肌寒さを感じて、千里は身をぶるっと震わせて目を覚ました。  
真っ白な天井。  
千里の目に、真っ先に映ったのがそれだった。  
そこは千里の家ではなく、千里の通う高校の保健室だ。  
千里には、なぜ自分がそんなところで眠っているのかがわからない。  
きょろきょろと辺りを見回すと、千里が寝ているベッドのすぐ横に、椅子に腰掛けた望の姿があった。  
 
「……先生?」  
「ん?ああ、起きましたか」  
読んでいた文庫本を置いて、望が微笑んだ。  
 
千里の頭に疑問符が浮かぶ。  
今の状況は、何かがおかしい。  
妙に静かで、物音一つしない校内……それもそのはず、窓の外の景色は明らかに夜だった。  
それなのに、なぜ自分はまだ校内にいるのだろうか。  
そしてもう一つ、ずいぶん遅れて千里が最大の違和感に気づいた。  
その両手が縄でベッドに縛り付けられている、ということに。  
 
「え?何、これ?なんで?」  
千里がぐいぐいと手を引っ張ったが、きつく結ばれた縄はびくともしない。  
「あー、落ち着いてください。安心していいですよ。それ、縛ったの私ですから」  
「…はい?」  
望の発言に余計に混乱する千里は気にせず、望がベッドに腰を下ろす。  
 
「覚えてますよね、ここでのこと……」  
視線を天井に向けて、そのときのことを思い浮かべながら。  
「目が覚めたら、あなたが一緒に寝ていて……それからでしたね。  
 あなたが事あるごとに、責任とってください、って私につきまとい始めたのは……」  
くつくつと笑いながら言う望、その言い方にはどこか棘がある。  
 
「でもね、木津さん……ほんとに全然覚えてないですよ、私」  
ふぅ、とわかりやすいため息を吐く。  
その態度と言葉は、遠まわしにではあるが、明らかに千里を責めていた。  
不安に駆られ、眉をしかめる千里の瞳を覗き込みながら、望が続ける。  
「それなのに、あなたの嫉妬に何度も殺されかけて…こんなの、理不尽だと思いません?」  
目を細め、千里の頬に手を触れて撫でる望に恐怖を感じて、千里がびくりと身を震わせた。  
「私、もう限界ですよ……だからね、そろそろあなたにツケを払ってもらおうかな、って思いましてね」  
そう言って望が、固まってしまっている千里にキスをした。  
 
ゲッペルドンガー…それは、自分を見つめるもう一人の自分。  
ゲッペルさんは、社会に生きる者が、己を律しようとする自制心の具現化とも言える。  
それを望が、人生の楽しみに水をさす存在だ、と追い出してしまったのがつい昨日のことだった。  
幸い、望の呼びかけに応じ、ゲッペルさんは無事望の前に戻ってきた。  
だが、ゲッペルさんが望の元に帰らんとするその瞬間、千里の手によって望は三途の川へと導かれた。  
これで何度目か、またも死にかけた望であったが、それはいつものことだ。  
しかし、そのせいで望のゲッペルさんの帰還は失敗に終わってしまった。  
故に、今の望の中には、ゲッペルさんが居ない……  
 
 
「やっ……先生、やめて……」  
ブラウスを捲り上げられた千里は、瞳に涙を浮かべながら望に懇願する。  
しかし意に介さず、千里の上に馬乗りになった望はブラに手をかけ、鼻歌混じりであっさりとそれを外した。  
 
望になだらかな丘をさすられて、千里が顔を真っ赤にする。  
「ふふ、かわいいおっぱいですね」  
むにゅむにゅと千里の胸を揉みながら、同時にピンク色の頂を口にした。  
やがて、耐え切れず甘い吐息を漏らし始めた千里に手ごたえを感じ、望が胸への愛撫を激しくしていく。  
 
望から与えられる快感に思考力を奪われながらも、今日ここに至るまでのことを千里は思い出す。  
(そうだ……HRが終わった後、先生が話があるからって…それで、宿直室で…私……)  
そのとき望に渡されたジュースを飲んだ後、強烈な眠気が千里を襲った。  
恐らくはあの中に睡眠薬でも入っていたのだろう。  
 
千里の胸をたっぷりと楽しんだ望は、千里の足のほうへと下がり、その目標を変える。  
はぁはぁと荒い息をする千里の顔を一瞥して、望が千里のスカートの中へ手を差し入れ、下着を脱がせた。  
「へ…や……せんせ……だめ…ぇ……」  
抗議する千里だったが、望の指に秘所をいじられるうちに、それもただただ甘い嬌声へと変わっていく。  
もはや千里は、ほとんど望にされるがままとなってしまっていた。  
 
