その日は、とても月夜の綺麗な日だった。  
糸色 望は趣味の文学を読み耽り床に転がっていた。  
その影から視線が刺さる。  
最初は望も気にしていたが、慣れた今となってはこの視線が無いとどこか寂しくもある。  
徐々に本を読み進めると、横になっているからか少しづつまぶたが重くなってくる。  
ページを捲る内にうつらうつらと半分寝てしまう。  
 
気がつけば、現実とまどろみの狭間に望はいた。  
 
先ほど読んでいた本の情景が頭で浮かんだり、蛍光灯が目に映ったり取りとめの無い夢。  
 
ゆっくりと、目を開ける。  
目の前には桃がなっていた。  
甘く熟したであろう桃に手を伸ばす。  
 
ムニュ  
 
「ん…?」  
 
ムニュ  
「はぁん…」  
熱い吐息が桃から漏れる。  
 
「んん?」  
メガネをかけ直し、桃を見ると…。  
そこにあるのはどう見ても女性の乳房。  
「先生…私を…食べてください…。」  
そっと抱きつく一人の女性。  
糸色 望をつけまわす女生徒、常月まといだった。  
 
はだけた着物が実に色っぽく、望の情欲を刺激する。  
 
そう、これは夢。  
 
望は霞がかかる頭でそれを見ていた。  
美しい乳房。  
紅潮した肌にそっと触る。  
「はぁ…ん」  
熱い吐息が身近に感じられる。  
そっと、まといを抱き寄せるとほんのりと良い香りがした。  
胸に顔を寄せ、スッと息を吸うと心地よい気分へと誘われていく。  
眠りと現実の狭間で、乳房に口付けをする。  
「先せぇ…。」  
切ない声を出し、まといが望の頭を胸へと押し付けた。  
ゆっくりとまといの体を抱き寄せ、匂いに酔いしれる望。  
その官能に酔いしれて徐々に肉棒が頭をもたげてくる。  
「ずじゅ…ちゅ…」  
乳房を吸い、舐めると甘い味と僅かな汗の味が口に広がる。  
そして段々と勃起していくにつれ、望の頭にかかる霞が段々と晴れてくる。  
 
「常月…さん?」  
ハッと目が覚め、今の状況に気がつく。  
胸をはだけたまといに抱きつく自分。  
そして勃起した自らの肉棒。  
望の頭にネガティブな想像が頭を駆け巡る。  
 
女生徒との秘め事!セクハラ教師!!  
女子高生を食い物にする悪徳の教育者!!  
噂の高校教師の実態を女生徒が告白!女生徒全員と肉体関係を…!?  
そんな様々な新聞、雑誌の見出し、そして尾ひれのついた報道が為されるのが瞬時に流れた。  
「うわあぁ!?絶望した!!夢じゃない現実に絶望したーーーー!!」  
そう言うと、常月から離れ思いっきり離れる。  
「先生…。」  
悲しそうな顔をするまとい。  
望の体は反応した。  
自らの体で欲情はしたが、心は自分の事を愛してくれてはいない…。  
「女生徒と関係を持った性教育者と言われるのはいやだあああああああああ!!!」  
そう言うと、望は泣きながら感情のままに外へと走り出してどこかへ行ってしまう。  
 
ズキン  
 
胸が痛む。  
今まで、こんな感情は無かった。  
酷い痛み。  
前の彼も、その前の彼も…色んな人と恋をして別れて来たが、こんな痛みはかつて無かった。  
抉られる様な痛み。  
「はっ、うあっ。」  
涙が一つ、二つ染みを作る。  
息が出来ない。  
苦しい、好き、辛い…  
ぐるぐると頭の中を回る感情。  
少し、幸せを感じたかった。  
ただ、それだけの少し欲張りな誘惑のつもりだった。  
幸せの時間から辛い、現実の時間へと移り変わった瞬間の絶望。  
先生じゃない。「望」と呼びたい。  
常月さんじゃない。「まとい」と呼ばれたい。  
乱れた服装を抱え込むように泣き咽ぶ一人の女がそこにいた。  
 
