杏ちゃんは、私の友達。  
杏ちゃんと私は、いつも一緒なの。  
杏ちゃんは大人しくって、いつも一人。  
だから、杏ちゃんが悲しいとき、私が杏ちゃんを慰めてあげるの。  
 
私と杏ちゃんが初めて会ったのは、杏ちゃんのお父さんがいなくなったとき。  
私と杏ちゃんが初めて話したのは、杏ちゃんのお母さんがお母さんじゃなくなったとき。  
杏ちゃんは、みんなの前では笑わない。  
でも、私とお話するときだけ笑ってくれるの。  
学校でどんなに酷いことされても、私の話を聞くと笑ってくれるの。  
杏ちゃんが笑えば、私も幸せ。  
だから、私は杏ちゃんのためにたくさんお話してあげるの。  
 
「どうしてみんな、私にいじわるするの?」  
『やだなぁ、みんな杏ちゃんのことが好きだからだよ』  
「どうしてお父さんはいなくなっちゃったの?」  
『いなくなってなんかいないよ。ホラ!あの隙間から杏ちゃんのことを見守ってるよ!』  
「どうしてお母さんに会えないの?」  
『神様とお話してるからだよ。杏ちゃんも一緒にお祈りしよう!』  
 
 
中学生になって、杏ちゃんの叔父さんが動かなくなったの。  
杏ちゃんは、とうとう一人ぼっちになっちゃったの。  
そして杏ちゃんは、私がお話しても笑わなくなったの。  
杏ちゃんが笑わないと、私は不幸せ。  
だから、私は杏ちゃんのためにいっぱいお話するの。  
 
『杏ちゃん、叔父さんはきっと神様に会いに行ったんだよ!お祈りすればまた会えるよ!』  
「………」  
『そうだ!杏ちゃん、一緒に宇宙人と交信しようよ!』  
「……」  
『杏ちゃん、ポロロッカ星人って知ってる?きっと杏ちゃんと仲良しになれるよ!』  
「…」  
『杏ちゃん――…』  
 
 
―――春。卯月。私の心は、希望に満ち溢れていました。  
杏ちゃんは、今でも笑わないの。  
でも、いつかきっと……ね。  
 
ふと見上げると、桜の木にぶら下がる、和服姿の男の人。  
流石の私も、呆然と立ち尽くしてしまう。  
―――突然、杏ちゃんが私を突き動かした。  
 
「いけませんっ!」  
杏ちゃんが声を上げる。  
数年ぶりの杏ちゃんの声。  
杏ちゃんは、必死で男の人を助けようとしてるみたい。  
「命を粗末にしてはいけません!」  
 
縄が切れ、どさり、という鈍い音とともに、男の人が地面に落ちる。  
死んだかな…って思ったけど、何とか生きてたみたい。  
男の人は、苦しそうに咳をし、涙目で叫ぶ。  
「死んだらどーする!」  
 
その言葉を聞いて、杏ちゃんはまた閉じこもっちゃった。  
男の人が死ななかったこと、死ぬ気が無かったことを知って、安心したみたい。  
 
男の人の名前は、桃色係長。  
桃色ガブリエルにぶら下がって、身長を伸ばそうとしていたみたい。  
そしてなんと、桃色係長は私の新しいクラスの担任の先生だったの!  
それに、新しいクラスには、素敵な友達がいっぱいいるの!  
 
私は、学校であった楽しいことを毎日杏ちゃんに話してあげたの。  
最初は杏ちゃんも、黙って話を聞くだけだったの。  
でもね、いつからか杏ちゃんが、私の話を聞いて、笑ってくれるようになったの!  
杏ちゃんが笑えば私は幸せ。  
だから、今日も先生やクラスのみんなと楽しいことをするの。  
杏ちゃんが戻ってくることを信じて……ね。  
 
―――さーて、今日は先生にどんな目にあわせてあげよっかな〜♪  
 
 

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