望が千里の秘所から指を抜き、今度は頭をスカートの中へと入れる。  
ぺろぺろと千里の太ももに舌を這わせながら、少しずつ少しずつ千里の秘所へと近づいていく。  
「あ……ん……せんせぇ……焦らさないで…おねがい……」  
その反応に気を良くした望が、指と舌を丹念に使って千里の敏感な部分を刺激する。  
程なくして、絶頂へと導かれた千里が、涙をこぼしながらびくびくと体を震わせた。  
 
普段は千里を避けているような節さえある望に、話があると宿直室に呼ばれて、  
もしかしたら今日こそ望と結ばれるかもしれない、と千里は期待していた。  
もちろん、千里の考えていたそれは、こんなレイプじみたものではなかったはずだ。  
それでも愛する男に触れられる快感は格別のもので、既に千里の抵抗する気力はほとんど失われていた。  
 
「さてと……それじゃ」  
千里が絶頂の余韻に浸っている間に衣服を脱いだ望が、その絶棒を濡れそぼった千里の入り口へとあてがう。  
だが、じゅぷと音を立てて、望が千里の中への進入を開始したところで、千里が腰を引き、脚を閉じた。  
「やっ!?駄目、駄目です!」  
はあはあと息を荒げ、急に抵抗の色を強くした千里を見て、望が怪訝そうな顔をする。  
 
「駄目って……準備OKじゃないですか?」  
千里の脚を力ずくで開かせ、秘所を覗き込みながら望が言う。  
「それは……うぅ…」  
「私とあなたはもう関係持ってるんでしょう?一回も二回も同じじゃないですか」  
ぐいと千里の体を寄せ、その秘所に再び絶棒を触れさせた。  
「……」  
押し黙ってしまった千里に、望がふぅとため息を吐く。  
「まあ私は、やめるつもりなんてさらさらないですがね」  
と、望が千里の中へ自身を挿入しようとしたところで、千里が口を開いた。  
「初めて……なんです、私……だから」  
その言葉に、望が動きを止めて、ぽりぽりと頭を掻いた。  
 
「気づいてたんですね…何もなかったんだって」  
「…はい」  
「じゃあどうして今まで?」  
「ごめんなさい……怖かったんです。他の子とは違うって……そう思わないと、私…」  
ぐすぐすと泣きじゃくる千里の頭を、望があやすようにぽんぽんと優しく叩いた。  
「なるほど……ね」  
 
一度は、望から与えられる快感に負けてしまった千里だったが、  
この最後の一線だけは愛し合って結ばれた結果でありたい、そう願っていた。  
 
「好きなんです、先生の事…だから」  
「……それなら」  
望が、千里の上に覆いかぶさるように抱きつき、キスをした。  
「なおさら問題ないですね」  
「……へ?」  
唇を離した望が、千里を見下ろして、にっと笑った。  
千里は望の言っていることの意味がわからず、ぱちぱちと瞬きをしている。  
 
「木津さん、私ね……あなたのことがかわいくてかわいくて仕方がないんですよ」  
そう言われた千里は無言のままであったが、その顔が少し遅れて紅潮していった。  
「そして、あなたは私が好き。ほら、問題ないでしょう?」  
しばらく微動だにしなかったが、ややあって千里がこくりと小さく頷いた。  
「うん。じゃあ、愛し合いましょうか」  
言うやいなや、望が絶棒を千里の中へ挿入しようとする。  
「……って、コレ外してくれないんですか!?」  
コレ、とはもちろん千里の腕を縛り付けている縄のことだ。  
「んー……なんかこのまましちゃいたい気分で……」  
「ええっ!?ちょ…や、あぁぁ…」  
千里の抗議は無視して、望は絶棒を千里の奥へと沈めていった。  
 
「あ……はぁ…はぁ…ん」  
「木津さんも、ちょっと……良くなってきたんじゃないですか?」  
初めは痛がっていた千里だったが、望の言うとおり、今は自身の中を動く異物に快感を感じていた。  
 
「はぁ…せんせ…きもちい……で、す…」  
「私も、というか…そろそろ限界で…ちょっと激しくしますよ」  
「はい……んっ…あっ……せんせぇ…」  
「木津さん…三年分とは言いませんけど、先生結構溜まってますんで……覚悟してくださいね……っっ!」  
「っは……あ…………ふぁ」  
絶棒が一際大きく膨張し、大量の精液を千里の中に吐き出す。  
千里は膣内で射精される感覚に酔いしれて、全身を痙攣させ、彼女もまた絶頂を迎えた。  
 