次の日、泣き腫らした目をしたまといは、いつもの様に望の後ろをついていく。  
一晩泣いてスッキリしたのか、いつもの顔をしていつか望が振り向くのを待っている。  
望はといえば、中途半端な情欲を持て余し悶々としていた。  
しかし、女生徒に欲情するなどあるまじき事である。  
ぶんぶんと時たま頭を振り、妄想を振り払う。  
まるで夢心地の様な快楽の時が思い出され道端で歩きながらも甘美の様な時は頭で再生される。  
もし、あのまま押し切ってしまえばどうなっていただろう。  
そんな事を考えては妄想を振り払う。その繰り返し。  
 
誰もが気付かなかった。  
自然に歩くその姿。  
違和感を感じるのが誰もが遅れた。  
目の前の信号は赤だと言うのに。  
 
ゆっくりとそのシーンを誰もが見ていた。  
誰かが叫び声をあげた。  
だが、それすらも気付かず望は歩き続ける。  
 
ドン!  
 
トラックが突っ込み望の意識はそこで断たれた。  
 
色んな思い出が望の頭の中を回っていた。  
 
何でもかんでもキッチリと線引きをする少女。  
 
恥ずかしがり屋で声を出さない少女。  
 
漫画をいつでも読んで、いつでも描いている少女。  
 
人格がコロコロ変わる少女。  
 
天真爛漫な笑顔を振りまく少女。  
 
何をやっても人並みの少女。  
 
目つきの悪い少女。  
 
何でも被害を振りまいてると思って謝り通しの少女。  
 
いつも怪我で包帯だらけの少女。  
 
何でもポジティブに考える少女。  
 
ずっと引篭もっていた少女。  
 
そして…いつもついてきて、自分を追い回した少女。  
微笑みは可愛くて、顔を見る事も多く…愛していたのかもしれない。  
自らが逃げていただけで…深い愛を受け止める男では無いと勝手に思い込んで。  
 
僅かに見える光。  
 
あれこそが死後の世界の入り口なのか?  
 
目がゆっくりと開き、眩しい光が目に焼きついた。  
 
「先生!!」  
病院の薬品臭。  
兄の横顔がかすかに見える。  
そして見慣れた面々の生徒達が囲む様にして立っていた。  
「望、起きたのか。」  
皆、目に涙をためてベッドの周りに集まっていた。  
「先生!大丈夫ですか!?」  
人並みな言葉で奈美が声をかけた。  
「もう!キッチリと生活しないからよっ!!」  
涙を流しながら諌める様に千里が言う。  
『ボケたジジイが事故にあって心配かけてんじゃねえよこのアホ』  
毒舌なメールを見せながら、芽留が泣いている。  
「先生、もう少しで豪華な車に乗れたのにナー。ザンネンだよー。」  
マリアがにこやかに笑う。  
「すいません!私が前日に先生にご迷惑をかけたからこんな事に…!」  
謝りながら、愛が袖で涙を拭いている。  
「先生…痛くなかった…?」  
毛布を被りながら霧が潤んだ目で望を見る。  
「先生!良かった!!」  
命×望と書かれたネタ帳を持っている少女がメガネを上げ、涙を拭う。  
「裁判終るまで死ぬなんて許さないわよ。」  
気丈に振舞いながらもその目は赤い。  
「先生、全快したら尻尾のお店に行きましょう。」  
あびるが望の足元の毛布で涙を拭う。  
「……。」  
真夜は目つきの悪い目に涙を精一杯溜めて、望の毛布に抱きついた。  
「先生!ポロロッカ星人に感謝してくださいね!14年の1度に春だから特別に助けてくださったのです!」  
意味不明な事を言いながらも、可符香が笑う。目に僅かな涙の後を残した顔で。  
 
