の間の悪さを棚に上げて、大いに嘆いた。
「ホームルームをやろうとしただけで生徒に非難されるなんて……
絶望した! 学級崩壊に絶望した! 真面目に努力する人が馬鹿を見る社会に絶望した!」
「みんな、大丈夫ですよ。CMの後もまだまだ続きますから」
しぶしぶ生徒達は着席する。
「私のホームルームはCMですか?」
ぼそっと呟いて、教壇に立つ望。
「なんか、やる気なくしましたが、それじゃあ始め……ええっ!!
日塔さん、なんですか! その格好は!!」
「先生、気づくの遅いですよ。」
「……ああ、おしまいだ。話している間目線が泳いでるのがバレて、流し目エロ男として一生十字架を背負って生きなくちゃならなくなります!」
「何かの本で読んだことのあるような台詞だなあ……」
「先生にはもうすでに桃色係長という綽名がついているじゃないですか」
「ぬわぁぁぁっ!!」
望は脱兎のごとく教室を飛び出して行った。
「……つづくの、コレ?」
奈美が困惑した顔で誰にともなしに聞く。
「一度下がったテンションって、なかなか元には戻らないものだけど」
あびるが誰かが乗り移ったような発言をした。
「どこかでミスジャッジがあっても平気ですよ。結果的には棚ぼたのおかげでなんとかなりますよ」
そんなWBC級の棚ぼたがあるのか。つづく?
「引っ張るのかよっ!」
◆◆◆仮ブログ 棚ぼた◆◆◆
都合のいいことなんてありません。世の中都合の悪いことばかりです。
お笑いのセンスがあるところを見せようと、ツッコミ気取って「何様だよ」と言ったら、場がしらけて、それ以後避けられるようになりました。
私が何様だって感じです。
巨匠たちがいる中でデビューしてみましたが、結局巨匠たちのレベルの高さを思い知らされました。
巨匠にとっては棚ぼたかもしれませんが、私にとって得なことなどなんにもありません。
私なんか、せいぜい棚から落っこった馬糞です。
いや、馬糞ならまだ肥料になる。馬糞以下です。環境に悪いゴミです。
リサイクルなんかできそうもありません。