 
二度三度と愛し合った二人は、ベッドの上で向き合って座り、唇を重ねあい何度も唾液を交換し合う。  
長い長いキスを終え、二人は唇を離した。  
千里はそれでもまだまだ求めたりないのか、望の胸に顔を埋めてごろごろと甘える。  
「ふふふ……あ……」  
にやにやと顔を緩ませて千里を抱きしめる望であったが、その目の前にあるものが居ることに気づいた。  
昨日から行方不明だった、望のゲッペルさんである。  
 
「ゲッペルさん……」  
「え?」  
望の呟きを聞き、千里が後ろを振り返った。  
 
ゲッペルさんは、必要な存在だ。それは千里にもよくわかっている。  
ただ、望が言ったように、同時に楽しい時間に水をさす存在であることも事実なのだ。  
この幸せな時間ももうこれでお終いなのだろうか、と千里が少し寂しそうな顔を望に向ける。  
しかし、望はそんな千里に笑顔を向け、そのおでこにちゅっと軽くキスをした。  
 
「ゲッペルさん」  
もう一人の自分に声をかけながら、望は千里を抱き上げて、ゲッペルさんの方を向かせて座らせた。  
「どうです?一緒に」  
望が、後ろから千里の太ももを掴んで両足を開かせ、その秘所をゲッペルさんに見せた。  
「え?えええ?な、なに言ってるんですか!」  
「いいでしょ?あれだって、私ですよ」  
「だ、だからってこんな…」  
「でも、効いてますよ?私なんですから、ゲッペルさんも木津さんが好きなんですよ」  
望の言うとおり、ゲッペルさんは顔を赤らめて視線をずらしていたが、時折ちらちらと千里を見ていた。  
 
「このままゲッペルさんが戻ったら、もう今日ほどはいちゃいちゃできないかもしれませんねえ…」  
「え、それは……いや、です」  
「だったら、仲間にしちゃいましょ?」  
「……うん」  
「さ、木津さん。あっちの私はかなりシャイなんで、勢いづけるために思いっきり誘惑してあげてください」  
「…お、もいっきり……わかり…ました…………あの…ゲッペル先生?」  
千里が顔を真っ赤にしながら、自身の秘所を指で左右に大きく広げて、その中をゲッペルさんに見せる。  
「…ど……うぞ…」  
千里からは見えないが、その後ろの望はとてもとても楽しそうな顔をしていた。  
 
「はぁ…はぁ…あんっ……ん」  
千里の後ろから胸を揉む望。  
千里の前で、秘所に絶棒を挿入している望。  
(はぁ……どっちが……先生だっけ…?え……と)  
 
二人の望に代わる代わる、というか同時に責められ続け、千里には二人の区別がつかなくなっていた。  
それでも、ときどきわかる。  
自制心たるゲッペルさんが居ない…言ってみれば自重しない方が望(本体)なのだ。  
だからたぶん、さっき絶棒を千里の目の前に突き出して、舐めてください、と言った方がそれで。  
そして、今、後ろから肛門に挿入しているのがそれなのだ。  
 
「っっあ……」  
そんなことを考えながら、二人の望に身をがくがく揺らされていた千里の中に前後から精液が注がれた。  
どちらもそれで満足したのか、動きを止めて千里を優しく抱きしめる。  
 
「…ああ、大事なこと言い忘れてました」  
後ろの望が言う。  
「木津さん。お誕生日、おめでとうございます」  
「え……あ、ありがとうございます」  
「…おめでとうございます……」  
「ゲ、ゲッペル先生もありがとう……」  
いつの間にやら日付も変わり、今日は千里の誕生日だった。  
 
「良いお誕生日パーティーでしたね……」  
ほっ、とため息を吐き、後ろの望が言う。さすが本体、自重しない。  
「先生、下品……ゲッペル先生、そろそろ先生の中に戻ってあげてください」  
千里に言われて、ゲッペルさんは小さく頷き、そして消えていった。  
 
「……はっ!?」  
「戻りました、先生?」  
「ええ……ああああ、木津さん……すいません色々と」  
「いいんですよ、それは」  
千里が上目遣いで望をじっと見つめる。  
 
「う……ん…なんというか…プ、プレゼントは私…です」  
先ほどまでに比べ、ずいぶんと硬い動きで望が千里を抱きしめる。  
「もう、なんですかそれ……でも、ありがとうございます」  
望に抱かれて、千里はうっとりと目を細め、そう答えた。  
 

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