「私はどうしたのでしょう…?」  
生徒に囲まれながら、現状を認識できない状況の説明を求めた。  
「トラックに…ひかれたって…。」  
ポツリと霧が呟いた。  
「そうでしたか…。」  
生徒達に囲まれながら、僅かに温かみが望の心に染み渡る。  
こう言う雰囲気も良い物だ…。  
泣きながらも笑う彼女達の顔を見るだけで望は何ともいえない気分になった。  
「そして、何故私が兄さんの病院にいるんでしょうか?普通は緊急入院出来る大手の病院に行く筈では…。」  
「…絶望なんて名前の患者を入れたら不吉だってたらい回しにされたんだよ…。」  
暗い顔で命が話す。  
「オマケに絶命って読める医者なら大丈夫だろうとここに…。」  
何と言う酷い扱い。  
「絶望した!!こんな名前をつけた親に絶望した!!」  
望と命は頭を抱えてブンバブンバと頭を振り続けた。  
 
暫くうろたえた後、望は気がついた。  
一人足りない。  
いつも自分がいる所には常に存在していた彼女が…いない。  
「あ、常月さんは…どうされました?」  
その名前を出した瞬間、生徒達の顔が曇る。  
 
「…その…えと…。」  
その雰囲気に望が体をゆっくりと起こす。  
「何が…起こったのです?」  
「聞いた…話なんですけど…。」  
ポツリと奈美が口を開いた。  
「先生がひかれた時…飛び出して…トラックに…!!」  
奈美が唇をかみ締めながらぶるぶる震える手を押さえて泣き出してしまう。  
望の手はガタガタと震えた。  
トラックにひかれたにしては軽傷だ。  
精々擦りむいた程度。あとは打撲程度だろう。  
「今…どこにいますか?」  
「隣のベッドにいるよ…。」  
命が仕切りのカーテンを開けるとそこには上半身を起こした、まといがいた。  
だが、その目は虚ろでどうにも反応が薄い。  
「常月…さん?」  
僅かに目が動くが、すぐに真正面をボーっと見つめるだけだ。  
「先生を助ける為に…飛び出して先生を突き飛ばしたって…。」  
霧がポツリと抑揚の無い声で言う。  
結果、望は軽傷で済んだ。  
「だが、彼女はその為に頭を強く打ってしまった。出来る限りの事はしたが…。」  
 
普通の日常が戻る筈だった。  
色々と絶望したと言いながらも楽しい毎日。  
退屈のしない日々。  
その時間の大半を望はまといと過ごしていた。  
彼女が戻ってこない。  
 
そっと手を伸ばそうとするが、遥に遠くにいる存在に見える。  
距離にして実に2メートルも無い距離なのに。  
 
酷く、遠い。  
 
 
今日も鐘がなる。  
授業開始の鐘…そして終了の鐘。  
望は軽傷だったのですぐに退院し、次の日には復帰した。  
だが、どこか普通に振舞っていても空虚な雰囲気が付き纏う。  
放課後、ゆっくりと歩きながら、つい後ろを見てしまう。  
「いたんですか。」  
ポツリと呟く。  
「はい、ずっと」  
だが、それは空耳。  
いつしか空耳になるほど当然のやり取りとなっていた。  
だが、変わりにいつもとは違う声が聞こえた。  
「せ、先生…なんでわかったんですか!?」  
そこには奈美がいた。  
恐らく、そっと近づいて脅かそうとしたのだろう。  
「何でしょうか?」  
「あの、その…こ、これ…。」  
鞄から一つの包みを渡す。  
「その…クッキー焼いてきたんです!ま、まといちゃんのお見舞いに持っていってください!」  
そっと受け取るが、望は不思議がる。  
何故、自分に渡すのだろうか。まといに直接持っていけば良いのに。  
「そうですか。ありがとうございます。どうです、これからお見舞いに行くのですが…。」  
そう言うと奈美は踵を返す。  
「ゴメン!今日は少し、用事があって…。だから、お願い!」  
「え、あ。」  
そう言うと奈美は素早く逆側へ走り去っていた。  
一人、残された望は重い足取りで兄の病院へと行く。  
それは、日課。  
 
奈美がいつも通り校門を通る望を廊下から見つめる。  
「奈美ちゃん。」  
「わああ!?」  
そこにいたのは、毛布を被った引篭もり少女、霧だった。  
「辛いよね。」  
「う、あ…そそんな訳…。」  
「私は、辛いよ。」  
霧が俯く。  
「あいつ、いなくなってから…少し寂しくて。」  
まといの恋のライバルで望を骨肉の争いの如く奪い合っていた霧が話を続ける。  
「でも、ずるいよね…あいつ。先生の心、縛っちゃった。  
ずるいよ…私だって先生に見てもらいたい、気にかけてもらいたい。でも、やっぱり生徒何だよ。私。」  
奈美はただ、黙って聞いている。  
あれから、望を巡っての恋愛バトルは休戦状態だ。  
誰もが気を使っていたのかもしれないし、物足りなさがあったのかもしれない。  
「常月さん何て大嫌い。すぐ、先生を自分の物みたいにしちゃう。私だって好きなのに。自分が一番愛してる顔をする。大嫌い。」  
霧が膝をついて、その場に座る。  
「でも、寂しいんだよね。嫌いなのに。あんなに喧嘩したのに。ずるい。ずるいよ…ずるい…。」  
床に一滴、二滴と霧の頬を流れる涙が染みを作る。  
「先生も、辛いのにさぁっ…誰にも…言わなくてっ…!」  
涙声になってる霧。  
窓の外は夕日になっていた。  
霧の独白を奈美は外をじっと眺めて、聞いていた。  
「奈美ちゃん?」  
そっと、奈美に手を伸ばす霧。  
 
パァン!  
 
霧の手を、奈美が払った。  
「私から見れば、あなただってズルイわよ!先生と一緒にいた時間は私より長くて!ずっと、先生の部屋にいて!  
先生はあなたを頼りにしてて!ズルイよ…常月さんも、あなたも、千里ちゃん、あびるちゃんも…皆、ずるい…。  
私、ずっと見て貰えなかった!普通ってずっと言われて、それだけで終っちゃって!  
色々やってみても…ずっと、普通って…!チョコだって徹夜して作ったのに、受け取った時何も言ってくれなくて…!  
私だって、先生好きなのに、私だって…うああああああああああああ!!」  
 
床にうずくまり奈美は泣いた。  
狂おしい程の恋をしても、喧嘩までして奪い合う事が出来なかった自分。  
そして、二度と彼の愛は手に入らぬと悟ってしまった。  
霧は気付いた。  
奈美をライバルの対象と見なしてないから、あんな事を愚痴ってしまった。  
「ごめん…なさい、奈美ちゃん…ごめん。」  
霧は弱弱しく泣く奈美に謝りながら一緒に泣いた。  
 
先生に渡したいクッキー。だけど、どうしてもそうは言えなかった。  
先生を守る為に、己の身を投げ出した少女の事を思うと、どうしても。  
 
「ねえ。」  
千里が横にいるあびるに話しかけた。  
「何?」  
ギスギスしかねない空気をばら撒く。  
晴美と奈美がいれば、良い緩衝材になって一緒にカラオケに行くほどの仲だが、恋に関しては仲が悪い。  
「また、元通りになったら、キッチリ片をつけるわよ。」  
千里が呟く。  
「暴力沙汰は…やめてね。」  
いままで恋に関して暴力が吹き荒れてきた。  
暴走すると千里は殺しにかかる悪癖があった。  
「ええ。良いわよ。そんな事しなくても、負けないから。」  
そう言うと二人は目を合わせ少しだけ笑う。  
夕日が二人の笑顔を映しだしていた。  
 
まといのいるベッドへ向かい、望は奈美が焼いたクッキーを広げた。  
甘く、良い匂いがする。  
口に入れると微かなバニラの香りが広がる。  
「常月さんもどうぞ。」  
そっと、クッキーを差し出すが、僅かに手を動かしたのみ。  
目の焦点は未だに合っていない。  
「無理を、させちゃいましたね。」  
そう言うと望はまといの口へそっと、クッキーを持っていく。  
反射行動の様に、何度か噛み砕いて飲み込む。  
それを見ると、優しく望は微笑み、クッキーの欠片をそっと袖でふき取った。  
 
毎日、毎日…望は贖罪をするかの様にまといの見舞いをした。  
少しだけ症状は改善したが、半分植物人間の様な状態は続く。  
 
「常月さん。」  
今日も、望はまといを見舞う。  
望の顔を見ると、にっこりと笑って出迎えるまとい。  
しかし、それだけだ。  
少し歩く事は出来るが、すぐに倒れてしまう。  
「ゆっくりと改善していくしかない。」  
命は何度もそう言った。  
それは何年後になるのかわからないとも。  
 
数年。  
少女から数年と言う時を奪うのは何と残酷な事だろう。  
自らが数年を奪ってしまう罪の何と重い事か。  
 
だが、その日は何かが違った。  
夕日が沈むにつれ、まといが太陽に手を伸ばし、下に沈むのを催促してる様に動かす。  
「…?」  
不思議な光景。一心不乱に太陽を押し込む様な動作を続ける。  
「少しづつ…ですか。」  
何かが一つ回復したのだ。  
そう思い、望が面会を終え外へ出ようとした時だ。  
 
袖が引っ張られている。  
振り返れば、望の方をじっと見て袖をグッと握っている。  
「つね…月さん?」  
意識が戻ったのか?だが、望が戻ると太陽を押し戻す動作を再開する。  
 
そして、夜が町を押し包む。  
「そ……と。」  
ポツリとまといが言葉を口にした。  
「常月さん!?」  
そっと肩を掴むが、まといはまた言葉を紡ぐだけだ。  
「外…に。」  
命は疲れたのか居眠りをしていた。  
医者の兄は患者を外に出すなと言うだろう。  
だから、内緒でこっそりと病室を出た。  
 
月の光が、辺りを照らす。  
まといの目が月の光を反射してキラキラと輝いている。  
 
「つ、常月さん、戻りましょう。こんなに遠くには…。」  
しかし、まといの足取りは力強く、どこかへと向かっている。  
望は喜びと不安の中で、まといを見守っていた。  
 
そして、着いたのは川岸。  
 
夏の暑い夜も川辺には涼しい風が吹く。  
「ここに、来たかったんですか?」  
そっと、まといの頭を撫でながら寄り添う様に座る。  
「……。」  
まといは、届きそうな程狂おしい銀の月に手を伸ばす。  
「綺麗な…月夜ですねぇ。」  
望が呟いた。  
「本当、に、きれ、い。」  
いつからだろう。  
まといの目に、意思の光が宿っている。  
「まといさん!?」  
望がそう言うと、まといはそっと望を抱きしめた。  
「嬉しい…。やっと、呼んでくれた。私の名前。」  
「え、あ…。」  
咄嗟に出た名前。いつも一緒にいた、少女の名前。  
 
「私…夢見てたんです。ずっと、先生の夢。でも、夜にならないと先生は来てくれないんです。  
触ろうとすると、すぐに消えてしまって…。触れる事の出来ない…夢。だから…ずっと私は見てるだけ。」  
彼女は夢の中で望の姿をジッと見ていたのだ。  
「馬鹿ですよね。今までと同じ…見てるだけ。触ろうとすれば消えてしまう…。」  
望がそっとまといの頭を抱き寄せた  
暫くの沈黙の後、まといが再び口を開く。  
「月…って。寂しいですよね。」  
「?」  
「月は太陽に憧れて…だから、真似して光ってるんです。でも、一緒に光る事は許されない。  
夜が来たら月は一人ぼっち。ずっと、太陽を見てるのに。太陽は気付いてくれないんです。  
太陽は他の星を見なくちゃいけないから、月にはかまってられないんです。  
それでも、ずっと見て欲しくて…ああやって輝いて…。」  
ぐっと望にしがみつくまとい。  
「私もそうだったんです。先生が他の子を見てるから、気付いて欲しくて、付き纏って…。  
邪魔ですよね、私。先生が消えそうになって、手を伸ばしたんです。そしたら先生は私を見てくれた。  
でもそれは幻なんです。酷いですよね。笑っていつも私を見てくれる。でも手を伸ばすと…消えてしまう!」  
泣きながら力を込めて望を抱きしめる。この感触が消えない様に願いながら。  
「…太陽、ですか。私はそんな大した人間じゃありませんよ。でも、私が太陽だとしても…まといさん。  
私はあなたを見てました。勿論、ずっと…では無いですが…。太陽はきちんと月が輝いているのを知っていますから。  
大丈夫ですよ。私も…失いたくありませんから。助けてくださって、ありがとうございます。まといさん。」  
 
まといの目が潤んでいる。  
「幻じゃない…先生の存在全てが感じられて…。まるで…あの日の月を見てる様…。」  
初めて胸が痛んで泣いたあの夜。  
月は嫌な程に綺麗に輝いていた。  
沈黙の時。風が吹いて草を鳴らす音が静かに二人を包む。  
黙っている。ただ、二人がいるだけで幸せを感じる時間。  
まといが、そっと望の顔を覗き込む。  
「先生も…名前で呼んで良いですか?」  
首をかしげながら、目を薄め、にっこりと笑う。  
顔を少し赤くして望が頷く。  
「望…さん。」  
顔が更に赤くなる望。  
まといの顔も赤い。  
ギュッと抱きしめあう。  
「大好き。今も、これからもずっと…大好き。」  
女性の良い匂いが望を刺激する。  
いつかの夜より、ずっと官能的で色っぽい匂い。  
見つめあい、キスをする。  
舌が絡み合う大人のキス。  
長く吸い付いてから、再び口が離れると再び見詰め合う。  
「望さん…続き…してください。」  
あの夜の続きを今ココで。  
 
誰もいない川岸。  
蟲惑的な魅力に脳を焼かれ、望の頭はまといの事で一杯になった。  
そっと望は地面にまといを押し倒し、その肌をじっくりと味わう。  
手で、舌で、目で、耳で、鼻で。  
「ん、あぁ…。」  
服の中に手を入れ、その柔肌の感触を愉しむ。  
手が、舌がまといの体を蹂躙していく。  
まといは新しく受け入れる快楽にただ、溺れた。  
そっと、望の手を取り自らの女陰へと導くまとい。  
「望さん…私もう、こんなに。」  
手に湿った液体の感触が広がる。  
そっと、触るだけで次々と奥から溢れているのが解る。  
静かにその液体を舐めると少ししょっぱい味がする。  
まといの足を開かせ、顔を入れ女陰を舐める。  
 
ぴちゅ…ちゅ…。  
 
愛液は滴り落ち、地面に吸い込まれて落ちる。  
まといは、快楽のまま、体を躍らせる。  
「あっ、はふぅ…!?んっくぅ」  
唇を僅かにかみ締めて、快楽の声を殺す。  
顔を上げた望がまといとまたキスをする。  
手では愛撫を続けながら。  
愛液と唾液が混ざりあい、再び銀色の糸を虚空に紡ぎだす。  
「可愛い声をもっと聞かせてください。ずっと、聞いていたいんですよ。」  
 
背を、尻を撫でまといの全てを愛する望。  
肌理が滑らかで、触り心地が良い。  
まといが、そっと望の袴を触る。  
熱く滾った肉棒の感触。  
「ま、まといさん…。」  
敏感な感覚が望を襲う。  
「良かった。自信が無かったんですけど…私でも女として愛してくれますか?」  
あの日は、拒絶してしまった。  
自らの保身を考えて。  
現実から、逃避した。  
自分を愛する少女が勇気を出したのに、受け止める事も出来ない。  
「わかりません。私には、まといさんは…生徒でもあります。純粋な女と見れないかもしれません。  
それでも、今は…私をずっと見てくれる常月まといとして愛していたいと、そう思います。」  
自信の無い答え。  
それが望の精一杯だった。  
まといはただ、瞳をうるませ、ニッコリと笑う。  
「嬉しいです。私、今きっと、いえ絶対幸せです。」  
その精一杯を少女は満面の笑みで受け止めた。  
彼女の輝きが、望の輝きなのだ。  
 
そっと袴をたくし上げ、まといの女陰へとあわせる。  
「んっ…!」  
 
チュプ  
 
柔らかい肉と暖かい汁の感触が望むの肉棒へと伝わる。  
ゆっくりと押し込んでいく。  
「あっ…は、うっく。」  
痛みと快楽の中でまといの顔が歪む。  
「大丈夫、ですか?」  
きつく締め付ける膣がまといの性体験の無さを物語る。  
 
プツリ  
 
何かを突き破る音がした。  
「っ!つうっ!!」  
痛みが体を駆け巡り、咄嗟に望を強く抱きしめる。  
望はそれに応える様に、まといに口付けをする。  
痛みがほんの少し和らいだ気がした。  
「はぁ…ふぅあ動いても…大、丈夫です。」  
まだ痛いのかまといは苦痛の声を出す。  
「もう少し、待ちましょう。」  
「良い、んです。私の声、聞いて…いて欲しいからぁっ…。望…さんを感じさせ、て…。」  
 
少し、間を置いてゆっくりと望は動き出す。  
草の音に隠れて濡れた音が僅かに混ざる。  
そして、それより大きい男女の嬌声。  
 
「あぁう…ふっ、好き…。ああっ!」  
「まとい、さん…ふっ…う。」  
必死に射精を堪える望。  
まといは痛みが和らぎ、徐々に快楽へと変わっていく。  
気がつけば、まといは腰を動かし望が生み出す快楽をじっくりと味わっていた。  
熱い吐息。  
触れ合う肌。  
それら全てが、ただただ愛しい。  
「っ…駄目です…で、出てしまいます!」  
望が咄嗟に肉棒を引き抜こうとした瞬間。  
まといは腰を押し付け、足を腰に絡め奥へと引き込む。  
「まといさん!?」  
だが、望は既に限界だった。  
 
ドクドクと打ち込まれる精液。  
胎内に熱い塊が打ち込まれると言う快楽にまといは身を任せる。  
望の一部を体の中に打ち込まれ、まといは心身ともに満足だった。  
精の全てを打ち込み終わった後、望はゆっくりと肉棒を引き抜いた。  
トロリとまといの女陰から白い液体がこぼれた。  
 
「その…だ…大丈夫な日です…か?」  
ポツリと望が呟いた。  
「わかりません。目が覚めたのは…さっきですから…。でも…最初は好きな人の感触を味わいたかったんです…。」  
一瞬、望の顔が青ざめる。  
もし妊娠などさせてしまったら事だ。  
最悪は教師の職を追われ、外道だ鬼畜といわれて週刊誌の見出しに……!!  
「嬉しかった。」  
ポツリとまといが呟いた一言で望のネガティブ思考は中断された。  
「本当に、愛してくれた。それだけで十分なんです、私。いつまでも…ついていきますから。」  
その笑顔に望は見とれてしまう。  
「そう、ですか。でも、学校では先生って呼んでくださいね。」  
半分後悔しながらも、自嘲気味に笑う。  
なるようにしかならないか、と思っているのだろうか?  
「はい、望先生。」  
 
月はただ、二人を照らしていた。  
 
「うなーーー!!」  
千里がスコップを持って暴れ回る。  
「約束キッチリ忘れてる…。」  
「千里ちゃんストーップストーップ!!」  
奈美が逃げ回りながら距離を取る。  
まといはいつもの通り、付き纏い。  
霧は色んな場所に潜伏している。  
 
ただ一つ変わったこと。  
それはクラスの誰も知らない事。  
 
 
今日の夜も月が輝いている。  
木の下で月を見上げる少女。  
そして、まといを抱き寄せて月を眺め見る望。  
「今日も私を…。」  
そっと結び目を緩めるまとい。  
 
二人を見守るかの様に月はただ輝いていた。  
 
終幕  
 

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